2010年05月15日

ひねくれ - The Scotland Yard Gospel Choir

And The Horse You Rode In On.jpg 
The Scotland Yard Gospel Choir 『...And The Horse You Rode In On』

小さな女の子がクスクス笑いながら「あなたなんて大きらい」と歌いだす1曲目。アルバムのオープニングとしては、スミスの「The Queen Is Dead」の冒頭「Take Me Back To Dear Old Blighty」みたいな感じを狙ったのかとも思うが、それよりもクラッシュの『Sandinista!』にシークレットトラックとして収められた方の「The Guns Of Brixton」を思い出す。

最初にこのアルバムを知ったのはどうしてだっけ。アマゾンからのお勧めメールだったかな。この、一見何が写っているのかよくわからないけどなんだか妙に味のある白黒ジャケと、“ロンドン警察ゴスペル聖歌隊”という、これもいまいち意味のわからないグループ名に興味を持って、試聴してみたんだっけな。それで去年の年末に他の何枚かと一緒にアップルさんから買ったんだった。

その短い1曲目をさえぎるように始まる、正式なアルバムオープニングの2曲目「Stop!」の歌いだしはこうだ。

  お前なんか、梅毒にかかって寂しく死んでしもたらええのに

この曲だけじゃない。振られたり、裏切られたり、思いが届かなかったり、という男の屈折した気持ちがこれでもかというほど綴られた曲が、次から次へと出てくる。決して“彼女いない暦何十年”というほど全然もてないわけじゃなく、でもどうしても彼女と長続きしない男の寂しい歌。

僕が今日ようやく新作を読了したニック・ホーンビィの出世作『High Fidelity』を思い起こさせるね。ロンドンの下町でくすぶる、冴えない男の物語。そういうシチュエーションだけでなく、何を言うにもいちいちひねくれた表現をするところもね。

そういう歌を歌っているのが、ジャーヴィス・コッカーかケヴィン・ローランドかと思うような、時折声がひっくり返るほどへロヘロした歌い方の男。バンドの音も曲調も、その二人がいたグループ(知らない人のために:パルプとディキシーズ・ミッドナイト・ランナーズです)をはじめ、ハウスマーティンズとかテレヴィジョン・パーソナリティーズとか、もちろんスミスとかも彷彿とさせる。曲によってはフェルトみたいなのもあるね。懐かしい。

そんな、どこをどう切り取ってもゴスペルでも聖歌隊でもない、懐かしのブリティッシュ・ポップ(ブリット・ポップというとどうもブラーとかオエイシスとかの、もっと売れ線の立派なのを連想してしまうので)そのままの音を奏でるのがこのバンド。これはサードアルバムになるのか。全然知らなかったよ。拾い物だね、これは。なんか、こういう「僕たち80〜90年代の目立たないイギリスのバンドが大好きです」という音がすごく愛しい。

The Scotland Yard Gospel Choir.jpg
『The Scotland Yard Gospel Choir』

気に入ったものは立て続けに買う習性があるので(前記事参照)、07年のセカンドアルバムを見つけてきた。HMV通販のカートに入れておいたら、頼みもしないのに70%引きのセールの対象品にされていたのでラッキー。

調べてみたら、これの前に出ているデビューアルバムはもう廃盤なんだね。それはインディーズからの発売で、バンド名を冠したこのアルバムが実質のデビューアルバムみたいなもんなのかな(まあ、ブラッドショット・レコーズがインディーズではないという意見に賛成する人はあまりいないとは思うけど)。

ジャムみたいな威勢のいいギターで始まるこのアルバムも、基本的には新作と同じような作り。「この世には僕の居場所はない」というタイトルの2曲目の歌詞が、「朝起きたらいつも夢想する/車の前に飛び出して死んでしまうことを/でも自分の運を考えたら/どうせそのまま死ねずに半身不随で一生過ごすことになるはず」という、もうどうしようもなく暗く屈折したもの。でも、歌詞を無視すれば、これもまた小気味のいいギター・ポップ。

何曲かで女性がリード・ヴォーカルを取っているのは、新作と同じ。クレジットに誰が何担当か書いていないのであてずっぽうだけど、エレン・オヘイヤーというのがその人かな。だとすると、新作ではその人はもう脱退して、“The Usual Suspects”(札付きの)メンバーとして名前が載っているね。脱退したメンバーが新作のレコーディングで何曲もリード・ヴォーカルを取るという不思議な形態。

最終曲「Everything You Paid For」はエレンが歌う美しいスロー・バラッド。なのに、わざわざその曲のエンディングに奇妙なサウンド・コラージュとハアハアいうあえぎ声(?)を重ねるというひねくれ度合いも素敵(笑)


さて、ここまで引っ張ってきて最後にばらすと、実はこのグループ、シカゴ出身のれっきとしたアメリカン・バンド。ゴスペルも歌わず聖歌隊でもないだけじゃなく、ロンドン警察(スコットランド・ヤード)とも関係ないのかよ。じゃあこの、セカンドアルバムのジャケットのロンドンバスも含めて全部引っ掛け問題か。

でも考えてみると、映画版『High Fidelity』の舞台が原作のロンドンからアメリカに変更されるにあたって選ばれた街がシカゴだったというのと、妙にシンクロするね。なんか不思議な感じ。
posted by . at 17:54| Comment(9) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>お前なんか、梅毒にかかって寂しく死んでしもたらええのに

ワ、ワルー!でもひねくれたの大好き!まだ分からないけど、聴いてみたらけっこう好きになるかも。
『♪朝起きたら〜、男の態度が変わってた〜〜、イェ〜』の小林万里子の男版みたいなの想像したんですけど、聴いてみますね。
Posted by 青グリン at 2010年05月16日 20:25
■青グリンさん
一週間もほったらかしにしてすみませんでした。おまけにこの週末はブログも書かずにほっつき歩いておりました。

小林万里子さんて知らなかったので、グリンさんを見習って検索して聴いてみました。こんな人がいたんですね。グリンさんファンですか?これは全然想像と違ったことでしょう。
Posted by yas at 2010年05月23日 23:19
レスが終わった途端にコメントを入れるというひねくれたことを、この記事のコンセプトに則ってしてみます。
歌詞、ほんまにひねくれてますね。もしこんな人が近くにいたらどうかな。ちょっと慰めたあとにグリグリと苛めたくなるのは私もひねくれているからでしょう。
全然話は変わりますが『スコットランドヤード』というボードゲームが大好きです。ボードゲームなのに犯人役は帽子を目深にかぶって視線を隠さなければならいというひねくれ度合いがサイコーです。
Posted by ひより at 2010年05月24日 00:06
yasさんが小林万里子を検索したのを見習って検索してしまいますた。ロック食堂ぉうぉぉぉ〜が耳について離れません。
小林さんのファーストを持ってます。ブルースはあんまりなじみがないのですが、こんな多方面に差し障りありまくりの強烈な人は他にいないので、応援したくなります。浪速のジャニス・ジョップリンとして関西で保護すべきです。
Posted by 青グリン at 2010年05月25日 23:18
■ひよりさん
趣旨ご理解ありがとうございます。では、僕はひねくれもせず素直にいつものとおり週末まで引っ張ってから返事をします。
スコットランドヤード、僕も昔やったことがあると思います。今度お会いする機会があったら一緒にやりましょうか。僕が犯人役やりますね。ちょうど先週プールで買った水泳用のメッシュキャップがありますので、それをかぶっていきます。


■青グリンさん
再登場ありがとうございます。ロック食堂は見ませんでしたが、こんなところにうかつに書いたらその後にヘンなコメントが続々入ってきそうな題名の曲がありました。道理で放送禁止になるはずです。ジャニス・ジョプリンは保護しないとすぐ死んでしまいますからね。大事にしましょう。
Posted by yas at 2010年05月29日 20:43
ほぼ一ヶ月前の記事に今更コメントを入れるのは、ひねくれているせいではなく体内時差のせいです。

読みながらあちこちで笑ってしまいましたよ。どんだけ屈折してんねんこの男。
一体どんな音なのかと検索してみました。ヘロヘロなヴォーカルにリズミカルなギター。うん、嫌いじゃないですね(←あえてひねくれた言い方)。
美しいバラッドのあとのヘンなあえぎ声の歌も聴けましたよ。珍しく本音を吐いたあとについひねくれたことを言って茶化してしまう「いらんこと言い」の男のようで、笑えました。
Posted by にんじん at 2010年06月13日 15:28
■にんじんさん
古記事掘り起こしありがとうございます。おまけにちゃんと検索までして聴いていただいて。横着してリンク張らなくてすみませんでした。

こういうのもお嫌いではないですか。それはちょっと意外でした。「いらんこと言い」男には何か思い出があるのですか?どういういらんことを言われたのでしょう。そのうち語ってください。多重人格ブログも二重人格になって久しいことですし。
Posted by yas at 2010年06月20日 01:00
こんにちわ。
機会がございましたら、Brighton MA というBandもチェックしてみてください。以前SYGCのMemberだった人たちのBandです。やっぱりChicagoベースのBandです。
SYGC,いつも大所帯で、人と機材でステージが溢れてました。懐かしいです。
Posted by Ecco at 2010年08月06日 06:48
■Eccoさん
返事が遅くなってしまい、すみませんでした。Brighton MA、聴いてみましたよ。かっこいいバンドですね。SYGC(こう略すんですね)とはまた違った感じで、もう少しまとめて聴いてみたいです。アルバム買おうかな。

>懐かしいです
「いつも」ということは、何度もライヴを観られたことがあるんですね。それはちょっとうらやましいです。
Posted by yas at 2010年08月12日 18:35
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