2008年08月27日

浦安にて

一昨年の10月に「ラスヴェガスにて」という記事を書いた。出張でラスヴェガスに出かけた際に、シルク・ドゥ・ソレイユの「KA(カー)」というショーを観て、あまりに感動したので、慣れない手つきで初めて音楽以外のショーについて書いたものだ。

それ以来、すっかりシルク・ドゥ・ソレイユづいてしまい、オークランドにツアーでやってきた「Varekai(ヴァレカイ)」というショーは去年2回も観に行った。

シルク・ドゥ・ソレイユには、「Varekai」のように世界各国を巡回するツアー・ショーと、決まった場所でずっと公開されているレジデント・ショーの2種類がある。僕がラスヴェガスのMGMグランドで観た「KA」は、そういうレジデント・ショーのひとつ。

「Varekai」ももちろんよかったんだけど、ツアー・ショーとレジデント・ショーの一番の違いは、ステージの造りにある。ツアー・ショーもその地その地で各数週間〜数ヶ月に亘って行われるから、きちんとした作りのステージと建物(サーカスがオリジンのショーらしく、大抵はテントをモチーフとしたものになっている)なんだけど、「KA」の記事に書いたように、レジデント・ショーはそのショー専用に設計された特別仕様のステージが見ものだから、どうしてもツアー・ショーはその点ハンディがある。

先日、日本で初めてレジデント・ショーとして開催されることとなった「ZED(ゼッド)」を観に行った。場所は、東京ディズニー・リゾートの隣。またしても小雨のぱらつくとても蒸し暑い日だったんだけど、この天気なのに浴衣姿でディズニーシーに出かけるカップルの多いこと。根性あるね。

Zed.jpg

多分わざわざラスヴェガスまで出かけて「KA」を観るよりも、こちらを観ることになる人の方が圧倒的に多いだろうから、前回以上にネタバレには気をつけないと。なにしろ、今はまだトライアウト公演、試験興行だから、10月の本公演までに内容が変わる可能性もあるしね。

ショーの内容には、今の段階では、そこそこ満足。トライアウトだから、いくつか失敗してたところもあったけど、しょうがないね。それでも、命綱なしでの地上十数メートルでのアクロバットとか、目を見張るアクションは本番同様(だと思う)。

強いて気になったところを挙げるなら、ショーの前半からかなり難易度の高い、凄い出し物が連続するせいで、後半に行くにしたがってどんどん高揚していく感じがちょっと薄い気がするのと、楽しみにしていたステージの造りがMGMグランドと比べてしまうと若干劣るところか。

まあ、ショーの構成はもしかしたらこれから本番に向けてもっと詰めるのかもしれないし、ステージの造りも、MGMと比べたりしなければ、観ていてかなり圧巻と言えるものだと思うけどね。

なんだか醒めた書き方をしているようだろうか。きっと僕は先述した2つのショー(と、ずっと昔にもう一つ、確か「Fascinacion(ファシナシオン)」だったと思う)と比べてしまってるから、期待値が高すぎたんだろう。シルク・ドゥ・ソレイユを今まで観たことのない人、あるいは何度も何種類も観ているファンの人、こんな文章を読んで躊躇する必要は全然ないからね。かなり内容の濃い、満足度の高いショーであることは間違いないから。

10月の本公演が始まったら、また観に行ってみようかな。あ、それに、来年の2月には、ツアー・ショーで「Corteo(コルテオ)」ってのが来るみたいだね。それも楽しみ。そっちは何ヶ月もかけて、東京、名古屋、大阪、福岡、仙台を回るのか。全部同じだろうから、追っかける必要なんてもちろんないけど、もしかしてこなれてきた福岡や仙台公演の方が出来がよかったりするのかな。それはちょっと気になる(と、一年以上も先の根拠もない情報を気にしている場合でもないので、これぐらいにしておこうか。ではまた)。


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2008年08月26日

フェルメール展とELP

上野の東京都美術館でやってるフェルメール展に行ってきた。昔、ヨーロッパを旅行したときに彼の作品を何点か観たことがあって、それ以来好きな画家だったから、今回東京でまとめて観られるというので、小雨の降る中を出かけることにした。

うちから上野までは電車を何本か乗り継いで行くんだけど、今日はそのほとんど全ての路線で人身事故による遅れが出ていて、なんとなく幸先の悪い日だとは思ったけど、平日に休みを取って行ける日もそうそうあるもんじゃないので、気にせず遠回りして決行。

Vermeer.JPG


平日の昼間だというのに、結構な人出。美術館なんてずいぶん久し振りだけど、こんなに人がいるもんだっけ。あんまりよく調べずに行ったんだけど、40点弱の展示のうち、フェルメールの絵は7枚だけ。でも、僕の好きな「小路」という絵も観られて満足。その他30点ほどは、人だかりの少ないものだけを選んで観て廻った。

上野にはいくつも美術館があるようで、道すがら『黄金の国ジパングとエル・ドラード展』というポスターを見てしまった。話せば長いんだけど、たまたま昨日寄ったCD屋でかかっていたBGMが何故かピンクレディーのベスト盤だったもんで、そのポスターを見てから東京都美術館に入館するまで、頭の中でずっと同じ曲がぐるぐる回ってしまっていた(僕の説明にしてはあんまり長くなかったね。でもほら、現在35歳以上の人は、曲名書かなくてももう僕と同じ曲が頭の中に流れ始めてしまったでしょ?)。

せっかくのフェルメール展、ピンクレディーを脳内でぐるぐるさせながら観るのもなんだかなぁと思い、無理矢理違う曲のことを思うことにする。えーと、久し振りの美術館なんで…そうだ、「展覧会の絵」にしよう。

Pictures At An Exhibition.jpg Emerson, Lake & Palmer 『Pictures At An Exhibition』

というわけで、脳内BGMを無事変更し、7枚(+α)の絵を堪能して、人だかりの東京都美術館を後にした。

と、今度は、「展覧会の絵」が頭から離れなくなってしまった。ここはひとつ、最近流行の自分内エコ活動の一環として、今年の頭に安値で買ったはいいけどまだ観ていなかった、ELPの『Pictures At An Exhibition』のCDとDVDの2枚組の、DVDの方を観ることにしよう。久々のこのブログでのプログレネタにもなるし。

そもそもこれを安値で入手できた理由は、DVDがPAL方式だったから。でもこの盤、三方見開きの紙ジャケのどこにもレコード会社名が書いてないぞ。CDの盤面には日本のビクターの名前とVICP-62116って日本盤ぽいナンバーが書いてあるし、DVDの方はマンティコア・レーベルのマークは書いてあるけどナンバーも何もないな。これ、ほんとに正規盤なのかな。

しかも、DVDを観てみると、いきなり日本語字幕付き。PALなのに。プログラムの真ん中あたりで一旦画面が暗くなるところからすると、これはきっと日本のレーザーディスクからのコピーだね。確かこのビデオ、海外では「展覧会の絵」だけしか入ってないけど、日本盤は<完全版>とかいって三曲追加されてたんだよね。このDVDにもその三曲入ってるし。

1時間半に及ぶこのビデオ、いかにも70年代初期らしく、やたらとソラリゼーションとかハレーション満載のサイケデリックな映像があちこちにちりばめられている。というか、画面全体ピンクに空色とか、そういう何が映っているのか判然としない画像が何分にもわたって延々と続く。たまにアクセント程度に使われるだけならともかく、これはちょっときついね。

そうでもしなければ単調で観ていられないような映像じゃないんだよ。キース・エマーソン(Keith Emerson)のステージパフォーマンスは話には聞いていたけど、オルガンをガッタガッタ揺らして、挙句の果てに倒したオルガンの下敷きになりながら弾いたり、そのオルガンにナイフを何本も突き立てたり、シンセサイザーに繋がってて、触ると“うにょーん、びにょーん”って音の鳴る変な板みたいなのを股間でしごいたり、とにかくこれでもかというほどの激しいアクション。スタインウェイのグランドピアノの上から手を突っ込んで、弦を直接弾いてるのを見て、「ああ、ピアノって弦楽器だった」と思ったりも。

このビデオ収録後10年もしたら、体型的にはウォーリー・ブライソンと同じ運命を辿ることになるグレッグ・レイク(Greg Lake)も、この時点ではかなりスマートで格好いい。しかも、これがもし女の子だったらちょっと僕好みかも、と思うほどの整った顔つきに、否応なしにプログレ界を代表してしまっているあの歌声(『宮殿』と初期ELPには彼の声しか入ってないんだもんね)。このビデオを観て、ギターも結構上手いんだなと再認識。

日本盤ビデオのボートラ三曲のうち最後の一曲「Knife Edge」で、いかにも70年代風の7分強に亘る退屈な(失礼)ドラム・ソロを披露しているカール・パーマー(Carl Palmer)が、そのソロの途中で、いかにも70年代風のぴっちりしたシャツを窮屈そうに脱ぎ捨てているところもまたご愛嬌。でも、このビデオを観て、少なくともライヴに於いては、このバンドの要はこの人だったのかなと思ったりもした。

