2011年10月15日

R.E.M.の思いで

記録によると、僕がR.E.M.の日本盤LP『Murmur』を中古で買ったのは、1985年の3月。もうその頃にはとっくに次のアルバム『Reckoning』も出ていたはずだから、決して日本でいちばん早く彼らのことを聴いたというわけではない。というか、その前年にはもう彼らは初来日して関東のいくつかの大学の学園祭をまわるツアーをしていたから、当時関西の大学生だった僕はそんなニュースをきっかけに、運よく中古屋で見つけた彼らのそのデビューアルバムを買ってみたのかもしれない。

確かその学祭ツアーは爆風スランプの前座という形だったと記憶している。今から思えば、その数年後にマイケル・スタイプがサンプラザ中野と同じ髪型(?)になったのが奇遇だね。もうすっかりスキンヘッドが定着したマイケルだけど、当時の写真を改めて見ると、顔を覆うようなくしゃくしゃの髪の毛と今も変わらない眼光鋭い眼差しがすごくカリスマティックだと思う。

閑話休題。その『Murmur』、A面1曲目の「Radio Free Europe」をはじめ、気に入った曲がたくさん入ったアルバムだと思ったのを覚えている。「歌詞は聞き取り不可能なため掲載していません」なんて書いてあるライナーもなんだか秘密めいていて逆にわくわくさせるものだった。そう、当時はミュージック・マガジンなんかの記事を読んでも、マイケル・スタイプの歌う歌詞はアメリカ人にさえ聞き取れない、なんてことが書いてあったね。

当時の新作『Reckoning』も、その後すぐに出た『Fables Of The Reconstruction』も、たしかレンタルレコード屋で借りて聴いたんだっけ。今みたいに次から次へと気になったアルバムを買える経済状態じゃなかったからというのもあるけど、どれもこれもなんだかぼわーっとした抽象画みたいなジャケだったのが、当時の僕にとってはいまいちそそるものじゃなかったからなんだと思う(「当時は」と書いたものの、手元にR.E.M.特集のレコード・コレクターズ2001年6月号があるけど、彼らのシングルや貴重盤が掲載されたカラーページを見てもなんだかちっとも所有欲がわかないのは、今でもやっぱり彼らのビジュアルセンスが僕には合わないんだろう)。

そんな感じで、せっかく見つけてそれなりに気に入っていたバンドだったのに、僕はだんだん距離を置くようになってしまった。アルバム『Document』からのシングル「The One I Love」がヒットし、ワーナー移籍後の大ヒットアルバム『Green』が発表されたのはその少し後のことだった。当時全盛期だったMTVやラジオで彼らの新曲がかかるのを聴いてはいたけど、なんだか昔ちょっとだけいい感じになりそうだったけど付き合うまでには至らなかった女の子がどんどん美人になるのを見るみたいに、僕は彼らがどんどんビッグになっていくのを離れたところから見ていた。

2003年のベスト盤『In Time』を当時住んでいたクアラルンプールで買ったとき、僕は自分にとっての失われた十数年を悔やんだものだった。そうだよ、僕はこのバンドのこの音を好きだったんじゃないか。なんでずっと追っかけてこなかったんだろうって。

それからすぐ、1985年当時よりはいくぶん裕福になっていた僕は、それまでのブランクを埋めるように躍起になってバックカタログを買い集めた。その後移り住んだオークランドのリアル・グルーヴィーには安い中古盤が腐るほどあったし、ワーナー時代のアルバムがDVDオーディオ付きのデラックス・エディションで再発され始めたのもちょうどその頃だったしね。昔よりずっと美人になったかつての女友達が付き合ってくれることは滅多にないけど、ビッグになったバンドはもう一度ファンになることを拒絶したりしないのがいいよね。


先月21日に突然解散を発表したR.E.M.についてブログやツイッターや雑誌に書かれた文章はたくさん読んだ。僕もここに何か書こうかと思ったけれど、なんだかうまく書けない気がしてそのままにしてあった。それを1か月近くも経ってからこうして書いているわけなんだけど、解散について今さらあれこれ書くのももうなんだか気が引けるし、あちこちで読んだ僕が共感できる意見や感想をここで繰り返してもしょうがないから、最近ごぶさたしているこのブログを更新することを言い訳に、ずっと前に買ってまだ観てなかった彼らのライヴDVD(2枚組CDとのセット)を観て、そのことを書くことにした。そう、もう飽きてきた人には申し訳ないけど、残念ながらここまではまだ前書きだったんだよ。

R.E.M. Live.jpg
R.E.M. 『Live』

2005年2月のダブリンでのライヴを収録した、07年発表のアルバム。2枚組CDの方はこれまでもう何十回と聴いてきた。というか、僕が数年に一度罹るR.E.M.マイブーム病の際のここ数年の定番だった。でも、105分に亘るライヴDVDの方はなかなか時間が取れなくて、今日まで手を付けていなかったんだ(せっかく初回限定とかのDVD付きのアルバムを買ってもそういう目にあってるのがうちには他にもたくさんあるなあ)。

日本盤のライナーによると、2月27日のライヴから4曲をオミットし、前日公演から1曲を追加したものらしいけど、それ以外は当日のライヴの流れを尊重した全22曲。CDの方はオープニングの「I Took Your Name」から本編最後の「Losing My Religion」までの17曲が1枚目、アンコールの5曲が2枚目に収録されるという、なんとなく2枚目が物足りない構成になっているけれど、DVDは開演前の準備から最後のクレジットまで1枚に全部入っているのでもちろんそんな不自然感はない。

聴きなれた音源がどんな状況で演奏されているのかを初めて観る新鮮な驚き。スキンヘッドの額の下半分から鼻の真ん中まで、耳から耳までを真っ黒に化粧し、スーツを着込んだマイケルの異様ないでたち。天井から何本もぶら下がっているいろんな色の蛍光灯が緑色のときに下から見上げるショットは、まるで深い森か水中にいるような錯覚に陥る。CDの裏ジャケではセミアコを持っているピーター・バックが実際にほとんどの曲で弾いているのはリッケンバッカーだ。そのピーターはステージ上ではほとんど声を発することはなく、マイケルの後ろでコーラスを入れているのは主にマイク・ミルズだというのを再発見。

ライヴ・ヴィデオとしては、めまぐるしく切り替わるカット割り(せめてワンカットは一小節の長さ以上にしてもらいたい)や、カットによって画像の粗さや解像度や色調が頻繁に変わるのが僕としてはかなり煩わしい。以前ここに書いたELPのライヴDVDのように、もう二度と観たくないというほどには酷くはないんだけどね。曲によってはそういうのがうまく合っていい感じになっているのもあるけど、せっかく凝った作りのステージで見応えのある演奏をしているのに、余計な演出は要らないよ。

メンバー3人以外にサポートが数名。ドラムスが、ビル・ベリー脱退後ずっと一緒に演っている(でも最後まで正式メンバー扱いはしてもらえなかった)ビル・リーフリン。キーボードを弾いたりギターを弾いたりしているテンガロンハットにカーリーヘア、サングラスに髭面のスコット・マコーイー(マイナス5やヤング・フレッシュ・フェローズの写真でしか知らなかったけど、そのときはこんなに異様な見かけじゃなかったはずだぞ)。そして、そのスコットの隣で黙々とキーボードを弾いている色白なハンサム君、彼がサポートで参加していることをすっかり忘れていてあれっ?と思った、ポウジーズのケン・ストリングフェロウ。

ヒット曲や有名曲ばかりで構成されているわけではなく、アルバム中の地味な曲もバランスよく配されている。時期的には当然だけど、当時の新作『Around The Sun』からの曲が多いね。このライヴから3年後に出ることになる『Accelerate』の「I'm Gonna DJ」がもうアンコールで演奏されている。個人的なお気に入りは、「Cuyahoga」、「Bad Day」、「The Great Beyond」、「Imitation Of Life」など。もちろん、「Losing My Religion」や「Man On The Moon」といったヒット曲も嬉しい。アンコールで懐かしい「Don't Go Back To Rockville」を歌っているのは、その曲を書いたというマイク・ミルズ。決して上手いわけじゃないけど、なんだかほのぼのするね。


解散は残念だけど、それを見越していたかのようにIRS時代のアルバムがデモやライヴ音源などを含んだデラックス・エディションとして再発されているし、この『Live』の2年後に、これよりかなりマニアックな初期の曲を中心にした『Live At The Olympia』も出ているし、きっと今後もあれこれ発掘音源を小出しにしてくれるんじゃないだろうか。

それに、こんなに友好的なまま解散したバンドだから、きっと何かの機会にちょっと集まってくれたりするんじゃないかな。そんなのが何年後に起こるかなんてわからないけど、なにしろ僕は彼らとの失われた十数年を取り返すのが先決だから、のんびり待っていよう。


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