2009年10月24日

羊水の中 - The Steadfast Shepherd

The Steadfast Shepherd LP.jpg 『The Steadfast Shepherd』

羊水の中の記憶なんてものが残っているわけはないけど、きっとこんな感触だったんじゃないかと思う。地に足が着いてないどころか、体のどの部分もどこにも接していなくて、やわらかく浮かんでいるような。自分の周囲が暖かいのか冷たいのかよくわからない、その境界にいる感じ。聴いていて、意味もなく楽しくもなれるし、悲しい気持ちもなれる音。

一年前に出たデビューEPは、6曲入りにしてはちょっと複雑な構成でありながらも、音それ自体はとてもシンプルなものだった。基本的にはアコースティック・ギターと声だけ。それにほんのりと色を添えるように重ねられた、ハーモニカやタンバリンの音。

あれからちょうど丸一年後となる今年7月にひっそりとリリースされた、ステッドファスト・シェパードのこのファースト・アルバムは、音的にはほんの少し華やかになった。

ネイサンとフェアリーのコリンズ夫妻が基本となる楽器(ギター、ピアノ、オルガン、フルート、パーカッション)を演奏しているのに加え、ブロークン・フライト(Broken Flight)のピーター・ボイドとランス・ヴァン・マーネンがそれぞれギターとチェロで参加(クリスはどうしたのかな)。

数曲に入っているドラムスのジェイコブ・ピアーズとベースのドメニク・スタントンは、去年のタマス・ウェルズのライヴの後に紹介してもらったビコーズ・オヴ・ゴースツ(Because Of Ghosts)のメンバーだ。ヴァイオリンのマーク・ダヴだけが、僕にとっては初めて名前を聞くメンバーだけど、ここに名前を列挙した人たち同様、メルボルン・コネクションの一員なんだろうね。

昨年のEPのジャケットも綺麗だったけど、今回のはそれに更に磨きがかかったもの。前作のようにメンバーが自分達で張り合わせたかのような厚紙のゲイトフォールド風でなく、手触りのよい紙質のゲイトフォールドジャケットに、上に写真を載せた細かなエッチングが両面に印刷され、更にその表面には透明な素材でグループ名が印刷されている(これは手にとって光に当ててみないとわからない)。

タマス・ウェルズの前座で観た去年のライヴでもそうだったように、そっと目の前に現れては、ぶっきらぼうにギターを弾き始めるところが目に見えるような1曲目「The Other Side Of The River」。2分にも満たない簡素な曲だけど、ゆっくりと奏でられるピアノの音がポロンポロンと重ねられるのを聴くと、まるで道端に隠れるようにして咲いている名もない白い小さな花にふと気づいたときのような気持ちになる。

その去年のライヴで、東京公演でも鎌倉公演でも必ずラストに演奏されていた「Golden Point」が2曲目。その他にも去年のライヴで演奏されていた曲がいくつか収録されているが、どれもあの時よりも格段に練られ、洗練された感がある。

なかでも、さっきリンクした去年の記事に「確か両日ともに三曲目で演奏された、ハーモニカを吹き、タンバリンを足で踏みながら歌った曲を僕は結構気に入った」と書いた5曲目「The Eyes Don't Lie」がやはりとてもいい。ハーモニカの代わりに使われて曲を象徴することになった楽器はスライドギター。タンバリンの音はあのときよりもずっと控えめになり、そこにかぶさってくるチェロとヴァイオリン、そして1曲目同様に、眼前に白い花が一つずつポツポツと咲いていくのが見えるようなピアノの音。

前作もこのアルバムも、ほとんどの曲でリード・ヴォーカルをとっているのはネイサン。フェアリーはほんの数曲でしかメインでは歌っていないが、全曲でネイサンの声に寄り添うようにハーモニーを聞かせている。その二人の声の交わり具合が、今回更に絶妙なように思える。次にまたステッドファスト・シェパードのライヴを観る機会があれば、そのときはネイサンのソロでなく、この二人のユニットとして観てみたいな。

前作同様、ランド&シー(Land&Sea)というインディペンデントからのリリース。前作は上のジャケ写の横にリンクを貼った彼らのサイトから直接買うしか方法はなかったが、今回は結構あちこちにディストリビューションされているようだ。iTunesにもあるし、僕がNZで行きつけにしていたJBハイファイにも置いてあるようだし、きっとこのブログに来られる何人かの方にはお馴染みのはずのCDBabyでも買えるようになったみたい(ちなみに、関係ない話だけど、僕がNZにいた頃に偶然旅行で一緒になって仲良くなったアメリカ人が、後でCDBabyの社長だったと知ったときはびっくりした)。

僕は発売日に彼らのサイトに直接オーダーしたから(その当時はまだCDBabyにはなかったはず)、CDと一緒に綺麗なデザインのバッヂが送られてきた。今はもうそのことは書いてないから、もしかしたらもうそのキャンペーンは終了したのかもしれないけど、勇気のある欲張りな人は「バッヂもらえるってyasに聞いたんだけど」って書いてみると何かもらえるかもしれない(僕は保証しませんけどね)。

それにしても、最初にざっと流して聴いたときには「なんだか地味なアルバム」と思ってしまったこれが、3ヶ月も経ってここまで自分の中で伸びてくるとは思わなかった。タマス・ウェルズを筆頭に、ブロークン・フライトといい、このステッドファスト・シェパードといい、この独特の雰囲気を携えたアーティストたちを何人も生み出しているメルボルンって、どんなところなんだろう。一度行ってみたいな。タマスもネイサンももうそこにはいないけど。


posted by . at 16:32| Comment(4) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。今日、週末に始まる展覧会の作品を発送して少し一息つきました。と言ってもまだもうひとつ待っているのでまだまだ忙しい日々が続きますが…。

いやぁ、これ、すっかりチェックし忘れていました!缶バッジは諦めて早速CDBabyでポチっと。届くのが待ち遠しいです。
Posted by マサ at 2009年10月27日 21:37
■マサさん
こんにちは。忙しくされているようでなによりです。そんなに続けさまに展覧会があるのですね。売れっ子アーティストのようです(実際に売れっ子アーティストだったとしたら、失礼しました)。

CDBabyで買われましたか。早く届くといいですね。僕は今となっては前のEPよりも気に入っています。
Posted by yas at 2009年10月31日 13:20
こんばんは。他称売れっ子アーティストでございます(笑)。いえいえ、笑っておられません…。なんとか今年最後?の展覧会の搬入を無事済ませたら扁桃腺を思い切り腫らして39度4分なんて素敵な高熱を出してみました(苦笑)。

ところで、やっぱりバッジは付いてこなかったですけれど、シュリンクに貼られた丸いステッカー。どう観ても、手触りも思いっきり手作りですね!一個一個鋏で切ったのかなぁ…。

病み上がりにしっとりとしみこんできて良いですねぇ…。
Posted by マサ at 2009年11月12日 19:12
こんばんは。ついに入手されましたか。39度4分なんて。新型インフルエンザではなかったんですね。忙しくされているようなので、体調には気を使ってくださいね。

ステッカー、言われてみて僕も引っ張り出してきましたが、確かに全然丸く切られてないですね。ハサミで切ったように見えます。ネイサンが一枚一枚自分で切っているところが目に浮かびます。

そのうち時間に余裕ができたら貴ブログにもこのジャケが載るのでしょうか。是非丸くないステッカーの写真もお願いします。僕のやつと非円形度を比べてみます。
Posted by yas at 2009年11月15日 01:08
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