ライヴ・ヴィデオとしては、今の目から見ると、これはかなりつらい。NTSC⇒PAL変換のせいか、ソラリゼーションの部分では特にMPEG由来のブロックノイズだらけになって見てられないし。今となっては貴重なパフォーマンスなんだから、もしこれのオリジナルのフィルムが残っているんなら、是非この気の遠くなってしまうような特殊効果抜きで観てみたいところ。

というわけで、付属のDVDは多分もう観返すことはないだろうけど、ELPの代表作のひとつであるCDの方は、これからも何回も繰り返して聴くことになると思う。思えば、中学生のときにFMでエアチェックしたこのアルバム、当時はなんだか音楽の授業の延長みたいに思えてしまってあまり聴くことはなかったけど、今の耳で聴いても(冗長な部分があるのは否めないものの)キャッチーなクラシックのフレーズをパクった(とか言っていいのかな)、実によくできた大衆音楽だと思う。

ところで、今日帰ってきてこれを観て気づいた。フェルメール展を観ていたときにずっと僕の脳内を回っていた「展覧会の絵」だと思っていた曲は、CDのラストに入っている「Nutrocker(胡桃割り人形)」だった…
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2008年08月24日

オリンピック閉会

オリンピック終わりましたね。

日本に帰ってきて半年強、これまでテレビを観られる環境になかったんだけど、なにやら世間はオリンピックだと盛り上がってたので、先週、急遽視聴環境を整えた。おかげでいろいろ楽しめたよ。地デジって、きれいだね。

今日はとうとう閉会式。あの沢山の花火もどうせまたCGなのかなとか、会場にどんどん入ってくる選手達の国も名前もろくに解説しないアナウンサーってなんなんだろうねとか、いろいろ思いながらぼんやり観ていたら、突然ダブルデッカーの上にジミー・ペイジが現れた。

出るってのは知ってはいたんだけどね。でもやっぱりああして目の当たりにすると、ちょっと感慨深いものがあったよね。64歳にもなって、相変わらずレスポールを腰のあたりまでうんと下げて。

Jimmy Page.jpg


レオナ・ルイスがヴォーカルをとった「Whole Lotta Love」の演奏自体は冗談みたいなもんだったけど、久し振りにああしてニコニコと楽しそうにギターを弾くジミー・ペイジを観てしまって、そのあとも画面では続いていた中国の歌とかはもう切り上げて、これもまたしばらく前に買っていたのに1〜2回しか聴いていなかったこのアルバムを引っ張り出してきて聴いているところ。

The Song Remains The Same.bmp Led Zeppelin 『The Song Remains The Same』

同名映画のサントラとして、また長い間レッド・ゼッペリンの唯一のライヴ盤として有名だったこのアルバムに6曲を追加して、去年再発された2枚組CD。4枚組のアナログ盤なんてのも出ているみたい。

中学生のときに、この映画と『ラスト・ワルツ』の二本立てを観に行ったことが懐かしく思い出される。一応よくわからないシュールなストーリーらしきものはあるんだけど、彼らの演奏する姿が観られればそんなのはどうでもよかった。

白髪のジミー・ペイジ、ロンドンオリンピックの開会式にも出て、また格好良くギター弾いてくれるかな。
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2008年08月23日

エコ月間レビュー - Josh Ritter

CD買い過ぎの何が悪いって、金がかかるとか家の中のスペースがCDに占領されていくとかいった物理的な弊害はさておき、最悪なのは、せっかく買ったCDをちゃんと聴く時間がないということ。一体自分は何のためにCDを買ってるのかという、シンプル且つ根本的な質問にたどり着くには、それほど出来のいい脳ミソは必要なかった(そこにたどり着くのに相当の時間がかかったことはさて置き)。

年間400枚だとか600枚だとか買っているCDのうち、第一印象がイマイチだったり、一緒に入手したものがとんでもなくよかったりしたために、つい1〜2回聴いただけでラックにしまいこんでしまったようなものも沢山ある。なんとももったいない話だけど。

新しいCDを次々に買う前に、そういうCDをちゃんと聴き直してみよう。ちょっとしばらく、よほどのことがなければ、新しいものを買うのは控えよう。聴き直した結果、どうしても気に入らなければ手放そう。当たり前のことばかり書いてるようだけど、こうして僕のエコ月間が始まった。いつまで続くかわからないけど、とりあえず今月に入って買ったCDは今のところまだ2枚。まだ一週間あるから最後までどう転ぶかわからないけど、ひと月に5枚も買わなかったのなんて、記録によると、2003年の3月以来、約5年半ぶりのことだ。

というわけで、最近自分のCDラックから掘り出してきて、やたらと気に入って聴き続けているのが、これ。

The Historical Conquests.jpg 『The Historical Conquests Of Josh Ritter』

最初に2006年11月17日の記事で取り上げ、その後2006年度の個人的ベストアルバムの第八位に選出した、このジョシュ・リターの前作『The Animal Years』を聴かれた方はどれぐらいいるだろうか。

