2010年03月28日

雨の休日に

今日は友達に教えてもらったCD屋さんの話。

雨と休日という不思議な名前をもったそのお店、「穏やかな音楽ばかりを集めたセレクトCDショップ」というコンセプトのもと、“爽やかな朝に”とか“読書に音楽は要りますか”とか“大人も聴けるこども音楽”とか、そういうテーマでいろんな種類のCDを売っている。

キャロル・キングとかブライアン・イーノとかキース・ジャレットとかの誰でも名前を知っているようなのから、うちのブログに来てくださっている人なら大抵わかるだろうというイノセンス・ミッションとかキングス・オヴ・コンヴィニエンスとかもあれば、僕でもほとんど名前も聞いたことのないような人たちのまで。クラシックも沢山あるね。“みんなクラシックを聴きたがっている”というそのまんまのテーマもある。

いろんなアルバムから少しずつ、45秒ずつ試聴できるようになっているのがありがたい。きれいなジャケと解説をたよりにいろいろ試し聴きしてみるのが楽しいよ。中には僕にはちょっと甘すぎて受け付けないものもあるけど、気に入ったのは何度も聴いてしまう。

実店舗が西荻窪にあるそうで、なんでも雨の日に来店して何か買っていくと、次回5%割引してくれるんだそうだ。偶然だけど、実店舗のCDラックの写真、僕がちょっと前に書いたフリカ(flica)のCDが2枚写っているね。なんだか、友達の家に初めて遊びに行って自分と同じコレクションを見つけたみたいで、ちょっとうれしい。西荻窪か。うちからだとそんなに遠いわけじゃないから、今度行ってみようかな。わざわざ雨の日に足を運ぶのは億劫だけど。


3月が眠る.jpg 『3月が眠る』 Paniyolo

そこで買った一枚。パニヨロって読むのかな。高坂宗輝というギタリストのアクースティック・ソロ・アルバム。ギター以外の音もちょっとだけ入ってるけど。曲によっては、ちょっとペンギン・カフェ・オーケストラっぽくもある。

昨日暖かかったのに今日はまたうんと寒いなんていうのが交互に来たり、もう半分ぐらい桜が咲いているのに風が冷たくてコートの前を閉じないと歩けないとか、そういう春なんだか冬なんだかよくわからない今日この頃の気候をうまく表した音。あくまでもBGM以上のものではないんだけど、朝の通勤電車でウォークマンに入れたこれをつい聴いてしまったら、もののみごとに会社に行く気分が失せてしまったぐらいの威力はある(笑)

このアルバム、このお店での先行限定販売ということで、きれいなポストカードが2枚付いてきたよ(今はもうポストカードは終了したらしい)。4月からはSchole Recordsのショップでも販売されるらしいけど、どちらにしてもあまり簡単に入手できるというわけではない。さっきの雨と休日のサイトで6曲とも全部試聴できるから、気になる人はどうぞ。


春待ち.jpg 『rain and holidays vol.1 春待ち』

こちらももう在庫は切れてしまったようだけど、僕が買ったときにはまだこの一周年記念サンプラーCD-Rがおまけで付いてきた。『春待ち』というタイトルがしっくりくる、さっきの『3月が眠る』と同じ色合いを持ったアルバム。聴いてるとなんだかまどろんでくる。決して悪い意味じゃなくてね。こういうのもらってしまうと、気に入ったのをどんどん買いたくなってしまうんだよね。まあ、それが目的でこういうサンプラーを配っているんだろうけど。

こういう音楽の性質上、何枚ものCDをどんどん買い込んでいくというような感じじゃないけれど、なんだかついサイトを見てしまい、わりと頻繁にアップされる新譜をこまめにチェックしてしまうよ。こういう良質なお店は応援してあげたくなるね。やっぱり次の休日に雨が降ったら、出かけてみようかな。


