2013年01月06日

一子相伝 - Ethan Johns

If Not Now Then When.jpg
『If Not Now Then When?』

後に自分の人生に関わってくる人と、知らなかったけれど実はずっと昔に出会っていたなんてことがたまにある。話をしていたら、実はその人と僕は幼稚園で同じ組にいたということがわかって、ずいぶん昔の写真アルバムを引っ張り出してきたなんてこともあったなあ。

ジョン・ハイアットの出世作『Bring The Family』に続く1988年の『Slow Turning』が僕の大のお気に入りアルバムだということは、ずっと昔にサニー・ランドレスを特集した記事に書いたことがある。今ではもう何十枚になるのかわからないほどコンスタントにアルバムを出し続けているジョンの全作品の中でも、僕の中ではトップ3に入るほど大好きなアルバム。

そのアルバムのプロデューサーが、有名なグリン・ジョンズだったことは当時から意識していた。まだ僕が洋楽を聴き始めた中学生の頃、カリフォルニアのバンドであるイーグルズの初期のアルバムがからっと陽気なカリフォルニアサウンドでなくどことなくくぐもった音なのは、英国のプロデューサーであるグリン・ジョンズの仕業だということを何かで読んで、それまで何のためにいるのかよくわからなかったプロデューサーという役割を把握し始めたきっかけになった人だから。

でも、サニー・ランドレスや(今思うとグリン・ジョンズ人脈だったんだろう)初期イーグルズのバーニー・レドンなんていう豪華ゲストに混じってクレジットされていたイーサン・ジョンズという名前には、そのときは特に目を留めることはなかったし、ましてやその彼が、同姓のプロデューサーの息子だなんてことは当時は知らなかった。

そのアルバム、そして翌89年の『Stolen Moments』(これもグリン・ジョンズのプロデュース作)でギター、ドラムス、マンドリンなんて多彩な楽器を演奏していたイーサン某のことを僕がはっきり意識するようになったのは、それから17年も経ってからのこと。このブログを始めたばかりの頃に書いた記事で取り上げた、レイ・ラモンターニュの『Till The Sun Turns Black』にプロデューサーとしてのみならず、マルチ・プレイヤーとして主役のレイと共にほとんどの楽器を演奏していたのを知ったときだ。

その記事にも書いてあるけれど、今に至るまで大好きなそのアルバムがあれほどまで素晴らしいものに仕上がったのは、プロデューサーであるイーサン・ジョンズの貢献が相当大きかった。それからだ、僕がよく知らないアルバムを買うときにこのプロデューサーの名前を頼りにし始めたのは。調べてみたら、買った当時は気にしていなかったけど僕の大好きなジェイホークスの『Rainy Day Music』もこの人のプロデュースだったし。

さらに調べてみると、この(僕の中では既に名プロデューサーの地位を得ていた)イーサン・ジョンズが、なとかの名プロデューサー、グリン・ジョンズの息子だということを知ってびっくり。ミュージシャンの子供がミュージシャンになる例は沢山あるけど(そして、ほとんどの二世ミュージシャンは残念ながら彼らの親ほどの才能に恵まれることは稀なんだけど)、親子二代で名音楽プロデューサーだなんて。

そうやってさかのぼって調べていて気づいたのが、冒頭に書いたジョン・ハイアットのアルバムクレジット。そうか、僕はこのお気に入りプロデューサー兼マルチ・プレイヤーと、もう20年以上も前に既に出会っていたんだ。気が合う人と話をしていたら、実は相手が幼稚園の同じ組だったというぐらいの驚きと喜び。


相変わらず前置きが長くなってしまった。今日取り上げるのは、そのイーサン・ジョンズが自分名義で発表した初のアルバム。ずっと裏方・脇役だった彼が意を決して表舞台に立つことを決めたものの、いざ一人でステージに立とうとすると足がすくんでしまう。果たして自分の歌なんて誰が聴いてくれるものか、本当にお客さんは入っているんだろうか、やっぱり止めておこうか、でも、今やらなければ一体いつできるっていうんだ? というタイトルとジャケ。

さっきのレイ・ラモンターニュをはじめ、彼がこれまでプロデュースしてきた数々のアルバム(ライアン・アダムスの『Gold』や『29』、ローラ・マーリンのセカンド以降、キングス・オヴ・レオンの諸作など)を知っている人なら、きっとイーサンのソロアルバムはこんな音になるんだろうな、という予想そのままの音。イーサン自身はアメリカのミネアポリス生まれのようだけど、父親のグリンはれっきとした英国人。なのにこのどっぷりディープ・アメリカンな音。

謙虚なアルバム・タイトルにしては、しっかりしたいいアルバムだと思う。曲もよく書けているし、レイ・ラモンターニュほどではないけれど、渋味のあるいい声だし。今のところ僕の一番のお気に入りは、木枯らしと雷鳴のような効果音がスローな曲調に沁みるA面ラストの「The Turning」かな。

当然のごとく殆どの楽器を自ら演奏しているが、曲によって結構地味に豪華なゲストが。さっき名前を挙げたライアンやローラはもちろん、A4「Red Rooster Blue」ではベースをビル・ワイマン、キーボードをイアン・マクラガンが担当していたりする(曲の最後で大笑いしているのは誰だろう)。B1「Rally」でベースをダニー・トンプソン、フィドルをデイヴ・スワーブリックが弾いていたりするのは、きっとお父さん人脈なのかも。1曲でクリス・ホランドがオルガンを弾いてるけど、どういうつながりなんだろうか。

あれ?と思ったのは、当然自分のアルバムは自分でプロデュースしているものと思いきや、曲によって5人のプロデューサーが別々に担当している(そのうち2人はライアンとローラ)。ライアンのトラック「Don't Reach Too Far」は彼がベースとドラムスを演奏していて、いかにも彼らしいロックンロールなんだけど、それでもアルバムを通してとっちらかった印象がないのは、イーサン・ジョンズ印のミックスのお陰か。

去年の11月にひっそりと発売されたこのアルバム、今のところLPでしか出ていないようだ(上にリンクを張ったアマゾンだと結構値段が張るけど、イーサンのサイトではもう売り切れになってるから、LPが欲しい人は金に糸目をつけてる場合じゃないかも)。来月CD版が出るようなので、一般的に話題になるのはそれからかな。ちなみにLPは(多分)180グラムの重量盤、ゲイトフォールドのジャケットに、曲毎に歌詞とイラストのついた22ページのブックレット付き。

このアルバム、かなり気に入って聴いているんだけど、残念ながらLP版にはMP3のダウンロードコードはついていないから、日常的にMP3プレイヤーとかで繰り返し聴くにはやっぱり来月出るCDも買うしかないのかな。アマゾンだとCDも結構な値段がついてるね。なんとかならないものか。
posted by . at 22:43| Comment(0) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする