2015年09月26日

Vashti Bunyan live in Tokyo

一応公開されていたメッセージなので書いていいと思うけど、いつもすてきな音楽を奏でるミュージシャンばかりを呼んでくれているプロモーターの友だちがライヴ会場で人手が足りないと困っていたので、ちょうどその日ならお手伝いできますよと声を掛けてみた。たまたま場所も会社から歩いてすぐの場所だったから、少し早めにオフィスを抜け出せば集合時間に十分間に合うし。

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キリスト品川教会グロリアチャペル。ここでマーク・コズレックを観たのは確か2012年だったかな。雨の中を、約束していた開場時刻の30分前に着いてみると、もう入口の前には十人以上ものお客さんが集まっていた。急遽50枚出ることがアナウンスされた当日券狙いの人たちなのかな。それにしても、開演時刻から逆算すると一時間半も前だよ。熱心なお客さんがたくさんいるんだ。

慣れない手つきでチケットのもぎりをひとしきりお手伝いした後、開演前に「もうお客さんはほとんど入られたから、yasさん中で観てきていいですよ」と言ってくれたので、お言葉に甘えて会場最後列に座らせてもらった。

自分の聴いている音楽のジャンルが偏っているのかもしれないけど、まさかマーク・コズレックよりヴァシュティ・バニヤンの方が日本で、こんなにまで圧倒的に、ファンが多いとは思ってなかった。あのときは最前列から演者までがやけに遠いなという印象だったけど、今回は教会据え付けの椅子では足りずに前後にパイプ椅子を並べてあったのが、全部びっしりと埋まっている。確か300枚ソールドアウトの前売り券に加えて50枚の当日券が出たという話だったから、あれで350人だったのか。前日の東京公演初日も同じ規模でソールドアウトだったから、二日続けて観た人が何人いるのか知らないけど、あの雨の中を、決して便利とはいえない場所にあるこんな会場に駆けつけるファンが東京だけで700人もいるんだね。

定刻の7時を少し回ったところで、ヴァシュティとガレス・ディクソンが並んで現れる。広いステージの真ん中に向い合せるようにぽつんと置いてある二つの椅子に、ヴァシュティが向かって左側、ガレスが右側の位置で座る。二人のちょうど真ん中にセットしてあった暖かい色合いの電球や、真上からのスポットライト、あちこちにちりばめられた小さな豆電球(LEDかな?)など、ライティングのとても素敵なライヴだった。背面の壁の大きな十字架を照らして影を作っていたのも不思議な雰囲気の演出でよかったし。

一曲目は「Here Before」、二曲目は「Just Another Diamond Day」だったと思う。申し訳ないけど、彼女のアルバムをそんなに熱心に聴いてきたわけではないので、その後なんていう曲を何曲演ったかはあまりよく覚えていない。でも、それぞれの曲の演奏を始める前に、たぶん日本人にもわかるようにとてもゆっくりと丁寧に、それらの曲の成り立ちとか作ったときの思い出なんかを説明してくれていたから、ほとんど歌詞はわからなくてもすっと感情移入して聴くことができた。

もう70歳だなんて思えないほど、1970年のアルバムで聴ける声とさほど遜色のない透き通ったヴォーカル。彼女自身はそれほどテクニカルなフレーズを弾いているわけではなさそうだけど、それに絶妙にサポートするガレスの巧妙なギター。この大きな教会の豊かな音響効果もあって、シンプルで親しみやすいのにとてもおごそかな音楽が場を満たしていく。

曲が終わるたびに盛大な拍手。そして、小さな声で「アリガトウ」と、たぶん唯一覚えた日本語でほんとうに嬉しそうにお礼を言うヴァシュティ。隣でにこやかに見守るガレス。ときどきヴァシュティが話しかけて会話になったとき以外は彼はほとんどしゃべることはなかったけど、今回唯一のソロ公演である今日の自分のライヴ会場の場所をヴァシュティに聞かれたときに「世田谷」とちゃんと発音できていたのが印象に残った。

