2010年03月07日

yascd015 架空の世界のThe Knack

このアイデア自体は、思い起こせば3年半前にこのyascdという企画を始めた当初には既にあって、それをなんとか選曲するところまで持っていったのが去年の2月頃。北欧とかレゲエのやつに先を越されながら、そのうち完成させようと思っているうちに、今年の2月14日が来てしまった。バレンタインデーじゃないよ、ダグ・ファイガーの命日。まさか追悼特集になってしまうとは。

80年前後に洋楽を聴いていた人じゃないとピンと来ないかもしれないけど、「My Sharona」という曲で彗星のようにデビューし、その後数枚のアルバムを出すものの、泣かず飛ばずであっという間に消えてしまった、一般的には一発屋の代名詞みたいな扱われ方をされていたナック。

キャッチーなリフとメロディー。格好いいギターソロ。耳に残るサビ。「My Sharona」は確かにあれだけヒットする要素を全て兼ね備えた佳曲だと思う。でも、その曲が収められたファーストアルバム『Get The Knack』を聴いて、その曲が必ずしもアルバムで一番いい曲というわけではなかったのを思い知ったのは僕だけではなかったはず。

でも、全米ナンバーワンを獲ったその曲の後に同じアルバムからカットされた「Good Girls Don't」は11位(その頃には誰もが既にアルバムを持っていただろうからね)、セカンドアルバムからの「Baby Talks Dirty」が38位(だって「My Sharona」の二番煎じなんだもの)、続く「Can't Put A Price On Love」が62位、サードからの「Pay The Devil」が67位と、二次曲線を描くようにチャートアクションが鈍っていき、やがてドラマーが脱退して活動停止。

10年後に復活アルバムを出すもチャートインすらなかったのが、なんとその3年後に映画『Reality Bites』の挿入曲として「My Sharona」が再度大ヒット。改めてこの曲だけの一発屋としての地位を確立(笑)

活動再開した頃や、『Reality Bites』が世に出た頃などに、ナックのベストアルバムが何種類か発売されているんだけど、どれもこれも見事に1曲目が「My Sharona」。それらアルバムの曲目表を並べてみると、まるで一発屋のベストアルバムの見本市のようだ。

なんて不幸なことだろう。こんなにいいバンドがあの1曲だけで評価され続けてしまうなんて。いっそのこと「My Sharona」さえヒットしなければ、このバンドは79年のデビューから、少なくともダグが病に倒れる06年までの30年近くにわたって、パワーポップの重鎮みたいな立ち位置で、熱狂的なファンに支持され続けていたはずなのに。その名前を呼ぶときに誰も苦笑いなどすることもなくね。

そうだ、もしナックが「My Sharona」を出していなかったら、もう少し地味な(でも佳曲がいっぱい詰まった)アルバムでデビューしていたとしたら、一体どんなことになっていただろう。そんな空想をかたちにしたのが、今回のyascd。ときは197X年、とあるアメリカの地方都市で、4人の若者が、ライヴハウスとレンタルスタジオを往復するような毎日の中でようやく形にしたアルバムの話から…

『The Knack』

Side A
1. Good Girls Don't
2. Another Lousy Day In Paradise
3. Your Number Or Your Name
4. I Want Ya

Side B
1. Baby Talks Dirty
2. Just Wait And See
3. That's What The Little Girls Do
4. (Havin' A) Rave Up


「Love Me Do」を真似たかのような冒頭のハーモニカや、あちこちの曲に出てくる裏声の「ウー」とか「ウー、ラララ」とかいうコーラスなど、ちょっとビートルズを意識しすぎなところはあるけれど、新人バンドのデビューアルバムとしては十分すぎるほどの出来栄え。B面ラストの「(Havin' A) Rave Up」は、ビートルズがそれまでコンサートのエンディングとして演奏していた「Long Tall Sally」のカバーに替わる曲として自作した「I'm Down」を、さらにパワーアップしたみたいだ。

バンドがこのアルバムからシングルカット曲として選んだのは、B面トップの「Baby Talks Dirty」。実際の世界では上に書いたようにチャートの38位にまで上がったものの、そのあまりの「My Sharona」の二番煎じ振りに逆にファンが離れて行ってしまったといういわく付きの曲だが、たとえ「My Sharona」のないこの架空の世界にあっても、残念ながらそれほど魅力的な曲というわけではない。なにより、この変なあえぎ声みたいなのはやめてほしかったと、おおむね好評を受けたこのアルバムの中でも唯一の汚点。いいアルバムは作るものの、シングル曲を選ぶセンスがイマイチという余計な評価まで頂くことになってしまった。


現実の世界では、これらの曲は次の3枚のアルバムに収録されている。

Get The Knack.jpg
『Get The Knack』 1979年
A-1、A-3、B-3

But The Little Girls Understand.jpg
『...But The Little Girls Understand』 1980年
A-4、B-1、B-4

Round Trip.jpg
『Round Trip』 1981年
A-2、B-2

アマゾンにリンクを張ってみて気づいたんだけど、セカンドとサードはもう廃盤なんだね。迷走気味のサードはともかく、セカンドはファーストにも負けない名盤だと思うんだけど。やっぱりオープニングが「Baby Talks Dirty」だというのが仇になったのか。オリジナル・ドラマーのブルース・ギャリー(Bruce Gary)が在籍していたのはここまで。


ヒットチャートには縁がなかったものの、耳の早いパワーポップファンの間では相当な話題になり、ライヴハウスは常に満員。そんな中で書き溜めた曲を、またしてもA面4曲・B面4曲という昔ながらのシンプルなフォーマットにして発表したのがこのセカンドアルバムだ。

『The Knack 2』

Side A
1. It's Not Me
2. Smilin'
3. Seven Days Of Heaven
4. Can I Borrow A Kiss

Side B
1. Love Is All There Is
2. One Day At A Time
3. Ambition
4. She Says


基本的な曲の路線はファーストから変わらないものの、よりメロディアスに、よりハードに昇華した曲が次から次へと繰り出されてくる。「Love Is All There Is」での、あからさまにビートルズの「And Your Bird Can Sing」を真似たようなギターソロが、相変わらずこのバンドがどこから来たかを示唆している。

更にファン層を広げ、このセカンドアルバムはパワーポップ界の隠れた名盤扱いすらされるようになるのだが、残念ながら、またしてもチャート的にはノー・アクション。バンドのメンバーにとっては渾身の作だっただけに、落胆は隠せないようだ。


現実の世界に戻ると、これらの曲は、活動再開後のアルバムに収録されている。

Serious Fun.jpg
『Serious Fun』 1991年
B-2

Zoom.jpg
『Zoom』 1998年
A-2、A-4、B-1、B-3、B-4

Normal As The Next Guy.jpg
『Normal As The Next Guy』 2001年
A-1、A-3

Re-Zoom.jpg
『Re-Zoom』 2002年
A-2、A-4、B-1、B-3

98年の『Zoom』は、個人的には『Get The Knack』に負けず劣らず、ナックの最高傑作だと思っている。どうやら彼ら自身もそう思っていたようで、3年後に(ジャケットもなんだか不気味な)『Normal As The Next Guy』というちょっと焦点の絞りきれていない凡作を出した後、ボーナストラックを入れてジャケットを替えて『Re-Zoom』として再発。

その『Zoom』『Re-Zoom』でやたらと手数の多い、甲高い音のドラムを叩いているのは、なんとテリー・ボジオ(Terry Bozzio)。『Normal As The Next Guy』のドラマー(一部)はミスター・ビッグのパット・トーピー(Pat Torpey)だし、いかに有名ドラマー達がこぞってこのバンドに入りたがっていたのかがわかるね。でも、さすがに『Serious Fun』のビリー・ワード(Billy Ward)って、まさかブラック・サバスのビル・ワードのことじゃないよね。



自信作を立て続けに2枚出し、目の前で熱狂するファンが日に日に増えていくのを目の当たりにしていても、それがなかなかアルバムの売り上げに繋がらない。そこで今度は、4人が最初に集まってバンドを始めた頃にコピーしていた、自分たちの出発点とも言える曲、ライヴでもいつもアンコールに演奏して大喝采を受けている、そういうカバー曲を集めたEPを作ってみることにした。

『The Knack Covers』

Side A
1. Girls Talk (Elvis Costello)
2. I Knew The Bride (Nick Lowe)
3. No Matter What (Badfinger)

Side B
1. The Hard Way (The Kinks)
2. Teacher Teacher (Rockpile)
3. Don't Look Back (Bruce Springsteen)


アメリカのバンドだというのに、この新旧の英国パブロックにどっぷり浸かったようなマニアックな選曲。デビュー当初からビートルズを意識した曲作りをしていた彼らが、同様にこれらのイギリスのバンドに惹かれていたのはちっとも不思議な話ではないが。


『...But The Little Girls Understand』のB面トップを飾っていた「The Hard Way」以外のこれらの曲は、今では98年のベストアルバム『Proof』、02年の『Re-Zoom』、および同年にリマスター発売された初期のアルバムに収録されているが、僕の知っている限りでは、2曲は下記のトリビュートアルバムが初出のはず。

Come And Get It.jpg
『Come And Get It - A Tribute To Badfinger』 1997年
A-3

One Step Up Two Steps Back.jpg
『One Step Up / Two Steps Back: The Songs Of Bruce Springsteen』 1997年
B-3

前者は、ナックの他には、コットン・メイザー、ブラッド・ジョーンズ、20/20、クリス・ヴォン・スナイダーン、エイミー・マンなど、その筋の人が聞けば大喜びの面子がバッドフィンガーをカバーしているという好アルバム。

後者も、名前を書き連ねたらきりがないほどの有名どころから通好みまでの凄い面子が揃った2枚組の大作。ライナーによると、この「Don't Look Back」は、ブルースがナックにプレゼントし、『Get The Knack』に収録されるはずだったところ、やはり自分のアルバムに入れるからと待ったがかかったという曲らしい。結局ブルース自身のバージョンは98年の『Tracks』まで陽の目を見ることはなかったのだが。



このEPも小ヒットにとどまり、彼らはまたしてもライヴハウスとレコーディングスタジオを転々とする日々を過ごす。次こそは、アメリカ中、いやそれどころか世界中で大ヒットするようなアルバムを作ってやろう。そんな気持ちで今日もまた安いスタジオにこもり、メンバー同士膝を突き合わせるようにして一緒に曲作りを続けている。今作っているこの曲はなかなかものになりそうだ。なんとかこれを次のシングルにできるように、うまく練り上げてみよう。そんなスタジオでの一場面を切り取った風景をシークレット・トラックにして、このミックスCDを終えよう。


posted by . at 15:29| Comment(9) | TrackBack(0) | yascd | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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