2009年02月21日

背伸びの音 - Lord Large

The Lord's First XI.jpg Lord Large 『The Lord's First XI』

カーティス・メイフィールドを教えてくれたのは、ポール・ウェラーだった。シングル「Beat Surrender」のカップリング曲としてだったか、『Snap!』の初回盤に付いていたライヴ盤でだったか、それともFMのライヴを録音したのか、どこで最初に聴いたのかはよく覚えてないけど、83年にはもうすっかりソウル色を強めていたジャムが自分達の定番にしていた「Move On Up」という曲で、僕は初めてその名前を聞いたんだと思う。

無人島レコードはどうしても選べない僕の、無人島本ベスト3(やっぱり一枚には絞れてないけど)の一冊であるニック・ホーンビィの『ハイ・フィデリティ』で、主人公のロブが好きなレコードのトップ・ファイブの一番目にマーヴィン・ゲイの「Let's Get It On」を選んでいるのを見て、なんてクールなんだと思った。

中学生の頃から今に至るまで、およそロック/ポップスと呼ばれる音楽ばかりを聴いていた僕にとって、ソウルというのは、少し上の兄貴(*1)が教えてくれる音楽だった。結局そういう音楽を心の底から好きになることはなかったけど、ソウル・ミュージックを聴いているときにはいつだって、ちょっと背伸びをして、大人ぶった気持ちになれる。今の僕はもうとっくにいい大人だということはさておいて。

*1:ポール・ウェラーもニック・ホーンビィも、ちょうど中学生の僕が憧れる大学生の兄貴というぐらいの歳の差。もっとも、僕が中学生の頃にはニックは教員を目指して本当に大学で勉強していたはずだから、その当時の僕には名前すら知る由もなかったけど。

ロード・ラージ、本名スティーヴン・ラージ(*2)のこの06年に出たアルバム。お察しの通り、僕がこれを買ったのは、彼がグレン・ティルブルックのバンドのキーボーディストだということと、このアルバムにグレンがゲスト・ヴォーカリストとして参加しているということが理由だったんだけど、このアルバムは上に名前を挙げたような人たちの音楽を思い起こさせる。ノーザン・ソウル。それから、モッズ。

*2:このブログでは彼のStephenというファースト・ネームをステファンと書いていたけど、実際の発音はスティーヴンだということに気づいた。あとで過去記事も訂正しておこう。

スティーヴンはキーボード・プレイヤーに徹し、グレンを含めた8人のゲスト・ヴォーカリストが次々に登場する。僕はほとんどの人の名前を知らなかったけど、張りのある塩辛声、いぶし銀のようなテナー・ヴォイス、年齢不詳のチャキチャキのハイトーン・ヴォイスが代わる代わる登場して、楽しめる。その中では、アルバム本編最後に位置するグレンの声だけが、あまりに異色。これを買ったソウル・ファンはこの曲をどう思うんだろう。

そのグレンの曲のひとつ前に収められた、ディーン・パリッシュが歌う「Left, Right & Centre」。うわ、まるっきりポール・ウェラーみたい、と思ったら、なんとこれがポールが15歳のときに書いたという未発表曲。15歳って、ジャム結成よりも遥かに前?ジャムの曲よりむしろ、彼がソロになって最近書いた曲と言われたほうがしっくりくるような曲調。

おそらくLPではA面とB面それぞれの冒頭の曲と、日本盤ボートラの最後の2曲がインスト。これがまた、どこのモッズ・バンドかと思ってしまうぐらい、超かっこいい曲ばかり。スティーヴンのオルガンとウーリッツアー・ピアノ、それから、(ユニットとしての)ロード・ラージのもう一人の主役、アンドリュー・J・ジョーンズによるものと思われるストリングス。この3つの音の組み合わせがこのアルバムの要。曲調がソウル風だろうとモッズ風だろうと、それだけは揺るぎない。

これを聴くとはっきりわかるのが、グレンの『Pandemonium Ensues』のあの音作り、これまでの2枚と明らかに違う音の感触は、この人たちが持ち込んだんだということ。たぶん、スティーヴンとアンドリューがいなければ、「Still」はああいうアレンジにはならなかったんじゃないかと思う。

グレンのこれまでのアルバムにも参加していたこの(当時はろくに名前も記憶していなかった)キーボーディスト、正直言って、僕は単なる雇われセッション・ミュージシャンに毛の生えた程度だと思っていた。それらのアルバムでは特に目立ったプレイをしていたわけでもなかったし。

再結成スクイーズのライヴ・アルバム『Five Live』を聴いても、スタジオ盤でのジュールス・ホランドやポール・キャラックら先達のフレーズをそのままなぞっているだけという印象だった。1月31日の記事に書いたように、「Black Coffee In Bed」や「Love's Crashing Waves」の85年のライヴを聴いただけで、明らかにジュールス・ホランドがピアノを弾いているとわかったのとは大違い。

それが、『Pandemonium Ensues』でのあの飛躍ぶり。「Best Of Times」でのアコーディオンの素晴らしさは言うに及ばず、先述の「Still」での弦とオルガンとウーリッツアーの絡み、「Too Close To The Sun」でのモンド風味満載のムーグとエコー(*4)、どれもこれもスティーヴンと、アルバムの共同プロデューサーであるアンドリューの仕業だと思える。

*4:実際には、ムーグを弾いてるのはグレンで、エコー操作はアンドリューだけど、キーボード主体のあの曲にスティーヴンが口出ししてないはずがない、と決め付けておこう。

再結成スクイーズの初期の音源を収めた『Five Live』では、きっとスティーヴンは新参者だということで遠慮していたんだろう。来年出ると言われているスクイーズのニュー・アルバムでは、きっと彼が『Pandemonium』でしたのと同じぐらいの貢献をしてくれるはずだ。スクイーズのファンをニューオーリンズに連れて行ってくれたのがジュールス・ホランドだとしたら、この最新スクイーズのキーボーディストは、僕たちをシカゴやデトロイトに連れて行ってくれるに違いない。

どうも、放っとくとスクイーズの話ばかりになってしまうね。本題のこのアルバム、スクイーズとは全然ジャンルが違うけど、グレンが参加しているかどうかに関わらず、最近の僕のヘビー・ローテーションになっている。マイスペではグレンの曲は聴けないけど、アップされている4曲はどれも格好いいのばかりだから、興味のある人はどうぞ。きっと、ポール・ウェラーが『The Cost Of Loving』の頃に目指していたのは、こういう音だと思う。
posted by . at 12:20| Comment(6) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする