2008年04月05日

箱庭の王様のうた - Egil Olsen

待ちに待った発売日にいそいそとCDを買いに行ったのも久し振りなら、日本盤の帯に表示されている定価そのままをレジに支払ったのもずいぶん久し振りなんじゃないだろうか。しばらく前にその名前と彼の歌を知り、世間一般の(今の時点での)知名度はともかく、個人的にはまさに“満を持して”発売されたノルウェーのSSWの日本初登場のアルバム。

I Am A Singer Songwriter.jpg Egil Olsen 『I Am A Singer / Songwriter』

アルバムのタイトルトラックであり、彼の代表作ともいえる「Singer/Songwriter」を聴くのが、このエギル・オルセンというアーティストをまず知るには最適だろう。一瞬、小さな女の子が泣いているのかと思ってしまうほど、か細い震えるような声で歌いだされる。左右のチャンネルに重ねられた、夢見るようなアコースティックギターのアルペジオの音だけがその声を支えている。3分に満たないほどの小曲。だけど、彼の作る箱庭のような世界に引き込まれるにはそれで充分だ。

続く、彼がアメリカを放浪していたときの経験を綴ったという「California」から、アルバム4曲目「Deep Down The Basement」まで、同じスタイルの弾き語りが続く。わずか一段落前に自分で書いた「Singer/Songwriter」が彼の代表作というのを取り消したくなってしまうほどの佳曲揃いだ。

5曲目「Same Old Fool」と6曲目「Papers And Pens」はちょっと趣向を変えて、エレクトリック・ギターに持ち替えている。ロックを演っているというわけではないけれど、ちょっと一本調子になってしまいがちなこの手のSSWのアルバムの色調を変えるのに効果的なアクセントの役割を果たしている。とはいえ、ブギっぽいリズムの8曲目「Back On My Feet」はこのアルバムに於いてはかなり異色。まあ、パラノイアックなエンディングの音を聴けば、これもまた彼の箱庭の一風景と理解できるけれども。

彼の歌を特徴づけているのは、やはりその声。ほとんどの部分をハイピッチなファルセットで歌っており、聴く人によっては好き嫌いが分かれるところだろう。ファルセットで歌う男というとどうも色物っぽく受け取られてしまうところがあるかもしれない。けれど、不思議とコミカルでも妖艶でもないこんなファルセット・ボイスには、なかなか出会えるものじゃない。

Singer Songwriter Original.jpg好き嫌いが分かれるといえば、上に載せた日本盤のジャケとは違った、オリジナルのノルウェー盤のこのイラストも。エギル自身が描いたという、彼と彼の愛犬(「You And I(And The Dog)」という曲にも登場する)の自画像は、日本盤のブックレットにも、それぞれの曲の情景を説明するという形で多数掲載されている。愛嬌もインパクトもあって、僕は個人的には嫌いなイラストではないけれど、やはりこのイメージで日本初登場というのは、ちょっとしたリスクだったんだろうね(笑)

「どうしてもこっちのジャケがいい」という人はちょっと苦労してオリジナル盤を手に入れてくれればいいけど、日本盤にはボーナストラックが1曲収録されているから、それもちゃんと考慮するように。彼が以前在籍したアンクルズ・インスティテューションというバンド(ほとんど彼のワンマンだったらしいけど)時代に書いた曲をソロで再録したデモ録音だ。

彼の曲の一節にこういうのがある。

  ほとんど誰も僕のことを聴いたことはないけど
  聴いた人は、僕を王様みたいに思う


こういう、ちょっとした自虐的虚栄心(笑)は彼の詞のあちこちに顔を出していて、アルバムの謝辞の最後にも「このアルバムを買ってくれたあなたへ、そんなにエギル・オルセンの熱狂的なファンでいてくれてありがとう」なんて具合に書かれているんだけど、でも小さな箱庭で愛犬のパグを連れた孤独な王様がこれからどんな音楽を作っていくのかには興味津々だ。

マイスペース


posted by . at 13:39| Comment(10) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
まだ、よく読んではいないんですが、1ゲットできそうなので。
久し振りに定価をそのままレジで払ったところと、ノルウェー盤のジャケが気に入りました。
Posted by Luna at 2008年04月06日 09:43
私も、ノルウェー盤のイラスト愛嬌があって好きです!
Posted by minira at 2008年04月06日 16:43
おっ、ノルウェーとはまたまた北欧ブームなんですね。私は旧共産圏ブームですが(笑)。
ファルセットボイスと聞いて、すっかりタイニー・ティムみたいなのを想像してしまいましたが、試聴してみたら全くの予想外!
きっと繊細で傷つきやすくて、ちょっぴりはにかみ屋さんの青年なのかな〜なんて勝手に思い浮かべてしまいますね。
コレはいいですね〜♪来月注文します。(今月は今時点ですでに予算終了・・・)
何だかyasさんに洗脳されてばかりの00年代体験になりそうです(笑)。
Posted by クロム at 2008年04月07日 20:43
●Lunaさん
余裕で1ゲットできましたね。その後、よく読んでもらえましたでしょうか。定価で買ったことを気に入ってもらえたんですね。どういう心境でしょうか(笑)


