2007年04月04日

消えない三等星 Graham Parker & The Figgs 「103 Degrees In June Live In Chicago」

グレアム・パーカー。例えばこれまで彼の音楽を聴いてこなかった人や、今から洋楽に触れていこうとしている若い人が、こういう微妙な立ち位置の人に出会う機会があるんだろうか。ラジオやテレビで彼の曲が流れることなんてないだろうし、ウェブや口コミで話題になるようなことをしているわけでもない。コンスタントにアルバムを発表しているけれど、もはや日本盤でCDが出ることもないだろう。

僕は高校生の頃に、いわゆるパブロックと呼ばれる音楽が好きになり、エルヴィス・コステロ、ニック・ロウ、デイヴ・エドモンズなどの、当時は殆ど廃盤だった初期のLPを血眼になって探したものだ。スクイーズを聴き始めたのも同じ流れからだったな。

同じ文脈で語られることの多いグレアム・パーカーを聴き始めたのは、それから更に数年経ってからのことだった。もちろんデビュー当時はなにかにつけてコステロと比較されていたような彼の名前をそれまで知らなかった訳ではなかったんだけど、どういう訳か後回しにしていた。なんとなくさっき名前を書いたような人たちに比べて地味なイメージがあって。星の等級で言うと三等星ぐらいというか。

初めて彼のアルバム(85年当時の新作)をきちんと通して聴いたときには、それまで無駄にした数年を心底後悔したものだった。でもまあ、とにかく僕はそんなに致命的に遅れることなく彼に出会うことができた。幸運だったと言っていいだろう。それからの20年間、コツコツと活動し続ける彼のことをずっと見守ってこられたんだから。

80年代ぐらいまではまだアルバムも売れていたし、時にはヒットシングルも出していたけれど、決して表舞台に立っていたとは言えない彼だから、90年代以降、マイナーレーベルを渡り歩くようになってからは、世間一般的には既に忘れ去られた存在だろう。最早、パブロックなんてものが一括りに語られる時代でもないし。

そんな状況とは裏腹に、彼は実にコンスタントにアルバムを発表し続けている。ここ数年は、ほぼ毎年と言ってもいいぐらいだ。更に、自分のウェブサイトを通じて、各アルバム発表時のツアーを収めたライヴアルバムも出し続けている。今日紹介するのは、05年のアルバム『Songs Of No Consequence』に続くツアーの記録『103 Degrees In June Live In Chicago』だ。

103 Degrees in June.jpg 『103 Degrees In June Live In Chicago』

『Songs Of No Consequence』が久々に佳曲揃いのいいアルバムだったので、そのアルバムを製作したのと同じ面子で行ったこのツアーが悪いわけがない。デビュー・アルバムからの「Soul Shoes」を始めとする初期の名曲から、最新作からの「Vanity Press」「Bad Chardonnay」といった、80年代前半を髣髴とさせる曲まで、実に充実した内容。特に、サード・アルバムからの「The Raid」がオリジナル以上に格好いいロカビリーっぽいバージョンになっていて最高。

彼は、古い曲を演るときは、「これは何年の何というアルバムからの曲」っていちいち説明するし、さっき書いたような代表曲だけでなく、古いアルバムの誰も覚えてないようなマイナーな曲までちゃんと取り上げている。本当に自分の作品に愛着があるんだろうね。

途中、ファースト・アルバムからの「Nothing's Gonna Pull It Apart」を始める前に、「この曲ができたのは(バックバンドの)フィグスの連中がまだ赤ん坊の頃だ。今日着ている、こないだ屋根裏から引っ張り出してきたこのシャツも、こいつらより年食ってるよ」なんてことも言ってる。

このライヴ・アルバム、彼のオフィシャル・サイト(上の写真の横の文字にリンクあり)のみでの発売。しかも直筆サイン入りで2000枚限定。しばらく前に買った僕のが1014/2000(手書きのナンバー!)だから、まだしばらくは買えるだろうけど、こういうのは一旦なくなると手に入る可能性が非常に少ないからね。僕は03年に出た、『Deepcut To Nowhere』ツアー時のライヴ盤『Live Cuts From Somewhere』をつい買い逃してしまって、以来ヤフオクとイーベイにアラートかけてるんだけど、まったく引っかかってこないよ。なので、興味のある人はお早めに。

Songs of No Consequence.jpgさっき書いた佳作『Songs Of No Consequence』は、マイナーレーベルからの発売だけどまだ普通に流通してるんで、ライヴを買い逃した人はこちらもお勧め。実は、更につい先月これに続くニューアルバム『Don't Tell Columbus』が出たばかりなんだけど、それは今輸送中だから、今回はそれについては書けない。これを聴いて気に入ったら、僕が20年前にしたみたいに、ここから30年遡って聴いていくというのもありかも。もしそういう人がいれば、僕の持ってる彼の40枚のアルバムを解説する記事を書いてもいいよ(笑)

本当に、もう60歳近いというのに、もの凄い勢いでがんばってるなあ。先に名前をあげたエルヴィス・コステロやニック・ロウが年齢相応に随分枯れたアルバムを作るようになり、引退状態の人やバンドも沢山いるというのに。三等星だったかもしれないけど、他の大きな明るい星が消えていった後もしぶとく光ってるような人だな。『Songs Of No Consequence』の最終曲では、まさにそんなことを歌ってるよ。「Did Everybody Just Get Old?」って。


posted by . at 20:26| Comment(15) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
3等星を見つめ続けているなんて、いつも不可視的な星を天体望遠鏡で懸命に追っている私としては、すごく親近感がわいてきますね〜。
我が家には一応、パブロックというコーナーが少しだけあるんですけど、何故かグレアム・パーカーはそこには入っていなかったので、また探さねばなりません・・・。
私はカウント・ビショップスが結構好きで、ブリンズリー・シュウォルツがちょっぴり好きです。
Posted by クロム at 2007年04月04日 21:18
●クロムさん
昨日のそちらでのプロディジーもそうでしたけど、気の遠くなるような周期の彗星が何十年かに一度出会うような感じの趣味の一致がたまにありますね。喜ばしい限りです。

グレアム・パーカーがパブロックコーナーに入っていないというのは、持っていないという意味ではなくて、いつものように家の中の何処かにあるという意味なんですね?(笑)。クロムさんがどのアルバムをお持ちなのか非常に興味があります。やはりクロムさんですから70年代ものでしょうか。彼の音楽が一番熱い時代でしたね。『Heat Treatment』は僕の無人島アルバム候補の一枚です(一体何枚候補があるのかとは訊かないでくださいね)。

僕はカウント・ビショップスは聴いたことがないんですよ。記事の趣旨に則して言えば、名前は知ってたけれど、どういう訳かいつも後回しにしていた、という感じです。そんなことではいけませんね。ちょっと適当なやつを探して聴いてみます。

ブリンズリーの名前が出ましたか。記事にも書きましたが、僕は高校生の頃からニック・ロウにはかなり入れ込んでいて、当然ブリンズリー・シュウォーツも大好きです。どちらかというと、中期の『Silver Pistol』と『Nervous On The Road』派ですね、僕は。一筋縄ではいかないクロムさんのことだから、きっとそこらは外して、初期の二枚か『The New Favourites』あたりを聴かれているんだとは思いますが。

ご存知だとは思いますが、グレアム・パーカーの初期を支えていたバックバンド、ルーモアは、ブリンズリー・シュウォーツからニック・ロウとイアン・ゴムが独立した後の残党が中心になって結成したバンドですから、当然音の傾向もブリンズリーに似ています。80年代にルーモアとは離れてしまった後も、ブリンズリー・シュウォーツ(個人名)、アンドリュー・ボドナー、スティーヴ・ゴールディングの三名はグレアムのアルバムに別々に何度も参加していますよ。

ちょっとこの辺の話を始めると僕は止まらないので、ここらで切り上げますね。
Posted by yas at 2007年04月05日 19:43
うー、記事より難解なコメントが上に・・。
いえ、ただ見たことない組み合わせのカタカナとローマ字が多いってことなんですけど。

赤いジャケの「ば ば ば」と「な な な な な な な」は曲名ですか?
Posted by カブ子 at 2007年04月05日 21:48
●カブ子さん
>記事より難解なコメント
いや、これはクロムさん仕様ですからお気になさらずにすっ飛ばしてください。いつものように。

「ばーばーばー」と「なーなーなななーなー」は歌詞です。このジャケットには、このアルバムに収録された曲の歌詞の断片が沢山書いてあるんです。ちなみに、「ばーばーばー」は僕が記事にタイトルを書いた「Bad Chardonnay」のサビのところです。そんなことはどうでもいいでしょうけど。
Posted by yas at 2007年04月06日 14:13
エルヴィス・コステロしか知りません。
三等星ってどれくらい明るさでしたっけ?

古い曲やるときに説明するっていうとこが、気に入りました。「この曲ができたのは(バックバンドの)フィグスの連中がまだ赤ん坊の頃だ」って台詞もいいです。

買い逃したアルバム、手に入るといいですね。神様がそのうち気まぐれをおこしてくれますよ、きっと。

喰いしん坊で100を踏むわけにはいかないので、ここに書きますね。ペースが落ちて、26回です。
他の曲も聴きたい気分になったので。
Posted by LoonyLuna at 2007年04月06日 20:10
私が持っているのは、グレアム・パーカー&ザ・ルーモアの「Not If It Pleases Me」と「Squeezing Out Sparks」というのです。でも音の方はほとんど頭に残ってないんですよ〜。あっ、グレアム・パーカーのイメージはあるので、開封はしてるハズですよ(笑)。
今度「Heat Treatment」聴いてみたいです!
ブリンズリー・シュウォルツは、私も「Nervous On The Road」が好きです。というか、このタイトル曲ばっかり1曲聴きすることが多いんですよ〜。
ブリンズリー・シュウォルツ、スペンサー・デイヴィス・グループ、Jガイルズ・バンドには、共通するリーダーの葛藤があったことでしょうね(笑)。
Posted by クロム at 2007年04月06日 20:47
●LoonyLunaさん
コステロはご存知なんですね。映画「ノッティングヒルの恋人」の主題歌も歌いましたしね。と書いて、この話題、過去にコメント欄で出たなと思ったら、クッキングタイマーにコステロ入れましたね。カブ子さん、知ってるはずの名前じゃないですか。

>三等星
明るくて有名な星は沢山ありますが、あんまり明るくなくて有名なのは探すのが難しいですね。ヘルクレス座の頭の部分にあたるラスアルゲティが三等星だそうです。そんなこと言われても、どれぐらいの明るさだかわからないですよね。見つけやすいオリオン座で言うと、四つ角のうちリゲルとベテルギウスは当然一等星、その他の二つと腰のところの三ツ星が二等星ということですから、それより若干暗い星だと思っていれば間違いはないt思います。

Lunaさんのお好きな方も、そのうちバックバンドのメンバーが自分の子供ぐらいの年齢になるんでしょうか(まさか、もうなってる?)

>手に入るといいですね
ありがとうございます。一刻も早く、と焦って探してるわけではないので、そのうちなんとかなると思います。とりあえずは、今回のがよかったので満足してますし。

>26回
まだちゃんと数えてるところが律儀ですね(笑)
がんばってくださいね。


●クロムさん
「Not If It Pleases Me」は98年にHuxから出た、初期のジョン・ピール・セッションを集めたアルバムですね。90年代末期から、あちこちのレーベルから彼の発掘ライヴ盤が出始めたので、一つ一つの印象は薄かったのですが、今聴きかえしています。今から30年も前の演奏なので、さすがにピチピチしてますね。グレアムの声が今と少しも変わってないことが驚きですが。

『Heat Treatment』からこのアルバムに入ってる曲は、Back Door Love、Hotel Chambermaid、Pouring It All Out、Help Me Shake It、Heat Treatment、Fool's Gold。10曲入りのアルバムから半数以上ですね。でも僕の一番好きなThat's What They All Sayを演ってないのが残念です。

『Squeezing Out Sparks』は、そのアルバムの収録順に全曲ライヴ演奏したデモアルバム『Live Sparks』が今流通してる盤には付属していますね。そういうのは別に発売してくれればいいのに、僕はしょうがないので前から持っていた『Squeezing〜』のCDを売って、買い換えましたよ。内容がいいんで許してやりましたけどね。

『Nervous On The Road』、いいですよね。この前のコメントでは無視してしまいましたが、『Please Don't Ever Change』も好きです。Home In My Handがライヴで収録されてるんですが、最高ですよ。