1966年に出したというシングルは、「Train Song」という曲だね。この人がシングルを出していたなんてことも知らなかったけど、本人も「ラジオ局に何枚か配られたけど、ほとんどオンエアされることがなかったので、誰も聴いたことのない曲」なんて自虐的に笑わせてたね。シングル曲といっても別にそんなにキャッチ―な感じというわけでもなく、あくまでもいつもどおりの彼女の優しいメロディの弾き語り曲。

セットリスト的にはこの位置だというのはライヴ後に言われてわかったんだけど、「Train Song」に続いてガレスのソロコーナー。ヴァシュティがガレスのことを紹介し、彼といつどうやって知り合ったかなんて話をしばらくした後、彼女が初めて聴いて気に入ったという「Two Trains」を演奏。ほぼガレスの弾き語りに、ときおりヴァシュティが小さくコーラスを入れていた。

実を言うと僕はどちらかというと今回の来日ではガレスを観るのが目的で、今日のソロ公演もまっ先にチケットを押さえたぐらいだったから、あるとは思っていなかったこの一曲だけのソロコーナーは嬉しいサプライズだった。ニック・ドレイクを例えに出すのはあまりにもベタだとは思いつつも、きっとニックが演奏するのを目の前で見たらこんな感じなんだろうと思わせる、素晴らしいギターと落ち着いた声。

あの満員のお客さんのうち彼のことをちゃんと知っていた人がどれだけいたのかわからないけど、きっとあれを聴いて今日のソロ公演に行ってみようと思った人も多かったんじゃないかな(実際、終演後に物販のところにいたら、ソロ公演を予約したいという人やガレスのソロアルバムをいろいろ質問しながら買っていく人が何人もいた)。

たしか本編ラストは「Heartleap」だったかな。彼女の娘さんが描いたというジャケットの鹿の絵の話から、ずっと頭の中に流れていたというメロディをこの曲に仕立て上げ、鹿の絵のタイトルを少し変えてこの曲につけたというくだりを話してくれた。

丁寧なお辞儀をして出て行った二人を、当然の如く大きなアンコールの拍手が呼び戻す。アンコールはなんて曲だったかな(もしかしたらアンコールが「Heartleap」だった?)。一曲だけ演奏して、また楽屋に戻ったところを、さらに大きな拍手。

「もう演奏できる曲がないから」と、「Just Another Diamond Day」をもう一回演奏して、この日のライヴは終了。二回のアンコールを入れても、一時間ちょっとの短いライヴだった。だけど、実感としてはもう一時間も経ったのかと思えるほど充実したライヴだったと思う。

そこから先があんなに長い夜になるとは。終演後に会場の出口のところでサイン会が行われたんだけど、たぶん350人のお客さんのほとんどがそれに参加したんじゃないかと思えるほどの長蛇の列。たぶん時間制限のためか、写真撮影は禁止という話だったんだけど、それでもヴァシュティはひとりひとりと話しながら丁寧にサインをしているから、長蛇の列が一向に減らない。結局、会場の撤収なんかも少し手伝いながら列のほぼ最後尾で僕もガレスとヴァシュティにサインをもらったのは、終演後のほぼ二時間後だった。ライヴ自体もそうだけど、70歳の彼女によくあれだけのサイン会をこなせる体力と気力と笑顔が残っているもんだ。

そこまでダラダラいたおかげで、ヴァシュティとガレス、それに一緒に来ていたヴァシュティのパートナーのアルと少し話をする機会ももらえた。ガレスに「ライヴで一曲だけ演奏できるとしたら、いつもあの曲(「Two Trains」)なの?」と訊くと、ヴァシュティが「あれは私がすきな曲だから。私が親分だから決めていいの」と冗談をいい、アルが「ヴァシュティのTrain Songに続けての演奏だから、Two Trainsがぴったりだろう」とフォロー。なるほど。

もうあと何時間かで支度して家を出ないと。砧公園の世田谷美術館というライヴ会場としては一風変わった場所で、2時開場というこれまたやけに早い時刻のライヴ。なんでも、美術館が5時に閉まってしまうから、それに十分間に合うような時間設定だとのこと。昨日一曲だけ観られたあのガレスの独特の世界を今日はたっぷり堪能してこよう。ヴァシュティとアルも観に来るって言ってたから、どこかでまた会えるかな。

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