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2010年03月22日

Jools Holland And His Rhythm & Blues Orchestra live in Tokyo

Jools Holland Blue Note.jpg

どうも今日は朝から体調が悪い。昨晩がっつり飲み食いしたツケが回ってきたのか、休日だというのにいつも会社に行くのと同じ時間に、頭と腹が痛くて起きてしまったぐらい。

夕方になってもどうも体の節々が痛く、元気が出ない。風邪かな。でも鼻やのどはなんともないしな。なんかヘンな病気かも。

という結構グダグダな調子で行ってきた、僕にとっては初めてのブルーノート東京。どうも最近立て続けにビルボードやらブルーノートばかりだな。家に帰ってきた今もなんだかぼーっとしてるから、ちょっと手短にまとめよう。

3日間それぞれ2回公演、トータル6公演の初回。予定時間の6時を数分過ぎたところでメンバーが次々に登場。今回のリズム&ブルーズ・オーケストラは総勢12名なんだけど、最初に出てきたのは、ヴォーカル3名を除いた9名。

ジュールズ・ホランド(Jools Holland) ピアノ
ギルソン・レイヴィス(Gilson Lavis) ドラムス
マーク・フラナガン(Mark Flanagan) ギター
デイヴ・スウィフト(Dave Swift) ベース
フィル・ヴィーコック(Phil Veacock) サックス
リサ・グレアム(Lisa Grahame) サックス
ジョン・スコット(Jon Scott) トランペット
ウィンストン・ロリンズ(Winston Rollins) トロンボーン
リコ・ロドリゲス(Rico Rodriguez) トロンボーン

1曲目のインストは、アルバム『Lift The Lid』のオープニングの「Start Up」だったかな。なにしろ、彼のCDは5−6枚持っているのに、全然曲名を覚えていないもんだから、今日も有名曲のカバーバージョン以外はちっともタイトルがわからなかった。

音、いいなあ。座っていた席も中央の前寄りというなかなかいい場所だったせいもあるけど、こないだのビルボードライブとは大違い。これだけ沢山の楽器の音が、それぞれきちんとバランスを取ってきれいに聴こえる。

初めて生で観るギルソンのドラムが超格好いい。もうすっかり真っ白になった頭をオールバックにした姿は、ちょっと体格のいいニック・ロウみたい(というぐらい、顔もしわだらけ)。ほぼ全員が黒のスーツを着ている中、彼だけが真っ赤なジャケットというのもいかすね。シンバルを下から上に叩きあげたり、ドラムを叩きながらスティックをくるんと回すのがいいね。それも、よくある右手が空いているときに暇つぶしに回すんじゃなく、忙しくドカドカ叩きながらくるんってやるのがなんともクール。

2曲目がジュールズのリード・ヴォーカル。その次の曲からかな、二人の女性ヴォーカリストがバッキング・ヴォーカルで登場。

ルイーズ・マーシャル(Louise Marshall)
ロージー・ホランド(Rosie Holland)

この二人は上のプロモ写真には載っていないね。ロージーはジュールズの娘さんなのかな。この後1曲、「I Got My Mojo Working」を歌ったんだけど、まあ、ご愛嬌程度。決して下手なわけじゃないんだけどね。ちょっとあんなにゴツゴツした曲をこなせるような声質ではないかな。

一方、ルイーズはすごく上手だった。「Tennessee Waltz」歌ったっけ。こんなひょろっとした女性があんなにソウルフルに歌えるなんて、すごいな。聞きほれてしまうよ。

と思っていたら、中盤になって登場したルビー・ターナー(Ruby Turner)を観て度肝を抜かれてしまった。一度見たら二度と忘れられないその容貌。胸囲3メートルぐらいあるんじゃないか。もの凄い歌い方をするね。「Trouble In Mind」他数曲を叫ぶように歌って、退場。なにか、台風一過という感じ。

一番右奥でひっそりトロンボーンを吹いていたリコ・ロドリゲスが、トロンボーンも持たずにステージ中央に出てきたと思ったら、いきなり歌い始めたよ。顔真っ赤にしてニコニコしながら、音程の不確かな歌がほんとに可愛い。いや、こんなおじいちゃん捕まえて「可愛い」もないもんだけど、これはいいもの見せてもらったよ。歌い終わったらまたひょこひょこと後ろに下がっていった。お疲れさま。

普通、バンドのギタリストって一番目立つ位置にいるもんだけど、マーク・フラナガンはリコのちょうど反対側、一番左奥に椅子を置いて、そこで地味にカッティングしていたかと思いきや、ギターソロが回ってきた途端にいぶし銀のような流麗なソロを弾く。音も格好いいけど、その見かけがとてつもなく絵になる人だね。山高帽を被った堀の深い顔立ちは、J.J.ケールを少しだけ若くしたようにも見える。赤紫のサテンのボトムがいいね。

観客を煽る係(?)のフィルと、その横で一所懸命サックスを吹いている小柄なリサのコンビもいいし、ギルソンの横でアップライト・ベースに負けないぐらいの長身でベースを弾くスキンヘッドのデイヴも、目立たないけど要所を締めているね。残念ながら僕の位置からは、もう一人のトロンボーニスト、ジョンがちっとも見えなかったんだけど、本当にこのバンド、それぞれのキャラが立っているよ。いいバンドだな。

肝心のジュールズのことを書いてないね。予想通りずんぐりした体格の彼は、ギルソンとは違って、スクイーズ後期から全然見かけが変わっていないように思える。ピアノは当然すごくいい。僕の位置からは手元がまったく見えなかったのが残念だけど。1曲だけギターを弾いた曲があったな。ギターを持ったジュールズというのがすごく新鮮だった。欲を言えば、もう少し彼自身のヴォーカル曲を聴きたかったな。

ちょうど1時間で本編終了。すぐにアンコールに応えて出てきて、プリンス・バスターの(というか、今日の面子的にはリコも参加したスペシャルズの)「Enjoy Yourself」をはじめ、4曲ほどを演奏。期待していたスクイーズの曲はひとつもなし。うーん、ちょっと残念。

一番前のテーブルにいたお客さんたちは(うち一人は僕も知っている人だ)終演後ジュールズとルビーに握手してもらっていたね。いいな。

キャッシャーが空くのを待ってから外に出ても、まだ7時半ぐらい。本当ならもう少し飲んで帰りたかったんだけど、今日の体調ではどうにも無理。一緒に駅まで歩いていった友達に地下鉄の席を譲ってもらった僕は、なんだかリコ爺さんよりも年老いた気分だったよ。

さて、今日はいいライヴ観たし、風呂入って暖まってさっさと寝ようかな。おやすみ。



<3月25日追記>
ブルーノートのサイトに僕の観た回のセットリストが上がっていたので転載させてもらおう。ブログの方には写真も沢山載ってるけど、それは持ってくると申し訳ないので、見たい人はそちらをどうぞ。ちなみに、セカンドセットはちょっとだけ違う曲を演ったんだね。となると、二日目以降も気になるなあ。

1.DOUBLE O BOOGIE
2.FAT FRED
3.WHEEL OF FORTUNE
4.I GOT MY MOJO WALKING
5.HIGH STREET
6.I WENT BY
7.TENNESEE WALTZ
8.SALLY SUZAS
9.L.O.V.E
10.RECONSIDER BABY
11.HONEY HUSH
12.THE INFORMER
13.TROUBLE IN MIND
14.THIS TRAIN
15.BUMBLE BOOGIE
16.ENJOY YOURSELF(IT'S LATER THAN YOU THINK)
17.YOU ARE SO BEAUTIFUL
18.WELL ALRIGHT
posted by . at 22:20| Comment(3) | TrackBack(0) | コンサート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月13日

秒殺 - Sambassadeur

European.jpg Sambassadeur 『European』


ジェットコースターに乗るのは好きかな。あんまり最新の、後ろ向いたまま何十メートルも垂直に落とされたり、椅子にも座らず足元ぶらぶらさせて何回転もさせられたりするようなのじゃなくて、わりと昔ながらの、どこの遊園地にもあるようなやつを想像してほしい。

一番前の席に座り、セーフティー・バーを下ろして、さあ出発。カタカタカタと音を立てながら、車両が上に向かって進みはじめる。背中に自分の体重を感じる。周囲の景色が少しずつ下のほうに消えて行き、やがて目の前にはまっすぐなレールと空しかなくなる。

カタカタカタ。ゆっくりと頂上が近づいてきた。小さな子供の頃なら、今この瞬間から味わうことになるスリルに押しつぶされて、もう目をつぶっていたかもしれない。カタカタカタ。目の前のレールが途切れる。


CDショップの試聴機でこのアルバムの1曲目を聴いたときに僕の頭に浮かんだ映像がこれだ。ロイ・ビタンが奏でる「Backstreets」のイントロさながら、あざといまでにセンチメンタルな、ゆったりしたピアノのイントロに、ドラムとベースが入ってスピードアップする瞬間。続けざまにかぶさる豪華なストリングス。これはやられた、と思った。

でもよくあるんだよな、1曲目だけこういう華やかな曲で、後は平凡な曲だけが10個ほど詰まったつまらないアルバムって。なんて勘繰りながら、その1曲目を最後まで聴かずに試聴機のスイッチを押し、2曲目へ。

その2曲目は、5秒も聴いていられなかった。嫌な曲だったんじゃない。それ以上、試聴機なんかでつまみ聴きするのがあまりにももったいないと思ったからだ。

スウェーデン発、これがサードアルバムとなる、サンバサダーの『European』。僕はあまりよく知らなかったんだけど、その筋では結構有名なバンドなんだね。買って帰ってネットで調べたら、もうあちこちで取り上げられていたよ。

インストを1曲含んだ、全9曲入り。4人のメンバーの誰がどの楽器を演奏しているのかは書いてないけど、メンバー以外にドラム、ピアノ、サックス、ギター、パーカッション、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどの奏者が参加している(メンバー4人は一体何を演奏しているんだ?笑)。

そんなに沢山の楽器が入ってはいるけれど、決して分厚い音じゃない。こっちの勝手な思い込みかもしれないけれど、いかにも北欧らしい、豪華ながらもすっきりした音。ちょっとハスキーな女性ヴォーカルもいい。

試聴機のヘッドフォンで聴いてももちろんよかったんだけど、ひとつ発見したのは、ちゃんと部屋のスピーカーの前に座って、自分の耳とスピーカーとの間の空気を少し大きな音で震わせながら聴くと、これがまた格別にいい。いいプロダクションって、こういうところでわかるよね。

「ん?」っていう声が冒頭にぽつりと入っている美しいギター・インストの「A Remote View」がふっと終わり、次の「Sandy Dunes」のドラムの乱れ打ちみたいなイントロにつながる瞬間で、再びジェットコースターが頂上から落ちる瞬間の気分を味わえる。

カセットテープを巻き戻すような音で始まり終わる最終曲「Small Parade」はブックレットに歌詞が載っていなかったので調べてみたら、元ガイデッド・バイ・ヴォイセズのトビン・スプラウト(Tobin Sprout)がマタドール・レコードのオムニバスに提供した曲のカバーという、なんともマニアックな選曲だった。

ほぼ捨て曲なしと言ってもいいぐらい気に入ったこのアルバム、内容に負けず劣らず素敵なのが、ブックレット。上に載せた表ジャケと同じ淡い色合いの水彩画が、裏ジャケ含めてあと4枚載っている。どれもこれも、そのまま額に入れて部屋に飾りたいぐらい。

キム・ステンスランドっていう人が描いたのか。あ、ブックレットにアドレスが載ってる。うわ、この人の絵、かなり好き。サイトの上の方の小さなサムネイルだけ見てると写真かと思うけど、拡大するともちろん全部水彩画なんだね。

上に書いたようないきさつで、僕は最初に聴いて数十秒という単位で買ってしまったけど、今からこのアルバムを買おうという人は、ちょうど今日、ディスクユニオンから国内向け仕様の日本盤が出たようなので、そちらを買って、アップル・クランブルの松本さんがライナーに書いた内容を僕に教えてください(笑)
posted by . at 17:44| Comment(2) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月07日

yascd015 架空の世界のThe Knack

このアイデア自体は、思い起こせば3年半前にこのyascdという企画を始めた当初には既にあって、それをなんとか選曲するところまで持っていったのが去年の2月頃。北欧とかレゲエのやつに先を越されながら、そのうち完成させようと思っているうちに、今年の2月14日が来てしまった。バレンタインデーじゃないよ、ダグ・ファイガーの命日。まさか追悼特集になってしまうとは。

80年前後に洋楽を聴いていた人じゃないとピンと来ないかもしれないけど、「My Sharona」という曲で彗星のようにデビューし、その後数枚のアルバムを出すものの、泣かず飛ばずであっという間に消えてしまった、一般的には一発屋の代名詞みたいな扱われ方をされていたナック。

キャッチーなリフとメロディー。格好いいギターソロ。耳に残るサビ。「My Sharona」は確かにあれだけヒットする要素を全て兼ね備えた佳曲だと思う。でも、その曲が収められたファーストアルバム『Get The Knack』を聴いて、その曲が必ずしもアルバムで一番いい曲というわけではなかったのを思い知ったのは僕だけではなかったはず。

でも、全米ナンバーワンを獲ったその曲の後に同じアルバムからカットされた「Good Girls Don't」は11位(その頃には誰もが既にアルバムを持っていただろうからね)、セカンドアルバムからの「Baby Talks Dirty」が38位(だって「My Sharona」の二番煎じなんだもの)、続く「Can't Put A Price On Love」が62位、サードからの「Pay The Devil」が67位と、二次曲線を描くようにチャートアクションが鈍っていき、やがてドラマーが脱退して活動停止。

10年後に復活アルバムを出すもチャートインすらなかったのが、なんとその3年後に映画『Reality Bites』の挿入曲として「My Sharona」が再度大ヒット。改めてこの曲だけの一発屋としての地位を確立(笑)

活動再開した頃や、『Reality Bites』が世に出た頃などに、ナックのベストアルバムが何種類か発売されているんだけど、どれもこれも見事に1曲目が「My Sharona」。それらアルバムの曲目表を並べてみると、まるで一発屋のベストアルバムの見本市のようだ。

なんて不幸なことだろう。こんなにいいバンドがあの1曲だけで評価され続けてしまうなんて。いっそのこと「My Sharona」さえヒットしなければ、このバンドは79年のデビューから、少なくともダグが病に倒れる06年までの30年近くにわたって、パワーポップの重鎮みたいな立ち位置で、熱狂的なファンに支持され続けていたはずなのに。その名前を呼ぶときに誰も苦笑いなどすることもなくね。

そうだ、もしナックが「My Sharona」を出していなかったら、もう少し地味な(でも佳曲がいっぱい詰まった)アルバムでデビューしていたとしたら、一体どんなことになっていただろう。そんな空想をかたちにしたのが、今回のyascd。ときは197X年、とあるアメリカの地方都市で、4人の若者が、ライヴハウスとレンタルスタジオを往復するような毎日の中でようやく形にしたアルバムの話から…

『The Knack』

Side A
1. Good Girls Don't
2. Another Lousy Day In Paradise
3. Your Number Or Your Name
4. I Want Ya

Side B
1. Baby Talks Dirty
2. Just Wait And See
3. That's What The Little Girls Do
4. (Havin' A) Rave Up


「Love Me Do」を真似たかのような冒頭のハーモニカや、あちこちの曲に出てくる裏声の「ウー」とか「ウー、ラララ」とかいうコーラスなど、ちょっとビートルズを意識しすぎなところはあるけれど、新人バンドのデビューアルバムとしては十分すぎるほどの出来栄え。B面ラストの「(Havin' A) Rave Up」は、ビートルズがそれまでコンサートのエンディングとして演奏していた「Long Tall Sally」のカバーに替わる曲として自作した「I'm Down」を、さらにパワーアップしたみたいだ。

バンドがこのアルバムからシングルカット曲として選んだのは、B面トップの「Baby Talks Dirty」。実際の世界では上に書いたようにチャートの38位にまで上がったものの、そのあまりの「My Sharona」の二番煎じ振りに逆にファンが離れて行ってしまったといういわく付きの曲だが、たとえ「My Sharona」のないこの架空の世界にあっても、残念ながらそれほど魅力的な曲というわけではない。なにより、この変なあえぎ声みたいなのはやめてほしかったと、おおむね好評を受けたこのアルバムの中でも唯一の汚点。いいアルバムは作るものの、シングル曲を選ぶセンスがイマイチという余計な評価まで頂くことになってしまった。


現実の世界では、これらの曲は次の3枚のアルバムに収録されている。

Get The Knack.jpg
『Get The Knack』 1979年
A-1、A-3、B-3

But The Little Girls Understand.jpg
『...But The Little Girls Understand』 1980年
A-4、B-1、B-4

Round Trip.jpg
『Round Trip』 1981年
A-2、B-2

アマゾンにリンクを張ってみて気づいたんだけど、セカンドとサードはもう廃盤なんだね。迷走気味のサードはともかく、セカンドはファーストにも負けない名盤だと思うんだけど。やっぱりオープニングが「Baby Talks Dirty」だというのが仇になったのか。オリジナル・ドラマーのブルース・ギャリー(Bruce Gary)が在籍していたのはここまで。


ヒットチャートには縁がなかったものの、耳の早いパワーポップファンの間では相当な話題になり、ライヴハウスは常に満員。そんな中で書き溜めた曲を、またしてもA面4曲・B面4曲という昔ながらのシンプルなフォーマットにして発表したのがこのセカンドアルバムだ。

『The Knack 2』

Side A
1. It's Not Me
2. Smilin'
3. Seven Days Of Heaven
4. Can I Borrow A Kiss

Side B
1. Love Is All There Is
2. One Day At A Time
3. Ambition
4. She Says


基本的な曲の路線はファーストから変わらないものの、よりメロディアスに、よりハードに昇華した曲が次から次へと繰り出されてくる。「Love Is All There Is」での、あからさまにビートルズの「And Your Bird Can Sing」を真似たようなギターソロが、相変わらずこのバンドがどこから来たかを示唆している。

更にファン層を広げ、このセカンドアルバムはパワーポップ界の隠れた名盤扱いすらされるようになるのだが、残念ながら、またしてもチャート的にはノー・アクション。バンドのメンバーにとっては渾身の作だっただけに、落胆は隠せないようだ。


現実の世界に戻ると、これらの曲は、活動再開後のアルバムに収録されている。

Serious Fun.jpg
『Serious Fun』 1991年
B-2

Zoom.jpg
『Zoom』 1998年
A-2、A-4、B-1、B-3、B-4

Normal As The Next Guy.jpg
『Normal As The Next Guy』 2001年
A-1、A-3

Re-Zoom.jpg
『Re-Zoom』 2002年
A-2、A-4、B-1、B-3

98年の『Zoom』は、個人的には『Get The Knack』に負けず劣らず、ナックの最高傑作だと思っている。どうやら彼ら自身もそう思っていたようで、3年後に(ジャケットもなんだか不気味な)『Normal As The Next Guy』というちょっと焦点の絞りきれていない凡作を出した後、ボーナストラックを入れてジャケットを替えて『Re-Zoom』として再発。

その『Zoom』『Re-Zoom』でやたらと手数の多い、甲高い音のドラムを叩いているのは、なんとテリー・ボジオ(Terry Bozzio)。『Normal As The Next Guy』のドラマー(一部)はミスター・ビッグのパット・トーピー(Pat Torpey)だし、いかに有名ドラマー達がこぞってこのバンドに入りたがっていたのかがわかるね。でも、さすがに『Serious Fun』のビリー・ワード(Billy Ward)って、まさかブラック・サバスのビル・ワードのことじゃないよね。



自信作を立て続けに2枚出し、目の前で熱狂するファンが日に日に増えていくのを目の当たりにしていても、それがなかなかアルバムの売り上げに繋がらない。そこで今度は、4人が最初に集まってバンドを始めた頃にコピーしていた、自分たちの出発点とも言える曲、ライヴでもいつもアンコールに演奏して大喝采を受けている、そういうカバー曲を集めたEPを作ってみることにした。

『The Knack Covers』

Side A
1. Girls Talk (Elvis Costello)
2. I Knew The Bride (Nick Lowe)
3. No Matter What (Badfinger)

Side B
1. The Hard Way (The Kinks)
2. Teacher Teacher (Rockpile)
3. Don't Look Back (Bruce Springsteen)


アメリカのバンドだというのに、この新旧の英国パブロックにどっぷり浸かったようなマニアックな選曲。デビュー当初からビートルズを意識した曲作りをしていた彼らが、同様にこれらのイギリスのバンドに惹かれていたのはちっとも不思議な話ではないが。


『...But The Little Girls Understand』のB面トップを飾っていた「The Hard Way」以外のこれらの曲は、今では98年のベストアルバム『Proof』、02年の『Re-Zoom』、および同年にリマスター発売された初期のアルバムに収録されているが、僕の知っている限りでは、2曲は下記のトリビュートアルバムが初出のはず。

Come And Get It.jpg
『Come And Get It - A Tribute To Badfinger』 1997年
A-3

One Step Up Two Steps Back.jpg
『One Step Up / Two Steps Back: The Songs Of Bruce Springsteen』 1997年
B-3

前者は、ナックの他には、コットン・メイザー、ブラッド・ジョーンズ、20/20、クリス・ヴォン・スナイダーン、エイミー・マンなど、その筋の人が聞けば大喜びの面子がバッドフィンガーをカバーしているという好アルバム。

後者も、名前を書き連ねたらきりがないほどの有名どころから通好みまでの凄い面子が揃った2枚組の大作。ライナーによると、この「Don't Look Back」は、ブルースがナックにプレゼントし、『Get The Knack』に収録されるはずだったところ、やはり自分のアルバムに入れるからと待ったがかかったという曲らしい。結局ブルース自身のバージョンは98年の『Tracks』まで陽の目を見ることはなかったのだが。



このEPも小ヒットにとどまり、彼らはまたしてもライヴハウスとレコーディングスタジオを転々とする日々を過ごす。次こそは、アメリカ中、いやそれどころか世界中で大ヒットするようなアルバムを作ってやろう。そんな気持ちで今日もまた安いスタジオにこもり、メンバー同士膝を突き合わせるようにして一緒に曲作りを続けている。今作っているこの曲はなかなかものになりそうだ。なんとかこれを次のシングルにできるように、うまく練り上げてみよう。そんなスタジオでの一場面を切り取った風景をシークレット・トラックにして、このミックスCDを終えよう。
posted by . at 15:29| Comment(9) | TrackBack(0) | yascd | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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