2010年06月13日

ふにゃふにゃ君の子孫たち

クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーのファーストは大好きだった。06年の7月にこのブログが始まって一ヶ月も経たないうちにそのアルバムのことはかなりの絶賛モードで書いているし、その年の個人的ベストアルバムの第二位に入れたぐらいだったからね。

翌年のセカンド『Some Loud Thunder』は、せっかくデイヴ・フリードマンなんて有名プロデューサーを連れてきたわりには、僕にはちょっと焦点の絞りきれていないアルバムに思えた。ちょうど、同じようにヘロヘロとしたイラストのジャケなのに、メンバーのロビー・ガーティンが描いたセカンドのそれが、ファーストのダーシャ・シシュキンのなんともいえない味のある浮遊坊主とは何かが違っていたのと同様に。

CYHSY.jpg Some Loud Thunder.jpg

あのバンドを特徴付けていたのは、なんといってもアレック・オンズワースのすっとぼけたボーカルだった。当時からよくデイヴィッド・バーンに例えられたそのボーカルとギターを担当し、全ての曲の作詞作曲だけでなく、セカンドアルバムではデイヴ・フリードマンと一緒にプロデュースまでこなしていたアレック。誰もがクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー(CYHSY)は彼のワンマンバンドだと思っていたはず。

2年ほど音沙汰がなかった後、昨年アレックのソロアルバムが届けられたときには、もう彼はCYHSYとしての活動は行うつもりはないということをどこかで読んだ。ワンマンバンドゆえのリーダーの傲慢?音楽性の違い?はっきりした理由はわからないけど、まあ、よくある話だ。


Nature Is A Taker.jpg Uninhabitable Mansions 『Nature Is A Taker』

「CYHSYのメンバーであるロビー・ガーティン、タイラー・サージェントがオ・ルヴォワール・シモーヌ(Au Revoir Simone)のアニー・ハート、ダーティー・オン・パーパス(Dirty On Purpose)のダグ・マーヴィン、ラディカル・ダッズ(Radical Dads)のクリス・ダイクンと結成した新バンド」なんて紹介文を読んだときも、僕はその最初の二人のメンバーがCYHSYでどの楽器の担当をしていたかを咄嗟に思い出すことすらできなかったぐらい。

オ・ルヴォワール・シモーヌは嫌いではないけど僕にとってはアルバムを何枚も集めるほどではないという程度。その他の2つに至っては僕は聴いたこともないバンドだ。つまり、あまり興味のないバンドのよく知らないメンバーが集まった、地味極まりないスーパーバンド(笑)程度の認識でこのアルバムを手に取ってみた。

かなりポジティブに期待を裏切られたね。飄々としたところはCYHSY譲り。なんで当時アレックだけが曲を作っていたんだろうと思えるほど、ユニークでありながら芯のしっかりした曲たち。リードボーカルがアレックほどエキセントリックじゃないから、むしろこっちの方が一般受けしてもおかしくないかも。さっきリンクした記事で僕はCYHSYのことを「疾走感のある たま」と表現したけど、CYHSYが知久寿焼が唄うたまだとしたら、こちらは柳原幼一郎の歌うたまと言えばいいか。

日本盤は最初のシングル「We Misplaced A Cobra In The Uninhabitable Mansion」が最後に収録された全11曲入り。そのボートラが本編最後の「We Already Know」から実にいい具合に繋がっていて、こういうボートラは大歓迎だね。お陰で、まだネット上では入手可能な「We Misplaced〜」の7インチシングルを買うモチベーションが減ってしまったけど。

アルバムタイトル『Nature Is A Taker』はその本編最後の曲の歌詞から取られたもの。そして、見てのとおり最初のシングルには自分たちのバンド名が(単数形だけど)織り込まれている。些細なことだけど、単にヒット曲のタイトルをアルバムにつけるとかじゃなく、こうやって言葉を大事にしている人たちはいいね。つい歌詞もちゃんと追ってしまう。

ちなみにその読みづらく書きにくいグループ名、アニハビタブル・マンションズ(Uninhabitable Mansions:住めない大邸宅)、なんでこんな名前にしたのかなと思っていたら、ライナーにそのことが書いてあった。

もともと別のバンドに属していたメンバーが音楽だけじゃなく絵画とかも含めた芸術を一緒につくろうと集まってきたプロジェクトがこのグループの始まりだったそうな。そして、このグループが作り出すこの音楽は、集まってくる人たちを包み込む、皆が属する大きな家みたいなもので、だけどその家には住むことはできないからっていうことなんだって。

なんかいいね、そういう考え方って。スタイル・カウンシルを始めた頃のポール・ウェラーもそういうこと言ってたっけ。あの人の場合は求心力が強すぎて、すぐ「ポール兄貴とその一味」みたいになってしまうから、なかなかコミュニティって感じがしないけどね。


Mo Beauty.jpg Alec Ounsworth 『Mo Beauty』

発売されてからしばらく経ってしまったけど、このアルバムも去年のお気に入りの一枚。もともとアメリカではどこのレーベルにも属さずにアルバム作成からディストリビュートまで全て自分たちで行っていたことも話題になったCYHSY時代とはうって変わって、名門アンタイレーベルから出されたアレック・オンズワースのデビュー・ソロアルバム。

プロデューサーがロス・ロボス(Los Lobos)のスティーヴ・バーリンで、バックバンドが(僕はよく知らない人が多いけれど)ニューオーリンズの名うてのセッションミュージシャンだというこのアルバム。歌だけを聴くとあの頃のままのアレック節なのに、それがこんなに骨太で泥臭いサウンドに乗ったときの心地よい違和感。


Skin And Bones.jpg Flashy Python 『Skin And Bones』

てっきりこれからはあの南部路線で行くのかと思いきや、『Mo Beauty』発売からわずか3ヶ月で今度はこれが出た。フラッシー・パイソン(Flashy Python)名義のファーストアルバム。アレックの新バンドなのかな。大所帯のバンドメンバーには僕の知らない名前も多いけど、『Mo Beauty』にも参加していたマット・サットンもいれば、アニハビタブル・マンションズに行ったはずのタイラー・サージェントもいる。喧嘩別れしたわけじゃなかったのか。

こちらはどちらかというとCYHSYがそのまま進化したという感じの音になっている。2曲目「The Lady Is A Ghost」のエンディングがぐにゃぐにゃと失速して途切れるところなんて、まるであのCYHSYのファーストのジャケをそのまま音にしたみたい。とはいえ、「Ichiban Blues」なんて題名のベタベタなブルーズがあると思えば、アルバム最後の「Avalon's Snake Breath」は3部構成になった11分を超える大曲だ。

アマゾンにリンクして気づいた。これ日本盤が出ていて、しかもボートラ3曲入りなんだね。カスタマーレビューには「ボーナストラックも良いですよ」なんて書いてあるぞ。うーん、しょうがないな。また買い替えか。


CYHSYの音をうまく視覚的に表してあると思っていたあのファーストのジャケットの浮遊坊主と、裏ジャケのふにゃふにゃ君たち。あれから4年ちょっと経って、あいつらがこうやっていろんなバンドに分かれたりくっついたりしながら、皆同じようにぐにゃぐにゃとした疾走感のある小気味いい音を出し続けていくなんて(しかもこんなハイペースで)。これから散財させられる予感も含めて、こいつは嬉しい誤算だったね。


posted by . at 15:03| Comment(2) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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