スペンサー・デイヴィス・グループとJ・ガイルズ・バンドはクロムさんのところで取り上げられていましたね。というか、(ほとんど)スティーヴ・ウィンウッドとピーター・ウルフの話でしたが(笑)。内山田洋とクールファイブにも同じ悩みがあったのではないかと思います(笑)

Posted by yas at 2007年04月07日 07:23
>初めて彼のアルバム(85年当時の新作)をきちんと通して聴いたときには、それまで無駄にした数年を心底後悔したものだった。でもまあ、とにかく僕はそんなに致命的に遅れることなく彼に出会うことができた。幸運だったと言っていいだろう。それからの20年間、コツコツと活動し続ける彼のことをずっと見守ってこられたんだから。

きゃぁ、私がキーシンのリサイタルに初めて行ったときに感じたことと同じだ!私もそれまで無駄にした数年を深く後悔しました。でも、これからまだまだ見守れるって幸運に思いました。

>僕は高校生の頃に、いわゆるパブロックと呼ばれる音楽が好きになり

yas兄はどんなきっかけで、音楽を聴くようになったのですかー?
Posted by minira at 2007年04月09日 18:00
●miniraさん
何て長いコメント!と思いきや、半分ぐらいは僕の記事からの引用ですね(笑)

キーシンを聴きはじめた頃にはやはりそう思われましたか。同時代のアーティストを好きになれてよかったですよね。これが例えば16世紀のピアニストを好きになったとか、今からビートルズを聴き始めるとかいうのとはやはり違いますよ。

>yas兄はどんなきっかけで、音楽を聴くようになったのですかー?
インタビューですか(笑)“音楽”という意味では、多分テレビ番組(当時はザ・ベストテンとか)の影響だと思いますよ。洋楽を聴くようになったのは何故でしたっけね。あんまりよく覚えていませんが、そのうち適当な逸話を捏造して、記事ひとつ上げますね(笑)
Posted by yas at 2007年04月10日 20:04
>半分ぐらいは僕の記事からの引用ですね

ええええ、すばらしい本文を縮めるのは忍びなかったもので...

>そのうち適当な逸話を捏造して、記事ひとつ上げますね

ええええ、消えない三等星の方角を見て、ひたすら待ち続けますわ。
Posted by minira at 2007年04月12日 00:45
●miniraさん
>すばらしい本文
いえいえ、滅相もない。こうしてコメント欄に入れられると、いかに読みにくい文章かよくわかりますね(笑)みなさんいつもご迷惑をお掛けしています。

>ひたすら待ち続けます
わかりました。では忘れたころにこっそりと。
Posted by yas at 2007年04月12日 06:17
>ラスアルゲティ
アラビア語で「ひざまずく者の頭」という意味ですね。
隣にあるのは「ラスアルハゲィ」、へびつかい座のアルファ星で「蛇遣いの頭」の意味です。頭部が経年変化した人のことではありません。

もうヤケクソのマイフィールド、失礼いたしました。
Posted by ひそそか at 2007年04月12日 14:53
●ひそそかさん
すごいなあ。よくご存知ですね。もしや、天空の全ての星座の全ての星の名前の由来をご存知なのでは?もしや前世はガリレオ?

僕は惑星の話は好きなんですけど、星座にはいまいち詳しくないんですよ。何月生まれが何座、なんてのは、もうほとんど自分の生まれ月ぐらいしかわかりません。
Posted by yas at 2007年04月12日 22:59
>天空の全ての星座の全ての星の名前の由来をご存知

まさか!「ラスアルハゲィ」というヘンな名前に釣られて覚えただけです。ふーん「ラスアル」で「〜の頭」なのかと思いました。
あとは「デネブ」が「おしり」、「アルビレオ」が「くちばし」くらいです。

yasさんの星座はもうそろそろですね。
Posted by ひそそか at 2007年04月13日 00:50
●ひそそかさん
星と星座の名前とその由来だけでなく、他人の誕生日まで覚えておられるんですね。すごい記憶力ですね。え、プレゼントですか?そうですねー。何がいいかなー。考えときますね。
Posted by yas at 2007年04月15日 15:25
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