2009年05月30日

軽めの呪術 - Winterpills

Central Chambers Vinyl.jpg Winterpills 『Central Chambers』

仲間内では皆に知れ渡っているほど大変なことがあったという友達。様子を見がてら心配して会いに行ったら、これが意外なほどに元気でちょっと拍子抜けしてしまった。だけど、話がふと途切れたときに見せる彼の表情が覆っている、その下にある想像もできないほど深い悲しみを垣間見る瞬間。

アルバム冒頭で爪弾かれるアコースティックギターの弦。頻繁に静から動へと移り変わるのに、決して激昂することのない演奏。時折り添えられる、壊れた機械が立てるような電子音。ベトナムでフィールドレコーディングしたという雑踏の音。遠くで鳴っているようなピアノ。

二つの声。どこまでも静かに、淡々とうたう。キーはわりと高いのに耳に心地良く馴染む女性ボーカル。時折り使うファルセットがシアウォーターのジョナサン・メイバーグを思い起こさせる男性ボーカル。彼の書く悲しげなメロディーラインが余計にそう思わせるのかもしれない。

同じフレーズが一曲の中で何度も何度もマントラのように繰り返される。あるいは、一つの短い文章が少しずつ形を変えて歌われる。以前、確かブルース・スプリングスティーンについて書いた記事で、同じ言葉のリフレインが多いのは嫌だと書いたけれど、どういうわけかこのアルバムではそれが全く気にならない。むしろ、ちょっと軽めの呪術に掛けられてしまったかのように聴き入ってしまう。

昨年10月に発売になった、アメリカはマサチューセッツの5人組、ウィンターピルズの3枚目のアルバムが、どうしてそんなことになったのかはわからないけど、今年の1月になって、装丁を大きく変えて、ボーナストラックを1曲追加した上で、LPで発売された。ちなみにCD版は最初のままのジャケットと曲順で、今でも普通に流通している。

Central Chambers CD.jpg Winterpills 『Central Chambers』

一番上に載せた、雪で形作った指先とハートというモチーフは、それはそれでとても綺麗なんだけど、ちょっとロマンチックすぎるかなと僕には思えてしまう。古い建物の上に尾を引く飛行機雲という、オリジナルのCDのジャケ、更に言えば、それを白黒にした上でトリミングを大胆に変えた今回のLPの内袋の写真が、このアルバムの音を最も端的に表しているように思える。

Central Chambers Inner.JPG

LP用に新たにマスタリングされた音は、それぞれの楽器の音がとても立体的に構成されたように聴こえる。もちろん高音質MP3ダウンロード用のコードが付いているから、LPを聴ける環境にあって、iPodやウォークマンでも聴きたいという人は迷わずこちらを選べばいい。裏ジャケの、ぴんと張られた(ちょっとくたびれた)荒縄を包み込むように積もった綿毛のような雪の写真も雰囲気あるし。この人たちのビジュアルセンス、すごくいいね。

ビジュアルセンスのよさを再確認できる素敵なPVも観られる彼らのマイスペースのサイドバーにある、「影響を受けた音楽」の欄。リストの最初にあるのがイノセンス・ミッションだというのに納得。ちなみに、その下には「作家」の欄もあって、最初に書いてある名前は、ムラカミ。そして、「映画」(最初はベルイマンの「野いちご」)の下に続く「その他」の欄にはこう書いてある。

  睡眠不足
  死への恐怖
  郷愁
  幻想
  廃墟

イノセンス・ミッションについてはこのブログに書いたことはないけど、そんなの説明しだすとまた長くなるので省略して、それと村上春樹とイングマール・ベルイマンと睡眠不足と死への恐怖と(以下略)とをよく混ぜ合わせて作られた、そういう音。早く最初の2枚も手に入れないと。


