2009年05月30日

軽めの呪術 - Winterpills

Central Chambers Vinyl.jpg Winterpills 『Central Chambers』

仲間内では皆に知れ渡っているほど大変なことがあったという友達。様子を見がてら心配して会いに行ったら、これが意外なほどに元気でちょっと拍子抜けしてしまった。だけど、話がふと途切れたときに見せる彼の表情が覆っている、その下にある想像もできないほど深い悲しみを垣間見る瞬間。

アルバム冒頭で爪弾かれるアコースティックギターの弦。頻繁に静から動へと移り変わるのに、決して激昂することのない演奏。時折り添えられる、壊れた機械が立てるような電子音。ベトナムでフィールドレコーディングしたという雑踏の音。遠くで鳴っているようなピアノ。

二つの声。どこまでも静かに、淡々とうたう。キーはわりと高いのに耳に心地良く馴染む女性ボーカル。時折り使うファルセットがシアウォーターのジョナサン・メイバーグを思い起こさせる男性ボーカル。彼の書く悲しげなメロディーラインが余計にそう思わせるのかもしれない。

同じフレーズが一曲の中で何度も何度もマントラのように繰り返される。あるいは、一つの短い文章が少しずつ形を変えて歌われる。以前、確かブルース・スプリングスティーンについて書いた記事で、同じ言葉のリフレインが多いのは嫌だと書いたけれど、どういうわけかこのアルバムではそれが全く気にならない。むしろ、ちょっと軽めの呪術に掛けられてしまったかのように聴き入ってしまう。

昨年10月に発売になった、アメリカはマサチューセッツの5人組、ウィンターピルズの3枚目のアルバムが、どうしてそんなことになったのかはわからないけど、今年の1月になって、装丁を大きく変えて、ボーナストラックを1曲追加した上で、LPで発売された。ちなみにCD版は最初のままのジャケットと曲順で、今でも普通に流通している。

Central Chambers CD.jpg Winterpills 『Central Chambers』

一番上に載せた、雪で形作った指先とハートというモチーフは、それはそれでとても綺麗なんだけど、ちょっとロマンチックすぎるかなと僕には思えてしまう。古い建物の上に尾を引く飛行機雲という、オリジナルのCDのジャケ、更に言えば、それを白黒にした上でトリミングを大胆に変えた今回のLPの内袋の写真が、このアルバムの音を最も端的に表しているように思える。

Central Chambers Inner.JPG

LP用に新たにマスタリングされた音は、それぞれの楽器の音がとても立体的に構成されたように聴こえる。もちろん高音質MP3ダウンロード用のコードが付いているから、LPを聴ける環境にあって、iPodやウォークマンでも聴きたいという人は迷わずこちらを選べばいい。裏ジャケの、ぴんと張られた(ちょっとくたびれた)荒縄を包み込むように積もった綿毛のような雪の写真も雰囲気あるし。この人たちのビジュアルセンス、すごくいいね。

ビジュアルセンスのよさを再確認できる素敵なPVも観られる彼らのマイスペースのサイドバーにある、「影響を受けた音楽」の欄。リストの最初にあるのがイノセンス・ミッションだというのに納得。ちなみに、その下には「作家」の欄もあって、最初に書いてある名前は、ムラカミ。そして、「映画」(最初はベルイマンの「野いちご」)の下に続く「その他」の欄にはこう書いてある。

  睡眠不足
  死への恐怖
  郷愁
  幻想
  廃墟

イノセンス・ミッションについてはこのブログに書いたことはないけど、そんなの説明しだすとまた長くなるので省略して、それと村上春樹とイングマール・ベルイマンと睡眠不足と死への恐怖と(以下略)とをよく混ぜ合わせて作られた、そういう音。早く最初の2枚も手に入れないと。


posted by . at 13:28| Comment(5) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。