2012年04月22日

Morrissey live in Kawasaki

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正確な日付は記録を見ないと思い出せなかったけど、入ったばかりの大学のキャンパスの桜並木を、中にあの美しいジャケットが入ったビニール袋を誇らしげに抱えて歩いていた情景は、今でもありありと思い出せる。僕が最初にスミスのレコードを買ったのは、1984年の4月28日。「This Charming Man」の12インチシングルだった。

大学の卒業旅行を英国縦断一人旅に決めた理由の一つは、マンチェスターの街を訪れて、数か月前に買ったばかりのスミスの最終アルバムの裏ジャケに写った場所で写真を撮ってみたいと思ったことだった(ネットなんてもちろんなかったからろくに情報も収集できず、結局たどり着くことができなかったストレンジウェイズが刑務所だったなんてのは後になってから知ったこと)。

さわやかにサークル活動なんかを楽しむわけでもない、周りの誰とも趣味も考え方も合わないひねくれた大学生にとっては、スミスは特別なバンドだった。それだけに、スミス解散後のモリッシーは、僕にとっては常に何かが違うと思わされる存在だった。ジョニー・マーではない誰か別の人が書いたスミス風の曲。スミス時代にあれだけこだわっていたレトロな風合いのポートレートとは全く別物の、モリ顔オンパレードのジャケット。等々。

スミスの影を追い求めて、88〜89年当時に出たCDは、シングル盤も含めてことごとく揃えていたが、91年の「Sing Your Life」を最後に熱心に彼のことを追いかけるのを止めてしまい、その次に彼のCDを買ったのは95年の『Southpaw Grammar』、さらにその次は04年の『You Are The Quarry』と、もはやとてもファンとは呼べないような手の抜き様。

そんな程度だから、10年振りの来日が発表されてすぐにチケットは入手したものの、「ついにあのモリッシーをこの目で見られる!」というような昂揚感もそれほどなく、淡々と東海道線に揺られて川崎へ。

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前回クラブチッタに行ったのは、僕の記憶に間違いなければ、92年の4月にファイヴ・サーティーの最初で最後の来日公演を観たときだったはず。確か、海外出張から戻ってきて、成田から川崎に直行したんだった。建物の外観は覚えていなかったけど、中に入るとあのときのことを思い出せる。あのときは開演直前ぐらいに到着したから、入口近く、左後方から観てたんだった。今回はそれとは逆方向の、右側の壁にもたれて観ることにした。

土曜日とはいえ、5時開場、6時開演というやたら早いライヴ。例によって大きな整理番号の僕が入場できたのはほとんど5時半近く。大きな会場のわりにはあまり並ばずにもらえたジントニックを片手に壁にもたれていたら、5時半過ぎにもう暗転。なんだろうと思っていたら、ステージを覆っていた白い緞帳に映像が映し出された。ブリジット・バルドーとかの60年代ポップスのモノクロ映像がずっと流れていて、こういうレトロな演出はさすがモリッシーと思っていたら、画像がカラーになってスパークス、続いてニューヨーク・ドールズと、あ、これってモリッシーが好きな音楽を年代順に並べて見せてるのかな、と。そしたらドールズの次にまた古い白黒映画の映像に変わり、女優がカーテンを掴んで何か叫ぶ画面に。

叫ぶ女優の画像と共に緞帳が切って落とされ、予定時刻の6時ちょうどにメンバーがステージに現れる。いい演出。がっしりした体格のモリッシーは茶色っぽい、胸のはだけたシャツ。それ以外の5人のメンバーはお揃いのTシャツ。赤字に黄色のMのマークが書いてあって、マクドナルドを揶揄したジョークなんだろうとは思うけど、僕の位置からは何て書いてあるのか読めず。ステージの背景には、スミス時代のジャケ画を彷彿とさせるレトロなモノクロ写真。

スミスは来日しなかったから、これまで僕はデレク・ジャーマンの撮ったビデオとかでしか動くモリッシーを観たことがなかった。だから、モリッシーというのはくねくねと踊るひょろっとしたお兄ちゃんだという気がずっとしていた。僕が興味を失ってからどんどん太っていった割れアゴのおじさんは、無意識のうちに僕の知っているモリッシーとは別の人だと思っていた(思おうとしていた)気がする。

でも、今僕の目の前で「You Have Killed Me」を歌いながら最前列のお客さんの手を触ってあげているのは、まぎれもなくモリッシーなんだろう。演歌歌手さながらのそういう仕草を見てまたちょっと醒めてしまう僕。

「カワサキ!カブキ!」と、なんだかよくわからないことを叫ぶモリッシー。この後も、各曲の前に曲名でもなく歌詞でもない(クサい)台詞をひとこと言ってから歌い始めるのは、最近のライヴ盤でもお馴染みのスタイル。「明日、結婚しよう」とか、「愛以外に僕は君に何もあげられない」とか。

そう、こういうことを言いだして(歌いだして)からのモリッシーが、僕にはうんと遠い存在に感じられるようになったんだった。曲調よりもモリ顔ジャケよりもなにより、「君が微笑むのを見たことはあったけど、笑い声を聞いたことなんてなかったね」なんていう、他人とのほんの微妙な距離を測れないでいる気持ちを歌ってくれていたかつてのあの人は何処に行ってしまったんだろうって感じ。

まあ、疎外感を歌にしていたら思いがけずそれに共感してくれるファンが世界中に何万人と現れたことに気づいてしまった人が、それまでと同じように疎外感について歌い続けるというのは欺瞞というものなんだろうけど。自分の貧しい生い立ち、ハングリーさを売りにしていたアーティストが成功して大金を手にした後はどう振る舞えばいいのかというのと同じ問題。難しいよね。

2曲目は知らない曲だった。僕が勝手に作った空白期間中に出た曲だろう(後でセットリストを調べてみたら、97年の『Maladjusted』収録「Alma Matters」とのこと。あの、一連のモリ顔ジャケの中でも一番適当な造りで全く買う気の起こらなかったアルバムか。まあそのうち安く見つけたら買ってみよう)。

「You're The One For Me, Fatty」に続いて、ものすごく聴き覚えのあるギジギジギジギジいうギターのリフレイン。「How Soon Is Now?」だ! スミス・ナンバーの中ではそれほど好みではない部類に入る曲だけど、それでも内心盛り上がる。後半、ドラマーが立ち上がって、横に置いてあったものすごく大きな、リムのところが光ってる大太鼓や、後ろに置いてあった銅鑼を叩いてエンディング。

日本公演初日の仙台ではきっと満開の桜を見たんだろうね。しきりに「チェリーブラッサム」を連発していた。メンバー紹介のときも、左端のギタリストのことを「うちのバンドのチェリーブラッサム」なんて言ってたね(メンバー名さっぱり覚えてないので悪しからず)。何かの曲を歌う前に、「桜と雪の詩を書いたのは誰?」なんて観客にわざわざマイクを渡して質問するものの、誰も答えられず。モリッシーも困ったもんだみたいな顔して「君たちは罰せられるべきだ、この曲でね」なんてまた気障な台詞を言ってから次の曲へ。僕もわからなかったんだけど、桜と雪の詩を書いたのが誰なのか、誰か知ってる?

「アリガトウ」とか「ドウモ」とか、結構日本語での挨拶を交えるモリッシー。「六本木にはいい家があるし、渋谷にはいいアパートがあるよね。NO?どうして?」みたいなことも言ってたね。外国人客も結構多かったからそれなりに会話は成立していたけど、あれこれと客席に問いかけても咄嗟に答えが返ってこないもどかしさみたいなのをちょっと感じてたみたい。

スミス・ナンバー2曲目は「Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me」。うーん、決して嫌いじゃないんだけど、どうもこの手ののったりした曲はそれほど嬉しくはないんだよな。どうせスミスの曲なんて何曲かしか演らないんだろうから、ちょっと大事に取っておいてほしい。定番の「There Is A Light That Never Goes Out」はともかく、あと何曲演るんだろう。

と思っていたら、数曲後で、ギターがこれも聞き覚え満タンの動物の声みたいな音を奏で始めた。うわ、これ演るの?と多大な好感を持って観ていたら、さっきまでのレトロなモノクロ写真に替わって、動物の屠殺場の画像が次々と。ゆったりとした三拍子に乗って歌われる「Meat Is Murder」は僕が聴いてみたかった曲の一つではあったんだけど、あの長尺曲に合わせて延々と上映されるビデオ(各チャプターにわざわざタイトルがついていて、「ニワトリと七面鳥」パートとか「肉牛」パートとか)は、ちょっと直視しているのが辛くなる内容だった。

どよーんとした気持ちでその曲を終え、次の「Everyday Is Like Sunday」のイントロが聞こえてきたときにどれだけ救われた気持ちになったことか(笑)。そして、その曲に続いたのが、イントロのギターのカッティングからアルペジオに移るパートを聴いた瞬間に飛び上がりたくなった「Still Ill」!! ああ、まさかこれを演ってくれるとは。もうてっきりモリッシーはスミス初期の曲なんて演らないんだと勝手に思っていた。僕の本日のハイライト。ここまであれこれネガティブなこと書いてきたのは全部撤回(笑)。もうこれさえ聴ければ、この後どれだけモリッシーが演歌歌手みたいな振る舞いをしようが僕は気にしないよ。

終盤、もわーんとしたキーボードの音に乗せてモリッシーが静かに歌いだした歌詞を聞いてはっとする。「Good times for a change…」。うわぁ、「Please, Please, Please Let Me Get What I Want」だ。ちょっと泣きそうになる。

立て続けに、「First Of The Gang To Die」。このへんはわかるよ、僕がモリッシー聴くのを再開してからの曲だからね。うん、確かにこういう曲は理屈抜きでかっこいいよ。スミス云々とは全然別次元でね。

と思っていたら、それで本編終了。書き忘れてたけど、どの曲のときだったか、モリッシーが汗だくになったシャツを脱ぎ、それで顔とか胸の汗をたっぷり拭いてから客席に投げ入れる。僕の位置からはよく見えなかったけど、さぞかし壮大な争奪戦になっていたことだろう。思いのほか筋肉質なモリッシー。一旦袖に引っ込んで、次に着てきた青いシャツは最新作『Years Of Refusal』のジャケで着ているのとよく似た色(でも長袖だったので違うシャツ)。それは本編終了で脱がなかったのできっと高かったのかな。

アンコールに応えて再登場。また違うシャツだ。また全員で肩を組んで挨拶してから、「毎晩僕は恋人に“サヨナラ”って言うんだ」とかまたクサいことを言って「One Day Goodbye Will Be Farewell」を。またすぐにシャツを脱いで客席に投げ入れたと思ったら、それでステージを降りてしまった。即座にBGMが鳴りだす。ええ?もう終わりなの?「There Is A Light」は??

なんと、7時半前に終わってしまった。どんな健全な時間だ。さてどうしようかとロビーに出てみたら、Tシャツだのポスター(最近出たベスト盤のジャケと同じ、モリさん入浴中のシーン)だの、物販大繁盛。開演直後ぐらいまではあんなにヘソ曲げてた僕が、列に並んだりやっぱりやめようと思ったりを何度か繰り返した挙句に買ったシャツ。3500円也。しかしこんなのいつ着るんだ?(笑)

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20年振りの川崎、せっかく早く終わったんだからと、友達と合流して飲みに行くことに。適当な居酒屋に入ったんだけど、どうも皆の注文するものが野菜系ばかり(笑)。そりゃあのビデオ観せられた後じゃね。久しぶりに会った友達とその友達、ずいぶん長い間楽しく話してワインボトルを2本空け、帰路についたのがまだ10時台。いいね、6時に始まるライヴって。なんかものすごく充実した一日だった。

後日談。というか翌日。せっかくのレコード・ストア・デイだからと日曜の新宿に繰り出してみたら、ちょうどユニオン本館で100円CDセール中。自分を戒めながら千円札1枚で買える範疇で選んでいたら、ちょうど前述の『Maladjusted』が。ついてるね。適当な造りのジャケでも100円ならOK(ごめんモリッシー)。


Setlist 21 April 2012 @ Club Citta Kawasaki

1. You Have Killed Me
2. Alma Matters
3. You're The One For Me, Fatty
4. How Soon Is Now?
5. Ouija Board, Ouija Board
6. I Will See You In Far-Off Places
7. Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me
8. I'm Throwing My Arms Around Paris
9. Action Is My Middle Name
10. Speedway
11. Meat Is Murder
12. Everyday Is Like Sunday
13. Still Ill
14. People Are The Same Everywhere
15. Let Me Kiss You
16. To Give
17. Please, Please, Please Let Me Get What I Want
18. First Of The Gang To Die

Encore
1. One Day Goodbye Will Be Farewell
posted by . at 23:59| Comment(6) | TrackBack(0) | コンサート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする