2006年10月29日

心の鎮痛剤 Tamas Wells 「A Plea En Vendredi」

Plea en Vendredi Tamas Wells 「A Plea En Vendredi」

先日、友人に会うために訪れた小さな街のCD屋でふと見かけたアルバム。
僕はそのグループの名前さえ聞いたことがなかったのだが、この無機質なジャケットにまず惹かれて手に取った試聴機のヘッドフォンを、最後の曲まで耳から離すことができなかった。

タマス・ウェルズ。ミャンマー出身のオーストラリア人シンガー・ソングライターが自分の名前を冠した4人編成のグループ。とはいえ、リズム楽器は非常に控えめに、タマスの声とギター、そしてピアノをサポートするにとどまっている。

なんというデリケートで儚い音だろう。こんな紹介文を書いておきながら甚だ申し訳ないが、僕は自分の拙い日本語でこの美しい音楽をきちんと説明することができない(いや、他の言語ならできるという意味じゃないよ)。

二つのインストゥルメンタルを含む全11曲。わずか33分の、ささやかな短編集のようなアルバム。

ライナーノーツによると、彼はオーストラリアからのNGOで医師として働く妻とともに、ミャンマーでエイズ教育の地域医療プロジェクトに関わっているという。そのライナーが結論付けているように、彼のその経験がこの美しい音楽を生み出したのかどうかは、僕にはわからない。

でも、日本盤CDの帯にある、

  「すべての痛みを除去する、この世で最も純潔な歌声」

というコピーが、このアルバムを如実に表現していると思う。心が痛んだときに聴いていたい音楽をまたひとつ見つけたことを喜びたい。
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2006年09月18日

Bruce Springsteen 「The River」

元々このブログをロック名盤ガイドみたいな感じにするつもりはなかったから、ここで採りあげるアルバムは基本的には最近発売されて僕が気に入ったものを中心にしているし、過去のアルバムを採りあげる場合には、ここ数回のようにオリジナルから形態を変えて再発されたものを載せることにしている。有名なアルバムは今さら僕がわざわざ紹介するまでもなく、僕より知識豊富な評論家がもっと上手な文章で書いた立派なガイドブックが沢山あるからね。僕はもうちょっとマイナーなやつを掘り起こしてあげる、と。だからこそ、このブログタイトルにした訳で。

The River今回話をするブルース・スプリングスティーンの「The River」は、全然マイナーじゃないんだけど、まだそういう特別盤にはなっていない。数ヶ月前に買ったはいいがまだ聴く時間のない「Born To Run 30th Anniversary Edition」にからめて話そうかとも思ったけど、それにはまずあの箱に入っている合計4時間にも及ぶDVDを観ないと話にならないし、そんなことをしていたらこの記事が完成するのがいつになるかわからないから、今回は特例としてこの旧譜をストレートに採りあげよう(それにしても、時間がないという同じ理由でまだ封を開けてもいないボックスセットがうちに何箱もあるよ。果たして僕が生きているうちにあれを全部聴いて観ることができるのか?世間では「奇跡の未発表映像発掘!」とか言われてとっくに話題になってるのに、僕が我が家でそれらを発掘するのはまだずいぶん先の話になるなあ)。

前回・前々回採りあげたアルバム同様、このアルバムも僕をひたすらノスタルジックな気分にさせてくれるんだけど、これは僕にとってはまた特別なアルバムなんだ。忘れもしない1981年8月5日、その年の4月に入部して以来ずっとあこがれていた、水泳部で一年先輩のマネージャーだったTさんと初めて学校帰りに出かけ、阪急東通り商店街のレコード屋で一緒に買った思い出のあるLPだから。いや、別にデートとかそんな気の利いたものでもなく、「ラジオで聞いてすごく気に入ったレコードを買いに行こうと思うんですけど、一緒に行ってくれませんか?」とかなんとか言って、本当に一緒に買いに行っただけという、今から思えば子供のお使いみたいな話なんだけど。

ラジオで聞いて気に入ったというのは本当の話。当時FM大阪で、新しく出たLPから一曲を除いて全部をぶっ通しでオンエアするという番組があって、もちろんまだレンタルレコードなんてなかった時代だから、僕は毎晩のようにその番組をエアチェックしていた。このアルバムを知ったのも同じ番組で。確か除かれていた一曲は「Point Blank」だったように記憶している。

一般的にブルース・スプリングスティーンの最高傑作といえば、75年の「Born To Run」が挙げられるんだろうし、僕もそれに異論を挟むつもりはない。でもこの「The River」は(さっき書いた僕の個人的な思い出を差し引いても)80年代の幕開けを飾るにふさわしい、最高のロックンロールアルバム。今でも僕にとってのブルースは、「Born In The U.S.A.」での頭にバンダナを巻いた筋骨隆々のマッチョマンでなく、このLPの内ジャケにたくさん写真が載っている、なんでもないこざっぱりしたシャツを着たひょろっとした兄ちゃんのことだ。

二枚組LP。A面冒頭4曲の疾走感は、誰のどのアルバムでも味わえない特別なもの。過去四半世紀もう何百回と聴いた今でもまだ僕を25年前と同じ気持ちにさせてくれる。A面、B面がそれぞれアップテンポの曲4つの後にスイートなバラッドが1曲(A面の「Independence Day」はアメリカ独立記念日に親の元から旅立つ若者の話、B面の「I Wanna Marry You」はタイトルそのままのストレートなラブソング)。B面はその後に物悲しいハーモニカの音に導かれて始まるアルバムのタイトルトラック「The River」が続く。「I Wanna Marry You」まで、曲調にかかわらずポジティブな内容の曲ばかりだったのに対し、この「The River」は、若くして恋人を妊娠させてしまい、仕事も金もないまま結婚せざるを得ず、今は希望もなくなってしまった男が、若い頃にその恋人と泳ぎに行った川に戻る(しかし川はもう枯れている)といったなんとも暗い話。曲自体は名曲なんだけど。

それに続く2枚目のLPの冒頭が、これまた輪をかけて陰鬱な「Point Blank」。アルバム後半の出だし、前作なら「The Promised Land」、前々作なら「Born To Run」が収められていた重要な位置なのに。しかし、この曲が幕を開ける2枚目が、また別の意味で当時のアメリカを表現しているような気がする。このアルバムの裏ジャケットに載っている白黒写真、60年代風のペーパードールやアメリカ国旗なんかが写ったアメリカの家庭の一場面。一見古きよきアメリカを表している写真なんだけど、60〜70年代のアメリカンドリームなんてのが嘘っぱちだったとわかった今の眼で見ると、いかにも虚飾の風景。さっきの「The River」のように、うまくいかなかった人生を描いた曲が並ぶこの2枚目があるからこそ、この「The River」というアルバムがこれほど味わい深いものになっていると言える。先ほどの書き方を継承すると、C面はアップテンポとスローな曲が2対3、D面に至るとそれが1対3にまで減ってしまう。だからよくないと言ってる訳じゃない。D面最後の3曲など、聴いていて心が洗われるような気持ちになる。

最近はいつもこのアルバムを聴くときはCDをかけているんだけど、今回この記事を書くにあたって久しぶりにLPを聴いてみた。若い頃むさぼるように読んだためにもうよれよれになった歌詞カード。見る画像が圧倒的に少なかったから、今でも細部まで覚えているほど何度も見た内ジャケの写真の数々。懐かしい。そう、このジャケットのブルースの顔写真も、LPだと本物の顔ぐらいの大きさがあるんだよね。

ああ、この「Stolen Car」の最後のところでポツ、ポツ、って何回もスクラッチノイズが入るんだった。こういう雑音まで含めてアルバム全体を耳で覚えてるよ。もちろんCDで聴いていたらそんなの入ってない綺麗な音で聴けるんだけど、なんだかこういう自分だけのLPに入っている雑音って、好きになった女の子のほくろやそばかすみたいなもので、それを含めて妙に愛しいんだよね。なんだか曲そのものよりも、こういう雑音を聞いて急に昔が懐かしくなってしまった。僕のLPを録音してあげたTさん、まだあのカセット持ってて、この雑音まで覚えてくれているだろうか。

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2006年09月16日

The Clash 「London Calling 25th Anniversary Edition」

僕の無人島レコを3〜4枚挙げた前回の記事で、当の「All Mod Cons」には誰もコメントしてくれなかったのに、併記した別のアルバムにLoonyLunaさんとかえでさんが反応してくれた。なんか日本でのジャムとクラッシュとスプリングスティーンの人気の差をうまく表しているようなエピソード。せっかくだから、それらのアルバムについても何か書いてみよう。無人島レコ有力候補三部作、第二弾はクラッシュの「London Calling 25th Anniversary Edition」。

London Calling.jpgユニヴァーサル・レーベルの「デラックス・エディション」に対抗し、ソニー・レーベルが「レガシー・エディション」というシリーズを出している。内容は前回説明したデラックス・エディションとあまり変わらないけど、まだ出ている枚数が少ない分、玉石混交のデラックス・エディションとは違い、本当に名盤と呼べるようなアルバムばかりがピックアップされている。このアルバムは、原題を見てわかるように、本来は1979年に発表された「London Calling」の25周年記念。日本でのみ「レガシー・エディション」という名で売り出されている。かなり分厚い紙ケースをパタパタと開けると、ディスクが3枚入っている。1枚目はオリジナルLPのリマスター盤。2枚目は今回の目玉、「London Calling」の録音に入る前のリハーサルをカセットで録音してあった通称「The Vanilla Tapes」。3枚目がDVD。

「The Vanilla Tapes」は、よほどのファンでないとちょっとお薦めできないような音質と内容。殆どがアルバム収録曲の初期バージョン。まだ最終タイトルになっていないものもある。歌は入っていたり入ってなかったり。未発表曲が5曲入ってるけど、ものすごく良い訳でもない(だからアルバムからは落とされたんだけど)。

元々発表するつもりのなかったリハーサルの録音だからしょうがないんだけどね。強いて言えば、誰かのホーム・ムービーを延々見せられてる感じ?それも音だけを。でも、僕にとってこれは「中学生のときに親しくしていた近所の兄ちゃんたちが映ってるホーム・ムービー」みたいなもの。しかも一番よく面倒見てくれた兄ちゃんは4年前に亡くなってしまったから、その人の声が聞こえるだけでもちょっと感傷的になってしまう。

「The Guns Of Brixton」の原型である「Paul's Tune」でのポール・シムノンのおっかなびっくりのベース。この人、クラッシュに入るまでろくにベースを弾いたことなかったし、この唯一の持ち歌「The Guns〜」をステージで歌うときも、歌いながらだとベースラインをキープできないから、ジョー・ストラマーのギターと交換してもらってたぐらい(それでも歌は下手)だったから、最終テイクでないこのバージョンがこれだけよれよれでも不思議はない。当時の仲間で言えば、例えばブロックヘッズのノーマン・ワット=ロイあたりにこの曲でベースを弾かせていれば、これはもっとグルーヴの効いた格好いい曲になってたかもしれないのに(そしたら今度はライヴでこの曲を演奏できなくなってしまうけど)。

どのリハーサル・テイクを聴いても、やっぱり一番テクニックがあるのはドラマーのトッパー・ヒードン。かつてジョーが彼を評して「このバンドにおける発電所みたいな奴」なんて言っていたのを思い出させる、タイトで小気味いいドラム。それだけに、この人が一番先にヘロイン中毒で脱落してしまったことが悔やまれる。

「The Vanilla Tapes」の最後から2曲目に入っている、最終テイクとは違う(ちょっとダサい)歌メロの「London Calling」のリハーサル・テイクを聴いたすぐ後に1枚目(リマスター盤オリジナル・アルバム)の1曲目(同じ曲)を聴いてみると、本当にいいプロデュースというのはこういうことだというのがよくわかる。

その、本当にいい(?)プロデューサーのことがよくわかるのが、3枚目のDVD。これは、@ドン・レッツ監督(偶然、前回のジャムのDVDもこの人が監督)の、メンバーのインタビューを中心にしたアルバムのメイキングビデオ、Aスタジオでの録音風景を撮った白黒ビデオ、Bプロモーション・ビデオの3部に分かれている。

@にはいろいろと興味深いエピソードが出てくる(彼らのことをしらない人が聴いても興味深いかどうかは不明)。僕はジャム・セッションでギターを弾くトッパーを初めて見た。ちなみにジョーはピアノ。ドラムを叩いている人は誰だかよくわからない。他には、予想はついていたとはいえ、ミック・ジョーンズ本人の口から出た「殆どの曲はジョーが詞を書き、俺が曲を書いた」という事実(それにしても、これだけ素晴らしい曲を書ける音痴を僕は他に知らない)。

しかし、意外とこのDVDの目玉なのはA。今回あえてこんなに画像の荒れたビデオを収録した目的が、これを観てよくわかった。スタジオでの録音中、メンバーが演奏してる横でハシゴを振り回したり椅子を床に叩きつけたりするプロデューサー(ガイ・スティーヴンス)。メンバー苦笑い。ピアノを練習するジョーの手の上に、鍵盤の端から端までワインを注いだとか(ピアノの修理費6千ポンド!)、とにかくメチャクチャな人。それでも、@ではメンバー皆が「今回のプロデューサーとはやり易かった」なんてコメントしてるところを見ると、前回のサンディー・パールマンってどんな奴だったんだって思ってしまう。

でも、その基地外プロデューサーが仕上げた作品が1枚目の「London Calling」。多くの人がクラッシュの最高傑作に挙げ(僕もそれに一票)、ローリング・ストーン誌が「80年代最高のアルバム」に選んだアルバム(それに対するジョーのコメント:「あれは79年に出たんだよ」)。全19曲、捨て曲なし。オリジナルのLPは二枚組。でも当時メンバーはそれを誰でもが買えるようにと一枚の値段で売り出した(そういうところが格好いいんだよね)。

格好いいと言えば、DVDのBにあたる3曲のプロモーション・ビデオ。最初は言わずと知れた「London Calling」。夜の埠頭、雨が降りしきる中を黒ずくめのメンバーが白い息を吐きながら演奏するこのビデオは、僕は世の中に存在する全ての音楽プロモ・ビデオの中で一番格好いいと思う。さすがに25年前の画像は今の基準からするとかなり貧弱だけど(こういうDVDに収録する機会にきちんとリストアしてほしかったんだけど)。

残る「Train In Vain」と「Clampdown」はライヴ風景。前者でキーボードを弾いてるのはブロックヘッズのミッキー・ギャラガーかな。後者を観て、僕は25年前の大阪公演を思い出した(あの時はこの曲の前にすこし変わったイントロがついてたと思うんだけど)。さっきも書いたように、ライヴでの演奏はどちらかというと下手なグループだったけど、こんなに粋なバンド、他にいなかった。とにかくステージで映える。こんなライヴ録画が残ってるんぐらいなら、この時のコンサート全部録画してるんだろうに。それはいつになったら出してくれるんだろう。もう一人メンバーが誰か死ぬまで温存しておくつもりか?

やれやれ、長くなってしまった。でもこれだけ僕を感傷的にさせるアルバムのことを短くまとめて書くなんて最初っから無理な話。ここまで読んでいただいた方、どうもありがとうございました。次回は無人島レコ三部作の第三弾、ブルース・スプリングスティーン。にんじんさん、お待たせしました(笑)。
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2006年09月11日

The Jam 「All Mod Cons Deluxe Edition」

All Mod Cons Deluxe Edition.jpg少し前のパワーポップの回のコメント欄でのLoonyLunaさんとのやりとり、無人島にはどうやってたどり着くか(笑)。いや僕、無人島っていうとどうも乗ってた船が難破して、命からがら流れ着くっていうイメージがあったんでね。それで、そのときたまたま手にしていたレコードがあの回に採りあげたやつのうちどれであっても問題ないと、そう書いたつもりだったの。でも、一般的に無人島レコードというと、Lunaさんが仰っていたように、今から無人島に行くという時に一枚持って行くとしたら、さあ、どれ?っていう意味合いだよね。要するに、あなたの一番好きなレコードはどれですか?と。僕の好きなマンガ「レコスケくん」にもそういうエピソードがあったけど、そういう時に1枚に絞るっていうのは至難の技。僕らみたいにある程度レコードを集めてる人にとっては、それはもう決して答えられない究極の質問みたいなもの。

当然僕も1枚に絞るのは無理なんだけど、でも昔からいつも必ず最終選考まで残るアルバムは何枚かある。クラッシュの「London Calling」、ブルース・スプリングスティーンの「The River」、そして今回採りあげようとしているジャムの「All Mod Cons」(と「Setting Sons」)。それら全部が1979-1980に発表されているのは、それが最も多感な年齢の僕が音楽を聴き始めた時期だったことと関係しているんだけれどね。

ユニヴァーサル・レーベルの「デラックス・エディション」シリーズの一環として、ジャムの「All Mod Cons」が発売された。この「デラックス・エディション」ってのは、過去の名盤(そうでないものも混じってるけど)に当時の未発表曲やライヴ録音などを組み合わせて、ちょっと豪華なパッケージで売り出しているシリーズ。当たり外れあるけど、僕みたいなコレクターにとっては結構気になる存在。

で、これは当たりか外れか。内容はCD1枚にDVD1枚。CDの方はオリジナル・アルバムのリマスター、プラス当時のアルバム未収録シングル、シングルB面曲、アルバム収録曲のデモ・ヴァージョン。DVDの方は各メンバーと側近が語る当時の思い出、ライヴ演奏付き。

もしあなたが既に「All Mod Cons」を持っている、ないしはポール・ウェラーのファンであるなら、これを買ってもいいかも。僕はすごく楽しめたよ。もう過去四半世紀に亘って数百回と聴いて、どんな細かなディテールまでも耳に残ってる曲を、そのデモ・ヴァージョンと聴き比べる楽しみがあるから。僕、ジャムのシングルは全部持ってたし、ファンクラブ向けのソノシートなんてのまで集めてたほどのマニアだったけど、その僕でも聴いたことのないヴァージョンが入ってるし。ただ、DVDの方に入ってるライヴ演奏は、殆どが既出だけどね。完奏してる曲もないし。DVDはもうすっかり禿げ上がったリック・バクラーの姿を見て驚くのが正解かと(笑・それにしても、「Westway To The World」に出てきた、変わり果てた元クラッシュのメンバーの比ではないけど)。

でも、そうでない大半の人は(せっかくアフィリエイトしておいてこういうこと書くのもなんだけど)、この「デラックス・エディション」は止めておいたほうがいい。同じ曲が何回も出てくるし、DVDの方は日本ではPCで観るしかないPALヴァージョンで、しかもインタビュー中心の内容なのに字幕も付いていない。

代わりに、おそらくこれが出たことによって中古市場に放出された通常仕様の「All Mod Cons」が捨て値で出回っているはず。それを是非聴いてみて。今また何度目かの全盛期を迎えているポール・ウェラーが遺した最初の傑作。僕はもう全部の音を覚えてるし、全曲をそらで歌える。僕に無人島レコードの質問をすれば、5回に1回はこのアルバムを挙げるよ。

僕が学生の頃に英語がそこそこ出来たのも、先に書いた3〜4枚のLPのお陰。「Pretty」を片仮名の「プリティー」でも米語の「プレリィー」でもなく「プリツィー」だと教えてくれたのはポール・ウェラーだった(ちなみにもう一人の先生だったジョー・ストラマーは、同じ単語を「プエッィ」みたいな発音して混乱させてくれたけど)。同じく、ポールに習って「Hate」も「ハイト」と発音するようになったお陰で、英国訛りの強いここNZでも普通に悪口を言ってるよ(笑)。

で、僕みたいなジャム・ファンからの、さっきの質問への回答。これは「デラックス・エディション」としては、大当たりじゃないけど、そう悪いわけでもない。願わくは、これ以降のジャムのアルバムを全部「デラックス・エディション」化して、それぞれのツアーのライヴ録音をボーナスとして付けてくれたら最高なんだけど。そしたら僕はそれぞれを「聴く用」と「保存用」に2枚ずつ買っても惜しくないね。
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2006年07月09日

NZ音楽界の宝石   The Finn Brothers 「Everyone Is Here」

前回のCD評(PSB)をアップした後改めて自分で読んでみると、とにかく長い。論文じゃないんだからよっぽど興味なければこんなの誰も読まないよ、って文章でしたね。律儀にあんなの全部読んでくださった方には、厚く御礼申し上げます。まあでもあれは最近お気に入りのCDの感想を自分のために備忘録として書くことが目的だったからまあいいか。でもこのブログの最初の記事に付けていただいたコメントの中に、おすすめの音楽があれば教えて、と言っていただいた方がおられたことも考えて、これからはおすすめCDの紹介記事のときはせめてあの半分ぐらいの長さを目安にしますね(もうこの前置きからしてすでに長すぎですけど)。また、このブログを立ち上げようと考えていたときに、僕がいま海外に住んでいることから、海外についての話を期待していただいた方もいらっしゃいます。そこで、今回はその二つのご期待に少しずつ応えることにします。2004年発表のアルバムなので少し古いですが、ニュージーランドのアーティストです。

Everyone Is Here.jpg  フィン・ブラザーズ 「Everyone Is Here」

その昔、ニュージーランドにスプリット・エンズというグループがいました。NZ国内はもちろん、世界各国でアルバムを発売し、そのひねったポップなサウンドで一部の音楽ファンを惹きつけました。そのひねり具合は、Split Enz(枝毛)なんて変なグループ名からも少しは伺えるでしょうか。

やがてスプリット・エンズは解散し、中心メンバーであったティム・フィンとニール・フィンの兄弟は、クラウデッド・ハウスというグループを結成、これがスプリット・エンズ以上に全世界でヒットを飛ばすほどになります(細かいことを言うと二人が参加した経緯は少しこれとは違うのですが、それを書き出すとまた論文になってしまうので割愛します)。20年ほど前に洋楽を聴いていた方なら、日本でも流行った「Don’t Dream It’s Over」という曲をご存知かもしれませんね。

そしてクラウデッド・ハウスも解散。ティムとニールはそれぞれソロアーティストとしてアルバムを数枚ずつ発表。以前より地味な活動になりましたが、NZ国内では大御所アーティストとして確固たる地位を築いてきました。洋楽を聴かない方に説明するために、日本で言うと誰かなぁとずっと考えていたのですが、思い当たらないですね。強いて言えば、もし桑田圭佑が「稲村ジェーン」の後で映画にのめりこんでしまってサザンを解散してしまっていたとして、15年後に原由子と二人でアルバムを作った、という感じですかね。ちょっと違うか。まあお互い自国内ではそれぐらい大御所ってことで。

先の二つのグループが欧米で数々のヒットを飛ばしていたことから、その当時まだ若い音楽ファンだったであろう色んなアーティストが彼らのことをリスペクトしており、例えばCD・DVDにもなっているニールの数年前のコンサートツアーでは、パール・ジャムのエディー・ベダー、元ザ・スミスのジョニー・マー、レディオヘッドからの二人、などという、とんでもない豪華メンバーがバックを務めています。

また、当然それだけヒットした彼らの曲には誰が歌っても名曲という普遍性があり、これもまた色々なアーティストにカバーされています。nekoさんがブログに書いておられた、ジェームス・ブラントが日本のコンサートで演奏した“新曲”のうちの一曲は、おそらく彼らの「Fall At Your Feet」という曲ではないかと思われます(日本公演の少し前に録音された彼のライヴアルバムでその曲を演ってます)。nekoちゃん、読んでる?ほら、ちょっと興味でてきたでしょ?(^^)

その彼らが本当に久々に二人でスタジオに入り、2004年に完成させたのが、上に写真を載せたこのアルバムです。内容をひとことで言うと、“大人による大人のためのポップ”。息を呑む珠玉のメロディーが、素晴らしく芳醇なハーモニーに乗せて歌われています。2004年というのは僕がNZに来た年でもあるんですが、ちょうど今頃の時期(南半球では真冬)に街のあちこちでこのアルバムからの最初のシングルカット曲「Won’t Give In」が流れていました。いきなり赤道直下から真冬のNZに移り住んで、長年の熱帯暮らしで開ききった全身の毛穴にしみこむ寒さに死にそうな思いをしていた僕は、この曲の心温まるハーモニーとカフェで飲むロングブラック(エスプレッソをお湯で割ったNZのコーヒー)にずいぶん暖めてもらったものです。

もう前回のようにつべこべと曲ごとの解説はしませんが、とにかくアルバム冒頭の二曲「Won’t Give In」「Nothing Wrong With You」をまず聴いてみてもらいたい。もし2004年にブライアン・ウィルソンが「Smile」を完成させてさえいなければ、その年の僕のアルバム・オブ・ザ・イヤーになっていたはずのCDです。大人の方なら大抵の方に気に入ってもらえると思います(年齢的には大人でも、もしあなたの鼻と唇にピアスの穴が開いていたり、あなたのワードローブにドクロの絵が描いてあるシャツが二枚以上あるようでしたら、あとで他のCDをお薦めしますので、もうこの先は読まなくていいです)。じっくり聴いても素晴らしいし、押し付けがましくない音なのでBGMにも最適だと思いますよ。この人たちが今日本でどういう扱いなのかがよくわからないですが、恐らく町のCD屋さんですぐ見つかるような盤でもないと思いますので、上の写真にアフィ貼ってみますね(初挑戦!…でもどうやれば写真をクリックして別ウインドウに飛ばせるのかがわからなかった)。

彼らのことを知るにつけ、僕は誰かにこの二人のことを紹介するときには、“NZの宝石”と呼ぶようになりました。NZの音楽界というのは想像以上に層が厚いんですが、先にも書いたとおり、この二人は別格です。この次また二人でアルバムを作ってくれるのか、それともソロに戻るのか、まだわかりませんが、恐らく彼らの生涯最高傑作と思われるこのアルバムを凌ぐものを作ってくれるでしょうか。願わくは、僕がNZにいる間にまたニューアルバムを発売して、コンサートツアーをやってほしいものです。そのときは、皆さん、観光がてらNZに観にきませんか?
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