2010年09月20日

砂漠と箱庭 - Tunng

And Then We Saw Land.jpg
タン 『And Then We Saw Land』

変わってないところ: ちょっと悲しげなメロディ。これもシンセで作ってるんじゃないかと思えるほど瑞々しいアコギの音と、それにうまくからまる気持ちのいい電子音。ロバート・ワイアットの声と同じ成分が入っている男性ヴォーカル。

変わったところ: 全編にわたってフィーチャーされるようになった女性ヴォーカル。以前効果的に使われていたサウンドコラージュが減り、そのためか少し開放的になった音作り。ドラムとベース、ギターソロの追加。CDブックレットに必ず付いていたメンバークレジットがなくなったこと。

3年ぶりになるタンの4枚目のアルバム。毎回違ったテイストで執拗に描き込まれたイラストのジャケ。今回のはよく見るとタツノオトシゴが2匹隠れている曼荼羅模様風。グループ名もアルバムタイトルもちゃんと書いてあるんだね。

僕がこの人たちを知ったのが06年のセカンド『Comments Of The Inner Chorus』からで、後追いでファーストを入手したすぐ後にサードアルバムが出たせいか、とにかくひっきりなしにアルバムを出していたような印象を持っていたけど、実際にはクレジットを見ても、最初の2枚が06年、サードは07年だから、確かに2年間で3枚というハイペースでのリリースだったようだ。

それが、3年のブランクを置いての今作。最初に挙げたように、いつもと変わらぬ音のようで、微妙な変化点が見られることに気付いた。もともと、サム・ジェンダーズ(Sam Genders)とマイク・リンゼイ(Mike Lindsay)の二人のギタリスト兼ヴォーカリストが始めたユニットで、これまでのアルバムでもずっと作曲クレジットはグループ名ながら、各曲をどちらが作ったのかはちゃんと明記してあったのに、今回はシンプルに“all songs written by Tunng”という表記のみ。

メンバー名も書いてないし、おかしいなと思って彼らのサイトを見てみたら、しばらく前からライヴ活動には参加していなかったサムが“stepped aside completely”とのこと。これは脱退したと捉えるべきなのか。前作『Good Arrows』ではほぼ全曲を作曲していた中心人物の不在が、上記の変化点として表れていると見て間違いない。

不思議なのは、作曲の中心だったサムが抜けても曲のメロディラインはそんなに変わっていないのに、ずっとプロデュースも手掛けてきた、グループの音作りの中心人物のマイクが残っているのに、今回も変わらず彼が作ったはずの音の感触に微妙な変化があるということ。

ベッキー・ジェイコブス(Becky Jacobs)の透明感のある穏やかな歌声が各曲を印象付けているおかげで、以前のような緻密に作り込まれた箱庭的な音の触感が減っても(というか、減ったおかげでというべきか)、おそらく今作の変化は、より多くのファンを獲得できるのではないかと思う。


Tunng Tinariwen.jpg
タン&ティナリウェン 『Live @ Koko』

彼らの所属レーベルであるフル・タイム・ホビーのサイト限定で、何種類かのパッケージが入手可能。このアルバムのCD版とLP版、トートバッグ、それからここにジャケ写を載せたDVDの組み合わせ。僕はLPで持っておきたいほど好きなジャケじゃなかったこと(あとLP版は少し高いこと)と、あちこちのレコ屋のキャンペーンでもらったLPサイズのトートバッグはもう山ほど持っているので、CD+DVDのパッケージを購入。

アフリカ、マリ出身のトゥアレグ人の「砂漠のブルーズ」バンド、ティナリウェン(Tinariwen)。マリ出身とはいえ、トゥアレグ人とはフランスが19世紀に分割支配したサハラ地域のニジェール、アルジェリア、モーリタニア、リビアなど広範囲に住んでいた人種。そこで遊牧民のような生活をしている彼らに、どこの国出身という意識はあまりないのかも。

リビアのカダフィ議長のキャンプがグループ結成のきっかけになり、ボブ・ディランやボブ・マーリーなどに影響を受け、音楽的にはエレキギターとアフリカの打楽器類を中心にした、北アフリカのアラブミュージックの色が濃く出たブルーズ。そんなバンドと、基本的にはアコギとコンピューターだけでちまちまと音楽を作るタンが一緒にライヴを?

09年の初頭、わずか4日間のリハーサルだけで10日間の英国ツアー。曲間に挟まれたインタビューで、特にティナリウェン側が「難しかった。タンのことは名前も知らなかった。コンピューターと機械に囲まれて演奏をするのは異様だった。我々がどこに向かっているのかわからなかった」ということをしきりに言っていたように、この話はどちらかというとタン側から持ちかけられたようだ。

それでも、双方のグループがインタビューで「意義のあるコラボレーションだった」と語っているように、ロンドンのココといういい雰囲気の会場で行われたこのライヴ(おそらく10日間の最後?)は、全く方向性の違う二つのグループの音がそれなりに溶け合った姿が観られる。去年のライヴだから既に新作に近い開放的な音作りにはなっているものの、それでも砂漠のブルーズの前では非常に箱庭的なタンの音。

アフリカの多くのグループと同じく大所帯のティナリウェンからは、中心人物のイブラヒーム(Ibrahim Ag Alhabib)は不参加。ギターのアブダラ(Abdallah Ag Alhousseyni)、ベース&ギターのイヤドゥ(Eyadou Ag Leche)と打楽器のサイード(Said Ag Ayad)の3人のみ。3人とも、アラブ風の布を顔にぐるぐる巻いているから、素顔がほとんどわからない。ちなみに上のジャケットのイラストは、そのアラブ風の布を巻いた人物と、タンを象徴しているフードをかぶった人物を対比させた、このDVDの内容を簡潔に表したいいデザインだと思う。

DVDは全7曲、47分ほど。タンの曲とティナリウェンの曲を交互に収録。タンのは、ファーストから「Mothers Daughter」と「People Folk」、セカンドから「Jenny Again」、サードから「Bullets」。ティナリウェンのアルバムは僕は1枚しか持っていないけど、そこに収録された「Tamatant Tilay」を演っている。

上のジャケに書いてあるトゥアレグ語のアルファベット、Tifinarhが本編でもうまく使われており、エキゾチックな雰囲気を醸し出している(ちなみにジャケに書いてあるのは、上の行がTunng、下の行がTinariwen。+がTを表すのだろうということぐらいはわかるけど)。本編自体もくどすぎない編集がセンスいいなと思わせてくれる。これなら、繰り返しの視聴にもじゅうぶん耐えられるよ。

英語のタンの曲にはティナリウェンがトゥアレグ語で一部を、トゥアレグ語またはフランス語のティナリウェンの曲にはタンが英語で一部を歌っている。演奏的にも一応お互いが参加しているが、どうもタンの曲になると、サイードがカラバシュ(丸い大理石みたいなのを木の棒で叩く楽器)などで参加するだけで、他のティナリウェンのメンバーは手拍子をとったり踊ったりしているだけで、残念ながらちょっと音楽的にあまり融合しているとは思えない。

ベッキーが鳥かごに入った小鳥のおもちゃで鳥のさえずりをマイクに拾わせ、そこに印象的なアコギのフレーズが被って始まるのは、かつてyascdに採用した「Jenny Again」。イントロのチャイムの音に心がきゅっと締めつけられる。そういえばこの曲を書いたのもサムだったな。この人たちはもうこういう曲は書かなく(書けなく)なるんだろうか。

「泣かなーいで。泣かなーいで」という不思議な日本語SEとピンク・フロイドの「One Of My Turns」そっくりな歌メロの「Bullets」がエンディング。ああ、これもサムの曲だ。彼の“step aside”度合いがどの程度なのかわからないけど、今後も少なくとも作曲では参加し続けてくれないかな。あと、このビデオから判断するに、あのロバート・ワイアットを少し低くしたような声の持ち主は、このライヴでベッキーと共にリード・ヴォーカルを取っているマイクじゃなく、ここにはいないサムのような気がする。だとすると、今回のアルバムにもサムはヴォーカルで一部参加しているということなのか? どうやら、僕が今後もタンのアルバムを買い続けるかどうかは、きっと今後どれだけサム・ジェンダーズ色が薄れずに残っていくかにかかっているんだろうな。
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