第一章 2006年3月7日(火) 雨 オークランド Studio
たしかあの日も小雨がぱらついていた。オークランド市内南側、当時僕が週末毎に足繁く通っていたリアル・グル―ヴィーからほど近い、オークランドでは有名な歓楽街であるカランガペ・ロード、通称Kロードの中ほどにあるパブ、ステューディオ。平日の夜ならどこにでも駐車できたけれど、さすがにKロードに路駐というのは難しいので、少し離れたマイヤーズ・パークあたりに車を置き、オークランドでは傘をさすほどではない霧雨の中を、僕は初めて訪れるそのパブ兼ライヴハウスに歩いて行った。
僕がこのブログを始める4か月前のことだ。ライヴでのセットリストをできるだけ記憶してメモに取っておくことは、それこそ中学生の頃に生まれて初めて行ったクラッシュの来日公演からずっと続けていたけど、単に記録としてセットリストを残しておくだけじゃなく、どんなライヴだったかも書き残しておければいいなと思い始めたのは、もしかしたらこのときが最初だったかもしれない。折りしも、あちこちのブログでネット上の友達と交流を始め、自分が書いた文章やコメントに他人から反応が起こることの楽しさみたいなものに気付き始めた頃。
今回、日本に来るのも(そのときと同じEvery Kind Of Lightツアーの一環だから)5年振りとなる東京公演について書くにあたり、ふとそのときのことを思い出し、ちょうどいい機会だから一緒に書いてしまおうと思った。ちょっと長くなってしまうかもしれないけど、ジミオン前史のお蔵出し。5年も前のことで、もう記憶も霞んでいるから、あまり大したことは書けないと思うけどね。
場所はすぐにわかった。今までその場所にそんな会場があるなんて知らなかったけれど、特に新しいというわけでもなさそうだ。7時開場・8時開演(確か前座が何組かいたはず)のところを7時ちょっと前に着いたはずなのに、ドアも開いてなければ一人の客もいない。間違えたのか?と思ったけれど、ドアのところには確かに今晩ポウジーズのライヴがあると書いてある。7時になっても開かないので、近くのヴェトナム料理店で腹ごしらえをすませ、半時間ほど時間を潰してからようやく入場した。
今ならきっとツィッターで「まだはじまらない」とか「退屈なう」とかつぶやいていることだろう。覚えているのは、ほとんど誰もいないガラガラの会場で、予定開演時間の8時を大きく遅れて始まった(NZのライヴはそんなのばっかりだった)前座のバンドを観たりしながら、その日誘ったのに来られなかった友達(2メートル君がこのブログに登場するのも久しぶり)にSMSを送ったりしていたこと。
多分本来の終了予定時刻ぐらいになってようやく登場したポウジーズ。その頃には観客席(立ち見だけど)もほぼ満員。最前列右手で観ていた僕の正面にはジョン・アウア(Jon Auer)、左側に長身のケン・ストリングフェロウ(Ken Stringfellow)、彼らの後ろにベースのマット・ハリス(Matt Harris)とドラムスのダリウス・ミンワラ(Darius Minwalla)。マットとダリウスは05年の再結成アルバム『Every Kind Of Light』から参加したメンバーだったけど、まあ僕にとってはケンとジョンが観られれば後は誰でもよかったというのが正直なところ。
それにしても、初めて観るジョン、とんでもないデブだなと思った印象が強く残っている。『School Of Rock』のジャック・ブラックとイメージが重なる。このバンド、二人とも結構声質が似ているから、どの曲を誰が歌っているのかあまりよくわからなかったんだけど、主にリードヴォーカルを取り、全てのギターソロを弾いていたのがまさかこっちのデブだったなんて。ポウジーズのグレン・ティルブルックは彼だったのか。人は見かけで判断してはいけないね。
一方のケン、要所要所で素晴らしいコーラスを入れる以外は、もう跳ねる跳ねる。あの痩身でジャンプしまくり、キレたようにヘッドバンギングをしながら唾を吐くのを観て、それまで彼に対して抱いていたイメージが一転した。アブない、でも超かっこいい。こんなにステージ上でサマになる人、そういないよ。
後述するセットリストのとおり、当時の新作『Every Kind Of Light』からの曲を中心に、本編最後は名盤『Frosting On The Beater』からの必殺4連発。この流れが最高だった。そして、アンコール最後の「Flood Of Sunshine」。CDでも8分以上あるこの曲、永遠に続くかと思われるジョンの流麗なギターソロと、1本しか持ってきていなかったギターの弦をブチブチ切りながらカッティングを続けるケンの姿が、今でもくっきりと頭に残っている。
Setlist 3 Mar 2006 @ Studio, Auckland
1. It's Great To Be Here Again!
2. Please Return It
3. Throwaway
4. I Guess You're Right
5. Could He Treat You Better?
6. Conversations
7. Precious Moments
8. I Am The Cosmos
9. Ontario
10. Dream All Day
11. Definite Door
12. Flavor Of The Month
13. Solar Sister
<Encore>
1. Coming Right Along
2. Terrorized
3. Flood Of Sunshine
第二章 2011年6月1日(水) 曇 東京 渋谷Club Quattro
時計の針を5年と3カ月ほどぐるんと進めて、場所は変わって東京。夕方には雨になると言われていたけど、僕が渋谷ブックオフの裏口から建物に入り、エスカレーターでクアトロに上がっていったときにはまだ降ってはいなかった。一階の入り口のところには、“ポウジーズのチケットあります。整理番号一桁台”と書いた紙を持った人がいたね。ちぇ、いいな、僕の整理番号はまた三ケタ台だよ。
途中の階で友達と出くわし、一緒に受付階まで上がるも、まだほとんど誰もいない。もう開場15分前なのに。開場時間になってもまだ人はまばらで、三ケタ台の整理番号の僕も予想外に早く入場することができた。500円のドリンクチケットで交換できた唯一のアルコール飲料だった淡麗を手に、クアトロ名物の柱の前、ステージを一番左から観ることになる場所へ。淡麗は15秒ほどで飲み干し、後はバラバラと集まってくる友達としゃべりながら時間つぶし。
前座のオーシャンレーン(Oceanlane。僕はてっきりエコー&ザ・バニーメンのアルバムタイトルから取ったOcean Rainだと思ってた)が開演時間を少し回った頃に登場。僕は初めて観る人達だったけど、友達によると結構長いキャリアの本来は4人組で、今日はフロントの二人だけがアクースティック・セットで出ているとのこと。全て英語詞で、なかなかいい曲を書くね。二人とも声もいいし。CDを買うほどではないけど、こうして前座で観る分には「退屈なう」とかツィッターしなくても済みそうな感じ。途中でちょっとメロディーをアレンジして歌ったオエイシスの「Wonderwall」もよかった。
オーシャンレーンが30分ほどで退場し、楽器とアンプの配置換え。ギターやキーボードをセットしに出てきたのは、あれれ、ジョンとケン本人達だ。オーシャンレーンの時でさえローディーの人達がセットしてたのに。きっとそういうことは自分たちでやりたいのかな。けど、客席からは誰も反応なし。まあ、グレーのフーディーを着たジョンは、知らない人にはローディーにしか見えなかっただろうけどね。ケンはえらく髪を短く切ったね。なんだか七三分けみたい。
さあ本番。8時ちょうどにバラバラとステージに出てきた4人。5年前のオークランドとは逆に、今回はステージ前方左側にジョン(また目の前だ)、向こう側にケン。ケンの後ろにマット、中央後方にダリウスのドラムキット。ケンの前にはキーボードも置いてある。1曲目は、新作『Blood/Candy』のオープニングでもある「Plastic Paperbacks」。メインヴォーカルはケンで、CDでは元ストラングラーズのヒュー・コーンウェルが歌っているパートをジョンが歌う。
ケンのギターは黒いグレッチ。ジョンはイエローサンバーストのエピフォンのセミアコ。確か前からずっとそうだよね。マットのベースも形こそプレジションだけどフェンダーロゴじゃないし、ダリウスのヤマハのドラムは明らかにレンタルだし、なんかこう、お高い楽器じゃないところがいいよね。
短い挨拶の後に弾きだしたイントロは「Flavor Of The Month」。ええ、もう演るの?って感じだけど、これで盛り上がらない訳がない。「Please Return It」に続いて「この曲を日本で演奏するのは初めて」とジョンが前置きして「Sad To Be Aware」。
5年前はケンばかりが飛び跳ねていたように記憶していたけど、意外にジョンもジャンプする。ときには大股で、ときには膝が胸につくほど曲げて大きな格好いいジャンプをするケンと違って、若干体重に不自由があると思われるジョンのジャンプは、その場でぴょん、という感じで。たまに右足を前に、左足を後ろに伸ばしてぴょん。高さも数センチほど。何かに似ていると思ったら、あれだね、ネズミを見たときのドラえもん。でも、いろんな曲のキメのところで二人同時にジャンプするのが最高だったね。僕は主にケンの方を観ていたけど(笑)
七三分けだと思っていたケンの髪型、顎ぐらいまでの長さの前髪を右耳のところにひっかけていたんだね。ジャンプしたりヘッドバンギングしたりするたびに前髪が乱れる。後ろより前の方が長い不思議な髪型なのに、この人がすると妙にかっこいいね。かっこいい人は何やっても似合う、と。一方のジョンはセンター分けのウェイヴィーな髪型。生え際が白くなっていたのは見なかったことにしよう。
「(CDではブロークン・ソーシャル・シーンのリサ・ロブシンガーとデュエットしている)この曲をライヴで演奏するときは、いつも地元のシンガーに協力してもらっているんだ」と始めるケン。そういえば、ライヴ告知にマイス・パレードのヴォーカルが参加するということが書いてあったっけ。「じゃあステージに出てきてもらおう。キャロライン!」と呼びだす。僕はマイス・パレードって名前だけしか知らなかったから、出てきた小柄な女性を見てびっくりした。日本人じゃないか。調べてみたら、キャロライン・ラフキン(Caroline Lufkin)という沖縄出身の人らしいね。
CDに比べるとちょっと声量足りなかったかな、という感じだったけど、いい雰囲気で「Licenses To Hide」をケンとデュエット。キャロラインがケンの立っていた位置でマイクの高さを半分ぐらいに調整している間、ケンはキーボードへ。首に青筋立てて口を大きく開けて絶唱するケン。相変わらず熱いね。
キャロラインを送り出し、ケンがマイクの高さを倍ぐらいに伸ばしながら、ケンとジョンの二人がほぼ同時に「キャロラインと言えば」と口ぐちに言ったのが面白かった。次の曲も新作からの「So Caroline」。「この曲を彼女に」と歌い始めたけど、そういえばアルバムでもこの2曲は並んでるんだったね。なんか不思議な感じ。
曲の途中や曲が終わった後に自分のピックを観客席に投げるジョン。一度、僕は気付かなかったんだけど、こちらの方に飛んできたのを僕のすぐ横で観ていたN君がゲットしてた。小さめの白いティアドロップ型だったと思う。いいな。
ケンのキーボードの横に貼ってあったセットリストが、僕の位置からだと目を凝らすと読めてしまうんだけど、先に曲順を知ってしまうと面白くないから敢えてそっちは見ないようにしていた。後でネットに上がったそのセットリストには載っていなかった曲が次の「Everybody Is A Fucking Liar」。続いて、ダリウスだけが退場し、ドラムレスで「Throwaway」。
この日唯一のスローな「Throwaway」を終えてダリウスが戻ってきて、いきなり始まったイントロが「Solar Sister」。ええっ、もう演るの!? もしかしてもう終わり?と思わずケンのセットリストの方を見てしまった。よかった、まだ何曲も残ってるよ。ジョンのギターソロは相変わらずぶっ飛ぶほどかっこよかった。CDとはちょっとソロ部分の構成を変えて、ソロの入りの部分のフレーズを後半もう一回弾いてたね。
ここから『Blood/Candy』コーナー。僕が勝手に唱えている“アルバム2曲目の法則”を裏切らない佳曲「The Glitter Prize」に続き、日本盤を出してくれたThistimeレーベルのフジさんを始め、通訳のショウコさんや招聘元のスマッシュなど沢山の人達にお礼を言って、「次の曲は彼らに捧げます」と言って始めたのは、『Blood/Candy』の日本盤ライナーでジョンが新作で一番好きな曲として挙げていた「For The Ashes」。
すぐさま次の曲のイントロを弾き始めようとしたジョンを制してケンが曲の説明を始める。全部は聞きとれなかったけど、「この曲は、南太平洋の美しい環礁が何度も何度も水爆実験の対象にされてしまったことを歌っているんだ。狂気の沙汰だよ、単にそうしたら何が起こるかを見るためだけにそんなことをするなんて」というようなことを言っていたと思う。僕はこの曲のタイトルの意味がわからなかったんだけど、その話を聞いてから帰って調べてみたら、日本では有名なビキニ島と同じマーシャル環礁にある島で、ビキニ島よりも早くアメリカによる水爆実験が行われた場所が、エニウィータク島なんだって。美しい砂浜の写真も見たけど、あんなところで54回も核実験が行われたなんて。
もともと『Blood/Candy』内でも一二を争うほど好きなクローザーだったこの曲、そんなケンの話を聞いて一層好きになったよ。そう考えると、この曲のエンディング、一旦曲が終わった後に出てくるビーチ・ボーイズ風のコーラスが凄く意味深に思えてくる。「エニウィータクではもうサーフィンはできないんだよ」って。
「Conversations」、「She's Coming Down Again!」と続いて、本編ラストの「Dream All Day」へ。うーん、やっぱり本編ラストへの流れは5年前のセットがよかったなあ。まあいいや、それにしても今回認識を新たにしたのは、ケンがやたらとよく喋ること。もちろん、前回同様、大股開いてジャンプし続けるし、これでもかとばかりに周囲に唾を吐き散らしていたけど、一旦MCを任されると(「Sad To Be Aware」の紹介以外のMCは全てケン)、あの大きな目をキラキラさせて、本当に誠実に話していた。前回僕が持った“今にもキレそうな危なっかしいロックンローラー”という印象とは180度変わってしまったよ。そして、ケンが何度か言っていた「ありがとうございました」という流暢な日本語がとても印象に残っている。
アンコールで再登場し、Thistimeの震災救済コンピレーションアルバム『Together We Are Not Alone』(このタイトルもジョンの案だそうだ)に収録された「Tomorrow We Are Not Alone」を紹介するときもそう。「僕たちの来日は3月の震災よりも前には決まっていたんだけど、あれが起こったときに一体どうしようかと思ってしまったのは事実だ。沢山のアーティストが来日を取りやめたのは知っている。日本に来るのが怖くなってしまった人達もいただろうし、こんなときに音楽を演奏しに来るのがふさわしくないと思って取りやめた人達もいただろう。だけど、もし誰よりも君たちにとってふさわしいのであれば、僕らは日本に来て君たちのために演奏しようと思ったんだ」というケンによる長い長いMCがちょっと感動的だった。あのコンピレーション、買おう。ダウンロードだけじゃなくCDのリリースも進行中だということだし。知っているアーティストは半分ぐらいしか入っていないけど、Thistimeさんのチョイスに外れはないからね。
「I Guess You're Right」、「Definite Door」と続け、後者からほぼメドレーのようにして始まった「Burn And Shine」が、5年前の「Flood Of Sunshine」をも彷彿させるような長尺ギターソロ入りだったのが嬉しかった。一体何分ぐらい演ったんだろう。10分近かったんじゃないかな。演奏後、ギターを床に置いてハウリングさせながら去っていったジョンがかっこよかった。あ、そういえば、何かの曲の途中でジョンが天井から下がっているケーブルに自分のギターをひっかけてたね。
もう終わりかと思いつつもアンコールの拍手をしていたら、再登場。最後は知らない曲だと思って目を凝らしてセットリストを読んでみたら、「Beautiful One」?そんな曲あったっけと思っていたけど、帰りに友達に「『Success』に入っている曲ですよ」と教えてもらった。え、あんな地味なアルバム、予習さえしてこなかったよ。帰って見てみたら、確かにアルバム2曲目「You're The Beautiful One」という曲が入っているね。聴いてみたら、確かにあの最後の曲だ。お恥ずかしい。
実はセットリストにはもう1曲、「Everything Flows」と最後に書いてあった。ティーンエイジ・ファンクラブの曲だね。あれ演る予定だったのか。聴けなくてちょっと残念。
帰りに、いつもグレンのライヴでお見かけする五十嵐正さんとお会いして、階段を降りながらちょっと雑談。その後、物販のところにあったTシャツのデザインを見てもう居ても立ってもいられず、即買いしてしまった。

“すべて一点物”とのふれこみで、何枚かのアナログ盤も置いてあった。『Frosting On The Beater』や『Amazing Disgrace』のLPが5000円、『Success』のLPがちょっと安くて3000円だったかな。「Flavor Of The Month」のシングル3000円とか。うーん、欲しかったけどちょっと高かったよなあ。『Frosting On The Beater』も少し迷っているうちに目の前で誰かが買って行ってしまった。太っ腹だなあ。
一緒に観ていたグレン仲間やタマス仲間の皆さんと一緒に、すぐ近くの台湾料理店へ。「明日のインストアも行くでしょ」と誘うものの、誰も乗ってこない。なんで?あんなによかったのに。アクースティックもきっといいよ。でもそうだね、普通は平日2日連続なんて無理だよね。僕は運よく(?)ずっと鼻風邪をひいているのを口実に、明日もさっさとオフィスから消えよう。
Setlist 1 Jun 2011 @ Shibuya Club Quattro
1. Plastic Paperbacks
2. Flavor Of The Month
3. Please Return It
4. Sad To Be Aware
5. Licenses To Hide
6. So Caroline
7. Everybody Is A Fucking Liar
8. Throwaway
9. Solar Sister
10. The Glitter Prize
11. For The Ashes
12. Enewetak
13. Conversations
14. She's Coming Down Again!
15. Dream All Day
<Encore>
1. Tomorrow We Are Not Alone
2. I Guess You're Right
3. Definite Door
4. Burn And Shine
5. You're The Beautiful One
第三章 2011年6月2日(木) 雨 東京 新宿Tower Records
結局昨日は家に辿り着くまで雨はもったけど、この日は朝から結構な雨。先日のベン・フォールズあたりからずっと降ったりやんだりしてるよなあ。もう東京も梅雨入りしたんだっけ。2日連続で会社を早く抜けようとしたら、「ちょっと歩きながらでいいので」と仕事の話を持ちかけられ、新宿タワーレコードのイベント会場に辿り着いたのは、開始時間7時の15分ほど前。昨日のこともあるから、どうせ直前までガラガラに違いないとたかをくくっていたら、もうその頃にはびっしりと人が。やむなく右側のア二ソンCDの試聴機が置いてあるあたりに潜り込む。この位置からだと、スピーカーが邪魔になって、キーボードに座ったケンの顔がちょうど見えないかもな。あと、その後ろに置いてあるドラムキットも見えづらいし。
ん?ドラム?今日はケンとジョンの二人でアクースティック・セットじゃなかったっけ?と思いながらステージをよく見たら、昨日と同じベースが置いてあるし、ジョンのポジションに置いてあるギターはアコギじゃなく昨日と同じエピフォンだ。そうか、今日も4人でアンプつないで演るのか。しかし、あの狭い場所にちゃんと4人乗るのか?新宿タワーのイベント会場に行ったことがある人ならわかると思うけど、あのステージに大人4人とドラムキットとキーボードというのはかなり無理があるよね。行ったことがない人なら、そうだな、四畳半の部屋ぐらいの大きさを想像してもらえばいい。立錐の余地もないというのはこのことだ。
またしてもジョン本人が楽器のセットアップを済ませ(相変わらず誰も騒がない)、ほぼ定刻通りに4人が登場。今日は僕はケン側だけど、さすがにあの狭さではケンもジャンプしたり唾吐いたりできまい。それにしても、ケン昨日と全く同じシャツ着てるよ(イカリの図柄のグレーのTシャツ)。よっぽど気に入ってるのか?
オープニングは「So Caroline」。音でかっ。この場所はかつて
マーク・コズレックがインストアを演ったときに店内BGMを消さず、マークに「これじゃ演奏できない」と言われた(僕の中では)悪名高い場所なんだけど、この音量だと多分同じフロアの試聴機でジャニーズを聴いていた中学生は皆店から出て行ったに違いない。次の「Plastic Paperbacks」では、昨日同様首に青筋を立ててサビのパートを叫ぶケン。いいね、インストアだということ忘れてるね。
「昨日僕らのことを観にきた人は?」とか「昨日と今日とどっちがいい音出してる?」とかケンが訊くんだけど、ほとんど反応なし。まっ先に手を挙げた僕のことをケンはちらっと見てくれたけど、あとはパラパラとしか挙がらない手にちょっと拍子抜けの様子。
「今日は僕らのニューアルバムのプロモーションに来たんだ。レディー・ガガのニューアルバムが出たのも知ってるけど、僕らのアルバムの方がいいよ」とケン。ジョンは、すぐ目の前に展示してあったジャスティン・ビーバーのブルーレイを後ろにぽいっと投げる。
さすがにこの狭さではケンも昨日のようにジャンプするわけにはいかず、不完全燃焼っぽく不動の姿勢でギターを弾き続けるが、たまに堪りかねてその辺に唾を吐く。おいおい、メンバーにかかるよ(昨日だってきっとマットは飛沫を浴びまくっていたはずだけど)。ジョンのコンパクトなドラえもんジャンプは今日も不変。時折その場でぴょん、と跳ねる。かわいいね。
「The Glitter Prize」に続き、ケンがキーボードに座って(やっぱり顔見えないや)、ポロンポロンと弾き始める。「驚いたよ、このキーボード、カシオだ。今何時だろう(カシオは時計メーカーだという洒落か)。“Licenses To Hide”を演奏する時間だ」と言って、その曲へ。今日はゲストヴォーカルはなしで、ジョンがコーラス。いくらキャロラインが小柄だと言っても、あのステージにもうあれ以上人が乗るのは無理だったろうし。
いろんな音色の出るカシオのキーボードが気に入ったのか、次の「Enewetak」を始める前にいろんな音を試し、「次の曲をどの音色で演奏してほしい?これ?それともこれ?」と次々に音を出し始めるケン。そのたびに「♪Who's gonna take you home〜」(カーズの「Drive」)とか「♪Dearly beloved,」(プリンスの「Let's Go Crazy」)とか、そのイントロの音に合った曲を口ずさむジョン。
「Enewetak」の途中で一旦音が途切れ、例のビーチ・ボーイズ風のコーラスが入る前にもう拍手する観客。おいおい、まだだよ。君ら皆ここでCD買ってサイン会の整理券もらって来たんじゃないのか?ちゃんと聴いて覚えてこいよ。ジョンも、手で「まだだよ」と制するようにしながらコーラス。ああ、ちょっと残念。あのパートがいいのに。
今日もThistimeのフジさんや通訳のショウコさんに礼を言って、「次の曲はニューアルバムからじゃないんだ。これを彼らに捧げるよ」と、「Flavor Of The Month」。曲前のMCで何かジョークを言ってたようで(ギズムがどうとか言ってた?)、この曲の歌詞のあちこちにそれらしきジョークを挟むジョン。ところが、それが自分のツボに入ってしまったのか、途中で笑って歌えなくなる。何度か歌詞が途切れるゆるーい「Flavor Of The Month」。せっかくの名曲が。まあ、たまにはこういうのもいいか。インストアだしね。
昨日よりは若干短めのMCに続けて(おそらく昨日よりは英語を解しない観客だと思ったのかな)、「Tomorrow We Are Not Alone」で幕。その時点で30分をちょっとまわったぐらい。インストアには珍しくアンコールの拍手が沸いたけど、残念ながらそこで終了。ステージを片づけ、テーブルを並べてサイン会の準備。ちゃんと自分が放り投げたジャスティン・ビーバーのブルーレイを元に戻す律儀なジョン。
あんまり前の方に並ぶとあっという間に終わってしまったりペンがかすれて
出なかったりするので、ちょっと余裕を持って並ぶ。ちょうどサイン会を始めるときにメンバーの正面に並ぶことになったので、写真を少し。

「いいカメラ持ってるね」とケンが話しかけてくれてせっかく目線くれたのに、慌ててブレブレの二枚目。がっかり。そうこうしてるうちに「関係者以外の撮影はお控えください」とか言われて撮れなくなる(僕だけじゃないけどね、写真撮ってたのは)。
ようやく自分の番が回ってきて、メンバーそれぞれと少しずつ話しながらベルトコンベア式に左から右へ流されてゆく。ケンに「今日はアクースティック・セットのはずじゃなかったの?」と訊いたら、「こっちの方が好きなんだ」との答え。ケンにサインしてもらいながら彼とマットに「僕5年前にオークランドで貴方達のこと観たんだよ」と言ったら、マットが「へえー、そうなんだ。じゃあNice To See You Againだね」とか言ってくれる。
そんなこと話しながらCDの受け渡しをしていたら、せっかくのケンの日本語サイン『健』が生乾きのときに指でこすってしまった。ああもう、なんてどんくさいんだ僕は。

偶然隣に並んで、ちょっとだけ僕が通訳というかジョンとの話のお手伝いをしたファンの人のCDを見せてもらい、こすれてない『健』の写真を撮らせてもらった。漢字、上手だよね。書き順だってちゃんとしてたよ。4年前にジョン・ウェズリー・ハーディングと一緒に来たジョンと違って、ケンの方はそんなに来日してるわけでもないのに、どうやってこんなの覚えたんだろう。
サイン会のときの短い会話でしか判断できないけど、ジョンはどちらかというと醒めた目をしてシニカルなことをぼそっと喋るタイプ(なんだか僕みたい)で、ケンはキラキラした目で「うんうん、それで?」とこっちの話を引き出してくれるようなタイプ。そういえば、クアトロのライヴのときに曲が終わるごとにいちいち「ムーチャス・グラシャス」とか「メルシボクー」とか外国語で言ってたのもジョンだったな。なんか、最初の印象と全く違ったね。例の長いMCといい、ちょっとしたそんな会話といい、『健』という漢字を一所懸命覚えてくれることといい、もうこの2日間で僕はすっかりケンのファンになってしまったよ。明日からの長い出張、僕が持ってるケンのソロアルバム全部ウォークマンに入れて持って行くことにしよう。
Setlist 2 Jun 2011 @ Shinjuku Tower Records
1. So Caroline
2. Plastic Paperbacks
3. The Glitter Prize
4. Licenses To Hide
5. Enewetak
6. Flavor Of The Month
7. Tomorrow We Are Not Alone