2006年10月11日

早朝の唄 Ray LaMontagne 「Till The Sun Turns Black」

緯度が高いためか針葉樹の目立つ鬱蒼とした森の奥深く。夜明けまであと少しといった時間帯。さっきから歩を進めるたびに夜の色が少しずつ薄くなっているのがわかる。空気は澄んでいるのに視界があまりよくないのは朝もやのせいか。この時間帯では虫の音さえ聞こえず、ここしばらくは自分が踏みしめる湿った枯葉の音しかしない。まだ冬には早いはずなのに、身を引き締めるような寒さが体を包んでいる。やがて、名も知れぬ野鳥の巣が視界に入ってくる。そこには手のひらに収まるような小さなたまごがひとつ。親鳥はどこへ行ってしまったのだろうか。固唾を呑んで見守っていると、その殻に小さな亀裂が入り、そして数分と経たないうちに中から小さなひな鳥が現れる。荘厳な瞬間。目を上げるとちょうどそのとき東の空から陽が昇り、木々の間から薄い木漏れ日が差し込んできた。

Till The Sun Turns Black.jpg

実際の歌詞とは全く関係ないが、レイ・ラモンターニュのニューアルバム「Till The Sun Turns Black」の一曲目「Be Here Now」を聴いて僕が勝手に思い浮かべた情景はこういうものだった。使われている楽器類のせいだろうか、とても視覚的な一曲。アルバム冒頭から意表をつく6分強にもわたる長尺、しかも曲自体にドラマティックな展開があるわけでもないのに、あっという間に6分が過ぎ去ってしまう。

続く「Empty」は、数ヶ月前にリリースされた(ジャムバンドの祭典)ボナルー・フェスティバルでのライヴを収録したミニアルバムにも既に新曲として収められていた曲。そのときの演奏はレイ本人を含むギター、ベース、ドラムのスリーピースのこざっぱりしたものだったが、今回は弦楽器をふんだんに使ったとてもふくよかな音になっている。ボナルーでの演奏も決して悪いものではなかったが、これは別格。これを聴いただけで、プロデューサーのイーサン・ジョンズの力量がよくわかる。

このまま全曲解説をしていたくなるほど、このアルバムにははまってしまった。これは04年の名作デビューアルバム「Trouble」を凌いでいるかもしれない。今回のアルバムの特徴としては、レイとイーサンが基本的な楽器を演奏している以外は、アルバム全編に亘ってチェロやバイオリンなどの弦楽器が多用されていること。数曲でブラッド・ジョーンズ(懐かしい)がベースを弾いている他、レイチェル・ヤマガタが一曲でバッキング・ボーカル、ジョン・メデスキが一曲でウーリッツァーを弾いている。ヤマガタはそっと寄り添うようなハーモニーをつけている程度だが、メデスキは下手すると一本調子になってしまいそうなこのアルバムにファンキーなジャズ風味の彩りを添える重要な役割を果たしている。

確かこの人、アメリカ北部だかカナダで郵便配達をしていたが、あるときスティーヴン・スティルスの歌を聴いて曲を作ることを思い立ち、20代後半にしてデビューしたとか(手元に資料がないのでうろ覚え)。ほんとかよ、と思うような経歴。なんで今更スティーヴン・スティルス?とも思わなくもないけど、でもこれだけの才能を持った人が手紙を配りながら人生を終えなくてよかったと素直に思うことにする。

インストゥルメンタルを含む全11曲。長めの曲が多い割にはアルバム全体はコンパクトにまとまっているので、飽きずに何度も繰り返し聴ける。淡々としながらも底に熱いものを感じさせる、(北半球では)これからの季節に絶好のアルバムだと思う。もちろん南半球の僕もこれからじっくり聴きこんでいくけどね。

これも先日のアメリカ出張で駆け込みで買ってきたCDのうちの一枚。出たばかりの新譜なのに幸運にも中古で$8.99で買えた(ええ、そういうのが自慢です)。あの出張はいろいろあって大変だったけど(え、全然大変そうには見えなかったって?)、前回の記事のジン・ブラッサムズといい、僕の2006年度ベスト10候補作品がいくつも手に入って、振り返ってみたらいい出張だったな。
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この記事へのコメント
うはは!1ゲット返し!

日本に来てまで記事書く何ざぁ、蟲に取り憑かれてるんですねぇ..
品川駅東口にある「アトレ」というビルにおいしいオイスターバーがありますよ。
牡蠣好きでしたら一度は行ってみるといいです。早い時間に行かないと2時間くらい待ちますけど。

#いつも記事に関係ないコメントでスマソ
Posted by ジョージ at 2006年10月12日 08:42
もう日本ですか?
スティルスの何を聴いて、曲作りを思い立ったのか気になるじゃありませんか。

>出たばかりの新譜なのに幸運にも中古で$8.99で買えた
うんうん、自慢したくなるなる。
Posted by LoonyLuna at 2006年10月12日 08:54
更新蟲、妄想蟲のパートナーも連れて行ったようですね。ジャパニーズビジネスマンの身体に取り付いて日本へ里帰り、さぞ喜んでいることでしょう。直接お会いしたら南半球で亜種化したものを受けとるところでした。お会いできず、助かりました。いえ残念です(笑)。

朝の風景、いいですね。冷たく潤った空気で前髪がしっとりしてくる感じがします。でも私が見つけるのは森の奥深くに流れる川と滝。そして滝壺でフライフィッシングをしているブラピ似のお兄さんですね。今日もマイフィールド。やすさんの妄想は朝ですが、タイトルは夕方の意味ですか?

あの楽しそうな出張が大変だったのですか?仕事にならなくて?
では今回はもっと大変な出張になりそうですね。
Posted by かえで at 2006年10月12日 09:19
冒頭の叙景詩に舌を巻きました。くるくるりん。
メロディから情景を紡ぎ出すその技。兄ィったら実は詩人だったのですね。赤Tとのミスマッチがなんともいえずチャーミングですよ。
昨日梅子の学校で音楽会が催されました。プロのピアニストと歌手による「子どものためのコンサート」。プロコフィエフの「ピーターとおおかみ」くらいでしたら、私だって曲を聴いて情景がまざまざと思い浮かびます。え?あれはナレーション付きじゃないかって?堅いことは言いっこなしですよ。
それでは宿題を出します。J・ケージの「4分33秒」で詩を紡いでください。
Posted by ひそそか at 2006年10月12日 10:25
>ジョン・メデスキが一曲でウーリッツァーを弾いている。
なんと。聴いただけでウーリッツァーってわかるんですか? すごい。ほんじゃ剣さんの自宅録音シリーズに私のウーリッツァーが登場するかどうか聴きわけられちゃったりするかもしれないのですね。

私どうやらジャズだかロックだかプログレだかよくわからないもののセッションをライブで聴くのが好きみたいなんですけど、そのボナルー・フェスティバルってのがとっても気になります。

>あの出張はいろいろあって大変だったけど
はい、とっても大変に見えましたよ。お財布でも落としたの?
Posted by カブ子 at 2006年10月12日 14:35
早朝の森の風景が目に見えるようでした。yasさんお見事!
なんとなくロード・オブ・ザ・リングに出てきたエルフの女王が住む森をイメージしました。
あの映画のロケ地ってニュージーランドだったんですよね。エキストラのオーディションを受けにNZまで行こうかと、一瞬真剣に考えましたっけ。
Posted by にんじん at 2006年10月13日 00:01
●ジョージの旦那
1ゲットありがとうございます。この回はいつもに増して記事と関係ないコメントですね。記事から一言たりとも引用していないところが見事です。牡蠣はNZで頻繁に食べられるので、日本に来たときはもう少し日本っぽいものを食べたくなります。昨晩はホルモンの串焼きを食べました。旨かったです。


●Lunaさん
スティルスのどの曲なんでしょうね。それは書いてなかったような気がします。彼のサイトとかに行けば書いてあるんでしょうか。

いつも僕の素直な感想に突っ込まれてばかりなので、今回は同意していただけてなんだか拍子抜けです(笑)


●かえでさん
亜種の更新虫と妄想虫は、かえでさんのパソコンが直った際にお返しします。それまで大事に育てておきますからね。

フライフィッシング、いいですね。いや、僕はやったことないんですけど、いつか誰かに教えてほしいと思ってるんです。ブラピには似てませんが、教えてもらえませんか?

タイトルは夕方の意味なんですかね。太陽が燃え尽きてしまう(そんなずっと先まで)っていう意味かなと思います。歌詞をちゃんと聴いていないので、あとで確認します(CDに歌詞カードついてないんですよ)。

今回もなかなか大変な出張になりつつありますが、なんとかぼちぼちやっています。


●ひそそかさん









…と、こんな感じでしょうか、4分33秒。


●カブ子さん
もちろん聴いただけでウーリッツァーだなんてわかる訳ありませんよ。ジャケにちゃんとそう書いてあるんです。

ボナルーフェスティバルのCDとDVDを持っていますが、玉石混交、なかなか面白いですよ。カブ子さんのお気に召すでしょうか。

僕は生まれてこの方財布を落とすなんてサザエさんのようなことはしたことありません。


●にんじんさん
ささやき技といい、マイフィールドといい、にんじんさんの新たに編み出される技にはいつも感心されられます。最近の僕のコメント欄はにんじんさんのお名前ばかりで、嬉しくなります。

NZにはロード・オブ・ザ・リング関連の観光地がいっぱいありますよ。僕はあの丘の上のお城(名前を失念しました)のロケ地に行きました。ホビトンの村にも行ってみたいです。
Posted by yas at 2006年10月15日 09:58
●Lunaさん
遅ればせながら、わかりました。スティーヴン・スティルスのどの曲か。

1991年の「Stills Alone」収録、「Treetop Flyer」だそうです。僕はその曲を聴いたことないんですけど、なんかこういうエピソードを聞くと、聴いてみたくなりますね。

ちなみにこの曲、作られたのはもっと古いようで、1983年のCS&Nのライブビデオ「Daylight Again」で既に演奏されています。
Posted by yas >LoonyLunaさん at 2006年11月02日 13:40
あっ、わかったんですか!

そう、こんなエピソードがあるとね、聴きたくなります。
試しに、アマゾンへ行ってみたら、値段にびっくり!

まあ、機会を待ちます。
偶然の神様(笑)は見ているかしら
Posted by LoonyLuna at 2006年11月02日 19:55
●Lunaさん
廃盤なんですね、これ。91年頃の彼って、一般的には忘れ去られてましたからねえ。
まあ、そのうち再発されるでしょう。僕も気長に待ちます。再発されたら、ご連絡しますね。
Posted by yas at 2006年11月04日 14:10
2作目の記事、ここだったんですね。(今頃気づくな。3点)買います、これも。私はwww.bol.comというネットショップで買い物しています。視聴も気軽に出来るので好き。
Posted by 花子 at 2006年11月07日 02:04
●花子さん
www.bol.com、見てみましたが、オランダ語じゃないですか。すごいですね。オランダ語は例の一単語しか知らない僕はおとなしくアマゾンにしときます。今日もまた4枚買ってしまいました。
Posted by yas at 2006年11月07日 16:46
過去記事探り出しました。ほぼ1年前だったんですね。
「レイ・ラモンターニュ、地味音楽」というベタなキーワードでググってみたら、このサイトを含めて27件ヒットしましたよ。

“Be Here Now”の情景、確かにこんな感じですね。実際の音を聞きながら読むと、またいいです。
「ふくよかな音」という表現がぴったりですね。
ライヴアルバムもぜひ聞きたいなー(と地味音の神様に地味にお願いしてみたり)。

周回遅れのランナーのように、1年ぶりに記事の内容についてコメントしてみましたー。
Posted by にんじん at 2007年09月05日 15:46
●にんじんさん
過去記事掘り、ありがとうございます。ときどきこうして虫干ししてもらうと、僕もそれに釣られて久々に聴き直したりできますから、ありがたいです。

このアルバム、気に入ってもらえたようでなによりです。ヒットもしない代わり、いつまでも飽きずに聴ける、いい音楽ですよね。

ライヴアルバム、気に留めておきますね。確か限定盤だったので、最近とんと見かけませんが。


ところでこの機会についでに書きますが、少し上にコメントした、この人が聴いて曲作りを思い立ったというスティーヴン・スティルスの「Treetop Flyer」、件のアルバムは依然として廃盤中なのですが、先日大阪のタワレコで1980円で購入したスティルスの未発表音源『Just Roll Tapes』に別ヴァージョンが収録されていたので、この度目出度く聴くことができました。

ちなみにこの『Just Roll Tapes』、CS&N結成前夜のスティルスのデモ録音で、後に代表曲となる「Judy Blue Eyes」や「Wooden Ships」などの素描が記録されている、大変貴重なものです。ライノ・レコード、コンスタントにいい仕事をしてくれます。

ちなみにこのCD、その後渋谷で1580円で売っていたのを見つけてしまい、地団駄を踏みました。まあ、大阪復興に400円寄付したと思えば腹も立ちませんが。
Posted by yas at 2007年09月09日 18:34
アマゾンのマーケットプレイスでは、今日時点でも相変わらず「中古商品6点 6764円より」などという表記のあるスティーヴン・スティルスの『Stills Alone』ですが、先日初めて訪れた○ックオフ某支店の500円コーナーでゲットすることができたので、自慢がてらこちらで報告しておきます。

全10曲入り。ビートルズの「In My Life」、ディランの「The Ballad Of Hollis Brown」、フレッド・ニールの(というか、ニルソンで有名な)「Everybody's Talkin'」のカバーなども収録された、なかなか聴き応えのあるアルバムでした。件の「Treetop Flyer」はアルバム最終曲、シンプルで渋いアコースティック・ブルーズといった趣の曲です(曲自体はこの前のコメントに書いた別のアルバムで既に耳にしていましたが)。

この記事でとりあげた『Till The Sun Turns Black』を聴いていた頃にこの曲を聴いていたら、きっと「?」と思ったかもしれませんが、昨年発売されたサードアルバム『Gossip In The Grain』を聴けば、なるほど確かにこのスティルスの曲にどこか通じるところがあるとピンと来たはずです。

今後この人が再評価されてバックカタログが全部再発されるようなことがあるかどうかわかりませんが、グレアム・ナッシュもニール・ヤングも次々に箱モノをリリースしている昨今、この人ももう少し盛り上がってほしいものです。
Posted by yas at 2009年05月30日 21:40
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