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2009年05月24日

熟成ライヴとおまけCD - Nick Lowe

初めて買ったニック・ロウのレコードは、84年の『Nick Lowe And His Cowboy Outfit』。今の目で見れば、彼の作品中でも決して高く評価されているアルバムではないけれど、僕はそれですっかり彼の音楽にのめり込むことになってしまった。急いで当時唯一のベスト盤『16 All-Time Lowes』を買い、それを何度も聴いて参考にしてから、シングル盤も含めてどんどん過去盤を漁りはじめた。

そういう訳なので、僕にとってそのベスト盤はちょっとした思い出のアルバム。特にA面の怒涛の名曲の流れは、後に知るどのオリジナル盤よりも強力に彼の音楽を印象付けた。ラックから引っ張り出してきて聴くことはもうあまりないけど、あの曲順は今でも自分の耳と体に染みついている。

86年には、その『16 All-Time Lowes』の続編となる『Nicks Knack』が出る。名盤の誉れ高い『The Rose Of England』の翌年なのに、何故かそのアルバムからは1曲も選ばれず、それ以前のアルバム群から、『16 All-Time Lowes』の落ち穂拾いみたいな曲ばかりが収録されていた。当時はそんなことには気づかなかったけど、今から思えば相当マニアックな選曲のベスト盤。

CD時代の89年になって、その2枚のベスト盤を総括(と言っても、マニアックな『Nicks Knack』とは2曲しか重複しない)+『The Rose Of England』から多数+当時の新譜『Pinker And Prouder Than Previous』から1曲、という無難な選曲のベスト盤『Basher』が出る。さすがにもうその当時までには全てのオリジナル・アルバムを持っていた僕は、それは買わなかった。今に至るまで、僕が持っていない唯一のニックのオフィシャル・アルバムかも。

その10年後の99年には、レアな曲やライヴ録音を多数含んだ4枚組の豪華ベスト盤ボックスセット『The Doings』。当時の新譜『Dig My Mood』の12曲から9曲も再録するという酷い偏りはともかく、ニックのソロ活動の全貌を網羅するには充分すぎる内容だった。全86曲中半数以上が既に持っている曲だったけど、そんな魅力的な箱を僕が買わないわけにはいかなかった。まさか、そのわずか3年後にまた別の選曲の2枚組ベスト盤『Anthology』が出るとも知らずに。

一体どういう経緯でそんな時期にそんな形態で出ることになったのかよく知らない『Anthology』。またしても前年の『The Convincer』からは全く収録されず、どちらかというと『The Doings』から大量のレア曲やライヴ録音を省き、とってつけたようにブリンズリー・シュウォーツ時代の2曲を冒頭に配し、最後にロン・セクスミス作「Secret Heart」の札幌でのライヴ録音を足したという、どうにも中途半端な内容。まあ、誰もが4枚組を買うわけじゃないから、手頃なサイズのベスト盤というのも流通させておかないといけなかったんだろう。


Quiet Please.jpg Nick Lowe 『Quiet Please... The New Best』

と、普通のブログなら余裕で一記事分にはなる前置きに続いて今日紹介するのは、今年3月にまた出たニックのベスト盤、『Quiet Please...』。

内容的には、『Anthology』からいくつか曲を足したり引いたりし、『The Convincer』と07年の最新作『At My Age』から数曲を加えたという感じ。プロデューサーが書いたライナーによると、ニック自身が書いた曲だけを集めたものなので、「Switchboard Susan」や「7 Nights To Rock」や「True Love Travels On A Gravel Road」はあえて入れていないというのがこだわりらしいけど、そもそもその3曲、『Anthology』にも入ってないし。ニックの有名曲を年代順に並べたらこうなりました、という程度の選曲にしか僕には見えない。

ニックのソロ時代にこだわるなら冒頭は「So It Goes」〜「Heart Of The City」で開始。ブリンズリー時代も入れるならその前に「Peace, Love And Understanding」を入れる。その後の曲は年代順に適当に並べ、一番最後はその当時の最新作から(あるいはその一つ前のアルバムから)何曲か配置。という定型のようなものが89年の『Basher』以来ずっと続いていて、冒頭に書いた『16 All-Time Lowes』の曲順の妙を知る身としては、また一つつまらないベスト盤が出たな、という感想を持たざるを得ない。2枚に亘る全49曲、155分というのも、ちょっと普段聴くには多すぎる分量だし。沢山入れればいいってもんじゃない。

それでもなんとか褒めるところを探すと、ジョン・ハイアット、ライ・クーダー、ジム・ケルトナーと組んだスーパーグループ(笑)のアルバム『Little Village』から初めて1曲収録したのと、そのアルバム用の別の曲を一人で弾き語ったデモ「Don't Think About Her When You're Trying To Drive」が入っていることぐらいか(リトル・ヴィレッジはシングル盤まで集めたのに、このヴァージョンは知らなかったと思ったら、『The Doings』用に再録したものらしい)。あと個人的には、一番最初に買ったアルバムからの大好きな曲「L.A.F.S.」が初めてベスト盤に収録されたのが嬉しかった。

あれこれ文句書いてるけど、まあそれは何回もベスト盤を買わされてる側からの言い分であって(毎回ちょっとずつ珍しいのを入れやがって)、今までニック・ロウを聴いたことがないという人にはちょうどいい入門編なのかもね。彼のオリジナル・アルバムは何枚かを除いて廃盤だけど、中古屋ではプレミアムがつくどころか逆に投げ売られてるから、これ聴いて気に入った曲があれば、それが収録された時代のアルバムを探せばいいし。


と、更に普通のブログの一記事程度の分量でこの3枚組アルバムの最初の2枚分の紹介を終え(すみませんね、いつも長くて)、あとは最後の1枚のことを書こう。上に載せた、今のニックがテレビに映った昔の自分を観ているというジャケが象徴しているように、僕が文句ばかり書いた今回のベスト盤の主役は、この3枚目のDVD(それが付いてるのは限定生産らしいけど)。CDの方はおまけだと思えばいい。

DVDの内容は、07年10月のベルギーでの1時間のライヴをフル収録したものと、9曲のPV。ライヴは(ステージでの彼の語りによると)もともとアコースティック・ソロの予定だったのを、次週ロンドンで行われるコンサートのリハーサルとして(それは冗談か)『At My Age』の録音メンバーを呼び寄せてのバンド・セットに変更したとのことで、冒頭5曲とアンコールが彼一人、残りが、ゲライント・ワトキンズ、ボビー・アーウィンらを中心とした(今回はゴールド・トップと名付けられた)バンドでの演奏。

僕が最後に彼を直接観たのは確か94年の渋谷かな(あの時も確か偶然日本への出張と重なったんだった)。それから13年も経ってるんだから当然だろうけど、58歳のニックはなんだか実際の年齢よりずっと歳を取ってるように見えるのでちょっとびっくり。でも、ギターを胸の上の方に抱え、長い指と親指で包み込むようにフレットを押さえるギターの弾き方を見て、ああ同じ人だ、全然変わってない、なんて妙な感想を持ってしまった。

ステージに登場してまず弾き始めたのは、2年前の『At My Age』の記事で僕が一番のお気に入りと書いた「People Change」。それから、「Soulful Wind」「What's Shakin' On The Hill」と、作られた時代は違えど今のニックの枯れた味わいの歌声が似合う名曲が続く。

更に時代を遡った「Heart」や「All Men Are Liars」も、微妙なメロディーラインや歌詞や曲調を変えて、最近モードのニック・ロウ風の味付けに変えられている。こういうのもいいね。

「Thanks folks!」という挨拶を聞いて、そうそう、この人はこう言うんだった、と思い出してちょっと嬉しくなる。ちなみにグレン・ティルブルックは「Cheers loves!」だよね。

続く「Without Love」からメンバーが登場。ボビー・アーウィン、太ったねー。ゲライント・ワトキンズは昔から爺さんみたいな風貌だったから、そんなに違和感ないけどね。その初期の名曲に続けて演奏された近作からの「Has She Got A Friend?」を聴いて、過去の名曲にひけをとらない作曲クオリティーをこの人は保ってるなあと改めて実感。

新作からの「I Trained Her To Love Me」を終え、ボビーが膝をスティックで叩いてカウントを取って始まったイントロを聴いて、全身にびっしり鳥肌が立つ。こんなに円熟した「Cruel To Be Kind」なんて。ギターのジョニー・スコットがせっかくのソロをちょっととちるのが残念。

“最近のニック・ロウ・モード”の代表格みたいな「You Inspire Me」がそれに続く。ゲライントのウーリッツアーがいいね。更に新作からの「Long Limbed Girl」を歌い終えたときに「今のはピンク・フロイドの古い曲」なんてジョークを。

アコーディオンに持ち替えたゲライントが超かっこいい「Shting-Shtang」の後鳴り止まない拍手と歓声。ニックに「皆君のことを愛してるよ」と声をかけられたゲライントがまたウーリッツアーの前に座り、次は「Rome Wasn't Built In A Day」。ここでのソロも滲みる。本当にこういう地味ながらクールなプレイが決まる、いぶし銀みたいなピアニストだね。

無伴奏で「Well, well, well〜」と歌いだすイントロがこれまた超かっこいい「I Knew The Bride (When She Used To Rock And Roll)」。ロックパイルやヒューイ・ルイス&ザ・ニューズをバックにした演奏ももちろんよかったけど、この現在のバンドが醸し出すまろやかな雰囲気がまた格別だね。

だから、本編最後の「(What's So Funny 'bout) Peace, Love And Understanding」も、最近のこのしっとりとしたスロー・ヴァージョンでなく、このゴールド・トップならではの、ブリンズリー・シュウォーツやアトラクションズとはまた一味違った新しい解釈による演奏を聴きたかったと、贅沢な望みを持ってしまった。これはこれで素晴らしいクロージングなんだけどね、もちろん。

アンコールの拍手に応えてニックが一人で登場。アコギ一本によるスローなヴァージョンに生まれ変わった「Heart Of The City」と、最後を締めるにはあまりにも渋すぎる(でも格好いい)「Beast In Me」で終了。たった一時間とは思えないほど、見終わった後に充実感が残る内容。2枚組CDの方と違って、一時間だから繰り返して観てもあんまり時間食わないし。複数使っているカメラの解像度や色味がいちいち違うので観づらくて、映像のクオリティーはいまひとつだけど、収録内容には大満足のDVD。

9曲のPVの方はさらっと流そう。「Cruel To Be Kind」とか「I Knew The Bride」とか、どこかで見たことあったビデオもあるけど、ほとんどが僕は初めて観るもの。「I Love The Sound Of Breaking Glass」と「No Reason」はスタジオ版とちょっとヴァージョンが違う。このビデオのための新録だろう。それらや「Cracking Up」みたいな演奏シーンを素直に映したものはいいんだけど、いかにも80年代の低予算PVといった作りのものは、ちょっと何度も観る気にはあまりなれない。女の子の目からビームが出る「Ragin' Eyes」とか、最後にニックが逆さ吊りになって終わる「All Men Are Liars」とかね。

滅多に見られないロックパイルの演奏シーンや、ぎこちなく演技するデイヴ・エドモンズなど、それなりに見所もあるから、まあこれはこれでよかった。ただ、曲によって縦横のアスペクト比が違うのをそのまま収録してあるから、曲ごとにモニターの方を調整しないと画像が縦に伸びたり横に広がったりする。僕のテレビのせいなのかな。ちょっと面倒。

久々に画像ほとんどなしの長文記事を書いたな。これだけ書けばもうちゃんと読んでる人もいないだろう(読者を振り切ってどうする)。最初に聴いてから四半世紀もの間ずっと追いかけてきたこの人のことなら、なんだかホームグラウンドに戻ってきたような気持ちでいくらでも書けるよ。でも今日はこれぐらいにしておこうね。
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2009年05月17日

