2010年06月06日

途中までのサクセスストーリー - Cats On Fire

Dealing In Antiques.png Cats On Fire 『Dealing In Antiques』

以前何度か北欧特集をしたときに、どうもフィンランド産がうまく集まらないことがあって、一時は意識してフィンランドものばかりを探していたことがある。やたらとメタル系か伝統音楽が多いんだよね。そういうのもそんなに大嫌いなわけではないんだけど。

このブログには取り上げなかったけど、去年の暮れにセカンドアルバムを手に入れたこのキャッツ・オン・ファイアは、そんな中でも聴いてすぐに気に入ったバンドのひとつ。yascd014に入れたバーニング・ハーツ(Burning Hearts)は、このバンドのドラマーであるHenry Ojala(ヘンリー・オヤラと読むのかな)の別プロジェクトだ。

先月出たばかりのこの新譜は、『古物商』というタイトルから想像がつくとおり、古いシングル曲やデモ録音などを集めたもの。まだ2枚しかオリジナル・アルバムを出していないバンドがもうこんな倉庫の棚卸しみたいなアルバムを出すのかと最初は思ってしまったんだけど、

聴いてみるとこれが、オリジナル・アルバムを凌ぐほどの予想外の内容。古くは02年に、自分たちの故郷であるフィンランド北部ヴァーサの寒く湿った部屋で録音されたという曲から、新しいものは今年の春に出来たばかりの新曲まで、全20曲。

収録されている順序は必ずしも年代順ではなく、その新曲「Your Woman」から始まり、最後は昨年末に録音された「The Hague」で終わっていて、残り18曲はあくまでもアルバムの流れ重視で並べられている。録音状態や演奏技術的にはちょっとバラバラなようにも思えるが、違和感を感じるほどではない。

これまでのアルバムは幾何学模様だったり簡単なイラストだったりだけど、今回のは水に半分浸かったディナーテーブルという、ちょっと不思議な絵。一時のビューティフル・サウスのジャケを思い出させるね。

上の写真はちょっと小さくてディテールまではわからないだろうけど、この絵もブックレット内部の写真も、粒子の粗い昔の総天然色印刷みたいないい雰囲気。

ブックレットには19に分かれた文章が、タイトルっぽい太字と歌詞っぽいイタリックで載っているので、てっきり(カバーである)「Your Woman」以外の歌詞が載っているのかと思いきや、これが02年から今年までのこのバンドの変遷を描いた年代記だった。

それぞれの文章の最後に、その当時に作られた曲の歌詞の一部が載っていて、歌詞の全てを聴き取れるわけじゃないのに、その曲が作られた当時の出来事や背景なんかがすっと頭に入ってくる。

ただ、さっきも書いたとおり、実際に収録されている曲順が年代順じゃないから、CDを聴きながらこれを読んでいるとちょっと混乱するんだけどね。かと言って、収録曲順に文章を読むと余計にわけがわからなくなるのでご注意。

音楽シーンなんて存在しなかったヴァーサでバンドを始め、大学に進学する際に解散しようとしたことや、04年の大きなメンバー交代を経て、トゥルクやヘルシンキに出て国内ではどんどん大きな存在になっていったこと、

フィンランドでは特別な存在だと思っていた自分たちが、ロンドンに出てみたら、他の一万ものバンドに埋もれてしまうような存在だと気づいたことなど、どこにでもありそうな田舎のバンドのサクセスストーリー。

一番最後の「The Hague」に添えられた文章は、「さあ、どうしよう?」だ。もうここで諦めることもできる。これ以上の成功なんて求めずに、ペースを落とすことだってできる。でも、そこに抜粋されたその曲の歌詞「僕は聖者になりたい/僕は勇敢でいたい」は、この19章に分かれたサクセスストーリーがまだ途中までしか書かれていないことを示唆しているんじゃないだろうか。

他のバンドに埋もれてしまう?確かに、スミスがいなければこの世に生まれてこなかったと思える音ではある。それでも、今から1年ちょっと前にこのブログで取り上げ、今年になってデビューアルバムが発表されて以来、あちこちの輸入盤店で話題になっているノーザン・ポートレイト(Northern Portrait)同様、モリッシーとジョニー・マーが生み出した音楽を、これだけ拡大再生産的に継承できるバンドが、ロンドンだろうと何処だろうと、他にいくつあるというんだろう。


posted by . at 15:03| Comment(2) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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