アメリカのシンガーソングライターでいうと、僕はかろうじてブルース・スプリングスティーンの「The River」を発売時に聴くことができたが、「Born To Run」には間に合わなかった。名前はずっと前から知っていたウォーレン・ジヴォンをちゃんと聴き始めたのは、彼が最後の闘病生活に入ってからだった。ボブ・ディランのいわゆる名盤の大半は、僕が物心つく前に世に出てしまっていた。
今日はジョシュ・リターの「The Animal Years」というアルバムのことを書く。例によって日本盤の表記は「リッター」だけど、こないだのスクリッティ・ポリッティと違って今度こそは「ッ」なしが本来の発音に近いと思うんで、これで通すよ。今年の3月に出たアルバムなので(日本盤は4月)、この印象的なジャケットはもう何度もあちこちで目にしていたし、萩原健太さんのサイトなど信頼の置ける筋での評判が高かったのも知っていた。でも、特にこれといった理由もなく後回しにして買っていなかった。手に入れたのはつい最近。
…危うくこんなすごいアルバムに出会い損ねるところだった。たかだか数百円をケチって中古を待ってしまったがためにこれを何年後かに旧譜になってから後追い体験することを想像すると、ぞっとしてしまう。ああよかった。もっとこれからは自分の勘を信じて、こんないまにも泣きそうな表情のかわいい馬がレコ屋で呼んでるときには素直に従おう(笑)
ギターとボーカルのジョシュに加えて、(ブックレットに載ってる順に)キーボード、弦楽器あれこれ(ベース、ギター、マンドリン、ウクレレ、ラップスティール)、ドラム、ギター、パーカッションの5人が演奏を務めている。演奏はきわめてオーソドックスと言っていいだろう。
アルバムはひっそりとしたキーボードとアコースティックギターの音で幕を開ける(こないだ紹介したレイ・ラモンターニュの新譜のオープニングとそっくり!)。少しずついろいろな楽器が重なって緩やかに盛り上げていくところが、この後に続く曲に期待を持たせる。
続く「Wolves」は印象的なピアノのイントロに乗って、ちょっとブルース・スプリングスティーンかウォーレン・ジヴォンが書きそうな感じのメロディーが歌われる。これがこのアルバムのベストトラックという訳ではないけれど、先ほどの「Girl In The War」からこの曲への流れは、僕が勝手に提唱している「A面2曲目がいいアルバムに駄作なし」というルールに当てはまっているね。ちなみに、アルバムタイトルの具体的な意味はよくわからないのだが、この曲を筆頭に「狼」という単語がこのアルバム中あちこちでキーワードのように使われている。
今度はまるでジャクソン・ブラウンのような節回しの「Monster Ballads」。この曲は音の作り方が好き。控えめな音で同じリズムをキープしているベースとドラムと冒頭から長音で鳴り続けているオルガンの音に添えて、右チャネルにまるで遠くで弾いているかのようにピアノの音がポロン、ポロンと入っているのだが、サビから間奏の部分では今度はピアノが前に出てきて、逆にオルガンが効果音的に後ろに廻るところが面白い。でも、こんなに気を使った音作りをしているのに、高音がちょっと割れ気味なのは何故だろう。もったいない。それともこれは僕の買ったオーストラリア盤だけかな。
「Lillian, Egypt」はジョン・ハイアットが書いてもおかしくないような曲。それにEストリートバンドのロイ・ビタンばりのピアノがソロを取るんだから、これはたまらない。シングルカットされたこの曲のプロモーションビデオを観たのだが、あれ?アルバムバージョンとミックスがかなり違うぞ。跳ねるピアノに加えて、印象的なギターのリフが入ってる。うーん、これはシングル盤も欲しくなってしまったな。まだアマゾンで売ってるみたいだから、無くならないうちに買おうかな。日本盤にボーナストラックとして入ってる曲もそれで入手できるし。
このアルバム中で一番異色な「Idaho」が次の曲。ごく控えめにギターの音が入っているのだが、殆どアカペラで歌っているように聴こえる。LPで言うとA面終盤近く。いいアクセントになってるね。自分の生まれ故郷のアイダホへの郷愁を唄っている。アイダホってジャガイモの産地だってことしか知らないけど、狼が多いのかな。これにはこんな歌詞が出てくる。
狼よ、わからないのかい?
どんな狼も僕のようには唄えない
もしそんな風に唄える狼がいたとしたら
そいつはアイダホ生まれだと思う
うーん、この曲に限らないけど、この人の書く詞はちょっと読んだり聞いたりしただけでは意味がつかめないものが多いみたい。
「In The Dark」はソロになった頃のニール・ヤングみたいな感じかな。LPだとこの曲がA面の最後になるはず。次に期待させるいいクローザーだね。で、B面1曲目に当たるはずの「One More Mouth」も前曲をもう少しおごそかにした雰囲気。これもなんとなくニール・ヤング風?これはどんなエフェクターを使ってるんだろう。リヴァーヴがかかったようなギター類の音が気持ちいい。
「Good Man」はボブ・ディラン風のメロディ。あれ?そういえばコーラスがかぶってくる曲はここまででこれが最初か?途中でボーカルがダブルトラックにもなるし。さっきの「Lillian, Egypt」と並んでこのアルバム中では明るめの曲調。
スプリングスティーンのアコースティックアルバムに入っていてもおかしくないような「Best For The Best」に続いて静かに始まる「Thin Blue Flame」が、このアルバムのクライマックス。薪に火がついていくように徐々に盛り上がり、途中ボレロ風になったり静かな間奏が入ったりする9分半にも亘る非常にドラマチックな曲に、これもまた難解な、かなりの量の歌詞が吐き出されるように歌われる。スプリングスティーンの「The River」での「Drive All Night」の役割を持った曲(僕はなんでも「The River」に例えてそのアルバムを持っていない人に訳のわからない思いをさせているけど、あれは持ってて損のないアルバムだから、訳わからんと思っている人はこの機会に買ってください。はいここ
「The River」つながりでいうと「Wreck On The Highway」にあたるのが、このアルバム最終曲「Here At The Right Time」。ピアノだけをバックに、達観したような歌が淡々と歌われるところが似ているかな(「Wreck〜」はピアノだけじゃないけど)。
今回あえていろんなアーティストの名前を使って説明したんだけど、普通は「○○に似ている」なんて書くと、オリジナリティーのないパクリみたいなネガティブな印象を与えてしまう可能性があるよね。でも、誰もがさっき僕が名前を挙げたような人たちが書いたようなクオリティーの曲を書けるわけじゃない。僕は、僕よりずっと年上であるその人たちのキャリアには途中参加しかできなかった。今、おそらく自分より年下であろう新しい才能のキャリアの端緒に出会えたことを喜びたい。
とは言ったものの、これは別に彼の最初のアルバムという訳ではない。ライヴミニアルバムを含めれば既にこれ以前に3枚のアルバムを出している。でも例えば僕がウォーレン・ジヴォンをきちんと聴き始めようと思ったときに10枚以上の旧譜を遡らなければならなかったことを考えると、たったの3枚でこの人の音源の全てを網羅できるのは嬉しい。もう既にセカンドアルバムがアマゾンから数日前に届いた。一度だけ聴いてみたが、これも中々の出来だ。
あ、ちなみにこのセカンドアルバム「Golden Age Of Radio」、アマゾンのサイトにはボーナスディスク付と表示してあるのだが、届いたCDは一枚もの。クレーム入れたら「ボーナスディスク付はもう品切れなので1ドル返します」だと。うーん、手間と金かけて返品するのも面倒だし、なんか釈然としないけど、しょうがないか。そのうちボーナスディスク付をどこかで安く見つけよう。偶然の神様はこれを読んでるはずだから。


きっと、アタシなんかだとイカ天見てなかったら健太さんは一生知らなかったような気がします。
同じような意味で、安斎肇さんもだな〜。
リアルタイムかどうかってことは結構重要ですよね。私の場合、やっぱりルースターズとかには思い入れありますもの(笑)。
友人のTさんが、最近ずっと英国トラッドにはまっていまして、その影響が出ています。
あまりにもトラッド過ぎるのは今も苦手でBert Janschくらいが限界です。
米国産へ飛び火しないように気をつけているのにぃ(笑)。あの頃のSSWに間に合った世代だから危ないんだよな(爆)。
で、これからも、「The River」に例えるわけですね?
教科書や参考書のように、ここに来るものは、これを必携しておかないと、ついて行けなくなるわけですね(笑)
うーん、ここまで「The River」が登場する記事が多いとこれは必携ですね。この記事のアフィリ収入は「The Animal Years」より「The River」からの方が断然多そうです(笑)
そうそう、今まで黙ってましたけど、私ボブ・ディランもわりと好きなんですよ。有線でたまたま聴いたハリケーンがきっかけです。
すみません、yasさん、カブ子さんの上の、名前忘れたのは、わたしです。
夢の遊眠社、第三舞台、劇団3○○、第七病棟、転位21、秘法零番館‥‥
キラ星のごとく並んだ第三世代と呼ばれる劇団と時代を同じくしたというエキサイティングな体験は、私にとって大きな財産となっています。
舞台って、ヴィデオやDVDで観てもピンと来ないのですよ(第一80年代以前の舞台って、いったいどれだけそういう形で残されているでしょう?)。いかにもいかがわしそうな芝居小屋に開演の3時間も前に並び、整理券をGETし、開場時間までを場末の喫茶店で過ごしたあと客席のざわめきの中で幕の上がるのを待つ・・・それらの行為もすべてひっくるめて“芝居を観る”ということだったんです。
その点、音楽は恵まれている気もしますが、違いますか?コンサートに行くこととCDを聴くという行為は全くの別物かもしれませんけれど、後者は後者として充分に楽しめますもの。
強引に自分の畑に引っ張ってきてコメントしてみました。
ところでお馬さん、てっきり背中を誰かに齧られたのだとばかり思っていましたが?(笑)
毎度1ゲットありがとうございます。いつまでも返事をほったらかしておいてすみませんでした。イカ天でも僕は健太さんの寸評が一番おもしろくて的を射ていたと思っていましたね。後期になってあの人が審査員を降りてしまってからは面白くなくなりました。彼の音楽の趣味を全面的に支持するわけではないですが、筋の通った評論はいつもためになります。ブライアン・ウィルソンへのファン気質垂れ流し文も読んでて可愛いんですけどね。って、その手の洋楽聞かない人には何を言ってるのかわかりませんね。すみません。
●クロムさん
クロムさんとウォーレン・ジヴォンはつながりませんでしたね。これも気に入ってもらえるようならよかったです。
ルースターズがリアルタイムってのもびっくりですよ。大江ルースターズですか?花田ルースターズですか?って、年齢訊いてるみたいで失礼ですね(笑)
●falsoさん
トラッドも聴かれるんですね(そういえば、ホリー・スミスはその系統でしたね)。バート・ヤンシュの新譜はどうでしたか?うちの近くのレコード屋でもあの黒鳥のジャケを結構プッシュしています。
この人、あの頃のSSWに比べられてしまうと「なんだこれ?」かも知れないですけど、もし機会があれば是非聴いてみてくださいね。
●LoonyLunaさん
いや、意図して「The River」に例えようとしているわけでもなかったんですけど、なんとなくこのアルバムの作り自体が似てるのかな、と。でも、あえて古い人たちの名前を出してLunaさんの興味を引いたのは意図しました(笑)
●カブ子さん
鞍の部分は、そこについている綱も含めて、塗り忘れたような感じですね。どういう意図なのかわかりませんが。文字から出ているツルは、ブックレットの中の曲のタイトルにも付いています。どの文字に付いていたか、今出張中でわからないので、帰ってから調べてみます。それを集めるとちゃんと単語になってたりしたら、面白いですね。それにしても、ローマジャーのカブ子さんがよくEARなんて単語を知っていましたね。
アフィリエイトしておいてなんですが、「The River」なんて四半世紀も前のアルバム、こんな高い定価で買う必要ないですよ。普通のプラケース入りの輸入盤なら新品でも多分この半額ぐらいで手に入りますから。とはいえ、日本のソニーミュージックがこの紙ジャケCDを出すのにどれだけ苦労したかを伝え聞いているだけに、ちゃんと売れて欲しいという思いもありますが。
ハリケーンはいいですね。
大江ルースターズです!花田さんの方はほとんど聞いてないんですよ。内田裕也主催のニュー・イヤー・ロック・フェスのテレビ放映を見て以来、20歳過ぎまでず〜っと日本のロックにハマっていたので洋楽体験が遅かっただけです。オバサンでごめんなさい(笑)。
お待ちしておりました。長文コメントありがとうございます。ひそそかさんにこういうことを語ってもらおうと、あえて冒頭に「演劇を録画したビデオ云々」というくだりを入れました。
演劇の同時代性と音楽のそれはまた別物というのはよくわかっているつもりですし、仰るとおり音楽でもコンサートを観るのと録音されたものを聴くのとでは違うということもわかっています。その辺をちゃんと説明しだすとまたいつもの超長文記事になってクレームが入りだすので(特に貴女から!・笑)適当に端折りました。
僕の言いたかったことをコメント用になるべく短く説明すると、例えばボブ・ディランやニール・ヤングが60年代末期から70年代初頭に書いたような反戦歌って、その当時に泥沼化して一体先行きどうなるかわからなかったベトナム戦争のことを考えながら聞くのと、同じ曲を今の耳で初めて聴くのとでは、たとえ今ではベトナム戦争がどう始まってどう終結したかという知識はあったとしても、違って聴こえると思うんですよ。
それを知った上で、またニール・ヤングが30年経っても同じような戦争をしているアメリカに抗議したアルバムを今年出した現場に立ち会えたことは、僕は幸運だと思っています(アメリカがくだらない戦争をしたことは幸運でもなんでもないですが)。これはきっと、2030年頃に「(多分もうその頃は鬼籍に入っておられる)ニール・ヤングがアメリカのイラク侵略に抗議して作った歌」として初めて聴くのとは全く違うものでしょうから。
オバサンなんて言ってないですよう(笑)
ここ数年は大江ファンにとっては嬉しい展開が続いているようですね。僕はあの人がまたこんな風にきちんと活動を始めるなんて思いませんでした。
Bert Janschの2000年頃のオーストラリアでのLiveは、現役なんだという事を教えてもらえた演奏でした。一番新しいのは、まだ聴いていません。それほど深く聴いている訳でもないので聴いていないアルバムが沢山有るんですよ。
調べました。「Downunder」ってやつですね。どこかで探して聴いてみます。僕も彼のCDは2枚組のベスト盤をひとつ持ってるだけなんですよ。なかなか聴く機会がないのは、片手間でぼんやり聴くような感じじゃないかなって思ってしまうからなんですが。
実はまだ東京にいてるんですよ。さっきやっとパッキングが終わったとこです。CD買いすぎました。わかってましたけど(笑)
今日の便でNZに戻ります。そしたらまた新しい記事上げますね。
こんにちは。もう、とうに帰られてますよね? ツルの件、気になって仕方ありません。お願い、確かめてもらえますか?
鋭いですね。ええ、忘れていました。今ここに持ってきましたので書き写しますね。では1曲目から順に続けて。
G R R W M R B D L P I D I D R O R M D M B R B B H R R T
えーと、これは…
…お手上げですね。解読よろしくお願いします。