まあ、その年610枚買ったCD類の中で第八位に選ぶぐらいだから、僕がそのアルバムをどれぐらい気に入っていたかは想像に難くないと思うが、そのアルバムに続く彼の5枚目となるフルアルバムが発売されたのは、去年の後半のこと。僕がそれを入手したのは、去年の10月、今となっては懐かしいリアル・グルーヴィーにて。

僕にしては珍しく新譜でこれを入手した理由は、当然その前作をそれだけ気に入っていたからこの新作にも充分期待していたということと、それが初回限定2枚組だったからということ(マサさん、読んでますか?)。

ところが、僕が前作を気に入っていた理由のひとつが、アイアン&ワインの『The Shepherd's Dog』の記事にも書いたとおり、その両方のアルバムのプロデューサーであったブライアン・デック(Brian Deck)による、硬質ながらも繊細な音作りにあったのだが、別のプロデューサーの手になる今回のアルバムの音が、去年の10月の僕にはちょっと散漫でとっ散らかったように聴こえてしまった。

よくよく聴き直してみると、このアルバムがとっ散らかったように聴こえるのは、アルバムの大部分を通低音のように流れている、ピアノやパーカッションやヴァイオリンによる様々な装飾音のせい。それらはほんの小さなボリュームで曲中や曲間のあちこちにちりばめられているのだが、曲のリズムと無関係に鳴り出すそれらの音が、ときには効果的に、ときには意表をついて流れ出すのが、今となってはとても面白い。

ストイックなブライアンの音作りとはかなり違うが、このある意味刺激的なプロデュースをしたのは、前作『The Animal Years』でも“ピアノ、オルガン、シンセサイザー、効果音”を担当していたSam Kassirer(発音がわからない)。

AMラジオから流れてきたかのようにリミッターがかかった狭い音域のまま、初期のスプリングスティーンばりに弾丸のごとく言葉を紡ぎだす一曲目「To The Dogs Or Whoever」を皮切りに、次から次に出てくる曲の全てが粒より。ありとあらゆるソングライターの名前を列挙して褒め称えた前作に収められていた曲よりも、全体的には今回の方が上出来かもしれない。とんでもなく綺麗なメロディーというわけでもないんだけど、一つ一つ特徴のある曲が、きちんと前後の曲とメリハリをつけられて並んでいるので、全然飽きずに聴いていられる。

さっきも書いたように、ほんのささやかな通低音を伴って、まるでメドレーのように繋がっているそれらの曲が、7曲目の美しいインストゥルメンタルの小品「Edge Of The World」で、まるで森の中をあちこちから流れてきた湧き水が小さな泉に注ぎ込むように集約される。おそらくここが、LPでいうとA面のラスト。

LPならB面の頭にあたる「Wait For Love」という幻想的な曲は、このアルバムのラスト「Wait For Love (You Know You Will)」でシングアウトっぽくリプライズされるという構成になっているのだが、それ以外にも、ラスト一曲前「Empty Hearts」に“And we sing to the dogs or whoever”と、アルバム一曲目の題名がこっそり歌い込まれていたり(一曲目にはその歌詞はない)、あげくは前作でのキーワード「狼」がここにも再登場するなど、ちょっとプログレ者の心をくすぐるような凝った展開が楽しめる。


そんなわけで、さらっと聞き流しただけで済ませていた、こんなに優れたアルバムを再発見することができて、自分内エコ月間もまんざらじゃないと思っている次第。ただ、あまりにこのアルバムを気に入ってしまっているため、ここ数年、フルアルバムの後に必ずそのアルバムに伴うツアーを収めたライヴ・ミニ・アルバムを出している彼の最新作『Live At The 9:30 Club』を買いたくてうずうずしているんだけど、どうしよう…


<8月27日追記>

Josh bunkai.JPG
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2008年08月16日

未来の隠れた名盤 - Gary Louris

Vagabonds.jpg Gary Louris 『Vagabonds』

発表後ずいぶん経ってから、隠れた名盤みたいな扱いでひっそりと話題になったり再発されたりする類のアルバムがある。僕は洋楽を聴き始めたのが70年代の終盤だったので、実際にそれらが発表されたときにどれくらい売れたのかはよく知らないけれど、ボビー・チャールズ(Bobby Charles)の71年盤やアーニー・グレアム(Ernie Graham)唯一のアルバム、ランバート&ナティカム(Lambert & Nuttycombe)の『At Home』などは、発表後何年も経ってから突然に、あるいは何十年もかけて徐々に評価を高めていったようなアルバムなんだろうと思う。

元ジェイホークス(The Jayhawks)のヴォーカリスト兼ギタリスト、ギャリー・ルーリス(Gary Louris)のソロ・アルバムを聴いて、なんとなくこれも、そうやってきっと西暦2030年頃に、“08年発表の隠れた名盤”なんて感じで扱われそうなアルバムに思えてきた。

あ、例によってうちのブログのどうでもいい決まりごとに基づいて、ギャリー・ルーリスなんて書いてるけど、普通はこの人の名前はゲイリー・ルーリスと表記されるね。でもGaryって、ギャリー、もしくはゲアリーって書いた方が本来の発音に近いと思うから。コメント欄ではご自由な表記でどうぞ。

ギャリー自身を含む参加メンバー5人の楽器編成は、ギター、ベース、ドラムス、キーボードという標準的な4人とペダル・スティールだというところから、ジェイホークスを知らない人でも、ある程度このアルバムがどういう傾向の音なのか想像がつくだろうか。ちなみに、ベーシストはバンジョーとオルガンも演奏しているし。

一般的にはオルタナ・カントリーなんて呼ばれることの多かったジェイホークスよりも(実際僕にはどこがオルタナティヴなのかどこがカントリーなのか今いちよくわからないんだけど)、もっとシンガー・ソングライター然とした、落ち着いた佇まいのアルバム。僕にとってなによりも嬉しいのは、ジェイホークス以来まったく変わることのない、ちょっと高めでちょっとハスキーな彼の声。

マーク・オルソン(初期)、ティム・オリーガン(後期)といった、共に優れたソングライター達と一緒に曲を書いていたジェイホークス時代の名曲群に比べると、若干単調さは否めないものの、ここには(一部で)惜しまれながら解散してしまったジェイホークス・その後といっても過言ではないような佳曲が収められている。

派手なギター・ソロや、きらびやかなフレーズがあるわけではないが、滋味のあるいい曲を、淡々と演奏しているだけのアルバム。さきほどの残り4名のバンド・メンバーは僕の知らない人ばかりだけれど、ジェイホークス譲りの分厚いコーラスを受け持つのは、このアルバムのプロデューサーでもあるクリス・ロビンソン(ブラック・クロウズ)、元バングルス(というか、僕のブログではマシュー・スウィートとのプロジェクトのアルバムが06年ベスト20に選ばれた人と言った方が通りがいいかも)のスザンナ・ホフス、なんでまだこのブログに取り上げられていないんだかよくわからないライロ・カイリーのジェニー・ルイス、そしてこちらは06年12月の記事で取り上げ済みのジョナサン・ライスなど、多彩なメンバー。

こうしてブログに取り上げるのはすっかり遅くなってしまったけれど、発売後既に半年が経つこのアルバム、とても売れているとは思えないが(ちなみに日本のアマゾンでは今日現在ランキング12万位台、アメリカだと1万2千位台)、さっき書いたように、そのうち誰かにぽつぽつと語り継がれていって、すっかり忘れ去られた頃に再評価されることを期待するよ。というぐらい、埋もれてしまうには惜しい出来映えのアルバム。このブログが、果たして数十年後の再評価の一端を担えるかどうか。


というところで、前回に引き続いて、最新アルバムをダシに過去の名盤を紹介するコーナー。ジェイホークスといったって、きっと一般的にはほとんど無名に近いと思うし、僕のブログでも過去一回か二回名前が出てきただけだと思うから、このブログを定期的に読んでくださっている方のほとんどには何がなにやら状態だろう。

確かこのブログで最初に彼らのことに触れたのが、yascd002。そう、そこにも書いたね、僕曰く、“アメリカ音楽の良心”。有象無象のバンドと一緒くたにされてオルタナ・カントリーなんて呼ばれ方をされていたけど、奇をてらわないベーシックなロックを、(きっとそれがカントリー呼ばわりされることになった原因である)バンジョーやペダル・スティールなどのアーシーな音を織り交ぜ、ふくよかなハーモニーに乗せて演奏する、素晴らしいバンドだった。そして、なによりも彼らの書く曲は一級品だった。

Rayny Day Music.jpg The Jayhawks 『Rainy Day Music』

きっと彼らのファンには、マーク・オルソン在席時の初期のアルバムの方が受けがいいんだろうけど、僕にとっての一枚はこれ。結果的に彼らのラスト・アルバムとなった03年の『Rainy Day Music』。ギャリーとマシュー・スウィートとの共作「Stumbling Through The Dark」をオープニングとエンディングに配し、これでもかというような名曲が次から次へと収められている。なんといっても、アルバム2曲目「Tailspin」は、僕の“今世紀に入って最も格好よかった曲の殿堂”に最初に収められた曲だから。

この時期既に正規メンバー3人になっていたジェイホークスと共にアルバムに参加していたのは、僕がプロデューサーとして大評価しているイーサン・ジョンズ(レイ・ラモンターニュのアルバムの記事参照)、前述のマシュー・スウィート、クリス・スティルス(スティーヴン・スティルスの息子)、ジェイコブ・ディラン(ボブ・ディランの息子)、そして、元イーグルス(という呼ばれ方は既に彼にとっては不本意だろうけど)バーニー・レドン等々、錚々たるメンバー。

シンプルなジャケもいいし、これはアメリカ音楽好きなら持っていて決して損はしないアルバム。あ、ちなみに僕が持っているのは、デモやライヴ録音など6曲を収めたボーナスディスク付きの2枚組限定盤。と、いつものようにとりあえず自慢してからこの記事を終えよう。
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2008年08月09日

名脇役一代記 - Nils Lofgren

The Loner.jpg Nils Lofgren 『The Loner - Nils Sings Neil』

僕が世界で二番目に好きなギタリスト、ニルス・ロフグレンからこんなのが届いた。盟友ニール・ヤングの曲を取り上げ、アコースティック・ギターとピアノで弾き語ったアルバム。冒頭の「Birds」、「Long May You Run」といった有名曲から、マイナーなライヴ盤『Time Fades Away』収録の「Don't Be Denied」といった地味な曲まで網羅した、全15曲。去年のブルース・スプリングスティーンとのマジック・ツアーに出る前に、自宅で録音したものらしい。

上のジャケにも写っているマーティンD-18は、1970年リリースのニールの傑作『After The Gold Rush』の内ジャケに写っているものと同じギター。弱冠17歳でそのアルバムにギタリスト/ピアニストとして参加したニルスに、ニールがお礼としてあげたものだそうだ。

三つ折紙ジャケの内側に(何故か合成写真風に)写っているグランド・ピアノは、ニルスの奥さんが16歳のときに亡くなったという彼女のお父さんのものだったハードマンの5フィート・ベイビー・グランド。僕はピアノのことはあまり詳しく知らないんだけど、相当年期の入ったものみたいだね。とにかくこのアルバムで使われているのはその二つの楽器のみ。

ニルス・ロフグレンのファンというのがこの世にどのくらいいるものなのか見当もつかないけど、その人たちはきっと一人残らずニール・ヤングのことも好きだろうから、その人たちにとってはこのアルバムは何の躊躇もなく「買い」だろう。

逆に、世界中に何万人(何十万人?何百万人?)もいるであろうニール・ヤングのファンは、この人のことをどれだけ知っているんだろう。そういう人たちにも聴いてみてほしい作品。

僕もいっぱしのニール・ヤングのファンのつもりだけど、この15曲の中には知らない曲もあったんで、ちょっとオリジナルの出典を調べてみた。

1. Birds (『After The Gold Rush』 Neil Young 1970
2. Long May You Run (『Long May You Run』 The Stills-Young Band 1976
3. Flying On The Ground (『Buffalo Springfield』 Buffalo Springfield 1967
4. I Am A Child (『Last Time Around』 Buffalo Springfield 1968
5. Only Love Can Break Your Heart (『After The Gold Rush』 Neil Young 1970
6. Harvest Moon (『Harvest Moon』 Neil Young 1992
7. Like A Hurricane (『American Stars'n Bars』 Neil Young 1977
8. The Loner (『Neil Young』 Neil Young 1969
9. Don't Be Denied (『Time Fades Away』 Neil Young 1973
10. World On A String (『Tonight's The Night』 Neil Young 1975
11. Mr. Soul (『Again』 Buffalo Springfield 1967
12. Winterlong (『Decade』 Neil Young 1977
13. On The Way Home (『Last Time Around』 Buffalo Springfield 1968
14. Wonderin' (『Everybody's Rockin'』 Neil Young 1983
15. Don't Cry No Tears (『Zuma』 Neil Young 1975

それぞれの曲の後ろにつけた年数を見て気づいたのが、40年以上に及ぶニール・ヤングのキャリアの、かなり初期の曲ばかりを、このアルバムでは扱っているね。

バッファロー・スプリングフィールドの曲を中心に、60年代の曲が5曲。ニルスが初めてニールのレコーディングに参加した記念すべき『After The Gold Rush』を始め、ニール全盛期である70年代から8曲。ニール迷走期として有名な80年代からは、なんとロカビリー・アルバム『Everybody's Rockin'』の曲をアコースティック・ヴァージョンで。そしてニール第二の充実期であったはずの90年代からは、わずか1曲だけ。

個人的には、もう少しバランスの取れた選曲をしてほしかったのが正直なところ。特に僕が彼のことを聴きはじめた70年代後期〜80年代前半や、第三の充実期と言っても過言でない最近の曲も、もう少し取り上げてほしかったな。

Nilsson Sings Newman.jpg自分自身優れたソングライターでもあるニルスがあえてニール・ヤングの曲だけで構成したアルバムのこの『Nils Sings Neil』というタイトルは、同じく素晴らしいシンガー・ソングライターであるニルソンが友人ランディー・ニューマンの曲のカバーだけで作り上げた素朴な名盤『Nilsson Sings Newman』を意識したに違いない(イニシャルのNまで揃えるために、本家が使った苗字でなくあえてファースト・ネームを使っているところに工夫が伺える)。あちらはランディー・ニューマン自身がピアノを演奏しているのに比べ、このアルバムには、ソングライター本人のゲスト出演がないのがちょっと残念。

約一時間にわたって堪能できる、ちょっとフラット気味に歌うクセのあるニルスの優しい歌声と、ゆるぎないアコギのテクニック。柔らかい音色のピアノ。こういう世界にしみじみと浸りたいときには最適なアルバム。

ただ、ニール・ヤングの曲って以外とワンパターンなところがあって、例えば、ここでの「Flying On The Ground」と「Harvest Moon」のイントロなんて、同じ曲かと思ってしまうほど。ニールのオリジナルは全然違うアレンジで演奏されていたから気づかなかったんだけどね。そんなわけで、一時間にわたって聴いていると、ちょっと単調に思えてくる瞬間もあったりする。できれば、「Like A Hurricane」や「The Loner」なんかは、オリジナルに忠実なエレクトリック・スタイルで演ってほしかったもの。


そんなちょっとした不満とも言えない不満を解消するために引っ張り出してきたのが、06年からずっとブログに取り上げよう取り上げようと思いながら(2回言う)今まで取りこぼされてきた、今回の企画盤を除けば今までのところ彼の最新スタジオ録音作。

Sacred Weapon.jpg Nils Lofgren 『Sacred Weapon』

ここ数年、いまいちぱっとしないアルバムや発掘ライヴ盤が多かった彼の、久々の会心作。アルバム出だしの彼お得意のハーモニクス奏法も鮮やかな、スローバラッドからゴリゴリのロックまで、バラエティに富んだ内容。1曲目にウィリー・ネルソン、10曲目にクロスビー&ナッシュをゲストシンガーに迎えるという、アメリカ音楽のオールド・タイマーにはちょっと嬉しい展開もある。

1951年生まれの彼がこのアルバムを作ったのは、もう55歳になろうとする頃か。ちょっと背の低いその風貌から、いつまで経ってもギター小僧呼ばわりされることもある彼だけど、50過ぎて「小僧」もないよね。若い頃はステージでギターを持ったままトンボ返りなんてしてたらしいけど、さすがにそれはもうやめておいた方が…(でも彼のサイトを見ると、いまだにそれがトレードマークになってたりして)。


いくら内容がよくても、ちょっとこのジャケは…という方には、これを薦めるよ。今を遡ること二十数年、記録によると大阪の中古レコ屋で1000円で手に入れたこのLPが僕の彼との出会いだった。

1+1.jpg Grin 『1+1』

このジャケはこのブログのどこかで見たことがある人もいるかもしれないね。1971年、ギター小僧がまだ20歳だった頃の作品。十数年遅れで同じ歳になった僕がふとした経緯でそうやって安価で入手し、それ以来何十年経っても僕の無人島レコ候補から外れない一枚だ。これを聴いていた頃の自分の感情といったものも多分に加味されてはいるんだろうけどね。でも、地味ながら聴き応えのあるアルバムを何枚も発表している彼の作品の中でも、最高傑作の部類に入るのは間違いない。


ヒット曲なんて一曲たりとも作れないかもしれない。でも、ギターを弾かせても、歌を歌わせても、曲を作らせても、聴く人が聴けばわかる明らかな才能がある。彼の曲のタイトルになぞらえて言えば、“Shine Silently”‐人知れず静かに光り輝いている才能を持った人。彼は、ニール・ヤングのサポートをすることで光り輝いていた。そして今は、ブルース・スプリングスティーンのバンドには欠かせない一員だ。どんなスーパースターよりも名脇役に惹かれてしまう僕みたいな人にとっては、こんなに魅力的な人はいない。そして、その彼がいまでもこうやって気持ちのいいアルバムを届け続けてくれていることが嬉しい。

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2008年08月03日

CD増殖予定表 - Jason Mraz

We Sing, We Dance, We Steal Things.jpg Jason Mraz 『We Sing, We Dance, We Steal Things』

そのうちブログに取り上げようと思いながらも、なんやかんやで後回しにされているアルバムの一枚。正直に告白すると、最初に聴いたときから凄く気に入って、何度も聴いているのに、どうにも記事にしにくいアルバムではある。何故だかわからないけど。そうこうしているうちにLunaさんが一年前の記事を発掘してコメントをくださったので、これを機会に何か書いてみよう。短めにね。よく見れば、去年の記事もちょうど8月3日。何の脈絡もないけれど、これから毎年8月3日は僕の中ではジェイソン・ムラーズの日ということにしよう。

最初は何の冗談かと思ったこのデジパックのジャケに包まれていたのは、まぎれもないムラーズ印の良質ポップ12曲。相変わらずの早口言葉ソングから、超絶ソプラノ、しんみりバラッドまで、前作から3年のブランクを微塵も感じさせない磐石の出来。

ホーンが豪華なオープニング「Make It Mine」も、元カノ トリスタン・プリティマンのお株を奪うような心地よいサーフ系「I'm Yours」もいいけれど、僕は「Love For A Child」や「If It Kills Me」、「A Beautiful Mess」などのスロー・バラッドが今のところのお気に入り。

フジロックに参加ついでに先週単独公演もあったんだけど、残念ながら出張に重なっていたために、僕はそれには行けなかった。こっそり大阪公演に行かれたLunaさんにそのあたりのレポートをコメント欄で披露してもらうとして(多重人格ブログには書かれないのですか?)、行けなかったその他大勢の僕たちは、彼のマイスペースにアップされている「Love For A Child」の録りたてほやほやの大阪公演でのライヴ録音を楽しんでいよう(いつまで聴けるかわからないので、興味のある人は急いで)。大阪公演なのにわざわざ曲が終わったときに「メルシー・ボクー」とか言ってるし(笑)。日本での思い出を写真と一緒に綴った彼のブログもちょっと面白いよ。

しばらく前にマサさんがブログの記事にされていたEP、CD屋に行くたびに買おうかどうしようか迷っているんだけど、やっぱり買うべきかな。2枚とも、4曲ずつぐらいしか入ってないくせに、2000円近くするんだよね。痛いよな。でも、この人のこういう貴重盤、意外と再発も日本盤化もされずに高値で取引されることが多いからね。オリジナル・アルバムはかなりクタクタな値段で中古屋に出回るんだけどね。

そう、去年彼のことをよく知るようになる前は、僕も中古屋で結構な安値で出回っている彼のCDを見かけるたびに、どうせこんなハンサム君はすぐ消えるんだろうと思っていた。彼自身、前作『Mr.A-Z』に収録されていた「Wordplay」という早口ラップ曲で、“どうせみんな俺のことを一発屋やと思ってるんやろ。なんとかせなあかんな”と自虐的に歌っていたように。

だけど、これまでの全てのアルバムを聴いて、ダウンロード・オンリーのライヴ録音を聴いて、そして、この新作を聴いて、最早そんな気持ちは欠片も残っていない。アルバムの豪華なプロダクションと、ヒュー・グラント似の甘いマスクと、アトランティックというメジャー・レーベル発なのが邪魔をして、どうしても色眼鏡で見られてしまうところがあるのは仕方ないけれど、この陽気なエンターテイナーが今この時代にもっとも優れたシンガー・ソングライターの一人なのは間違いないと思うよ。

僕の買ったUS盤はエンハンスドCD仕様になっていて、PCに入れると、30分近くにも及ぶ、ヨーロッパ・ツアーの様子とジェイソンのインタビューを中心としたドキュメント・ビデオが観られる。あと「Make It Mine」のPVも。かつてのシングルB面曲だった「I'm Yours」がどうしてこのアルバムに収録され、新たにシングル・カットされることになったのかについて話していたり、ライヴ中にファンと携帯で話し、その携帯をひざの上に置いて「この曲は君と君のガールフレンドに」とか言って「Live High」を歌い始めたりと、話している内容が全てはわからなくても、興味深く観られるビデオ。完奏している曲はないが、僕は「Plane」のスローなヴァージョンを聴いてちょっとほろっときたよ。

実は中古で手に入れたこのUS盤、もし聴いてみて内容がよかったら、ボートラ入りの日本盤に買い換えようかと思っていたんだけど、どうやら日本盤はCDエクストラ仕様で「I'm Yours」のPVが入っている様子。なんだよ、それじゃ日本盤を入手しても、このUS盤を手放せないじゃないか。結構華奢な作りのこのデジパック、あまりに何回もCDを出し入れしているために、端のほうが破れてきたんで、買い換えるのにちょうどいいと思っていたのに。また買い増しか…
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