●miniraさん
ルナさんもミニーもノルウェー盤ジャケがお気に入りなんですね。もしかするとロンドンではそっちの方が簡単に入手できるかもしれません。もし音も気に入られたなら、そちらにおられるうちに是非どうぞ。


●クロムさん
たまたまこないだの記事は別のことを書きましたが、北欧ブームは依然として引き続いていますよ。それにしても、旧共産圏というくくりで音楽を聴かれる方も珍しいですね。まあ、クロムさんのご趣味について「珍しい」という形容をするのは、「イリオモテヤマネコは世界でも珍しい動物です」というぐらいありふれた言い回しではありますが。

これも気に入ってもらえましたか。よかったです。来月ちゃんとアルバム通して聴かれたら、ぜひ感想を聞かせてくださいね。
Posted by yas at 2008年04月12日 16:26
私はこのイラストはビミョー・・と思ってしまったのですが、動くのを見たらそうでもなくなりました。唇の動きが細かい!
本人は人の良さそうな顔ですね。イラストと違って。
Posted by カブ子 at 2008年04月12日 23:02
●カブ子さん
ヘンなもの好きのカブ子さんともあろうお方が、このイラストはイマイチでしたか。ビデオを観てくれたんですね。僕も観てみましたが、「California」のビデオをわざわざニューヨークでロケしてるのがへそ曲がりだと思いました。人の良さそうな顔をして。
Posted by yas at 2008年04月13日 18:35
ひっそりしてるので訪問します。どかどかどか。
マイスペ見ました。声だけ聴いて「え?女性?」と思って意味なく焦りました。でも清涼感があってどこか懐かしい雰囲気がしますね。この人の笑顔は好きです。「California」のPVでちょっとグッときました。
このPV、喧騒の中の風景を切り取っているのに不思議とこの人の声が合っています。よくある都会の風景なのに、異次元にワープしたような、一歩引いた立ち位置から見てるような気がしました。

「California」なのにロケ地:NYで着てるTシャツも「I love NY」なのは天然なのでしょうか。それとも突っ込むところなのでしょうか。
Posted by ひより at 2008年04月25日 14:41
●ひよりさん
すっかり廃屋状態の小部屋へようこそ。どかどかと上がってきていただいたお陰で目が覚めました。

安上がりな作りのPVですけど、雰囲気があっていいですね。一本道ノボルさんのブログによると、「Singer/Songwriter」のPVは地元ノルウェーのショートフィルムフェスティバルのミュージックビデオアワード部門で最優秀賞を獲得したそうですよ。どんな地味な最優秀賞かという気もしますが。

「I love NY」はきっと突っ込んでほしいんだと思いますよ。ご一緒に画面に向かって突っ込んでおきましょう。きっと本人も本望なはずです。

どうもうちのブログに来てくださる人にはこのイラストのウケがいいようですね。
Posted by yas at 2008年04月26日 13:21
今、コレ聴いてるところです。
ホント、すっごくイイですね〜!よくまあ、こんなに素晴らしいアーティストばっかり掘り出せますね〜。どこぞのでっちあげ化石発掘屋さんもビックリ白旗なyas師匠の偉業!!
ファルセットと言っても、まるで地声のようにごくごく自然に耳に染み込んでくるから不思議です。きっと彼の表現したい世界ってのがしっかり確立してるから、わざとらしさを感じさせないんでしょうね。
何だか子供の頃、夜眠るときに母親が横に寝そべって読んでくれた童話を聞いているときのような気分に浸ってしまいます。あっ、すみません、思い出を美化しちゃいました。私が好きだった絵本は「しっぺい太郎」とかでした(笑)。
Posted by クロム at 2008年05月13日 22:08
■クロムさん
予告通り買って頂けましたか。気に入っていただけてなによりです。実はこの人は、僕のブログに時々遊びに来てくださる某コメンターさんに教わったんですよ。なので、偉業というお言葉はその方に。

「不思議とコミカルでも妖艶でもない」と記事に書いた彼のファルセット、わかっていただけたでしょうか。

最近ちょっとした理由で(さっき別記事のコメント欄に書いてしまいましたけど)膨大な数のCDを買ってしまっているので(さっき数えたら、5月に入って今日時点までで55枚です)、なかなかこのアルバムを聴き返している時間がないのですが(かつての反省は何処に)、そのうち落ち着いたら僕もまたこのアルバムにゆっくりと浸ろうと思います(やたら括弧の多い文章にも反省)。

「しっぺい太郎」、僕は知りませんでした。美化できないような話なんですか??
Posted by yas at 2008年05月18日 00:42
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