2008年09月21日

骨太ライヴ - Bob Mould

今年の頭に入手して以来、もう半年もの間、何度も記事にしようとしては他の話題に先を越され続けている、ボブ・モウルドの『District Line』というアルバムがある。この週末こそそれについて書こうかなと思ったんだけど、今日は珍しく2時間ほどぽかんと時間が空いたので、これも数ヶ月前に買ったものの、時間がなくて封さえ開けていなかったこのDVDを観ることにした。

Circle Of Friends.jpg Bob Mould 『Circle Of Friends』

05年10月、ワシントンDCにある9:30クラブでのライヴを丸ごと収録したもの。冒頭に10分ほどのメンバーのインタビューがあって、あまりよく知らないメンバーそれぞれの人柄なんかがちょっと窺える。この部分は別チャプターになってるから、飛ばそうと思えばすぐコンサートのチャプターから観ることもできる。こういうインタビューとかって、普通は特別メニューとして収録されていることが多いけど、そういうのはなかなか億劫でわざわざ観ることが少ないんだよね。その点これはいい作り方だと思うよ。

さて内容。黒基調のステージに、メンバー4人が思い思いの黒いシャツ。ボブのメタリックブルーのストラトキャスター、ジェイソン・ナーダシー(Jason Narducy)のメタリックレッドのプレジション・ベース、リチャード・モレル(Richard Morel)の真っ赤なキーボード、それぞれの色がよく映える。ヴィジュアルにはこだわるボブらしい、シンプルだけどくっきりとした印象が目に残るいいステージ。

綺麗なライティングのステージをシンプルに撮るだけで、こんなに優れたライヴ・ヴィデオになるという見本のような作品。こないだガチャガチャした演出のELPのヴィデオを観たばかりなので、特にそう思える。白基調のステージをシンプルに撮っただけのトーキング・ヘッズの『Stop Making Sense』は、ライヴ・ヴィデオの名作として有名だけど、この作品はそれに匹敵すると僕は思う。性急過ぎないシーンの切り替えも絶妙で、トータル2時間弱の何の変哲もない演奏シーンを観ていても全然飽きない。

スキンヘッドに無精髭がすっかり定着したボブ。僕は彼の動く姿を観るのはこれが初めてなんだけど、こんな大男だとは思わなかった。その彼がぶっとい腕でもってザクザクと骨太な音でかき鳴らされる轟音ギター。彼の曲を大いに特徴付けている、爆音の中に埋もれた煌くようなメロディーを奏でるキーボード。ブリブリと小気味よく鳴るベースに、これはよほど音のいい会場に違いないというのが聴いて取れる、滅茶苦茶タイトなドラム。この、ライヴCDにしても惜しくないと思える格好いい音をプロデュースしているのは、最新作『District Line』でもボブをサポートしているドラムスのブレンダン・キャンティー(Brendan Canty)。あ、彼はフガジのドラマーだったんだね。

05年のライヴだから、当然その年に出た『Body Of Song』からの曲が中心なんだけど、出だしからいきなりシュガー(Sugar)時代の名作『Copper Blue』のオープニング三曲「The Act We Act」、「A Good Idea」、「Changes」三連発。これは、しびれるね。

「Changes」が終わったときに「ハロー、サンキュー」と言った後は、約1時間のライヴ本編が終わるときにもう一回「サンキュー」と言うまで、一切MCなし。ほとんど全ての曲をメドレーのように演奏している。すごい体力だね。前の曲の終わりのフィードバックノイズがまだ鳴り響いているうちにドカドカドカドカと斬りこんでくるドラムの格好いいこと。タム、フロアタム、スネア、バスドラそれぞれ1個ずつ、それにシンバル類だけという極めてシンプルなドラムキットなのに、とにかく手数が多くて乗れる。このドラマーいいねえ。あとでフガジのCDも聴き直してみよう。

途中にハスカー・ドゥ(Husker Du)時代の曲もふんだんに挟み、本編ラストはまた『Copper Blue』からの「If I Can't Change Your Mind」。同じく『Copper Blue』からの「Helpless」で始まった二度のアンコールは、ハスカー・ドゥの「Makes No Sense At All」などの後、またしても『Copper Blue』からの「Man On The Moon」で締め。よほどあのアルバムが好きなんだね。もともとハスカー・ドゥはかじる程度にしか聴いていなかった僕がボブ・モウルドのことを再認識するきっかけとなったアルバムだから、僕も大好きなんだけどね。

途中何曲かスローな曲が入るが、基本的にはハイスピードの曲が立て続けに繰り出される。テレビ画面を観ているだけのこちらも膝頭を両手でバシバシ叩きながら乗りまくっているのに、何故か観客席はちょっとおとなしめ。もちろん皆揺れてるんだけど、普通この演奏を目の前で観たら大モッシュ大会だろうに。と思っていたら、途中ちらっと、陶酔しきった表情の、ハスカー・ドゥ世代と思しき女性が映る。そうか、皆かれこれ四半世紀も彼のことを聴いてきているんだね。それじゃモッシュは無理か。

それでふと思ったんだけど、80年代からのハスカー・ドゥのファン、90年代からのシュガーのファン以外に、シュガー解散後もコンスタントにアルバムを出し続けている彼のことを追いかけているファンはいるんだろうか。この人って、今はどういう位置づけなんだろうね。

僕にとっては、(実力派の)7番打者って感じ。4番打者の大砲ブルース・スプリングスティーンとか、3番打者のチャンスメーカー、グレン・ティルブルックとかみたいにいつも僕の脳内で目立っているわけじゃないけど、期待していない下位打線なのに忘れた頃にシブいヒットで繋いでくれるというね(現実世界では残念ながらヒット曲はないけれど)。名脇役好きの僕にとっては、その位置は結構重要かも。今日みたいに、ちょっとしたきっかけで一回聴いてしまうと、何枚も続けて彼のアルバムを聴いてしまう羽目になる。今このPCの両脇に彼の18枚のCDが山のように積み上げられていて、さっきから順番にプレイヤーに乗っているよ。そういう、中毒症状を引き起こさせられる人。

ニルヴァーナとも違う、ジーザス&メリーチェインとも違う、徹底した、でも暑苦しくない轟音と、ベトベトにならない甘さのメロディーの融合。ズブロッカをストレートでやるときに鼻にクンと来る甘い香りを思わせる。体内に摂り込んだときに腹にズシンと来るところもね。あと、誰も指摘してないと思うけど、この人の声質って、ポール・ウェラー激似だと思う。

先述の本編ラスト「If I Can't Change Your Mind」演奏中に降ってくる銀色の紙吹雪が、このシンプルなステージにあって唯一と言っていいほどの演出。上にも載せたDVDジャケのシーンがそれなんだけど、まるで雪の中で演奏しているような、一種幻想的なシーン。骨太な演奏に相まった、きりりと男前な出来のこのヴィデオを象徴している。

これは繰り返しの視聴に耐えるヴィデオだと思う。観ていると、この人のコンサートに無性に行きたくなってくるよ。日本盤は出ていないけど、僕の買ったUS盤も、リージョン0のNTSC。普通の日本のDVDプレイヤーで観られるはず。

ありそうで出ていない、ハスカー・ドゥからシュガーを経てソロに至る彼のキャリアを総括するようなベスト盤を、yascdみたいな形で作ってみようかなと思っていたこともあったけど、この“ボブ・モウルド総集編”みたいなライヴ・ヴィデオは、その役割を果たしているかも。これ読んでボブ・モウルドって聴いてみたいなと思ってくれるような奇特な人がいるなら、このDVDはかなりお薦め。2000円ちょっとで買えるみたいだし。

Copper Blue.jpg聴いてはみたいけどDVDはちょっとなあ、と思う人は、さっきから何度も名前を出している彼の92年のシュガー名義のアルバム『Copper Blue』から入ってみるのもいいかもしれない。基本的に過去の名盤みたいなのは紹介しないことにしている僕のブログだけど、そんなどうでもいいルールなんて放っておいていいぐらい格好いいアルバムだよ。リンクしたアマゾンでもそんなに高くはないけど、○ックオフとかの適当な中古屋で探せば、うまくいけば相当こなれた値段で見つかると思う。僕も何度かリアル・グルーヴィーの捨て値コーナーで見かけて、そのたびに(もう持ってるのに)手を伸ばしそうになったものだ。

何度も書くけど、こんなに上出来なヴィデオを観てたら、ほんとにこの場に居合わせたくなるよ。一時は難聴のためにもうコンサートはやらないなんて噂も出ていた彼だけど、まだライヴ活動は続けてるみたいだね。よかった。生で観たいなあ。日本に来てくれないかなあ。


posted by . at 21:23| Comment(6) | TrackBack(1) | ビデオ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。