2009年05月10日

人脈 - John Wesley Harding

Who Was Changed And Who Was Dead.jpg 
John Wesley Harding 『Who Was Changed And Who Was Dead』

ジョン・ウェズリー・ハーディング。セカンドアルバム『Here Comes The Groom』で初めて彼のことを知ったときは、どんなキワモノかと思ったものだった。だって、ボブ・ディランのアルバムタイトルをそのまま芸名にし、エルヴィス・コステロのニセモノみたいな声で、そのエルヴィスのバンド、アトラクションズの二人(ブルース・トーマスとピート・トーマス)をバックに録音したアルバムだなんて。真っ赤な背景に薔薇のイラスト、上半身裸(肩までしか写ってないけど)の彼がこちらを見つめているジャケも、それだけでちょっと勘弁って感じだったし。

半分シャレのつもりで買ったんだと思う。あるいは、コステロ絡みは何だって集めたいと思っていた時期だったのかもしれない。それが、ブックレットを見てみたら、先のアトラクションズの二人に加えて、トム・ロビンソン、ゲライント・ワトキンズ、カースティ・マッコールなんて錚々たるゲストプレイヤーの面々(その時は知らなかったけど、キーボードのケニー・クラドックは元リンディスファーンだし、04年に発表された幻のファーストアルバムには、アトラクションズの残り一名、スティーヴ・ナイーヴも参加していた)。なんで、無名の新人のアルバム(しかもそっくりさん)にこんな豪華なゲストが参加しているんだろう。

CDを聴いてみると、そっくりさんどころじゃない曲のクオリティ。あんな声であえてアトラクションズの面々をバックにつけて登場したことが彼にとってラッキーだったのかどうかはわからないけど、彼が単なるコステロ・フォロワーなどではなかったことは、あれから20年弱、既に時代が証明している。

アメリカに活動の場を移したイギリスのミュージシャンは山ほどいるけど、そうしておきながらあえてブリティッシュ・フォークの方面に回帰していった人はあまりいないと思う。ここ数年の彼は、その頃(一般的な意味で)誰も知らなかったニック・ジョーンズを再評価した99年の『Trad Arr Jones』以来、アルバム毎にフォークとコンテンポラリーな音楽を行ったり来たりしていた。コンテンポラリーものとしては04年の『Adam's Apple』以来、そして彼が05年に企画したブリティッシュ・フォーク再評価プロジェクト、ラヴ・ホール・トリスト(The Love Hall Tryst)の『Songs Of Misfortune』以来となるニューアルバムがようやく発売になった。

07年の夏に元ポウジーズのジョン・オウアと一緒に日本公演を行ったとき(僕があと半年早く帰国していれば、全公演追っかけたのに…)のセットリストを見ると、この新作からの曲が結構歌われていたことがわかる。このアルバムの録音もそのとき既にかなり進んでいたんだろう。今回のバックバンドは、しばらく前から親密になっていたスコット・マコーイーを通じて知り合ったと思しき、スコット自身を含むマイナス・ファイヴ(ギターはもちろんREMのピーター・バック)が中心。

00年の『The Confessions Of St. Ace』でも1曲に参加していたアール・スリックが、今回も1曲でギターを弾いている。一体どこからこんな伝説のギタリストみたいな人を引っ張ってくるんだろう。さっきのセカンドアルバムでの人選といい、ほんとに不思議。そういえば、自分のコンサートには決して前座をつけないブルース・スプリングスティーンが、過去に一度だけ前座を指名したことがあって、それがこのジョン・ウェズリー・ハーディングだったというのも驚き。音楽性を評価されたのはもちろん、人脈作りにも長けた人なんだね、きっと。

上に載せたちょっと取っ付きにくいタイプのジャケ(フォーク路線じゃないときぐらい、はっきりそれとわかるジャケにすればいいのに)に臆せず聴いてみれば、相変わらずのコステロ声で歌われる、バラエティに富んだ13曲が楽しめるはず。前々作の「Negative Love」みたいなキラー・チューンがないように思えるのがちょっと残念だけど。でも、後述するライヴCDでも演奏されている自伝的な「Top Of The Bottom」とか、平均以上にいい曲は多いと思うよ。

彼のウェブサイトのショップでは、去年の11月頃から既にこのアルバムの有料ダウンロード告知が始まっていたようで、「ベーシック」コース(15.98ドル)でダウンロードすると、初回5000枚限定のライヴCDが付いたこのCDアルバムが送られてくる。僕はダウンロードなしで、店で直接ライヴCD付きの2枚組を買ったけどね。面白いのは、サイトにはこのベーシックコース以外にもいろいろあって、

29.98ドルの「ベーシックプラス」コースは、ダウンロードと2枚組CDにTシャツ付き。

49.98ドルの「ファンシー」コースは、ベーシックプラスに加えて1000枚限定のライヴDVD付き。

79.98ドルの「スーパーファンシー」コースは、ファンシーに加えてサイン入りのポスター付き。

そしてなんとその上に、5000ドルの「クレイジーデラックス&パーソナル」コースというのがあって、それはスーパーファンシーのポスターが額に入っているだけでなく、ウェズが家に来て歌ってくれるというとんでもないもの。マジですか?「近くなら交通費は要らない。遠い場合は交通費を負担して」とのことだけど、5000ドル+NYからの往復旅費ぐらい、日本のファンがちょっと結託すればすぐに集まると思うんだけど。

さて、5000枚限定のライヴCDの話を少々。中央にウェズのアコギ、右チャネルに盟友クリス・フォン・スナイダーンの12弦(多分)、左チャネルにロバート・ロイドのマンドリンというアンサンブルが見事。1曲目の「Kiss Me Miss Liberty」から聴き惚れてしまう。先述の『St. Ace』でアール・スリックが歌っていた「Our Lady Of The Highways」でウェズのデュエット相手のパートを歌うのは、ジョシュ・リター。

極初期の「The Devil In Me」から新作の「Top Of The Bottom」まで、年代的にも幅広く網羅した、ベスト盤的選曲のアコースティック・ライヴ。ライヴ盤だったデビューアルバム『It Happened One Night』以来変わらない、言葉が溢れてきてしょうがないといった風情の歌詞とMC(シニカルなジョークを交えた喋り方になんとなくグレン・ティルブルックを髣髴とさせるところもあるね)。せっかくの新作アルバムには申し訳ないけど、僕は入手以来こっちの方を何度も聴いてしまっている。

僕の大好きな曲の一つ、このライヴ盤には入っていないけど、僕が最初に手に入れた『Here Comes The Groom』の最終曲、トム・ロビンソンがプロデュースした「Bastard Son」の出だしの歌詞は強烈だった。

 ボブ・ディランが父親 ジョーン・バエズが母親
 俺は二人の私生児


1990年にこれを聴いたときは、大ボラ吹きの冗談だと思った。でも、今では彼を知る誰もが、この私生児がちゃんとその両親の後を正しく歩んでいることを知っている。派手に立ち回ったりはしないけれど、時々フォークのご先祖様を敬いながら、不思議な方法で人脈を増やしながら。


posted by . at 19:36| Comment(5) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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