2010年06月20日

帰還 - Roky Erickson with Okkervil River

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Roky Erickson with Okkervil River 『True Love Cast Out All Evil』

伝説的なテキサスのサイケデリック・ロック・バンド、サーティーンス・フロア・エレヴェイターズ(The 13th Floor Elevators)のフロントマン、ロッキー・エリクソンの奇跡の復活作。そんな風に書き始めればいいんだろうか。

同じく60年代にカリスマ的な人気を得ていながらドラッグで精神障害を患い、最期までこちらの世界に戻ってくることなく逝ってしまったシド・バレットやスキップ・スペンスらのことを考えると、63歳になった彼がまともな新作アルバムを出すということ自体が驚愕の事実だというのはよくわかる。

でも、正直言って、僕にとってはそれほど思い入れのある人でもバンドでもなかったから、しばらく新作から遠ざかっているオカヴィル・リヴァーがバックを務めていなければ、僕はこのアルバムに手を出すことはなかっただろう。そっち側からこのアルバムにたどり着く人は、世間的にも希なんじゃないかとは思うけどね。

07年の『The Stand Ins』時から一人メンバーが替わったオカヴィル・リヴァーの全員が参加。ジョナサン・メイバーグはシアウォーターのアルバム作りに忙しかったのか、わずか2曲にしか参加していないけれど、ウィル・シェフは全ての曲で様々な楽器を演奏している。アルバム全体のプロデュースとライナーノーツ担当もウィル。

細かい文字で10ページにわたってびっしりと書き込まれたそのライナーノーツは、ストーリーテラーとしてのウィル・シェフの才能が見事に発揮された力作。若くしてサイケデリック・ロックの先鋭として成功したロッキーが、やがてドラッグで精神を病んで投獄された後の壮絶な人生について、ときにスキャンダラスなエピソードを交えながらも、感動的に書き上げている。

45分という、アルバムとしてはLP時代から親しんだちょうどいい長さのこのCDを一枚聴く時間内では僕には読み通せなかったほどの分量の文章だけど、これを読むのとそうでないとでは、このアルバムの深さと一音一音に込められた意味の理解度がまるで違うはず。なんて、これから聴こうという人にハードルを上げるようなことを書いてしまったけど、7月に出るという日本盤にはきっとこのライナーの対訳がついているかな。

同じテキサスのオースティンをベースにしているとはいえ、親子以上に歳の離れたロッキーをウィルがプロデュースするというこのプロジェクト。これが決まったときに、ウィルの元にはロッキーがこれまで何十年にもわたって録り貯めた60曲ものデモ録音が入ったCDが送られてきたという。そこから厳選された12曲が絶妙の順序で配され、絶好調時のオカヴィル・リヴァーのアルバムさながらの緻密な装飾を施されている。

ロッキーが獄中で録音したというざらざらとした音質のオープニング「Devotional Number One」に少しずつオカヴィル・リヴァーの演奏が被さり、2曲目の「Ain't Blues Too Sad」に続く際に聴こえてくるカオスのようなノイズは、ライナーに載ったエピソードの一つ、ロッキーが自分の頭の中に鳴り響く「声」を追い払うために、部屋に何台も置いてあるテレビやラジオを全て違うチャンネルでフルボリュームで鳴らしていたというシーンを再現したものだろう。

アルバム中唯一の軽快なロック・ナンバー「Bring Back The Past」。2分ちょっとという短い曲だけど、一回一回入るドラムのオカズが全部ちょっとずつ違うという小技にニヤリとする。さすがトラヴィス君、いいドラム叩くよね。

“サイケデリック・ロックの始祖”の復活アルバムを期待した人にとってはちょっとした肩透かしなのかもしれないけれど、ここで聴けるのは、一度は地獄のような人生を経験した人がこの世に戻ってこられた喜びを訥々と歌う姿だ。最初に書いたようにこのアルバムにはそれほど期待していたわけではなかった僕が、最終曲「God Is Everywhere」の最期の音が途切れた瞬間、喉の奥に熱いものが込み上げてくるのを感じたほどだ。


ここには、『Berlin』の絶望がある。

ここには、『Bring The Family』の慈愛がある。

そしてここには、『Black Sheep Boy』の混沌がある。


10歳の頃のロッキーを撮ったレトロな裏ジャケはすごく味があるけれど、今名前を挙げたジョン・ハイアットの傑作をちょっと思い出させる、爺さんの顔のアップという、あまりジャケ買いの対象にはならないと思われるジャケットに包まれたこのアルバムが、どれだけ世間で話題になるのかはわからない。でも、僕にとってはこれは、音楽が好きで本当によかったという気持ちを今さらながら噛み締めさせてくれる、とても大事なアルバムだ。

ロッキーも別に、帰りを待ちわびていたわけでもない人に言われたくないかもしれないけれど、心を込めて「おかえりなさい」と言ってあげたい。

こんなに見事に構成されたアルバムをあまり細切れで聴いてほしくはないんだけど、アルバム3曲目「Goodbye Sweet Dreams」を使ったビデオを見つけたので、興味のある人は見てみて。ロッキーとウィル、おもちゃ屋で遊ぶ、の図。ウィル、いつの間にこんな髭面に?




posted by . at 16:59| Comment(5) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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