2015年08月23日

Elliott Murphy live in Tokyo

ロックンローラーとして長いキャリアを築いたアーティストが、そのキャリアの途中でぽつりと生ギターの弾き語りライヴアルバムを出すことがある。雑誌なんかで取り上げられるライヴの名盤リストに名を連ねることはないけれど、そういう類の地味なライヴアルバムの中には、僕にとっては珠玉の名作といえるものが少なくない。たとえば、グレアム・パーカーの『Live! Alone In America』。たとえば、ウォーレン・ジヴォンの『Learning To Flinch』。

エリオット・マーフィーの25年ぶりの来日になるという昨日のライヴを観ながら、もしこれが録音されていたら、きっとそれらの名作に匹敵するんだろうな、なんて思っていた。いいライヴだった。

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僕はけっしてこの人の優秀なファンだったわけではない。2年半前に観たスティーヴ・フォーバート同様、それこそ中学の頃から入口は常に開いていたのに、どういうわけかその扉をちゃんとくぐったことはなかった。僕がエリオットのCDやLPを買い始めたのも、サニー・ランドレスやガーランド・ジェフリーズが参加してるからという、極めて副次的な理由が主だった。

それでも、そういうアルバム群を聴いてみれば、いいのはもちろんわかる。もっと聴いてみたくなる。そうしてたまに中古ショップで手頃な値段のアルバムを見かけるたびにぽつぽつと買い足して、何年にもわたって何十年も遅れて少しずつこの人のことを聴くようになっていた矢先に発表されたのが、今回の25年ぶりの来日というわけだ。もちろん、1990年には僕はこの人のライヴに出かけるどころか、アルバムの1枚も持っていなかったから、本当に待ちわびた真のファンの人たちと一緒に感慨にふけるのはおこがましいんだけど。


ライヴ中にエリオットも「この会場の名前はいったいどういう意味だ?」と言っていたぐらい読み方も意味もよくわからないZher The Zooという、代々木駅から至近の便利な会場。こんなところにこんなハコがあったんだね。会場の大きさとしては、数か月前にヒュー・コーンウェルを観た高円寺Highをやや小さ目にした感じかな。立ち見で満員まで押し込めば200人は入るかも、という程度の手頃な規模。

そこに、入場してみたらずらりと椅子が置いてある。ざっと見たところ、50脚ぐらいかな。そうか、残念だけどそんな程度の売れ行きなんだね。もちろん、直近になって花田裕之との共演が発表された今日の新宿公演はもっと大きなキャパでもっと沢山の集客があるんだろうけど。

興行的にはやや残念かもしれないけど、観ているこちらとしては、こんな小さなキャパの会場で、しかも僕は発売とほぼ同時にチケットを入手できて、かなりの良席をゲットできたんだから、もちろん文句なんか言うつもりはまったくない。

こんな小さな会場で、開場から開演まで1時間はさすがに間延びするなぁと思っていたら、最近にしては珍しく開演時刻の19時を過ぎてもなかなか始まらない。結局、19時15分過ぎぐらいだったかな、テイラーのアコギを手にしたエリオットが登場したのは。カフスボタンのついた白いシャツのボタンを胸の下ぐらいまで開き、その上には黒いベスト。黒いズボン。黒い革靴。茶色いパナマ帽の下には水色のバンダナが見え隠れする。もうほとんど白いといっていいぐらいの金色の長髪に、同じく白い不精髭。かなり度の強そうな遠視の眼鏡をかけている。

かなりスローにテンポを落とした「Last Of The Rock Stars」を弾き語り始めた瞬間から、僕の頭には冒頭に書いた感想が浮かんできた。これは、かなりいいライヴになりそうだ。

さっき書いた程度のにわかファンだから、知らない曲もどんどん出てくる。でも、そんなこと全然気にならない。同じようなアーティストのライヴだと、たとえばグレアム・パーカーやジョン・ハイアットのときは、それこそイントロの一音(もしくは、イントロを弾き始める前に弦を爪弾く音)でそれが何の曲だか全部わかってしまって、それはそれで楽しくはあるんだけど、こうして、ほとんど初めて聴く曲でも同じように楽しめてしまうのは、やっぱりアーティストの力量と曲の良さゆえなんだろう。

きっと日本人向けだからなんだろうけど、かなりゆっくり喋ってくれる。これが3回目の来日で、前回は1990年の10月だったこと。そのときは息子さんが生まれた直後で日本にいる間も気が気じゃなかったけど、今や25歳の息子はもう両親がツアーに出ていることで羽を伸ばしているだろうなんて冗談。35枚もアルバムがあるから、今回どんな選曲にしようかかなり迷ったこと。テーブルに置いてあったエヴィアンを指さして、「フランスの水だ」とか言ったり。先日のパイレーツ・カヌーの後だからすごく可笑しいMCとは思えなかったけど(変な免疫ができてしまった)、来てくれたお客さんにゆっくり話しかけよう、楽しませよう、というのがよく伝わってくる。いい人なんだろうなということがよくわかる。

僕でも知っていた「Sonny」とか、「昔からのファンに捧げるよ」と言って始めた「You Never Know What You're In For」とかの曲では特に、間奏のハーモニカがとても沁みた。ギターソロなんて呼べるような間奏はほとんどなかったけど、そのかわりと言ってはなんだが、あのハーモニカソロには、時折本当に涙が出そうになった。日本のトンボ製をずっと使ってるって言ってたね。

10曲ほどもそうやって時折MCを挟みながら続けた後だったろうか、「誰かリクエストはある?」ときた。聴きたかった曲がなくもないけど、にわかファンは黙ってますよ。そうすると、客席のあちこちからパラパラとリクエストの声があがる。びっくりしたような顔をしていたり、手首をぐるんぐるん回して「そいつは難しそうだ」なんて言ってたのを見ると、結構レアな曲だったんだろうね(もちろん、最初のリクエスト曲「Anastasia」は僕でも知ってたけど)。

2つのリクエスト曲を挟み、またセトリ通りの進行に戻って、「And General Robert E. Lee」のときかな、歌ってる途中で咳が止まらなくなってしまったんだけど、演奏は止めずに、「どうして咳が出たかわかってる。ウソをついたからだ。今“2本のギター”って歌ったけど、ここには1つしかない」って冗談を挟み、1本のギターという歌詞に替えて歌いなおした。あのせいでもうライヴ盤になることはないだろうけど(元々そんな予定もなかっただろうけど)、あんなアクシデントまで見せ場に変えてしまうなんて、さすが。

本編ラスト2曲は名盤『Just A Story From America』からの「Rock Ballad」と「Drive All Night」(後者は、さっきリクエストを募ったときに客席から声があがって、「それは後で演るから」と言っていた曲だ。この手の代表曲はあんな中盤でリクエストするもんじゃない。そういえばこないだのジョン・ハイアットのときも中盤で「Have A Little Faith In Me」なんてリクエストしてた客がいたな)。


アンコールでも、出てきた途端にリクエストを募るエリオット。NYの高層アパートに住んでいたときに眼下の街明かりを見ながら書いたという2曲目の「Diamonds By The Yard」を紹介するときに「今回東京の高層ホテルに泊まって、これはDiamonds By The Yard Part 2を書かなければと思ったよ」だって。

2曲のアンコールを終え、「もう全部演ったかな?」と問いかける。「Just A Story From America」演ってないじゃないかとは思ったけど、にわかファンが何か言う前に「Niagara Falls」と後ろの席からリクエストが。「僕より曲を覚えてるね」とエリオット。

案の定、恐る恐る始めたその曲は途中で歌詞がわからなくなり、でもやはり演奏は止めずに、パリに旧友のルー・リードが訪ねてきた時の話を始めた。おお、なんかこういうのもいいねと思っていたら、「じゃあせっかくだからルーの曲を歌おうか」と言って、偶然なのかほとんど同じコード(だったはず)の「Walk On The Wild Side」にメドレーでつなげた。うわ、すごいよこれ。こんな貴重(たぶん)なのが聴けたよ。

歌い終えてギタースタンドにギターを置き、楽屋に歩いていこうとしたときにシールドに足を引っ掛けてしまい、ギターが倒れそうになってしまった。慌ててギターに戻り、上を見て「ルー、見てたのかい?」と言ってからステージを去る。


終わっても、50人ほどの客のほとんどが誰も会場を去らない。もちろんサイン会あるんだろうね。と思っていたらすぐに出てきた。ライヴ本番は出てくるのにあんなに時間かかったのに。そして、ほとんどのお客さんが何枚ものCDやレコードにサインをもらい、一緒に写真を撮ったりしている。僕もせっかくだから、CDは持って行かなかったけど、開演前に買っておいた白いTシャツの背中にサインをもらった。Tシャツのサインって洗濯したらどんどん薄くなっていってしまうから迷ったんだけど。

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終演後は、せっかく代々木まで来たからということで、友達と一緒にひさしぶりのひつじやへ。ほんとにここは安くて旨い。ワインのボトルがどんどん空いてしまうよ。いいライヴといい酒。最高の夜だった。


Setlist 22 August 2015 @ Zher The Zoo
1. Last Of The Rock Stars
2. Benedict's Blues
3. Sweet Honky Tonk
4. Take That Devil Out Of Me
5. Sonny
6. Take Your Love Away
7. You Never Know What You're In For
8. Hangin' Out
9. On Elvis Presley's Birthday
10. Blissed Out In The Land Of Nod
11. Anastasia
12. Deco Dance
13. And General Robert E. Lee
14. Even Steven
15. Rock Ballad
16. Drive All Night

Encore
1. Graveyard Scrapbook
2. Diamonds By The Yard
3. Niagara Falls / Walk On The Wild Side

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終演後に写真を撮らせてもらったセトリ。予定されていたアンコールの3曲は演奏されなかった。
posted by . at 21:01| Comment(2) | TrackBack(0) | コンサート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする