2009年08月16日

鳥肌 - Matthew Sweet & Susanna Hoffs

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『Under The Covers Vol. 2』 Matthew Sweet & Susanna Hoffs

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『Under The Covers Vol. 1』 Matthew Sweet & Susanna Hoffs

ドタタドタタ、ドドン。乱れ打ち風のドラムスに被さる、聴き覚えのあるギターリフ。失敗。一瞬の間を置いて、再スタート。

後世に残るパワーポップの名曲を書きたければ、こんなリフを作ればいい。いつ聴いてもそう思えるソリッドなあのイントロ。“Ma-ma, Yeah!”オリジナルのエリック・カルメンと同じキーで叫ぶスージー。流れるようなAメロを歌い始めるのは、シド。そのメロディが五線譜上を駆け上がり、さあコーラスに入るぞというその瞬間、歌詞でいうと“Baby, please”のちょうど真ん中で絡まるように分け入ってくるスージーのボーカル。

こんな描写をしても、曲を知らない人には何のことだかわからないだろうけど、これはこのアルバムの2曲目。ラズベリーズの「Go All The Way」のカバー・バージョンだ。僕はそのコーラスまで聴いた瞬間、特に悲しいわけでも感動したわけでもないのに、自分の目に涙が浮かぶのを感じて、ちょっとショックを受けた。え?何これ。土曜の朝だよ。別に酒を飲んで気持ちが昂ぶっていたというわけでもない(僕がそのとき飲んでいたのはコーヒーだ)。両腕にはびっしりと鳥肌が立っている。


このブログを昔から読んでくださっている方なら、上に載せた二枚の写真のうち、下側のは見た覚えがあるかも。そう、おととしの1月(もうそんなになるのか…)にその前年のベスト20アルバムを特集した記事に登場している、シドことマシュー・スウィートと、スージーことスザンナ・ホフスの二人による、60年代ポップスのカバー・アルバム。

そのアルバムのブックレットの最後に「See you next time! XO」と記されていたように、それから3年後の今年(こんなに待たされることになるとは思ってもみなかったけど)、見ての通り、オレンジと黄緑と薄茶という、一層夏らしさを増した色合いのジャケに包まれた第二集が発売された。

実は、1月のときもそうだったように、今回もやはり“ティルブルック・シンドローム”に罹ってしまっていて、先月末からこちら、CD屋にも行かなければ、新譜をチェックするためにオンラインショップのサイトを見ることすらしていなかった。なんだかスクイーズ/グレン以外の音楽を聴く気分になれなくてね。

このアルバムも、グレンのライヴのしばらく前に、いつも巡回しているLA MOSCAさんのブログを見てリリースされていることを知り、早く買わなくちゃなんて思ってたのに、ようやく入手したのが昨日という次第。

アルバムとしては素晴らしかった『Vol. 1』だけど、60年代という時代背景のため、僕が元々知っていた曲はアルバム中約半数程度だった。それに比べて今回の『Vol. 2』は70年代特集。大半の曲は知っている。それどころか、さすがマシュー、やっぱりこの人のやることに間違いはないね、と思える、ツボを突いた選曲。

おととしの記事に「斬新さのかけらもないようなアルバム」なんて書いてしまっているけど、きっと僕がマシューのファンでなければ、こんな後ろ向きの企画、と切り捨ててしまっていたかもしれない。だって、よくあるよね、もう曲が書けなくなってしまったアーティストが、過去の他人の名曲を再現、なんて。そしてその大半は、過去の他人の名曲をそのまま聴いていた方がいくらかマシというような出来でしかない。

ところが、冒頭に書いたような始末だ。お馴染みのマシュー・スウィート・バンド(この記事あたりで紹介済み)による、ワイルドながらタイトな、小気味のいい演奏。そしてデビューから何年経とうと何十キロ太ろうと全く不変な、マシューのあの声。それらが一緒になって編み出す魔法のような音楽を前にすれば、もうそれがどんな陳腐な企画であろうと僕は抗えない。

他にも、エリック・クラプトンとデュエイン・オールマンのツイン・リードを再現した(さすがに彼らほど達者ではないものの)、マシューとグレッグ・リーズのギターの絡みが嬉しい、デレク&ザ・ドミノズの「Bell Bottom Blues」(『Layla And Other Assorted Love Songs』からならもうどの曲を選んでくれてもOKだというのに、よりによってこいつをピックアップするそのセンスがたまらない)。

ジョン・レノンの「Gimme Some Truth」も嬉しい。マシューの声質を活かすなら、この選曲は大当たりだと思う。スザンナによるイントロの「アー」ってコーラスも、このざらっとした曲にほどよい甘さを加えているし、かと思えば、曲がフェードアウトしていくところでの彼女のハスキーなシャウトもいいよね。そしてまたこの曲でも、グレッグのスライドが実に魅力的にきまっている。

『Vol. 1』にニール・ヤングの曲だけが2回(どうしてもどちらも落せなかったからという理由で)出てきたように、この『Vol. 2』にはトッド・ラングレンが2曲収められている。そういうところも僕的にはかなりツボ。ちょうど前回が『Everybody Knows This Is Nowhere』からメロウなタイトル曲とハードな「Cinnamon Girl」の2曲が選ばれていたように、今回は『Something/Anything?』からの代表的バラッド「Hello It's Me」と元祖パワーポップみたいな「Couldn't I Just Tell You」が収録されている。

そして、「Willin'」! リトル・フィートの数ある名曲の中で、おそらく僕が一番好きなのがこれ。ライ・クーダー、ローウェル・ジョージという名だたるスライド・ギタリストが奏でてきたあの旋律をなぞるのはもちろん、グレッグのペダル・スティール。滲みるね。

順不同ながら、もうこのまま全曲について書いてしまってもいいぐらいだけど、夜も更けてきたのであと1曲だけ。おそらく今回のソングリストの中で一番異色なのが、イエスの「I've Seen All Good People」だろう。ゲスト・ギタリストはなんとスティーヴ・ハウご自身。でも、(かつてyascd002に入れた)「Thunderstorm」みたいな9分半もある組曲を作ったりとか、この人ってきっとプログレも好きなんだろうなとは思ってたよ。彼自身が書いたライナーによると、イエスのレコードを聴いてベースの練習をしたとか。クリス・スクワイアだよ。あんなの真似できないよ。すごいね。

ああ、それに、きっとこの人はイエスのファンだったんだろうなと僕が最初に思ったのが、97年の『Blue Sky On Mars』。このタイトルと名前のロゴ、わざわざロジャー・ディーンに描いてもらったんだよね。

Blue Sky On Mars.jpg 『Blue Sky On Mars』 Matthew Sweet

せっかくリンクしたのに、廃盤なの?これ。地味だけどいいアルバムなのにね、もったいない。まあ、中古で150円とかで売ってるから、これからマシューのアルバム集めたいという人は、5枚目か6枚目あたりはこれにすればいい。

マシューの前作『Sunshine Lies』を取り上げた記事のコメント欄で僕が悔しがっていたように、『Vol. 1』はマイナーなレコード会社からボートラ入りの日本盤が出たんだよね(まだ買ってないや。廃盤になる前になんとかしないと)。実はこの『Vol. 2』も9月16日に日本盤が出るということで、もしかしたらまたそれもボートラ入りで、悔しい思いをすることになるのかもしれないけど、そのボートラの選曲次第では、もう一枚買っても構わない。それより、日本盤を待ってる間こんなに素敵なアルバムを1ヶ月も聴けないなんて方が僕には問題だから、ちっとも悔しくなんてないよ。

そして嬉しいことに、今回のブックレットの最後のページにも、「SEE YOU NEXT TIME! XO」の一文が。次は80年代編だね。すっごく楽しみ。たとえまた3年待たないといけないとしてもね。
posted by . at 01:37| Comment(10) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
記事中でのご紹介、ありがとうございます。

ここんとこのマシューのアルバムは、日本盤のタイミングが遅くて、俺もすっかり輸入盤ばかりになってます。
俺も待ってられないんで!(笑)
ボートラは、遅れて日本盤を購入してる友人に聴かせてもらったりしてます。

80年代編も楽しみですよね〜。

しかし、yasさんのトコ読んでるといつも思うんですが、メチャ詳しいですね、音楽。
ものスゴイ情報量!

Posted by LA MOSCA at 2009年08月16日 21:47
こんばんは!

私も聴きました。とっても良いですよね〜。来月出るボートラには「〜Peace,Love&Understanding」が入るみたいですね!あとはちょっと忘れましたが、ラモーンズとかもあったと思います。

輸入盤を買ってしまいましたが、ボートラ5曲はそそりますね。
Posted by うささこ at 2009年08月17日 00:03
し、しまった!
本文最後まで読まずに、注文してしまった…
Posted by Luna at 2009年08月18日 08:33
■LA MOSCAさん
お断りもせず勝手に引用して、失礼しました。

最近のマシューのアルバム、そもそもオリジナル盤がインディーズ配給ですから、日本盤を出そうとしてくれる会社があること自体はとてもありがたいのですが、仰るとおり、いかんせん発売時期がずれすぎていて、とても待っていられないのが非常に残念です。本来であればこういう誠意のある日本のインディーズは是非応援してあげたいところなのですが。

というわけで、下にも書きますが、僕は日本盤も買うことを決めました。残念ながら僕にはボートラ入りの日本盤を買って聴かせてくれる友達がいませんので。

はい、80年代編、楽しみです。LA MOSCAさんが記事に書かれていたチープ・トリックは確実に入るでしょうし、個人的にはアズテック・カメラやプリファブ・スプラウトあたりの所謂ネオアコ系も聴いてみたいです。マシュー・バンドでおもいっきりハードでドライなアレンジにしたバングルスをスザンナが唄う、というのもオツかもしれません。

昔から音楽に詳しいのがとりえだったのですが、最近は寄る年波のせいか、いろんなことを全然覚えていられなくなり、あれこれ引用しながら(LA MOSCAさんもお持ちの古いMMとかを活用して)書いてます。おまけに、ただでさえ衰えた脳細胞をこんなことに使ってしまっているせいで、実生活の方は記憶力の減退が一層顕著です。


■うささこさん
>ボートラには「〜Peace,Love&Understanding」が入るみたいですね!
なんと!もうそれだけで僕としては買い替え決定ですよ。しかも5曲ですか。前作はボートラが1曲だけだったのでなかなか買い替えに踏み切れなかったのですが、今回は奮発しましたね。さすが誠意のある日本のレコード会社。

結構あちこち調べてみたのですが、その5曲の曲目がどこを見てもわかりませんでした。ラモーンズがありましたか。それもよさそうですね。「Blitzkrieg Bop」あたりでしょうか。まあ、どの曲を演ってもほぼ同じですが(笑)

では残り3曲を勝手に想像します。まず、本編にジョンとジョージが入っていたのに、70年代に一番活躍したポールがなかったので、ウィングスは固いところではないでしょうか。「Silly Love Songs」のハーモニーをこの二人の声で想像しただけでぐっときます。

スプリングスティーンも演ってほしいですね。個人的には『The River』からならどれでもいいという感じですが、一般的にはやはり「Thunder Road」か「Born To Run」でしょうか。ベタですが。

ボウイの作品は本編に「All The Young Dudes」が入っていましたが、本人の曲も聴いてみたいところです。こちらもベタですが、「Changes」か「Starman」あたりでいかがでしょう(別にうささこさんに質問しているわけではありません)。

でも、こんなボートラじゃ、本編よりも豪華になってしまいますね。


■Lunaさん
ほら、長文だからと飛ばし読みしていると、罠がしかけてあるんですよ(笑)。でもこれ読んで買って頂いたんですね。ありがとうございます。大丈夫ですよ、ルナさんにはボートラ入りのを聴かせてくれる友達がきっといますから。

実は、この記事のタイトル「鳥肌」はちょっと一般的には当てはまらないなと思いながらつけたんですよ。内容的にはかなりレイドバックした聞きやすいもので、どちらかというと、記事中で引用させてもらったLA MOSCAさんの「軽音楽をあなたに」というタイトルの方がぴったりだと思います。

でも、記事の冒頭に書いたことは本当なんですよ。もう20回はゆうに聴きましたが、少なくとも最初の何回かは、「Go All The Way」がかかるたびに両腕と背中に鳥肌でした。ラズベリーズ(と、歌詞に「ベイビー」が出てくる歌)が好きなルナさんにはもしかしたらわかっていただけるかもしれません。聴かれたら感想教えてくださいね。
Posted by yas at 2009年08月22日 10:14
確かにLA MOSCAさんの「軽音楽をあなたに」というタイトルの方がぴったりですね(笑)

これらのアーティストのオリジナルは聴きながら、他の作業ができませんが、これなら大丈夫(けなしているのではありませんよ)
エリック・クラプトン、デヴィッド・ボウイ、カーリー・サイモン、ロッド・スチュワート(女性でも歌えるんだ!)、それから、もちろんラズベリーズのがいいですね。

Vol.1も買いたくなりました。前回の記事では食指が動かなかったのに。
Posted by Luna at 2009年08月24日 09:04
■Lunaさん
そのあたりがお好みですか。僕は実は「Maggie May」は好きな曲なので期待しすぎたのか、ちょっといまひとつでした。決して悪いわけではないのですが、まさに僕にとっては「軽音楽をあなたに」という感じすぎて。

僕のおすすめの「Willin'」はどうでしたか。ルナさんにはゆるすぎたでしょうか。

Vol.1もおすすめですよ。前回の記事と言っても短文でしたからね。やはり読んでもらえないとしても長文を書くのは大切ですね。こちらは是非日本盤をどうぞ。
Posted by yas at 2009年08月27日 00:35
お久しぶりです。
私もこれかなりそそられてます。yasさんが日本盤を買うなら、輸入盤を買い取ってもいいかと思ってたんですが、そんな豪華なボートラがつくなら(まだ脳内妄想中だけど)迷うなー。
Posted by にんじん at 2009年08月27日 14:31
とりあえずvol.1の日本盤を買ってしまいましたー。尼損のカートに入れっぱなしになっていた将棋マンガと合わせると、3004円というナイスなお値段になったので、これも(ゆるめの)運命かと思って。
Posted by にんじん at 2009年08月27日 18:15
初めまして!いつも楽しく拝見しております。
このCDのボートラは
http://www.cdjournal.com/main/news/news.php?nno=25834

だそうです。

平和、愛、相互理解も非常に聞きたいですが
「がんばーれタブチー!」の仕上がりも気になるところです。ハイ。
Posted by まに at 2009年09月03日 01:27
■にんじんさん
お久しぶりです。近頃あちこちでお見かけすることから察すると、そろそろ締め切り間近というところでしょうか。僕もちょっとこないだの記事以降、旅行と出張でほとんど家にいないので、すっかりコメント溜め放題になってしまっています。今はインドにいます。後で誰かに13個ほど質問されるかもしれないので、起こったことは細かく記憶しておくようにします。

僕の輸入盤を買い取っていただくという話でしたが、もちろんにんじんさんも日本盤をということであれば、全然気にしないで、是非そちらを買ってください。僕のはどこかで適当に売り飛ばしますのでご心配なく。下にまにさんが妄想でない本物のボートラのリストを載せてくれていますが、妄想でなくてもなかなかのものですよね。


■にんじんさん2
Vol.1を買われましたか。ボートラの出来はいかがでしたか。僕も帰ったらVol.2と一緒に買うことにします。

にんじん坊やの将棋マンガと合わせて3004円ですか、そういうときぴったりなのって、何かうれしいですよね。僕は海女存で買うときに3000円を下回ったことがなかったので、送料無料になる下限があることを知りませんでした。


■まにさん
いらっしゃいませ。はじめまして。いつも読んでいただき、ありがとうございます。

ボートラ、拝見しました。そうそう、8月22日のコメントを書いた直後に、「そういえば70年代といえばクイーン」とすぐに思い当たったのですが、わざわざ追記するほどでもないかとそのままにしてしまっていたのです。「Killer Queen」入選ですか。これもまたヴァースの部分をマシューが歌い始め、コーラスでスザンナに交代(マシューはそのままバックコーラスに移動)という感じでしょうか。期待度大ですね。

あとはブロンディにJT、それからうささこさんにもお伝えいただいたラモーンズでしたか。残念ながら僕はブロンディというと「Call Me」ぐらいしか知らないので、きっとこの「Dreamin'」は聞けばわかるという程度です。

JTの「You Can Close Your Eyes」は、かつて僕が自分が既に持っていることを忘れて2枚同じCDを買ってしまった『Mud Slide Slim』収録なので、当然そのアルバムにそういう曲が入っていることすらも忘れていた程度の認知度です。

ラモーンズの「I Wanna Be Sedated」も自分で持っているのですが、58曲入りのベスト盤の23曲目という、聴いていてもう一曲一曲を認識できる状態ではなくなったところで出てくる曲なので、どういう歌なのかさっぱり覚えていません。帰ったら聴きなおします。

ところで、CDジャーナルのこの記事、「Peace, Love & Understanding」をコステロ&アトラクションズの曲と言い切っていますね。確かにこの曲をカバーした人たちの中では彼らが一番有名なのかもしれませんが、ニック・ロウってそこまで知名度低いのでしょうか。なんだか悲しくなってしまいました。
Posted by yas at 2009年09月03日 16:42
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