2009年11月29日

NZだって - Bruno Merz

Through The Darkness Into Day.jpg Bruno Merz 『Through Darkness Into Day』

早いもので、僕がニュージーランドから戻ってきて今週で丸二年が経った。いくつか渡り歩いた国の最後だったせいか、今でもあの国にはなんだかすごく郷愁を感じてしまう。

しばらく前に渋谷のHMVで、試聴機のところに飾ってあったこの印象的なジャケットのCDに惹かれ、音を聴いて気に入ったので買ってみたら、NZのSSWだった。僕が向こうにいた頃には名前も聞いたことなかったけど、ヨーロッパを転々とした後で今はイギリス在住中ということなので、もしかしたら僕が居た頃にはもうNZにはいなかったのかもしれない。

出張先なので手元にCDがなくて細かいクレジットがわからないんだけど、基本的にはアコースティック・ギターの弾き語り。ピアノやドラムや各種の弦楽器の音も聞こえるし、男女のコーラスも入っているから、それなりに音は厚いはず。

なんだけど、聴いた印象はとても爽やか。綺麗なメロディーと優しい声。沢山の楽器がむやみに主張しあわずオーガニックに絡み合う気持ちいい音。NZの自然やら何やらと結び付けたくなる人はいるだろうけど、少なくとも僕の知ってる限り、こんな音を出すNZのミュージシャンはいなかった(ミャンマー在住の某オーストラリアのSSWを引き合いに出したい気持ちはちょっと封印して)。

もともとこのアルバムは、ネット配信のみでリリースされていたもので、それに今年自主制作でリリースされた5曲入りEP『Departing From Crowds』から全曲を加え、そのEPのジャケを使って日本のみで発売されたもの。そのEPはもうあちこちのサイトでは品切れになっているから、日本以外で今この人の音を聴きたければ、やっぱりネット配信に頼らざるを得なくなっている模様。

最後に収録されたEPの5曲のうち3曲はアルバムの曲の再録音なんだけど、アレンジがよりこなれていて、メジャーから出てもおかしくないような貫禄を漂わせている(でもやっぱり爽やか)。バンジョーとペダル・スティールがちょっとカントリーっぽい「Nine Sixteen (New Version)」が今のところの僕の一番のお気に入りかな。

こんなに素敵なCDをお買い得感たっぷりの仕様で出してくれる日本のCD会社(Flake Recordsさん)も、それをちゃんとプッシュして試聴機に入れて皆に聴かせてくれるHMVのようなCD屋も、僕のような音楽ファンにとっては本当に有難い存在。

ジャケットの女の子がいる場所。ブックレットに使われたいくつかの写真。やっぱりNZの風景なのかな。ああいう場所に戻りたくなる音。きっと夏真っ盛りだろう今の時期じゃなくて、短い夏があっという間に過ぎ去って、半袖だと少し肌寒いかなと感じ始めるぐらいの頃に。

マイスペ


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2009年11月22日

安定感 - Spitz

Sazanami OTR Custom.jpg
Spitz 『Jamboree Tour 2009 "Sazanami OTR Custom"』


01年と03年のライヴDVDがすごくよかったので、日本に帰ったらコンサートに行こうとずっと思っていたのに、いまだに機会のないスピッツ。去年から今年にかけてのツアーの映像がDVDになったので、早速買った。初回限定盤でDVDが2枚、CDが2枚と写真集がちょっと豪華めのケースに入っている。限定盤じゃないのは本編のDVD一枚だけなんだね。

本編DVDが、ツアー終盤になる今年1月のさいたまスーパーアリーナ公演を(おそらく)フル収録。ボーナスDVDに郡山と神奈川でのライヴを10曲。2枚組のCDは、本編DVDがまるごと入った23曲入りライヴアルバム。全部通して観て聴くと、4時間以上もかかる大作。

本編DVD。ツアータイトルどおり、07年のアルバム『さざなみCD』からの「ルキンフォー」でスタート。過去のアルバムから満遍なく1〜2曲ずつ織り交ぜながら、全13曲入りのそのアルバムからは10曲を演奏。

過去曲は、古くは91年の『名前をつけてやる』収録の「恋のうた」から、02年の『三日月ロック』収録の「けもの道」、「夜を駆ける」までバラエティに富んだ選曲。

最近のライヴDVDらしく、画質も音質もいいんだけど、どうもカット割がせわしいのと、手持ちのカメラで撮ってると思しき安定しない画像が多くて、落ち着かない。意図的でないピントの外れた瞬間が頻繁に出てくる編集にも疑問。1時間40分続けて観ているとちょっと疲れてしまう。

もちろん、ライヴの内容自体は文句なし。草野の書く曲って結構どれもこれも似通ってるとも言えるんだけど、それが何故かワンパターンに陥らず、20年近くのスパンで作られた曲達がこれだけ一貫したクオリティを保っていることに驚く。

演奏も上手いよね、この人たち。ベースの田村なんてあれだけ走り回りながら、ジョン・エントウィッスルばりの高音高速フレーズ弾くし。三輪はもちろん、草野が時折り入れるちょっとしたギターソロも実にセンスいい。それから、崎山のドラムの安定感。さっき書いた、新旧の曲達の(少なくとも演奏面での)一貫したクオリティは彼のこのドラムに負っているところが大きいと思う。

サポートのキーボーディストは、前回のライヴDVDからずっと(ということは00年のツアーからずっと)同じくクジヒロコ。サポートなのであまり映らないけど、いいところでコーラス入れたり、最後の「漣」ではフルート吹いたりと、結構要所要所を締めている。

本編DVDの方は、最後の曲の前にちょっとだけ挨拶する以外は全くMCなしで曲をつないでいた(さっき編集に文句つけたけど、これだけは高く評価する)のに対し、ボーナスDVDの方はどちらかというとMCを聞かせるために編集されたような作り。10曲の合間合間にけっこう長めのMCが7回も入っている。

この人たち(というか、主に草野と三輪)ステージで結構喋るんだね、しかもなんだか妙にとぼけた味のある話ばかり。草野の書くヘンテコな歌詞を思えば、こういう思考回路を持った人だということには納得いくけど。

10曲は、『さざなみCD』から本編に落ちた残り3曲と、古くは93年の『Crispy!』からの「君が思い出になる前に」から、05年の『スーベニア』から「みそか」、「春の歌」まで(ちなみに本編の方には『スーベニア』からは一曲も選ばれていない。僕結構好きなアルバムなのにな)。それから、最近(といってももう去年)のシングル「若葉」も。

ボーナスDVDの方も1時間10分ある。こういうライヴもののDVDって、大抵それぐらいの長時間ものが多いから、なかなか観る時間取れないんだよね。買ったままでまだ観ていないDVDが他にもうちに沢山ある話はこのブログに何度も書いているとおり。

その点、CDならこうしてパソコンしながら聴いたり、ウォークマンに落として電車の中で聴いたりできるから、やっぱり僕はどうしてもそっちに興味を持ってしまうよ。今回のこのセットも、僕はどちらかというとライヴCD目当てで買ったと言っても過言ではないほど。

これまでライヴDVDはさっき冒頭に書いた2種(01年の『ジャンボリー・デラックス Live Chronicle 1991-2000』と03年の『放浪隼純情双六 LIVE 2000-2003』)が出ているけど、ライヴCDは何故か一度もリリースしてこなかったスピッツの、いわばこれが最初のライヴアルバムということになる。

内容はさっき書いたとおり、新旧織り交ぜた磐石の選曲。過去の2種のライヴDVDには必ず入っていた「ヒバリのこころ」がないのが残念だけど、「夜を駆ける」とか「8823」とか比較的新しめの隠れた名曲が収録されているのが嬉しい。

本編DVDをそのまま収録と言いながら、そちらではカットされていた曲間MCが、実はCDでは何度か出てくる。レストランで注文を忘れられる話とか、アボカドの話とか、そこはかとなくおかしい話。

半年前のこの記事で取り上げたニック・ロウのCDは、おまけとして付いていたDVDが僕にとってはメインになったと書いたけど、この豪華なパッケージのセットは僕にとってはその逆のパターン。やっと出たスピッツのライヴアルバムに、同内容のDVDが付いたものと思っている(だからこの記事のカテゴリもビデオでなくアルバムにした)。

全部で3時間近くもテレビの前に座ってなくちゃいけないこのDVDを次に観るのはいつのことになるかわからないけど、この素敵なライヴアルバムはもう通しで10回以上聴いたし、これからもこっちを聴き続けることになるだろう。

この手のメジャーなアーティストの“初回限定盤”がどれぐらい長く流通しているのか知らないけど(実際、限定生産だった『放浪隼純情双六』はもう入手困難だと聞くし)、僕と同じく“スピッツ初のライヴアルバム”を待っていた人は、多少値が張るけど、なくならないうちに早いとここれを買っておいた方がいいと思うよ(ちなみに、アマゾンさんの価格設定、結構良心的)。


p.s. この記事を書いていたら、シーサーの新着スキンにこのDVD発売記念のデザインがあるのに気づいた。せっかくだから、これまで一度も変えたことのないこのブログのスキン、期間限定で変えてみようかな。


ビデオもあったので貼ろう。


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2009年11月14日

Ry Cooder & Nick Lowe live in Tokyo

今週は月曜にちょっとした用事があって会社を早く抜け、それがたたってか、ほとんど毎日終電という状態だったんで、その“ちょっとした用事”のレポートを書くのがこんなに遅れてしまった。もう記憶も感動も若干減退してしまってるけど、思い出せることをあれこれ書き綴ってみよう。

Bunkamura.JPG

もうすっかりクリスマス向けにライトアップされた街路樹の間を早足で駆けつけた渋谷のBunkamura。オーチャードホールって、確か僕は初めての会場のはず。大きくて綺麗で、音の抜けがすごくいいのが印象的なホールだった。

7月には発表されていた今回のライヴ、いくらライ・クーダーとニック・ロウという、日本では特に地道な人気を誇る二人の共演とはいえ、東京でこの規模のホールで4回公演というのはいくらなんでも無茶じゃないのかと思っていた。チケット代も安くはなかったので、僕は一番人気が無いだろうと予想した日(4回のうち2回目で、しかも月曜の夜)に行くことにした。

すぐ売り切れることはないだろうと、席順がランダムに決められてしまう先行予約はあえて避け、せっかく一回しか行かないんだからできれば良い席で観たいと、わざわざ招聘元のオンライン会員になり、通常発売が始まった瞬間にクリックして取ったチケット。それが13列目の端から数えた方が早いというなんとも生煮えみたいな席だったのでかなりがっかり。

しかも、僕より1ヶ月近く遅れて同じ公演のチケットを取った友達が、僕より2列前のほぼ中央の席だったのがどうにも納得いかない。うささこさんのブログによると、東京初日は3列目中央の4席(招待者席か?)が空いてたそうだし、このイベンターの席の割り当ては一体どうなってるんだ。もうちょっと、熱心に観たいと思ってるファンがいい席で観られるようなシステムにしてくれよ。

そういう事情と、あと事前にあちこちのサイトで読んだレビューによると、僕のお目当てのニック・ロウはどうやらこの組み合わせでは単なるべーシスト扱いで、時々歌わせてもらっているというようなことが書いてあったのと合わせて、実はライヴ当日まで自分の気持ちがどんどん醒めていってたのは事実。

まあ、そんな気持ちも、実際にライヴが始まって、前座のバンドの予想外に気持ちいい音を聴きはじめた頃にはまたすっかり暖まっていたんだけどね。いい音楽ってのは、やっぱりいいね。当たり前のことを書いてるようだけど。

その前座は、ライの息子のヨアキム・クーダーのバンド。スケールの大きないいドラムを叩く人だね。長髪に髭、頭にバンダナという見かけが、ジョン・ボーナムみたい。女性ボーカルは上手だとは思うけど、あんまり僕の好みではない感じで、ドラムの上手さとアンサンブルのよさが印象に残ったバンドだった。

そしたら、途中でのメンバー紹介で、ボーカルの女性が「私のバンドを紹介します」だって。あら、あなたのバンドでしたか。それは失礼しました。ジュリエット・コマジアって発音してたかな(綴りはJuliette Commagere)。後で聞いたら、ヨアキムの奥さんなんだって。


30分の前座の後、30分の休憩を挟んで、いよいよ本編。ステージ中央にライ。その後ろにヨアキム。中央やや左寄りにニック(端の方だった僕の席だけど、ニック側だったのがせめてもの救い)。3曲目あたりからは、ジュリエットともう一人(前座バンドでキーボードを弾いていた女性)がニックの隣でコーラス。なんだか僕の観ている位置のせいでそう思えるのか、やけに全体的に左側によった感じのステージ構成だね。

僕がライのことを前に観たのは、88年の来日のとき。あのときはヴァン・ダイク・パークスと一緒に来たんだった。そのときよりも結構太った印象のあるライも頭にバンダナ。バンダナ親子。それから、ニックがヨアキムを紹介するときに「今晩東京で一番忙しいドラマー」って言ってたね。

リトル・ヴィレッジの曲は「Fool Who Knows」だけ演ることは聞いていたが、まさかそれがオープニングだとは予想しなかった。いきなりのニックのリード・ヴォーカルにこちらは大歓喜のスタート。なんだかすっかり痩せてしまった印象があるけど、声は変わってないね。

そこからは、ライとニックがほぼ1〜2曲ずつ交互にリード・ヴォーカルを取る感じで、ニックの出番がもっと少ないと思っていた僕にとっては、思わぬ嬉しい展開。曲間のMCとかメンバー紹介もだいたいニックの役割で、ライが喋るのは自分の曲の解説とかだったし。

4曲目にニックが歌った「Losin' Boy」。どこかで聴いたことあるけどよくわからない。帰って調べてみたら、4枚組『The Doings』に収録されていた94年の未発表曲か。よくそんなマイナーな曲を。さらに調べてみたら、元はエディ・ジャイルズという人の曲なんだね。このメロディー展開、てっきりニックが書いた曲かと思ったのに。『The Doings』聴き返してみたら、今回のライヴと全然アレンジ違ってたけど。

ニックのアコースティック・ギターの弾き方が昔と全然変わってないのが嬉しい。右脇に抱え込むぐらいにボディーを持ち上げ、大きな左手で包み込むようにネックを押さえて、左足で大きくリズムを取りながら歌うところ。

「Crazy 'Bout An Automobile」のライによる曲紹介。トヨタのセンチュリーはいい車だとか、この曲はトヨタの人たちに捧げるだとか言ってたね。まさか普段アメリカでセンチュリーに乗ってるとは思えないから、今回空港からの送迎がセンチュリーだったのかな。

ニックの「Half A Boy And Half A Man」。曲紹介で79年に書いた曲とか言ってたね。てっきり84年のアルバムの曲だと思ってたから、まさかあれがセカンドアルバムの頃から温存されていたというのにびっくり。

この10曲目「Half A Boy And Half A Man」までは、ウドーのサイトに載っていた東京初日のセットリストとまったく同じ。まあ、それ以後もほとんど同じだったんで、あまり沢山のバラエティーの中からいろんな曲を演奏するという感じのツアーではないんだろうね。頑張って連日チケット取らないでよかった。

そのサイトには11曲目は新曲の「A Shrinking Man」と書いてあるけど、あれがそうだったのかな。よくわからない。サビのところでは「Biggest Fool」とか歌ってたけど(調べてみたら、レシーブ二郎さんの凄く詳しい大阪公演レビューで、それがおそらくヨーロッパ公演で演奏していた「You're A Biggest Fool」という曲らしいことがわかった。レシーブ二郎さん、ありがとうございました)。

12曲目は初日とは違って、ライの「Teardrops Will Fall」。この曲のイントロをライが何度も何度も失敗してたのは、わざとなんだろうか。ニックにベースでGの音を出させて、「そうか、その音か」なんてことを言いながら弾き出しては失敗。挙句に「違うチューニングだった!」とか言ってチューニングし直し。ジョークだったのか?そのわりに面白くはなかったけど。アメリカンジョークなのか?

ライはほとんど曲ごとにギターを持ち替えていた。派手な豹柄みたいピックガードのストラトがメインで、テレキャスターとか、ヘンな形のギターとか、マンドリンとか。唯一アコースティック・ギターを弾いたのが「He'll Have To Go」。

本編ラストが、お待ちかねの「(What's So Funny 'Bout) Peace, Love & Understanding?」。残念ながらオリジナルのバージョンではなくて最近のニックが歌うスローなバージョンだったけど、間奏のスライド・ソロが最高だった(「Raining Raining」でのスライドもよかったけど)。

すぐにアンコールで登場し、大好きな「Little Sister」。それから、「Across The Borderline」と、人気曲を立て続けに。本編はライとニックがほぼ交互に歌ってたから、一番最後にまたニックの曲を演ってくれるのかな、「Peace, Love & Understanding」はもう演ったから、まさか「Cruel To Be Kind」とかかも、などと勝手に思っていたら、そこで終演。ちょっと残念。

でも、いいコンサートだった。以前はほとんど毎年のように日本に来てくれていたのが最近はすっかりご無沙汰だったニックを久々に観られたし。もうあまり積極的にはツアーに出ていないようだけど、死ぬ前に(縁起でもない)また観られたらいいな。できたら今度はもっと小さい会場でね。


Setlist 9 Nov 2009 @ Bunkamura Orchard Hall Tokyo

1. Fool Who Knows
2. Fool For A Cigarette / Feelin' Good
3. Vigilante Man
4. Losin' Boy
5. Chinito Chinito
6. Crazy 'Bout An Automobile
7. You're Gonna Pay
8. Cryin' In My Sleep
9. Down In Hollywood
10. Half A Boy And Half A Man
11. You're A Biggest Fool
12. Teardrops Will Fall
13. Raining Raining
14. Jesus On The Mainline
15. He'll Have To Go
16. 13 Question Method
17. (What's So Funny 'Bout) Peace, Love & Understanding?

Encore
1. Little Sister
2. Across The Borderline
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2009年11月04日

開花と貢献 - Montt Mardie

Skaizerkite.jpg Montt Mardie 『Skaizerkite』

4月に北欧特集のyascdを作ったときには、このアルバムは既に発売されていて、僕が行きつけにしているあちこちのブログで結構な話題になっているのは知っていた。でもそのときは、やはり僕が行きつけにしている某ネットCDショップでは、ずっと在庫切れだったんだ。

代わりに、前作にあたる『Clocks/Pretender』から「1969」という曲を入れようとしたんだけど、あいにく激戦区のスウェーデン勢の中では、あのアクの強い曲はどうしても浮いてしまって、やむなく落としてしまった。あの記事でほんの二段落ぐらいの簡単な説明でこの人を紹介して終わりにしたくなかったからという気持ちもあったし。

5月になってようやくこのアルバムを入手し、さあ聴こうと思った矢先に例の09年度第二次グレン・ティルブルック症候群だ。いいアルバムだなと認識はしたものの、それからしばらくの僕がグレン/スクイーズしか聴けなくなってしまったのは、このブログをいつも読んでくださっている方ならご承知のとおり。

タイミングというのは大事だね、まったく。あの5月中旬という特異な時期に手に入れてさえいなければ、僕はもっとこのアルバムをしっかり聴き込み、(つい最近の僕が遅ればせながら気づいたように)これが自分にとって2009年を代表するアルバムの一枚になるともっと早くわかったはずなのに。

というような回り道をしていたお陰で、紹介するのがすっかり遅くなってしまった。モント・マルディエ(という発音でいいのかな。本名はデイヴィッド・パグマー David Pagmarというらしい)のサードアルバム『Skaizerkite』。耳慣れないこのタイトルは別にスウェーデン語というわけではないらしい。三つ折デジパックのジャケット内側にある説明によると、

skaizerkite /sky-zer-kite/ 1. 自信過剰な人 2. 1940年代初期のニューヨークに活動していた組織 3. 凧製造会社

ということだって。自分のことを自信過剰だと自虐的に揶揄してるのかな。まあ、凧製造会社についての歌が入ってるわけじゃないのはわかるけど。

オープニング「Welcome To Stalingrad」を聴けば、彼がこのアルバムで一皮も二皮もむけたというのがすぐにわかる。トランペット、ストリングス、オルガンをフィーチャーしたハイテンションな演奏に乗せて、うきうきするようなメロディーが歌われる。それが典型的なモータウン・ビートに乗っているのに、どこかほんのりと翳りを感じさせるのは、北欧ならではのセンスだろうか。

間髪を入れず、「One Kiss」のイントロの鮮烈なピアノ。もうその時点で、これが凄いアルバムだということがわかる。四半世紀も前なら、スタイル・カウンシルやワム!の最盛期の作品に匹敵していたはず。豪華な女声コーラス、間奏でのふとしたブレイク、どの瞬間を取っても最高。

まだ続くよ。「Click, Click」はその名の通り、カメラのシャッター音がリズム音として効果的に使われたセンチメンタルなポップ・ナンバー。“Click, Click”という歌詞をデュエットする女性が、後半くすっと笑ってしまうところなんて、ぞくっとするほど可愛いよ。

3曲突っ走ってきた後、ここで休憩のようにアコースティック・バラッドが入るんだけど、これがまた全然おまけみたいな出来じゃない。Johan Kronlundという、声質の似た人とのデュエット。いいね、これも。滲みる。

全曲解説する時間も気力もないけど、マジでこのアルバム、こういう感じで最後の12曲目まで捨て曲なし。7曲目のタイトルが「去年マリエンバードで」なんてのを見ると、ちゃんと歌詞読みたくなるね(前作にはちゃんとブックレットが付いてたのに)。8曲目のバラッドでデュエットしているのは、元ポプシクルのアンドレアス・マットソン(Andreas Mattson)。この人、前作にも参加してたね。

Clocks Pretender.jpg Montt Mardie 『Clocks / Pretender』


ちょっとだけその前作の話をしよう。全20曲入り、『Clocks』と『Pretender』の2枚組。どっちも30分ちょっとだから、余裕で一枚のCDに入るのに、コンセプト違うからとちゃんと分けてるのがいいね。パタパタと開いていく感じのデジパックなのもプチ豪華。どっちかというと、『Clocks』の方が本編で、『Pretender』はいろんな人とデュエットした曲が収められたボーナスディスクという趣。

さっきタイトルを書いた「1969」といい、「Set Sail Tomorrow」といい、これにもいい曲が沢山入ってるよ。新作には負けるけどね。新作はまさに才能開花という感じ。あと、この頃は今よりもっとファルセットを多用してて、聴く人によってはちょっと拒絶感あるかもね。

とにかく、まず聴いてみようと思うなら、新作からがおすすめ。こんな優れたアルバムがアマゾンとか街のCD屋で簡単に手に入らないのは残念だけど、そういうときは某アップル・クランブル・レコードを頼りにすればいい。さっき見てみたら今のところ在庫はあるようなので、欲しい人はどうぞ。

別に僕はアップルさんに借りがあるわけでもお金をもらっているわけでもないけど、こういうアーティストをどこからともなく見つけてきてちゃんと日本で流通させてくれているというのは、日本の音楽界にとって凄い貢献だと思うよ。なのでそういう店には音楽ファンとしてちゃんと貢献しようと。
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2009年11月01日

Vol.2.5 - Matthew Sweet & Susanna Hoffs

Under The Covers Vol. 2.5.jpg
『Under The Covers Vol.2.5』 Matthew Sweet And Susanna Hoffs

「こういう誠意のある日本のインディーズは是非応援してあげたい」

8月16日の記事のコメント欄に書いたのは、誓って嘘じゃない。だけど、そのコメントを書いてまもなく、こんなものの存在を知ってしまったのが運の尽き。せめて、日本盤が発売されて初動が収まるぐらいの期間はそっとしておくのがこちらから示せる精一杯の誠意かと、しばらくの間この記事を脳内で寝かせておいた。

マシュー・スウィート&スザンナ・ホフスの70年代カバー集『Under The Covers Vol.2』の日本盤には、僕がレビューした輸入盤には入っていないボーナストラックが5曲も含まれているのは、8月のその記事のコメント欄にあるとおり。

ところが、あれこれ調べているうちに、どうやらその5曲のボートラ以外にもまだボツになったテイクがあるらしいことを知った。そして、とあるサイトで、10曲入りのボーナスディスクが付属した『Vol.2』を発見。誠意のある日本のインディーズには大変申し訳ないが、そっちをオーダーしてしまった。

届いてみたら、それは別に2枚組というわけではなく、通常のデジパックの『Vol.2』に、カラーコピーのジャケ(上の写真)がついたプラケース入りの、何の記載もないCD-Rがおまけとしてついているという形態だった。ハサミで切ったような歪んだ正方形のジャケは、こんなの一枚一枚手で切ってたら余計に手間がかかるだろうと思わせるような手作り感満載の出来。権利関係はどうなってるんだろうか。

日本盤ボートラの5曲は全て含まれているが、順番は日本盤とは全然違う。本編の「Beware Of Darkness」で一旦しんみりと終わった後に威勢よく始まる「(What's So Funny 'bout) Peace, Love And Understanding」を持って来て、最後は再びしんみりと「You Can Close Your Eyes」で締めるという日本盤の曲順は実によく考えられたものだと思うけれど、この『Vol.2.5』と名付けられた10曲入りのCD-Rの曲順もなかなかのものだ(太字は日本盤に収録)。

1. Dreaming
2. Marquee Moon
3. I Wanna Be Sedated
4. Baby Blue
5. You Say You Don't Love Me
6. (What's So Funny 'bout) Peace, Love And Understanding
7. You Can Close Your Eyes
8. Melissa
9. Killer Queen
10. A Song For You

ブロンディの「Dreaming」はきっと泣く泣く本編から落としたんだろうね。それぐらい上出来。スザンナの声って、こういう曲にほんとによく合うね。

僕にとって、このCD-Rで一二を争うハイライトが早速2曲目に。オリジナルよりもわずかにスピードを上げて、より芯の太いギターの音で幕を開ける“あの”イントロ。マシュー・スウィートが演奏する「Marquee Moon」なんて、これこそ想像するだけで鳥肌ものだろう。贅沢を言うなら、隣でギターを弾いているのがリチャード・ロイドだったら最高なんだけど、あいにく今回のレコーディングには彼は不参加。

スザンナも当然参加しているけど、もうほとんどマシューのソロ作品と言ってもいいようなアレンジ。それでも、オリジナルのヘロヘロ感と比べると、バックにしっかりと入っているスザンナのコーラスの分、音に厚みと甘味がある。マシューのギターソロが散々堪能できる、オリジナルに匹敵する11分弱の大作。

続いては、日本盤にも収録のラモーンズ。いいね、これ。この二人で一緒に歌ってる意味が一番感じられる、気持ちのいいデュエット曲(もちろん、本編の「Go All The Way」とかは除いての話)。

バッドフィンガーの「Baby Blue」は、本当は好きな曲なんだけど、ここでの出来はあと一歩というところかな。本編での「Maggie May」にも感じたんだけど、どうもスザンナちょっと気張りすぎというか。

バズコックスって、パンクという枠で括られて入るけど、ほんとにポップでいい曲書くよね、というのがよくわかる「You Say You Don't Love Me」。それは2曲前のラモーンズにも言えることだけどね。こういう曲を書けるから、単なるブームに乗って出てきては消えた有象無象とは一線を画してるんだよね。

僕にとっては今回の最大のお目当て。ニック・ロウの「(What's So Funny 'bout) Peace, Love And Understanding」。誠意のある日本のインディーズがこの曲をボートラの1曲目に持ってきたことは評価に値するけれど、これがあたかもエルヴィス・コステロの曲だと誤解されるような表記の仕方はやめてほしい。元はと言えばニック・ロウが在籍したブリンズリー・シュウォーツ最後のアルバムに収録されていた曲で、今でもニックの代表曲。

とは言え、やはり一般的には『Armed Forces』の米盤に収録されていたコステロのヴァージョンが有名なのかも。ここでの演奏は、派手なドラムで始まるイントロがアトラクションズ版、そしてこの曲を印象付ける綺麗なハーモニーがブリンズリー版、といった合わせ技。いや、これは満足。再来週のニックとライ・クーダーのライヴ、多分この曲演るだろうけど、このアレンジで演ってくれないかなあ。それでライのスライドギターのソロなんてやられたら、もう失神ものだよ。

気を落ち着けて、次はジェームス・テイラーの「You Can Close Your Eyes」。僕はこの曲が最初に収録された『Mud Slide Slim And The Blue Horizon』をはじめ、何枚かのライヴ盤でこの曲を持っているんだけど、タイトルを聞いただけでは即座に曲が思い浮かばなかった。でも、たとえこれがジェームスの曲だと知らなかったとしても、スザンナが歌うこのメロディーを聴けば、一発で彼の曲だとわかるはず。名曲。

オールマン・ブラザース・バンドは初期のライヴ盤を何種類か持っているだけなので、この「Melissa」という曲は知らなかった。悪くはないけど、特筆すべきこともないかな。

多分一般的にはこの中で一番有名なクイーンの「Killer Queen」。僕は8月の記事のコメント欄で「これもまたヴァースの部分をマシューが歌い始め、コーラスでスザンナに交代(マシューはそのままバックコーラスに移動)という感じでしょうか」などと妄想を炸裂させているが、実際はその逆だった。

うーん、どうだろう。僕はやっぱり自分が想像したように、マシューが最初でサビの部分でスザンナという役割の方がよかったかもしれない。さっき「Baby Blue」のところで書いたように、スザンナの声ってあまり低音に向いてないと思うんだけどな。マシューの裏声もいまいちだし。

まあ、それでも、ブライアン・メイ風のマシューのギター(もしかするとグレッグ・リーズ?)はよくできているし、それなりに聴き応えのある出来だろう。

最後は、70年代でこのタイトルならてっきりカーペンターズだろうと思っていたら、グラム・パーソンズの方だった。マシューの別プロジェクト、ソーンズ(The Thorns)のアルバムに入っててもおかしくない、全編に響き渡るグレッグ・リーズのペダル・スティールが泣かせる佳曲。


という全10曲。必ずしも僕のコメントの長さがそれぞれの曲の出来を示しているというわけではないが、この10曲中、日本盤のボートラに選ばれた5曲は、やはりそれなりの出来だったからというのがわかる。テレヴィジョンの「Marquee Moon」にそれほど思い入れのない人であれば、日本盤の5曲で充分満足なんじゃないかな。

というわけで、罪滅ぼしにもう一回日本盤のリンク貼っておくよ。みんなで日本盤買って日本のレコード会社を応援して、次に『Vol.3』が出るときには、日本盤だけ2枚組になっていることを期待しよう。


posted by . at 01:53| Comment(12) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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