2012年12月23日

序幕 - The Milk Carton Kids

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The Milk Carton Kids 『Prologue』

普段からバンドキャンプとかで未知のアーティストをこまめにチェックしている人たちにとっては言わずもがなだろうけど、もう昔みたいに旺盛な好奇心を持って新しいバンドやミュージシャンを探すようなこともあまりなくなってしまった僕みたいな人間にとっても、何かの拍子に誰かに教えてもらったアルバムに心をわしづかみにされてしまうような瞬間はそれでも年に何度かという頻度で訪れる。

11月にマット・ジ・エレクトリシャンのライヴで鎌倉のカフェ・ゴーティを訪れた際に、それより少し前にゴーティの松本さんがつぶやいておられたアルバムを2枚、ほとんど音も聴かずに購入した。もう最近では松本さんがどういう紹介をしたらどういう音なのかまで大体わかるようになってきた気がするからね(笑)

LA在住のケネス・パッテンゲール(Kenneth Pattengale)とジョーイ・ライアン(Joey Ryan)という二人のSSWが組んだユニットがこのミルク・カートン・キッズ。2011年1月にカリフォルニア、ヴェンチュラのゾーイーズ・カフェ(Zoey's Cafe)で録音されたライヴアルバム『Retrospect』を二人の連名で出し、同じ年にこのミルク・カートン・キッズ名義のファースト・アルバムをリリース。さっき書いたもう1枚のアルバムというのはもちろんこのライヴアルバムのこと。

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二本のアクースティック・ギターに二人のハーモニーという、まあありふれたと言えばもうこの上なくありふれたスタイルの音楽なんだけど、とにかく曲のクオリティが高い。アルバムを聴いていると、あれ?これサイモン&ガーファンクルだっけ?とか、CS&Nにこういう曲があった気がするとか、なんとなくランバート&ナティカムみたいだなあとか、そんな風に感じる瞬間が次々に現れる。もちろん、決してそれらのアーティストのマネだと言ってるわけじゃないよ。

どちらのアルバムにも「ケネスは1954年製マーティン0-15、ジョーイは1951年製ギブソンJ45を使用。どちらのギターもノリック・レンソンによって丁寧にケアされている」とわざわざクレジットされているように、ギターの音には細心の注意(と愛情)が注がれている。以前、ギター収集を趣味にしている会社の先輩がギブソンとマーティンのアコギの違いを語ってくれていたんだけど、こういうアルバムを聴くとそれがよくわかる。

「Michgan」とか「New York」とか(ライヴ盤収録の)「California」とか、やたら地名のついた曲が多い。歌詞は一通りざっと読んだけど、それほど凝ったことを歌っているわけじゃないね。ユニット名から冠詞を外して単数形にした「Milk Carton Kid」という曲があるから、何のことだろうと思って調べてみたら、昔のアメリカでは行方不明になった子供の写真を牛乳箱に印刷したりしていたんだね。ネットで調べていて、最初のミルク・カートン・キッドは30年経っても未だ消息不明とか書いてあるのを読むと、胸が痛くなる。

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でもその曲は特に行方不明の子供のことを歌っているというわけじゃなく、自分の心の痛みがミルク・カートン・キッドのようにある日突然消えてしまったというような比喩に使っているだけ。うーん、アメリカ人にとってのこの単語がどれぐらいの意味合いを持つのかよくわからないけど、なんかこんな重い言葉をそんな風に使うのかと、ちょっとそこだけは違和感を持ってしまった。

『Prologue』の作曲クレジットはすべてユニット名義になっているけど、そちらとは1曲もかぶっていない『Retrospect』の方は、結構長いキャリアを持つ二人がそれぞれの持ち歌を持ち寄った内容のようで、ほぼ交互にケネスとジョーイの曲が並んでいる。それを聴くと大体どっちがどういう感じの曲を書くのかがわかる。

相方の曲のときにはもう一人がコーラスをかぶせるんだけど、二人とも結構似た声質だからなかなか判別しづらい。と思っていたら、NPRのタイニー・デスク・コンサートで二人が演奏しているのを発見。



『Retrospect』のジャケは二人とも顔が半分で切れているし、名前が書いてある箇所と本人の写真が逆になっているから、声どころか見た目もどっちがどっちだかわからなかったんだけど、このビデオでよくわかった。背が高いのがジョーイで、ちっこくてヘラヘラしてるのがケネスと。二人とも(特にジョーイ)、真面目な顔してぼそっと可笑しいことを言うところがなんだか親近感を持てるよ。それにしても、CDを聴いてても思ったけど、「I Still Want A Little More」でのケネスのギターの凄いこと。映像で観られてよかった。

一番上にリンクしたアマゾンでは在庫切れになってるね。米アマゾンにはまだあるみたいだけど、この手のCDが何度もプレスされるとは思わないから、気になったら見かけたときに入手しておいた方が得策。カフェ・ゴーティにはまだ在庫残ってるかな? 実はこの2枚のアルバム、ミルク・カートン・キッズのオフィシャルサイトでフリーダウンロードができるようになってるんだけど、ちょっと聴いてみて気に入った人は、ぜひこの味のあるジャケを手に取ってみてほしい。ゴーティさんの売り上げに貢献して、彼らを日本に呼んでもらうというというのもありだと思うし。

そうは言っても普通の人はダウンロードで済ませてしまうのかな。でも僕はこういうことに関してはあまり普通の人ではないから、LPまで取り寄せてしまった。一番上に載せたCDのジャケとは微妙にトリミングが違うのがわかるだろうか(わかったからといってそれに感心する人は皆無だと思うが)。

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何グラムだかわからないけど手に持ったときにちょっとずっしりくる重量盤。レコードが入っているインナースリーヴに、CD内ジャケ左側の写真(ビルの高層部)が印刷されていて、その上に歌詞が載っている。スリーヴを裏返すと、反対側の写真の下側の写真になっていて、この写真だけはCD版にはない。

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この部分を見ると、アルバムクレジットにある「NY42番街グランドセントラルステーション入口」という写真の意味がわかる。まだ路面電車や馬車が走っていた20世紀初頭のNYだ。ちなみに、CDだとブックレットに歌詞と一緒に載っているジョー・ヘンリーによるライナーは、LPの裏ジャケに載っている。

このブログの偏屈なルールのせいで2011年発表のこのアルバムは来年初頭の僕のベストアルバム記事に載ることはないけれど、そんな縛りさえなければ間違いなく今年初めて聴いたアルバムの中ではトップクラス。序章・序幕という意味合いのこのアルバム、まだ若い(であろう)この二人がこれからどんどん作り出す傑作の序幕役であってほしい。と思っていたら、さっき見た米アマゾンで、1月8日にニューシングル「Snake Eyes」が、しかもメジャー系のアンタイ/エピック配給で出るということを知った(MP3だけみたいなのが残念だけど)。これはいよいよこの人たちこれから注目されるのかもね。祈来日。


<12月24日追記>

ひとつ肝心なことを書き忘れてた。アナログ盤はB面ラストに「Des Moins, IA」というボーナストラックが入った全10曲入り(また地名タイトル)。「I Still Want A Little More」での見事なエンディングの後にはちょっと蛇足と思えなくもないが、まあそれでも未発表曲が一曲でも聴けるのは嬉しいこと。
posted by . at 17:06| Comment(0) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする