2008年08月09日

名脇役一代記 - Nils Lofgren

The Loner.jpg Nils Lofgren 『The Loner - Nils Sings Neil』

僕が世界で二番目に好きなギタリスト、ニルス・ロフグレンからこんなのが届いた。盟友ニール・ヤングの曲を取り上げ、アコースティック・ギターとピアノで弾き語ったアルバム。冒頭の「Birds」、「Long May You Run」といった有名曲から、マイナーなライヴ盤『Time Fades Away』収録の「Don't Be Denied」といった地味な曲まで網羅した、全15曲。去年のブルース・スプリングスティーンとのマジック・ツアーに出る前に、自宅で録音したものらしい。

上のジャケにも写っているマーティンD-18は、1970年リリースのニールの傑作『After The Gold Rush』の内ジャケに写っているものと同じギター。弱冠17歳でそのアルバムにギタリスト/ピアニストとして参加したニルスに、ニールがお礼としてあげたものだそうだ。

三つ折紙ジャケの内側に(何故か合成写真風に)写っているグランド・ピアノは、ニルスの奥さんが16歳のときに亡くなったという彼女のお父さんのものだったハードマンの5フィート・ベイビー・グランド。僕はピアノのことはあまり詳しく知らないんだけど、相当年期の入ったものみたいだね。とにかくこのアルバムで使われているのはその二つの楽器のみ。

ニルス・ロフグレンのファンというのがこの世にどのくらいいるものなのか見当もつかないけど、その人たちはきっと一人残らずニール・ヤングのことも好きだろうから、その人たちにとってはこのアルバムは何の躊躇もなく「買い」だろう。

逆に、世界中に何万人(何十万人?何百万人?)もいるであろうニール・ヤングのファンは、この人のことをどれだけ知っているんだろう。そういう人たちにも聴いてみてほしい作品。

僕もいっぱしのニール・ヤングのファンのつもりだけど、この15曲の中には知らない曲もあったんで、ちょっとオリジナルの出典を調べてみた。

1. Birds (『After The Gold Rush』 Neil Young 1970
2. Long May You Run (『Long May You Run』 The Stills-Young Band 1976
3. Flying On The Ground (『Buffalo Springfield』 Buffalo Springfield 1967
4. I Am A Child (『Last Time Around』 Buffalo Springfield 1968
5. Only Love Can Break Your Heart (『After The Gold Rush』 Neil Young 1970
6. Harvest Moon (『Harvest Moon』 Neil Young 1992
7. Like A Hurricane (『American Stars'n Bars』 Neil Young 1977
8. The Loner (『Neil Young』 Neil Young 1969
9. Don't Be Denied (『Time Fades Away』 Neil Young 1973
10. World On A String (『Tonight's The Night』 Neil Young 1975
11. Mr. Soul (『Again』 Buffalo Springfield 1967
12. Winterlong (『Decade』 Neil Young 1977
13. On The Way Home (『Last Time Around』 Buffalo Springfield 1968
14. Wonderin' (『Everybody's Rockin'』 Neil Young 1983
15. Don't Cry No Tears (『Zuma』 Neil Young 1975

それぞれの曲の後ろにつけた年数を見て気づいたのが、40年以上に及ぶニール・ヤングのキャリアの、かなり初期の曲ばかりを、このアルバムでは扱っているね。

バッファロー・スプリングフィールドの曲を中心に、60年代の曲が5曲。ニルスが初めてニールのレコーディングに参加した記念すべき『After The Gold Rush』を始め、ニール全盛期である70年代から8曲。ニール迷走期として有名な80年代からは、なんとロカビリー・アルバム『Everybody's Rockin'』の曲をアコースティック・ヴァージョンで。そしてニール第二の充実期であったはずの90年代からは、わずか1曲だけ。

個人的には、もう少しバランスの取れた選曲をしてほしかったのが正直なところ。特に僕が彼のことを聴きはじめた70年代後期〜80年代前半や、第三の充実期と言っても過言でない最近の曲も、もう少し取り上げてほしかったな。

Nilsson Sings Newman.jpg自分自身優れたソングライターでもあるニルスがあえてニール・ヤングの曲だけで構成したアルバムのこの『Nils Sings Neil』というタイトルは、同じく素晴らしいシンガー・ソングライターであるニルソンが友人ランディー・ニューマンの曲のカバーだけで作り上げた素朴な名盤『Nilsson Sings Newman』を意識したに違いない(イニシャルのNまで揃えるために、本家が使った苗字でなくあえてファースト・ネームを使っているところに工夫が伺える)。あちらはランディー・ニューマン自身がピアノを演奏しているのに比べ、このアルバムには、ソングライター本人のゲスト出演がないのがちょっと残念。

約一時間にわたって堪能できる、ちょっとフラット気味に歌うクセのあるニルスの優しい歌声と、ゆるぎないアコギのテクニック。柔らかい音色のピアノ。こういう世界にしみじみと浸りたいときには最適なアルバム。

ただ、ニール・ヤングの曲って以外とワンパターンなところがあって、例えば、ここでの「Flying On The Ground」と「Harvest Moon」のイントロなんて、同じ曲かと思ってしまうほど。ニールのオリジナルは全然違うアレンジで演奏されていたから気づかなかったんだけどね。そんなわけで、一時間にわたって聴いていると、ちょっと単調に思えてくる瞬間もあったりする。できれば、「Like A Hurricane」や「The Loner」なんかは、オリジナルに忠実なエレクトリック・スタイルで演ってほしかったもの。


そんなちょっとした不満とも言えない不満を解消するために引っ張り出してきたのが、06年からずっとブログに取り上げよう取り上げようと思いながら(2回言う)今まで取りこぼされてきた、今回の企画盤を除けば今までのところ彼の最新スタジオ録音作。

Sacred Weapon.jpg Nils Lofgren 『Sacred Weapon』

ここ数年、いまいちぱっとしないアルバムや発掘ライヴ盤が多かった彼の、久々の会心作。アルバム出だしの彼お得意のハーモニクス奏法も鮮やかな、スローバラッドからゴリゴリのロックまで、バラエティに富んだ内容。1曲目にウィリー・ネルソン、10曲目にクロスビー&ナッシュをゲストシンガーに迎えるという、アメリカ音楽のオールド・タイマーにはちょっと嬉しい展開もある。

1951年生まれの彼がこのアルバムを作ったのは、もう55歳になろうとする頃か。ちょっと背の低いその風貌から、いつまで経ってもギター小僧呼ばわりされることもある彼だけど、50過ぎて「小僧」もないよね。若い頃はステージでギターを持ったままトンボ返りなんてしてたらしいけど、さすがにそれはもうやめておいた方が…(でも彼のサイトを見ると、いまだにそれがトレードマークになってたりして)。


いくら内容がよくても、ちょっとこのジャケは…という方には、これを薦めるよ。今を遡ること二十数年、記録によると大阪の中古レコ屋で1000円で手に入れたこのLPが僕の彼との出会いだった。

1+1.jpg Grin 『1+1』

このジャケはこのブログのどこかで見たことがある人もいるかもしれないね。1971年、ギター小僧がまだ20歳だった頃の作品。十数年遅れで同じ歳になった僕がふとした経緯でそうやって安価で入手し、それ以来何十年経っても僕の無人島レコ候補から外れない一枚だ。これを聴いていた頃の自分の感情といったものも多分に加味されてはいるんだろうけどね。でも、地味ながら聴き応えのあるアルバムを何枚も発表している彼の作品の中でも、最高傑作の部類に入るのは間違いない。


ヒット曲なんて一曲たりとも作れないかもしれない。でも、ギターを弾かせても、歌を歌わせても、曲を作らせても、聴く人が聴けばわかる明らかな才能がある。彼の曲のタイトルになぞらえて言えば、“Shine Silently”‐人知れず静かに光り輝いている才能を持った人。彼は、ニール・ヤングのサポートをすることで光り輝いていた。そして今は、ブルース・スプリングスティーンのバンドには欠かせない一員だ。どんなスーパースターよりも名脇役に惹かれてしまう僕みたいな人にとっては、こんなに魅力的な人はいない。そして、その彼がいまでもこうやって気持ちのいいアルバムを届け続けてくれていることが嬉しい。

posted by . at 21:30| Comment(9) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする