2010年11月16日

贅沢 - Tamas Wells

The English translation follows the Japanese text.

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タマス・ウェルズ 『Thirty People Away』

シドニーに来ている。

例によって休暇や観光じゃなく短期滞在の出張なので、せっかくのからっとした夏も単に暑いとしか思えないのが残念だけど、せいぜい会社で取ってくれた立派なホテルの大きな窓から夜景を眺めながら(でも、妙なところでけちるから、窓の端の方にぴったり顔をつければハーバーブリッジがかろうじて見えるという微妙な位置の部屋で)これを書いているところ。

前回のアジア出張から一旦東京に戻り、その翌々日にまたシドニーへ来るという強行スケジュールにしたのは(シンガポールから直接シドニーに入った方が、時間的にも体力的にもよほど楽なんだけど)、なんとしても11月11日に自宅にいる必要があったから。そう、予約していたタマス・ウェルズの新作が届いているはずの日だ。

帰国したその日、思っていたよりも大ぶりな小包に入っていたのは、沢山の梱包材に丁寧に包まれた紙ジャケCDと、来月の東京公演のチケット2枚、予約特典のダウンロードクーポン、それに、sinさんのツィッターで製作過程をずっと見ていたハンドメイドのオーガニックソープがひとつ。「先着四名様限定」というのは冗談かと思っていたのに、まさか僕のところに送られてくるとは。乾燥が不十分なのでしばらく空気に触れさせておいてほしいという注意書きを読んで、封を開ける。いい匂い。なんだかもったいなくて、使えないよ。このまま部屋に置いておこうかな。この『Thirty People Away』のジャケ画の入った注意書きと一緒に。

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どうも最近調子の悪いPCになんとか音源を取り込み、シドニー出張に備える。でもその前に、やっぱりこのアルバムは最初はきちんとスピーカーから音を出して聴いてみたくて、CDプレイヤーに乗せる。

しばらく前からLiricoのサイトでこのアルバムの音源が試聴できるようになっていたのは知っていた。だけど、僕はこのアルバムをそんな風につまみ聴きするようなことはしたくなかったから、しばらくあのサイトには立ち寄らないようにしていた(行くとついクリックしてしまいそうだったからね。笑)sinさんのブログやツィッターをはじめ、その試聴音源を聴いたという人達の絶賛の声は読んでいたけれど、僕はこの日まで、例によって不思議な雰囲気満載の曲名とジャケ写だけを見ながら、ずっと我慢していた。その音が、ようやく僕の部屋で奏でられる。夜なので、すこしボリュームを絞って。



これまで僕がタマス・ウェルズについて書いてきた文章のいくつか。

> 初めての出会いのあまりの衝撃に、ほとんど何も書くことのできなかったセカンドアルバム『A Plea En Vendredi』について。
> 当時入手困難だったファーストアルバム『A Mark On The Pane』をようやく探し当て、ありったけの知識を込めて書いたもの。
> 当時僕が住んでいたNZから海を越えて駆け付けた、待望の初来日公演。
> サードアルバムにしてタマス・ウェルズ初のソロアルバム『Two Years In April』についての果てしない長文。
> 二度目の来日公演を三夜分まとめて。
> 二度目の海外追っかけ。シンガポール公演について。

さて、いったい僕はこのタマス・ウェルズによる新しいアルバムを聴いて、これ以上何を書けるんだろう。『Two Years In April』のときよりさらに増量した駄文を重ねるべきだろうか。もしあなたが僕のブログをずっと読んでくださっているなら、またいつもと同じような表現で同じようなことをダラダラと書いていると思うかもしれない。そしてもしあなたが偶然(タマス・ウェルズという名前で検索をかけて)ここに来てくださったのであれば、今ここにリンクを張ったいくつかの文章を(たっぷり時間がかかるのを覚悟のうえで)読んでもらえれば、彼の音楽がどういうものかはわかってもらえるだろう。もちろん、ちょっと聴いてみたいという方は、さっきリンクしたLiricoのサイトに行けば、今でもこの新作が試聴できるようになっているはずだ。

一言でまとめるなら、今回のアルバムは、あらゆる意味でとても贅沢なものだ。もちろん、中に収められている音は、豪華絢爛という言葉とは程遠い、いつもながらのタマス・ウェルズの音楽。たとえて言うなら、贅を尽くした食材を潤沢に使った懐石料理。上質の素材だけを使って丁寧に編まれた、素朴なデザインのセーター。醸造されたばかりの、その後数十年熟成されることが定められたヴィンテージのウィスキー。そういったものと同質の贅沢さ。

「あらゆる意味で」と書いたわけ。まず、これまで聴いたことのなかったタマス・ウェルズの曲を、こんなに一度にふんだんに聴ける贅沢。思えば、前作が出てから2年間の間、途中にライヴを二度観ているとはいえ、強度のタマス・ウェルズ渇望症(笑)に罹っていた僕は、彼の初期の曲が収録されたポップブーメランのコンピレーション2枚を入手し、その2曲を慈しむように聴いていたものだ(実は、それらの曲自体は、某友人を通じてずっと以前に聴かせてもらっていたので、初めて聴いたという新鮮な驚きはなかったんだけどね)。その状況と比べると、11曲もの全く新しい曲を、こんな風に続けざまに聴けるなんて、なんと幸せなことか。

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『Shake Yer Popboomerang Volume 2』
『Planet Of The Popboomerang Vol. 2』

そんなオタク的感想はさておき、内容の贅沢さについて。今回のアルバムが、ヤンゴンの自宅でほぼ一人で宅録された前作とはうって変わって、プロデューサー兼ドラマーであるネイサン・コリンズの住むタスマニアのホバートのレコーディングスタジオで、今年に入ってタマスと一緒に活動しているギタリストのキム・ビールズや弦楽器奏者二名を含めた拡大タマス・ウェルズ・バンドの面々と共に録音されたという事実は以前から聞いていたが、それがアルバム冒頭「The Crime At Edmond Lake」のオープニングの最初のクリアなギターの一音を聴いただけで如実にわかる。途中に子供の叫び声も入ってないし(笑)

ホバートのスタジオでの録音風景を勝手に転載させてもらおう。ため息が出るほど素晴らしい環境だよね。今いるシドニーも少し郊外に車で走れば大きな庭のある家や沢山の街路樹が目に入るけど、同じ国でもやっぱりこういう場所は別世界だね。

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この恵まれた環境で、沢山の気の合うメンバーと一緒に、(800円のミャンマー製ではなく)バンコクで手に入れたマーティンのアクースティックギターと、弦楽器やキーボードなど、きっとミャンマーでは入手することすら難しいであろう楽器をたくさん使って録音されたアルバム。インスト2曲を含んだ構成が(インスト曲の配置のされ方も含めて)最初の2枚のアルバムを踏襲しているところからも、やはり前作だけは、本人にとっても異色な位置づけのアルバムだったのだろうということがわかる。

具体的かつ意味深なタイトルなのに、実際に聴いても読んでも、相当深読みしないと意味の掴みづらい歌詞もいつも通り。ライナーで大崎さんも指摘されているとおり、今回のキーワードは火、炎といった、これまで彼の曲にはあまりなかったイメージ。ミャンマーでの爆撃事件がきっかけになった(と、sinさんのツィッターを読んで初めて知った)アルバムタイトル曲「Thirty People Away」を中心にして、アルバム全体に燃え移ったものだろう。そのイメージを代表しているのが、今作を代表する(というか、「Valder Fields」や「The Northern Lights」などと一緒に、タマス・ウェルズの代表曲になり得るであろう)アルバム2曲目「Fire Balloons」。なんか、このタイトルだけでも、想像力をうんとかきたてられるよね。火の風船だって。

初期の「Stitch In Time」のように、悲しく可哀想な歌詞をあえて(彼にしては)明るめの曲調に乗せて歌うという傾向が今回も伺える。「Her Eyes Were Only Scars」という、悲惨なタイトルとアルバム中では比較的具体的な描写のある歌詞を持つ曲などがそうだ。タマスは来月のライヴでこの曲を歌う前に、この曲の背景を教えてくれるだろうか。あの「I'm Sorry That The Kitchen Is On Fire」のように。

その一方で、おそらく彼の一人娘のことを歌っていると思しき最終曲「Your Hands Into Mine」は、その暖かなタイトルと題材にも関わらず、どういうわけかこのアルバム中もっとも沈んだ曲調だ。戦いの終わりという名を持ちながら、実際にはいたるところに絶望ばかりを見てしまうヤンゴンという街に長く住む彼の中では、希望と絶望という相反する感情がまるでコインの裏表のように密接に結びついているのかもしれない。

沈んだ曲調といえば、いつものとおり(?)アルバム5曲目と8曲目に配置されている二つのインストゥルメンタル曲。もしこれが何かの映画のサウンドトラックだとしたら、一体これらはどんなに悲しい場面のBGMなんだと思ってしまうような曲。ピアノを弾いているのはどちらもアンソニー・フランシスだろう。

全11曲、わずか34分しかないこのアルバム(彼のアルバムはいつもそんな感じだけど)、手に入れてからまだ5日しか経ってないのに、もう何十回聴いたかわからない。「今年のベスト10入り確実」なんてもんじゃない。「もしこれが1位でなければ何をこの上に持ってこられるのか」というレベルの作品。

ずっと出張に出ているのでなかなか実物を手に取って見ることのできていない、いつもとはちょっと違った雰囲気のイラストのジャケットも、個人的には今までで一番お気に入りだ(ディスクやブックレットがちょっと出し入れしづらいけど)。内ジャケやブックレットにはちょっとずつ違った家が建っているね。大崎さんの言われるとおり、べったりと赤く塗られたブックレット裏も含めて、これらの家が建っている地面の部分が血に見えてしかたないけど、それをこんな子供が描いたような屈託のない雰囲気に仕上げているところもいい。さしずめ、「絶望の大地に建つ希望の家」といったところか。



来月最初の週末、タマス・ウェルズの2年振りの来日公演が東京と京都で行われる。前回の来日メンバーから、子供の世話で忙しい(笑)ネイサン・コリンズが抜け、代わってキム・ビールズが参加という、僕が年頭に観たシンガポール公演と同じメンバー構成。前回のステッドファスト・シェパード(=ネイサン・コリンズ)のように、キムが前座でソロ演奏をするそうだ。土曜日にヨンシーのライヴさえ入っていなければ、本当は京都まで追っかけたかったんだけどな。まあ、しょうがない。タマス/ヨンシー/タマスなんて贅沢な週末、もう二度とないだろうしね。

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シドニーにいる間にも帰りの機内でも書き終えることのできなかったこの記事を、さっき東京の自宅に戻ってきて書きあげ、ブログにアップしようとPCを立ち上げたら、遅ればせながらアウン・サン・スー・チーさん解放のニュースが目に入った。出張中全然ニュースを見る暇もなかったから。そうか、今度こそ本当に。よかった。きっとタマスは来月のステージで、戦いの終わりを意味する名の街で久しぶりに起きた、本当に希望を持てるこの話をしてくれることだろう。いつものあの屈託のない笑顔で。



Luxury - Tamas Wells

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Tamas Wells 『Thirty People Away』

I'm in Sydney now.

As usual, since this is not sightseeing or vacation but a short business trip, unfortunately this nice sunny weather is just annoying heat to me. At least while I'm writing this I'm enjoying the nightscape from this luxurious hotel that my office booked (I could hardly see the tip of the Harbour bridge if I try really hard by pressing my face against the large window, since they booked it at the corporate rate).

I've been out on the other business trip around Asia the other week. The reason why I've been home only for 1.5 days and came all the way again to Sydney, although it could've been physically much easier and saving time to go straight from Singapore to here, was simply because I had to be at home on 11 Nov. Yes, the day they release the Tamas Wells' new album in Japan.

The day I got home what I found was an oversized parcel, which included a paper-sleeved CD wrapped carefully with bunch of plastics, two concert tickets for next month, a download coupon for the bonus tracks and a handmade organic soap which I've been watching the way Shin has been producing it and posting on his Twitter. He once tweeted the soap was meant for the first 4 lucky buyer of the album. I didn't expect I would be one of them. It says on the small paper inside that the soap isn't dried enough so you need to keep drying it. I've opened the plastic bag and it scented so good. I can't just consume it as soap as it's too good. Perhaps I'll place it in my room, together with this small instruction paper with "Thirty People Away" illustration on.

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I get prepared for the Sydney trip, while recording the CD into the PC that hasn't been functioning very well these days. But before the trip I would love to listen to this album from the loud speaker first. So I take out the CD from the PC and put it in the CD player.

I knew I would be able to listen to the sampler of every song on this CD at lirico’s website since while ago. But I didn't want to just pick and listen to this album in such a casual way. So I've been avoid visiting the site till I get my own copy of the CD (if I go there I knew I couldn't stop myself clicking the samplers). I've been reading how good this new album was through Shin's blog & Twitter as well as the others’ comments who've already tried the samplers. I’ve tried hard not to listen but just looking at those strangely-named titles of the songs and the album cover art. At last, finally, the tunes will fill my room this night. It's already close to midnight, so I've turned down the volume a little.



Some of the articles I've written about Tamas Wells on this blog.

> About the second album "A Plea en Vendredi" that I couldn't describe almost anything due to the shocking initial encounter.
> About the first album "Mark On The Pane" which was out of print at that time but I finally found, and wrote with as much knowledge as I had then.
> About the first Tokyo gig which I went down all the way from NZ where I lived then.
> A never-ending article about the third and his first solo album "Two Years In April".
> About the second Japan tour, three nights in a row.
> About my second overseas following-the-artist trip to Singapore.

Well, what else can I write listening to this brand new album? Should I write something even longer then the one about "Two Years In April"? If you're a regular reader of my blog, you would think I write same things again in a same tone with same expressions. Or if you come here for the first time (perhaps by searching for some information about Tamas Wells on the web), it should be enough to read these links (be prepared to spend hours!). Of course if you'd like to have a quick listen, you can go to lirico's website that I linked above.

In a nutshell, this brand new album is quite luxurious, from several aspects. Of course, the music within is far from the shiny gorgeous sound, but Tamas Wells as usual. I give you some examples; an authentic Japanese traditional cuisine cooked with well-chosen materials. A humble design hand-woven sweater using high quality wool. Vintage whisky just brewed and to be stored for some ten years. Such kinds of luxury.

The reasons I write "from several aspects". First, the luxury you can listen to a series of Tamas Wells' new songs. For the last two years since "Two Years In April", although I've seen him playing live a couple of times, I've been thirsted for Tamas Wells music. So I've got the two compilation albums from Popboomerang which contained early recordings of theirs, and repeatedly listening to them (it wasn't a fresh surprise to me as I got these two songs from my friend years before though). Compared with the situation, how happy I am to be able to listen to eleven brand new songs at once!

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『Shake Yer Popboomerang Volume 2』
『Planet Of The Popboomerang Vol. 2』

Putting such nerdy comments aside, I write about the luxury of the album itself. I knew the fact that unlike the last album which was recorded at Tamas' house in Yangon by himself, this album was recorded at the recording studio in Hobert where the producer / drummer Nathan Collins resides, together with the larger Tamas Wells band including two strings players and Kim Beales who has been playing with Tamas since earlier this year. You can easily tell the outcome of it by listening to the opening clear guitar sound of "The Crime At Edmond Lake". There's no child's shout in the middle, too :)

Here's the photo during the recording session that I took from Tamas' webpage without permission. Beautiful scenery, isn't it? I could see some large houses with front yards and tall trees alongside the road when I drive outskirts of Sydney, but this is a different world in the same country.

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This blessed atmosphere produced the album, together with close friends, using the Martin acoustic guitar (not the 8 dollar made-in-Myanmar guitar anymore) and the various other musical instruments you could hardly find in Myanmar. The album construction is quite similar to the first two albums, with two instrumental tunes (even the sequence of the instrumentals in the album). That tells the previous album with the different sequences must be considered to be uniquely positioned to him.

The lyrics are concrete and mysterious, yet quite difficult to understand the hidden meaning even after you listen to and read carefully, as usual. As pointed by Yohei in the liner notes, the keywords for this album are flame, or fire, which haven't appeared in his song so much before. Fire started from the album title track "Thirty People Away", which was inspired by the bombing incident in Myanmar (as I've learned from Shin's Twitter), and it spread all over the album. The song which acts for the fire/flame image is the second song of the album "Fire Balloons", which I believe is not merely the main track of this album but represents Tamas Wells’ music together with "Valder Fields" or "The Northern Lights". Fire balloons - the song title alone could rouse your imagination.

There's a tendency this time that the sad and pitiful lyrics sung on the upbeat (for him) tune, just like his early song "Stitch In Time". For instance, "Her Eyes Were Only Scars", which has this scary title and relatively concrete lyrics. Will Tamas explain the background of this song before he sings next month, just like he used to do for "I'm Sorry That The Kitchen Is On Fire"?

On the other hand, the last tune of the album "Your Hands Into Mine" which seems to be written about his daughter has the darkest mood, despite its heartwarming title and the material. I guess the two contradicting feelings, hope and desperation are tightly connected each other just like two sides of a coin in his mind, since he has been too long in the town named the End of Strife, where he's seen desperation everywhere.

Talking about the dark mood, the fifth and eights track (as usual?) of the album are the instrumental tunes. If this were the soundtracks of a movie, you would wonder in what sad scene these tunes are used. The piano player for these tunes must be Anthony Francis.

11 tracks for only 34 minutes (again, just like his album always). I can't count how many times I've already listened to this album in only 5 days since I got it. It's not the level like "must be in my top 10 list of the year", but it's like "what else could be above this if this is not the No.1".

The illustration on the front cover is my favourite among all his albums, though I haven't had enough time to look at the real one since I've been out for business trip (it's a bit hard to take out the disc & the booklet though). There are houses in different shapes in the inner cover and the booklet. I agree what Yohei mentioned in the liner notes that the ground part where these houses are built on looks just like the blood. Nevertheless, it looks quite innocent with these houses on it. You might call it the House of Hopes on the Ground of Desperate.



There will be gigs of Tamas Wells in Tokyo and Kyoto in the first weekend next month, after two years' blank. The same members as the Singapore gig, with Kim Beales on guitar as the replacement of Nathan Collins who is busy taking care of his new born baby :) It says Kim will be the opening act like the Steadfast Shepherd (a.k.a. Nathan Collins) did the last time. If only I hadn't got the ticket for Jonsi on Saturday, I'd follow them to Kyoto. Well, never mind. There'll never be another chance to see Tamas / Jonsi / Tamas in one weekend.

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I couldn't finish this article while I was in Sydney and on the plane. When I've finished it at home in Tokyo, I've noticed the news Aung San Suu Kyi has been released from her house arrest. I haven't had time to check the news during the trip. Yes, finally. At last. Tamas must be talking about this hopeful news finally happened in the town called the End of Strife on the stage next month, with his usual innocent smile.
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2010年11月01日

イタコ - Ben Folds / Nick Hornby

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ベン・フォールズ/ニック・ホーンビィ 『Lonely Avenue』

きっかけは人それぞれなはず。

誰かは、1956年にエド・サリヴァン・ショーに登場したエルヴィス・プレスリーを観て感銘を受けたのかもしれない。別の誰かは、1977年にマンチェスターのクラブにセックス・ピストルズを観に行き、自分の人生が少し違った方向にずれるのを感じたのかもしれない。もしくは、1980年代の日本のとある郊外の新興住宅地で、情操教育に熱心な母親に買い与えられたピアノを夢中で練習する子供だったのかもしれない。

なにがきっかけだったにせよ、音楽を好きになった子供が、やがて自分でも演奏したい、歌いたい、自分の音楽を作りたいと思い始めるのはごく自然なことだろう。

そんな人たちの中から、自分の音楽の才能に気付く者が沢山でてくる。練習すればするほど楽器の腕前が上がる人。聴く者誰もの心を揺さぶる声を持つ人。時代を越えて歌い継がれる曲を作ることのできる人。あるいは、音楽的な才能はそれほど飛びぬけたものではないかもしれないけれど、人並み外れたルックスで勝負ができる人。そんな、自分の次の世代に、自分が得たのと同じきっかけを与えられる人たち。

でも、言うまでもなく、世の中にはそんな選ばれた人たちよりも、自分には音楽の才能がないと気付いてしまう人の方が遥かに多く存在する。そんな彼らは(「僕らは」と書こうか)、やがてギターの弦を張り替えることもしなくなり、二次会のカラオケボックスで妥協することを覚え、ノートの後ろの方のページに書いた気恥ずかしい自作の歌詞のことなんてすっかり忘れてしまう。

それでもやはり音楽に対する愛情を捨てきれない、音楽を通して誰かに何かを伝えたい人は、他人の作った音楽を通じてそれを達成しようとする。自分が感じている気持ちを歌ってくれているアーティストや自分の衝動を代弁してくれる音を出すバンドは、世の中に沢山いるから。そういう人たちは、DJになったり、レコード会社に勤めてコンピレーション・アルバムを作ったりすることで、自分を表現する(あるいは、ヘタクソな文章をブログに書き散らして、ネット上にばらまく)。



92年、アーセナルに向けた執拗なまでの愛情を綴ったノンフィクション/自伝『Fever Pitch』が、そのきめ細かな感情描写と如何にも英国的な自虐的ユーモアが意外なほどに受けた挙句に映画化されるに至り、その処女作に続く次回作は、フィクション/小説という形を取ってはいるものの、作者ニック・ホーンビィは、より自分自身を真摯に投影した物語にするつもりだったはずだ。

その次回作『High Fidelity』が当然の如く大ブレイクし、世界中の優柔不断で自分勝手な音楽オタク達にあれはまさに自分の物語だと錯覚させた後、彼がしたことは(実際に次に書いた『About A Boy』を今度はヒュー・グラント主演のヒット映画に仕立て上げたことをあえて端折ると)、31曲のポップ・ソングを彼一流の感傷的でありながらユーモアに溢れた文章を添えて並べたエッセイ集、その名も『31 Songs』を発表することだった。

そこに取り上げられた曲の数々、ティーンエイジ・ファンクラブに始まり、ブルース・スプリングスティーンからスイサイド、グレゴリー・アイザックスからO.V.ライト、ロイクソップを経てパティ・スミスへと回帰する、一見支離滅裂のようでありながら、これを書いた彼があの『High Fidelity』のロブだと思えば妙に納得してしまう選曲。

この本は、ニックが作って世の中に発表した、初めてのコンピレーション・アルバムだ(もちろん彼のような人は、これ以前に数百ものミックステープを作ってきたはずだが、それらを聴く恩恵にあやかれた彼の幸運な友人や恋人以外は、残念ながらその存在を知ることはないだろう)。当然これは本だから、“アルバム”と呼ぶのは正しくないかもしれない。でも、この本の第一章、前書きとして置かれた「Your Love Is The Place Where I Come From」を読むと、僕にはその曲が元々収められていた『Songs From Northern Britain』を聴くよりも確実に心に響く。繰り返して言う。このエッセイ集『31 Songs』は、それほど優れたコンピレーション・アルバムだ。

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ニック・ホーンビィ 『31 Songs』

本が出たときから既に予定されていたのかどうかは知らないが、そのエッセイ集をベースにしたCDが03年に発売された。今やアマゾンジャパンのどこを探しても見当たらないが(上のリンク先は別ジャケットの同じCDがマーケットプレイスに出品されているアマゾンUK)、全31曲のうち1枚のCDに収録可能な18曲をピックアップしたこのアルバムは、他人が作ったコンピレーション・アルバムにはあまり興味をそそられることのない僕にとっては珍しい、かなりリピート率の高いCDとなった。

1曲目はもちろん、ティーンエイジ・ファンクラブの名曲「Your Love Is The Place Where I Come From」だが、それに続く2曲目がブルース・スプリングスティーンの「Thunder Road」だというところに、如何にニックがあのエッセイ集を書いた際に実際の音の流れを想像していたかというのが如実に表現されている。この曲を知る人なら誰でも、「Thunder Road」なんてA面1曲目以外の何ものでもないと思うだろう? そういう人には是非この秀逸なコンピレーションを聴いてみてほしい。



ニック・ホーンビィが実際に楽器を演奏したり歌を歌ったりするのかどうかは僕は知らない。きっと想像するに、プロとしてデビューできるほどの腕前ではないんだろう。でも、彼はこの本をもって、音楽家としてのデビューを果たしたと言っていい(コンピレーションCDはあくまでもこのエッセイ集に載っていた曲を知らない人達に向けての副産物だ)。

そんな彼が次に企んだのは、自分が書いた歌詞を、自分を代弁してくれるアーティストの曲に乗せ、それを演奏してCDとして発表してもらうことだったと考えるのは不思議な流れではないだろう。贅沢な望みだとはいえ、そこは腐ってもニック・ホーンビィだ(別に腐ってないけど)。『High Fidelity』を読んで、あれは(かつての)自分の物語だと思ったプロのミュージシャンは山ほどいただろう。だからこそ、あの御大ブルース・スプリングスティーンまでがノー・クレジットで映画『High Fidelity』に出演したんだろうし。ニックさえその気なら、手を上げるアーティストは沢山いたに違いない。

ニックが相棒として選んだのは、『31 Songs』の中でも特にその洞察力と感情描写に秀でた歌詞を評価していたベン・フォールズだった(その本の中でも僕の大好きな章の一つである「Smoke」で)。そのベンにあえて歌詞を書かせず、11の自作の歌詞を託し、CDにライナーノーツを寄せたニック。更に、上に写真を載せたスペシャル・ヴァージョンには、彼の短編小説が4つ収録されている。

このアルバムを、ベン・フォールズとニック・ホーンビィのコラボレーション・アルバムと捉えるのは自然なことだろう。CDショップに行けば当然ベン・フォールズのコーナーに置いてある。人によっては、スランプに陥ったベンがニックに歌詞を依頼したと勘繰るかもしれない。でも僕にはこれが、残念ながら音楽的な才能には恵まれなかったニック・ホーンビィによる、『31 Songs』を経てようやく完成したファースト・アルバムのように思える。それも、ベン・フォールズという、ニックの世界観を表現するには世界でも指折りのイタコを使って作った作品。

実際にこのアルバムがどういう経緯を経て作製されたのかは知らない。でも、この推察が正しいとすると、きっとどの曲も詞先だろう。それを証明するかのように、ブックレット冒頭には、ニックによる全曲解説が載っている。彼の詞がベンによってどう完成されたかを綴った、短いけれど彼ならではの言葉のセンスが詰め込まれた解説。

昨年の来日公演でも披露された、このアルバムを代表するスロー・バラッド「Picture Window」に寄せられた、ほんの二行しかない解説の一節。

 この曲は私が頭に思い描いてたよりも少しテンポが速すぎる気がするけど
 それは単に聴いているあなたがほんの少し早くほろ苦い気持ちになるだけのこと


上手いよね、こういう言い回し(僕の日本語訳がその上手い言い回しを上手く伝えられているかどうかはともかく)。とにかく、こういうニック・ホーンビィ節が、ライナー・ノーツから全ての曲の歌詞、それから4つの短編小説に至るまでびっしりと詰め込まれている。通常版のCDがどういう作りになっているのかは知らないけど、厚手のケースに収められたハード・カバーの本のような造りのこのスペシャル・ヴァージョンは、やはりこの作品がニック・ホーンビィ主導で作られたのではないかという僕の持説を後押ししてくれているようだ。

4つの短編小説は書き下ろしの新作ではなく、これまでニックがあちこちで発表してきたもののようだ。クラブの黒服からギャラリーの警備員に転身した男の語り口による『Nipplejesus』、自分の息子がポルノビデオに出演していることを知ってしまった母親の話『Not A Star』、ニックにしては珍しくちょっとSF風味の『Otherwise Pandemonium』、ヨーロッパの架空の小国に住む少年の話『Small Country』。どれも僕は今回初めて読んだけど、面白かったよ。

まだろくに肝心の音楽の話を全然書いてないのに、もうこんな量になってしまった。手短に書くと、まるで『31 Songs』のように、そして『High Fidelity』のように、ニック・ホーンビィの音楽趣味が色濃く反映されたものになっている。ニック自身によるライナーから固有名詞を拾ってみた。ドク・ポウマス、ブルース・スプリングスティーン、エルヴィス・コステロ、テディ・ペンダーグラス。で、実際に演奏して歌っているのが、ベン・フォールズと。まあ、そういうことだ。

何名かのゲスト・ミュージシャンが参加しているが、殆どの楽器の演奏はベン自身によるもの。そして、ストリングスのアレンジメントを施しているのが、巨匠ポール・バックマスター。僕は普段クラシック楽器の音なんてそれほど注意して聴いているわけじゃないけれど、こういうのを聴くと、本当に素晴らしいストリングス演奏というのがどういうものなのかがよくわかるね。

『Songs For Silverman』にせよ『Way To Normal』にせよ、ベン・フォールズのスペシャル版CDというのはどうも一般受けが悪いようで、あちこちのCDショップで在庫処分扱いを受けているのをよく見かける。今でも十分に評価の高いアーティストだと思うんだけど、どうしてCDが売れないんだろう。せめて、この素晴らしい作品が同じような目に合わないように願っているよ。英語の小説なんて読めないからと躊躇している人も、勉強だと思って(あるいは、お布施だと思って)これ買ってみてよ。
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