続報と速報 - Glenn Tilbrook

言霊というものは本当にあるようで、1月31日の記事

しかし、こうしてディスコグラフィーと見比べながら作業していると、自分が持ってないものが気になってくるよね。あと数枚集めたら、少なくとも聴いたことのないレア曲というものはなくなると思ってしまったが最後、この記事をアップしたその足で(?)eBayに飛ぶんだろうな。

なんて書いたら、実際そうせずにはいられなくなってしまった。あれから3ヶ月強、スクイーズ/グレン・ティルブルックのシングルが10枚増えたので、今日はあの記事の続報を書くことにしよう。


Annie Cats.JPG Annie Cats #.JPG


34. Cool For Cats
35. Annie Get Your Gun


まずは、京都公演でグレンが四苦八苦しながら歌ってくれた思い出も懐かしい「Cool For Cats」の7インチ盤。これ、A面はセカンドアルバムのヴァージョンそのままだし、B面に何故かファーストアルバムからの曲のヴァージョン違いで収録された「Model」は既に『Excess Moderation』とかのCDにも入っているので、音源としては有難味が薄いんだけど、このかわいいジャケもカラーヴィニールもちょっと僕の所有欲をそそったもので。

C4C.JPG

僕が買ったこの薄いピンク色のは、1万枚プレスされているので、比較的安く手に入る。この後もっと濃いピンクで5千枚、それから赤で1千枚プレスされ、その後は普通の黒盤になるので、レア度も値段も濃いピンクとか赤の方が高いんだけど、やっぱりこの色がジャケットにも合ってるし、一番綺麗だと思うよ(これもすっぱい葡萄か?)。

35は、ライヴアルバム『A Round And A Bout』からのシングルカットで、アメリカのみで発売になったもの。カップリングの「Is It Too Late」はアルバムには未収録のライヴ。それから、1月31日の記事にも書いた、彼らのアルバムデビュー前のEPの3曲。このシングルCD以外では一度もCD化されたことのない音源だ。何故か、オリジナルEPでのA面「Cat On The Wall」、B面「Night Ride」「Backtrack」という曲順が無視されて、「Backtrack」「Night Ride」「Cat On The Wall」という順番で収録されているのがすごく違和感。


SFP.JPG SFP #.JPG


36. Third Rail
37. Third Rail
38. Some Fantastic Place
39. Loving You Tonight


続いて、アルバム『Some Fantastic Place』期のシングルを何枚か。アルバムからの最初のシングルカット「Third Rail」が36、37と二枚写っているけれど、別にマサさんの霊が取り付いて同じものを何枚も買ったわけではない(マサさん冗談ですよ)。この頃から盛んになっていた、同じ表題曲のシングルをカップリング曲を替えて何種類も出してチャートを狙おうという商業主義のせい。

プラケース入りの36のカップリングは、「Take Me I'm Yours (Remix)」と「Cool For Cats (Medley Live)」。前者は、「Take Me〜」のディスコ向けといった感じ。後者は、ちょっとゆるい感じでクリス・ディフォードが歌い始める「Cool For Cats」から、メドレーで「Strong In Reason」につなぎ、また「Cool For Cats」に戻るというもの。92年のロンドンはタウン&カントリーでのライヴで、ちょっと印象的なキーボードを弾いているのは、アトラクションズのスティーヴ・ナイーヴだ。

デジパックの37のカップリングは、こちらもタウン&カントリーでのライヴ録音。「Walk A Straight Line」がさっきと同じ時の録音で、「The Truth」と「Melody Motel」の2曲はそれから1年後の収録。キーボードがポール・キャラックに代わっているけど、ドラムにアトラクションズのピート・トーマスが入っている時期。

グレンのソロ公演でお馴染みの「The Truth」のドローン奏法こそないものの、この3曲のライヴ録音が聴けるのは嬉しいね。「Melody Motel」は僕の大好きな曲だし、「Walk A Straight Line」なんて、隠れた名曲と言ってもいいぐらい。一度は生で聴いてみたいな。

38は、アルバム表題曲の7インチシングル。この曲のCDシングルも2種類出ていて、さっきの「Third Rail」同様、一つはプラケースでもう一つはデジパック。1月31日の記事に載せた、僕が持っている方はデジパックで、この7インチのカップリング曲「Jumping」は、プラケース版の方に入っている。まだプラケース版は買っていなくて、タイコウチさんお薦めの「Dark Saloons」は聴けていないんだけど、この「Jumping」もまあそこそこいい曲だね。ちなみにこの7インチ、プロモ盤の放出品で、105円で見つけたもの。ダイソーじゃないよ。

39はポール・キャラックが歌う曲。こんなのシングルカットされてたんだね。「Tempted」の柳の下のドジョウを狙ったのかな。カップリングは、表題曲のリミックスと、「Tempted」のスタジオライヴ、それから「The Third Rail」のスタジオライヴ。3曲目までポールのヴォーカル曲が続くので、彼の濃い歌い方があんまり好きじゃない僕にとっては、最後にグレンの声が聴けて嬉しい、という作りになっている。


These Summers.JPG These Summers #.JPG


40. This Summer
41. This Summer
42. This Summer


アルバム『Ridiculous』からの最初のシングルカット「This Summer」はアルバム発売時に2種類出ていて、1月31日の記事に載せたように僕もそれを両方とも持ってるんだけど、翌96年になって同じ曲がまた形を変えて3種類発売され、しかもそのうちのひとつには、3枚一緒に収納できるボックスが付いていた。商業主義ここに極まれり、といった感じか。1月のグレンの来日以来、いくつかの音楽雑誌にインタビュー記事が載ったんだけど、そこで彼がこの『Ridiculous』期のルーティン的な仕事を否定的に語っていたのは、きっとこういうことも含めてのことなのかも。

そんないわくつきの品を、発売後10年以上も経ってからオークションで買っている自分もどうかと思いはするけれど、まあCDシングル3枚にしてはそう高かったわけでもないからとムリヤリ納得。

水色の40は表題曲「This Summer」のリミックスとアルバムヴァージョン、「Electric Trains (Narrow Gauge Mix)」、「Heaven Knows」のエディット版という4曲。Narrow Gauge Mixが、バンジョーとかが入っててちょっと面白いかな。

薄緑色の41は「This Summer」のリミックスに、「Cool For Cats」「Up The Junction」「Black Coffee In Bed」のスタジオ録音という初心者向けの内容。こんなセット物買うのはマニアに決まってるのに、なんでこんなことするんだろう。カップリングに使う曲がないならこんな企画やめればいいのに。

黄色の42が唯一コレクションし甲斐のある内容。カップリングの3曲「Sweet As A Nut」「In Another Lifetime」「Never There」は全てアルバム未収録で、その後沢山出たどの編集アルバムにも(『Ridiculous』の再発盤にすら)再収録されることはなかった。どれもなかなかの好曲だと思うんだけどな。それにしても、この3枚を全部通して聴くと、「This Summer」を4回も聴くことになって、ちょっとうんざり。それって、この曲をプロモートするためのこの企画の趣旨に反してると思うんだけど。


Still Promo.JPG Still Promo #.JPG


43. Still

『Pandemonium Ensues』からダウンロードオンリーでシングルカットされたこの曲のプロモ盤。表題曲しか入ってないし、当然アルバムヴァージョンなので、普段の僕ならこういうのは滅多に買わないんだけど、グレン熱に冒されていた時期につい落札してしまった。

ジャケットは単なる二つ折りのペラペラの紙で味も素っ気もないんだけど、それでもデータをダウンロードしてそれを聴くだけというよりは、ずっと所有欲を刺戟する。シングル盤の魅力って、この記事の一番上に載せたような、綺麗なジャケにカラーヴィニールとかのおまけを手に入れる嬉しさ、っていうのがすごく大きいと思うんだけど。そういうのがCDシングルの時代になって少しずつ失われてきて、今のダウンロードでシングル曲を買うという時代には、そんなの全然意味がないと思われているんだろうね。


さて、いつもながらの愚痴はこれぐらいにして、最後に嬉しいお知らせを一つ。おとといぐらいにファンの間を驚愕のニュースが駆け巡った、グレン・ティルブルック再来日のお話。

さっきちらっと名前が出てきたスティーヴ・ナイーヴがフジロックに出演することが決まってたんだけど、元々共演予定だったフィクション・プレインのジョー・サムナー(スティングの息子)に代わって急遽グレンが出ることになり、その翌日に一回だけ東京公演も決まったということらしい。場所は前回と同じ吉祥寺のスターパインズカフェ。

月曜の夜というのもちょっと大変だし、行こうと思っているダコタ・スイートの来日公演と同じ週だけど、これを観ないわけにはいかない。その週はなるべく出張が入らないように調整して、あとは夕方に急な会議が入ると困るので、念を入れて有給休暇でも取るかな。
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2009年05月10日

人脈 - John Wesley Harding

Who Was Changed And Who Was Dead.jpg 
John Wesley Harding 『Who Was Changed And Who Was Dead』

ジョン・ウェズリー・ハーディング。セカンドアルバム『Here Comes The Groom』で初めて彼のことを知ったときは、どんなキワモノかと思ったものだった。だって、ボブ・ディランのアルバムタイトルをそのまま芸名にし、エルヴィス・コステロのニセモノみたいな声で、そのエルヴィスのバンド、アトラクションズの二人(ブルース・トーマスとピート・トーマス)をバックに録音したアルバムだなんて。真っ赤な背景に薔薇のイラスト、上半身裸(肩までしか写ってないけど)の彼がこちらを見つめているジャケも、それだけでちょっと勘弁って感じだったし。

半分シャレのつもりで買ったんだと思う。あるいは、コステロ絡みは何だって集めたいと思っていた時期だったのかもしれない。それが、ブックレットを見てみたら、先のアトラクションズの二人に加えて、トム・ロビンソン、ゲライント・ワトキンズ、カースティ・マッコールなんて錚々たるゲストプレイヤーの面々(その時は知らなかったけど、キーボードのケニー・クラドックは元リンディスファーンだし、04年に発表された幻のファーストアルバムには、アトラクションズの残り一名、スティーヴ・ナイーヴも参加していた)。なんで、無名の新人のアルバム(しかもそっくりさん)にこんな豪華なゲストが参加しているんだろう。

CDを聴いてみると、そっくりさんどころじゃない曲のクオリティ。あんな声であえてアトラクションズの面々をバックにつけて登場したことが彼にとってラッキーだったのかどうかはわからないけど、彼が単なるコステロ・フォロワーなどではなかったことは、あれから20年弱、既に時代が証明している。

アメリカに活動の場を移したイギリスのミュージシャンは山ほどいるけど、そうしておきながらあえてブリティッシュ・フォークの方面に回帰していった人はあまりいないと思う。ここ数年の彼は、その頃(一般的な意味で)誰も知らなかったニック・ジョーンズを再評価した99年の『Trad Arr Jones』以来、アルバム毎にフォークとコンテンポラリーな音楽を行ったり来たりしていた。コンテンポラリーものとしては04年の『Adam's Apple』以来、そして彼が05年に企画したブリティッシュ・フォーク再評価プロジェクト、ラヴ・ホール・トリスト(The Love Hall Tryst)の『Songs Of Misfortune』以来となるニューアルバムがようやく発売になった。

07年の夏に元ポウジーズのジョン・オウアと一緒に日本公演を行ったとき(僕があと半年早く帰国していれば、全公演追っかけたのに…)のセットリストを見ると、この新作からの曲が結構歌われていたことがわかる。このアルバムの録音もそのとき既にかなり進んでいたんだろう。今回のバックバンドは、しばらく前から親密になっていたスコット・マコーイーを通じて知り合ったと思しき、スコット自身を含むマイナス・ファイヴ(ギターはもちろんREMのピーター・バック)が中心。

00年の『The Confessions Of St. Ace』でも1曲に参加していたアール・スリックが、今回も1曲でギターを弾いている。一体どこからこんな伝説のギタリストみたいな人を引っ張ってくるんだろう。さっきのセカンドアルバムでの人選といい、ほんとに不思議。そういえば、自分のコンサートには決して前座をつけないブルース・スプリングスティーンが、過去に一度だけ前座を指名したことがあって、それがこのジョン・ウェズリー・ハーディングだったというのも驚き。音楽性を評価されたのはもちろん、人脈作りにも長けた人なんだね、きっと。

上に載せたちょっと取っ付きにくいタイプのジャケ(フォーク路線じゃないときぐらい、はっきりそれとわかるジャケにすればいいのに)に臆せず聴いてみれば、相変わらずのコステロ声で歌われる、バラエティに富んだ13曲が楽しめるはず。前々作の「Negative Love」みたいなキラー・チューンがないように思えるのがちょっと残念だけど。でも、後述するライヴCDでも演奏されている自伝的な「Top Of The Bottom」とか、平均以上にいい曲は多いと思うよ。

彼のウェブサイトのショップでは、去年の11月頃から既にこのアルバムの有料ダウンロード告知が始まっていたようで、「ベーシック」コース(15.98ドル)でダウンロードすると、初回5000枚限定のライヴCDが付いたこのCDアルバムが送られてくる。僕はダウンロードなしで、店で直接ライヴCD付きの2枚組を買ったけどね。面白いのは、サイトにはこのベーシックコース以外にもいろいろあって、

29.98ドルの「ベーシックプラス」コースは、ダウンロードと2枚組CDにTシャツ付き。

49.98ドルの「ファンシー」コースは、ベーシックプラスに加えて1000枚限定のライヴDVD付き。

79.98ドルの「スーパーファンシー」コースは、ファンシーに加えてサイン入りのポスター付き。

そしてなんとその上に、5000ドルの「クレイジーデラックス&パーソナル」コースというのがあって、それはスーパーファンシーのポスターが額に入っているだけでなく、ウェズが家に来て歌ってくれるというとんでもないもの。マジですか?「近くなら交通費は要らない。遠い場合は交通費を負担して」とのことだけど、5000ドル+NYからの往復旅費ぐらい、日本のファンがちょっと結託すればすぐに集まると思うんだけど。

さて、5000枚限定のライヴCDの話を少々。中央にウェズのアコギ、右チャネルに盟友クリス・フォン・スナイダーンの12弦(多分)、左チャネルにロバート・ロイドのマンドリンというアンサンブルが見事。1曲目の「Kiss Me Miss Liberty」から聴き惚れてしまう。先述の『St. Ace』でアール・スリックが歌っていた「Our Lady Of The Highways」でウェズのデュエット相手のパートを歌うのは、ジョシュ・リター。

極初期の「The Devil In Me」から新作の「Top Of The Bottom」まで、年代的にも幅広く網羅した、ベスト盤的選曲のアコースティック・ライヴ。ライヴ盤だったデビューアルバム『It Happened One Night』以来変わらない、言葉が溢れてきてしょうがないといった風情の歌詞とMC(シニカルなジョークを交えた喋り方になんとなくグレン・ティルブルックを髣髴とさせるところもあるね)。せっかくの新作アルバムには申し訳ないけど、僕は入手以来こっちの方を何度も聴いてしまっている。

僕の大好きな曲の一つ、このライヴ盤には入っていないけど、僕が最初に手に入れた『Here Comes The Groom』の最終曲、トム・ロビンソンがプロデュースした「Bastard Son」の出だしの歌詞は強烈だった。

 ボブ・ディランが父親 ジョーン・バエズが母親
 俺は二人の私生児


1990年にこれを聴いたときは、大ボラ吹きの冗談だと思った。でも、今では彼を知る誰もが、この私生児がちゃんとその両親の後を正しく歩んでいることを知っている。派手に立ち回ったりはしないけれど、時々フォークのご先祖様を敬いながら、不思議な方法で人脈を増やしながら。
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