2008年12月07日

これです - James Blood Ulmer

夏ごろのエコ月間の反動なのかなんなのか、先月末からとんでもない数のCDを買い続けてしまっている。もちろんその中にはすごくいいものも沢山あって、この週末はそんな中の一枚を取り上げようと思っていたんだけど、ちょっと前にpiouhgdさんのブログで見かけた名前が妙に気になって、つい懐かしいLPを引っ張り出して聴いてしまってるもんだから、今日はそのことを書くことにしよう。piouhgdさん、僕がコメント欄に書いたのはこれです。

そこで取り上げられていたのは、デイヴィッド・マレイ(David Murray)というジャズのサックス奏者。お察しのとおり僕はジャズについては造詣もなにもあったもんじゃなくて、この人のことも、昔よく聴いていたあるアーティストのアルバムで客演していたから知っていただけなんだけどね。

Are You Glad + Free Lancing.JPG

イギリスのインディーズとして当時ギザギザにとんがっていたラフ・トレードが、初めてレーベル単体として日本に紹介されたのが81年のこと。3月1日に第一回新譜として発売されたのが、

ポップ・グループ 『For How Much Longer Do We Torelate Mass Murder?』 RTL-1
キャバレー・ヴォルテール 『The Voice Of America』 RTL-2
ヤング・マーブル・ジャイアンツ 『Colossal Youth』 RTL-3
ペル・ウブ 『The Art Of Walking』 RTL-4
オムニバス 『Clear Cut』 RTL-5


この5タイトル。記録によると、僕はRTL-1を発売月に買ったようだ。RTL-5については、かつてスクリッティ・ポリッティの記事に書いたとおり。それも同じ月に買っているね。今と違ってひと月にそう何枚もレコードを買えなかった学生時代、この81年3月に僕が買ったのは、この2枚に加えて、元ワイアーのコリン・ニューマンの『A-Z』と、テレビジョン・パーソナリティーズのファースト。我ながら、なんてヒネた中学生だったことかと思う。

ラフ・トレード・ジャパンの話に戻って、翌4月1日には

フォール 『Grotesque』 RTL-6
ペル・ウブ 『390°Of Simulated Stereo』 RTL-7


の2枚が出て、更にその翌月の5月1日に出たのが、

ジェームス・ブラッド・ウルマー 『Are You Glad To Be In America?』 RTL-8

だった。今日はこの人の話。今挙げたグループのことを知らない人にはどうにもわけのわからない話かもしれないけれど、80年代初期に現れて(そして多くはすぐに消えていった)数々のアヴァンギャルドなパンク/ニュー・ウェーヴのバンドに混じって紹介されたこのアルバム。上の写真の右側の、バッタを指に乗せた黒人の子供のジャケに何故かやけに惹かれて買ってみたんだったっけ。“BLOOD”の文字がエンボス加工になっていたのが嬉しかったな。


ブチブチと打楽器のように高速で弾かれるベースと機関銃のようなドラムスにまず圧倒された。いったいどこに拍の頭があるのかよくわからないままどんどんテンポが速くなっていく変拍子のリズム。全員一緒のペースで速くなってるってことは、誰かがヘタクソで走り出したりしてるんじゃなくて、そういう曲ってことなんだろう。そして、やたら手数の多い、硬質な音色のギター。

それまでサックスというと、ブルース・スプリングスティーンのアルバムで聴いていたクラレンス・クレモンズの伸びのある気持ちいい音ぐらいしか知らなかったから、ここで狂ったように吹き鳴らされている音はかなりのインパクトだったはず。「はず」というのは、そもそもその当時、こんな風にギターがこうで、サックスがこうで、なんて聴き方してなかったからね。とにかくそんな音のカタマリをガツンと投げつけられたような気がした。

フリー・ジャズと呼ばれる類いの音楽だけど、当時の僕にとっては、ものすごく刺激的な“ロック”だった。そう、彼の二枚あとのアルバムタイトル『Black Rock』が示していたように。

ジェームス・ブラッド・ウルマー(James Blood Ulmer):ギター
アミン・アリ(Amin Ali):ベース
ロナルド・シャノン・ジャクソン(Ronald Shannon Jackson):ドラムス
G.カルヴィン・ウェストン(G. Calvin Weston):ドラムス
デイヴィッド・マレイ(David Murray):テナーサックス
オリヴァー・レイク(Oliver Lake):アルトサックス
オル・ダラ(Olu Daru):トランペット
ウィリアム・パターソン(William Patterson):リズムギター

というのがこのアルバムの演奏メンバー。ジャズファンの人には有名なメンバーもいるのかも知れないけれど、僕にとっては、このリストの最初の5人の名前は特に忘れられないものとなった。それにしても、この17年後に初のリーダーアルバムを僕が買うことになるオル・ダラ(Olu Dara)の名前がこんなところにあったなんて、今回クレジットを見直すまで気づいていなかったよ(裏ジャケの表記はOlu Daruって間違えてるけどね)。

アルバム・プロデュースは、ウルマー自身と、ジャズ系のアルバムを手掛けている(と今調べた)ロジャー・トリリング(Roger Trilling)に加え、なんとレッド・クレイヨラのメイヨ・トンプソン(Mayo Thompson)。当時のラフ・トレード人脈ということを考えるとそんなに違和感のない人選なのかもしれないけれど、なんだか不思議な感じ。道理で、この次のアルバムとかと比べると、音の感触が違う気がする。ちなみに僕が妙に惹かれたバッタと子供の写真は、内藤忠行というジャズ・ミュージシャンの写真を撮る人のものだった。

何があったのかは知らないけれど、ラフ・トレードをこのアルバム一枚で離れ、同じ年の暮れにCBSから発表されたのが、上の写真では左側にある『Free Lancing』。クールなバッタジャケと比べてこの暑苦しい写真!もちろん、前作の中身がどんなに熱いものかを知っていた僕は、このジャケだけで「買い」だったけどね。

前作と甲乙つけがたい、凄まじい演奏。プロデューサー名簿からメイヨ・トンプソンが抜けたせいか、どちらかというと今作の方がストレートにフリージャズっぽい(のかな?そもそもフリージャズについてそんなに詳しくわかってるわけでもないので)。曲によってメンバーが入れ替わっているが、基本的にはウルマー、アリ、ウェストンの3ピース。マレイは3曲に参加。さっき書き忘れたけど、前作でもこのアルバムでも、数曲でウルマーがその野太い声で結構ソウルフルに歌っている。

自分ではそうと気づかないまま、ここが僕のジャズへの入り口になった。そして、『Free Lancing』の裏ジャケで謝辞が捧げられているオーネット・コールマンとかの方向に恐る恐る進んでいくことになる。でもあんまり深入りするに至らず、結局今でもジャズと聞くと自分は門外漢だと思ってしまう。そして、今でもこの辺の人たちのことは、ジャズというよりは、ロックの端っこの方だと思って聴いている。

この次にまたCBSから出た『Black Rock』(これは僕はLPでは持っていない)を含めて、この時期のウルマーはメチャクチャ格好よかったな。残念ながらCBSからのタイトルは全て廃盤になってしまっているけど(中古盤が凄い値段で取引されてるみたい)、その後あちこちのレコード会社からいろんなジャケットに変更されて再発された『Are You Glad To Be In America?』は今でも流通しているみたいだね。興味のある人は聴いてみればいい。安くはないけど、その価値はあると思う。僕もCDで買い直そうかな。凄い高値の廃盤になる前に。

AYGTBIA.jpg James Blood Ulmer 『Are You Glad To Be In America?』


<12月13日追記>

Are You Glad To Be In America DIW.jpg 届いてみたらこんなだった。
posted by . at 03:24| Comment(6) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする