2010年07月25日

重厚長大 - Natalie Merchant

Leave Your Sleep.jpg
ナタリー・マーチャント 『Leave Your Sleep』

ナタリー・マーチャント。僕は彼女のアルバムを買うのもこれが初めてなら、彼女がかつて在籍していたテン・サウザンド・マニアックス(10,000 Maniacs)のアルバムも一枚も持っていない(だから、昔コメント欄で“象がたくさんなジャケ”と書かれてもピンとこなかったというわけ)。

そんな僕がこのCDを手にしたのは、どこかで読んだレビューがよかったのと、アメリカで結構売れているという話と、新品2枚組なのにそこそここなれた値段で入手できたこと(コンサイス版の1枚組とほとんど値段が変わらなかったというのも大きいかも。新手の2枚組売りつけ商法だね。というか、それほど欲しくもなかったCDをそんな理由で買うのは僕ぐらいか)。

よくある紙のスリップケースでなく、きちんと内側に折り曲げられた紙のケース入り(ピンク・フロイドの『PULSE』を電球付きのCDで持っている人はあれを想像して)。手に持ってちょっと驚くのはその重量。厚みは普通のプラケースのCDとそう変わらないのに、ずっしりとくる。ちょっとさっき量ってみたら、220グラムもあった。ちなみに普通のプラケース入りCDは90グラム程度だから、いくら2枚組とはいえ、倍以上だね。

その重量の理由は、紙ケースに収められた、80ページにも及ぶ上質紙のブックレット。というか、これは既に「本」だね。そこに、今回のCDに収められた26曲の歌詞の元になった詩と、それぞれの作者のバイオグラフィーがびっしりと載せられている。

そう、このアルバムは、ナタリーが自分の幼い娘に読んであげていたという19〜20世紀の数々の詩に曲をつけたもの。タイトルの『Leave Your Sleep』というのは、マザー・グースの一編だそうだ。

ブックレットには元の詩が載っているんだけど、歌詞にするために多少の手は加えられている。サビのパートとかそういうのが要るからね。だから、例えばジョン・クーパー・クラークみたいに、いかにも詩の朗読みたいになってるわけじゃない(ジョン・クーパー・クラークなんて例えられても誰も知らないだろうけど)。そういう意味では、何も知らずに聴いていたら、これらの歌詞が詩を元にして作られたなんてわからないかも。

基本的にはアメリカン・フォーク・ミュージックといえばいいんだろうけど、多くの曲にケルティックな味付けがされている。しかも、それを演奏しているのはルナサ(Lunasa)など、アイルランドの一流どころ。何十名もの弦楽器奏者が参加していて、ナタリー自身がオーケストレーションを担当している。参加ミュージシャンは、総勢で100名以上にもなるそうだ(その名前が曲ごとに載っているのも、分厚いブックレットの一因)。

2枚組26曲、合計1時間40分強にもなるアルバムをそれだけで押し切られるとさすがにきついだろうけど、ブルーズ色の強い曲、ボードヴィル調の曲、レゲエ風の曲、ほぼジャズと言っていいような曲など、絶妙のタイミングで聴き手が飽きないような工夫がされている。「The King Of China's Daughter」という曲はその名のとおり中華風アレンジだったり。

「Bleezer's Ice Cream」という曲では、色んな味付けのアイスクリームということで、沢山の食べ物の名前が列挙されているんだけど、それがまた上手い具合に頭文字を揃えていたり韻を踏んでたりで、聴いてておもしろい。頭文字を揃えるために、アイスクリームの味付けにはありえないような食べ物も出てくるけどね、スキヤキとか。スロウダイヴのアルバム名『Souvlaki』って食べ物の名前だったのか、とか、以前オフ会でちょっと話題になったピーマン焼酎の名前ピメントがでてきてびっくり、とか(内輪受けですみません)。

と、ブックレットの元詩と、ナタリー自身が調べて書いたバイオグラフィ(それぞれの詩人の両親の名前とか子供の頃どんなだったとか、えらく詳細)をじっくり読みながら聴くのも一興。ただ、長文を読んでいるうちにあっという間にCDは次の曲に進んでしまうんだけどね。

とにかく、ゴージャスな内容。時間と才能と人員をたっぷり注ぎ込んで、丁寧に作られたアルバムだというのがよくわかる。ナタリーが今回からレコード会社をノンサッチに移ったのは、こういうのを作りたかったからなんだろうね。誠実なこの会社ならではの極めて生真面目な作品。

ナタリーの歌も上手いし、彼女が書く曲もいいね。2枚目中盤の何曲かは、本当に心に沁みる(こういう、後ろの方だけど最後じゃないというような、普通なら一番中だるみする箇所に名曲をさりげなく置いてある作りのアルバムはいいよね)。

この長さとずっしりとした内容ゆえに、例えば前回の記事にしたジェブ・ロイ・ニコルズの新作のように「これからの季節に一番よく聴くアルバム」にはなり得ないだろうと思う。あんまり細切れで聴きたい感じじゃないし。

でも、これはもしかすると、僕にとってこれからずっと聴いていける、とても息の長いアルバムになる予感がする(もちろん、『Long Time Traveller』が一過性のアルバムと言ってるんじゃないよ)。「最近なにかいいのない?」と訊かれて勧めるCDじゃないかもしれないけど、一生に数枚しかCDを買わないような人に何枚か見繕ってと言われたら、これからの僕はこのアルバムを候補に入れるかもしれない。



<追記>

映画『Inception』を観てきた。今日は、ほんとはこの映画のこととどっちを書こうか迷ったんだけど、さすがに公開早々の映画のことを事細かに書くのははばかられたので、当初の予定どおり上の記事にした。

だけど、さっきこの記事をアップして、買ってきたパンフレットを読んでいたら、やっぱり少し書きたくなってきた。一本の記事にするほどでもないから、ちょっとだけ追記で。

大々的な広告にはちょっと警戒心を持っていたんだよね。テレビコマーシャルで何度も観る例の街並みがせり上がってくるシーンとか、そういう如何にもCG沢山使って驚くようなシーンをあちこちにちりばめました、でもあんまり内容ありません、だってハリウッド映画ですから、みたいなのってよくあるからね。

でも、この映画は凄いと思う。内容濃い。2時間半もあるのに、複雑なスクリプトを追うのに夢中だったせいか、観ているうちに時間の感覚が狂ってくるのか、あっという間に最後のシーンにたどり着いてしまった。

そりゃ確かに辻褄合ってないところとかあるけど、とてもロジカルに組み立てられたストーリーだと思うよ。だって隅から隅まで全部辻褄合ってたら、それは最早サイエンス・フィクションじゃないからね。

緻密なプロットとハリウッド大作ならではの派手なアクション、それを彩るのが例の“夢を視覚化した”シーンの数々。これははまるよ。おまけに(というか、全然おまけじゃないけど)それを演じるのが、レオナルド・ディカプリオとか渡辺謙だからね。それに、超大物の彼らだけじゃなく、準主役級のエレン・ペイジやトム・ハーディーらも、僕はすごくいいと思ったね。

結局小さな記事一本分ぐらい書いてしまったかな。まだ観てない人には、おすすめの映画。大きな画面で観よう。


posted by . at 15:48| Comment(4) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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