2008年07月20日

クォンタム・リープ - Sonny Landreth

From The Reach..jpg Sonny Landreth 『From The Reach』

相変わらず、どうやってそんな音を出しているのか見当もつかない、この人にしか出せない特異な音。控えめにミュートされながらも緊迫感みなぎる、そんな金属的なギターのリフでアルバムが幕を開ける。性急なスピード感とは裏腹に、最初の歌詞を二度繰り返す12小節形式の古典的なブルーズ・マナーに則った「Blue Tarp Blues」。95年の傑作アルバム『South Of I-10』での「Shooting For The Moon」同様、今回のアルバム冒頭を飾るこの曲にゲスト参加しているのは、元ダイア・ストレイツのマーク・ノフラー(Mark Knopfler)。

このアルバムに収録された曲は、それぞれに参加しているゲスト・ミュージシャンを頭に思い浮かべて書いたとサニー本人が述べているとおり、この曲でのマークの流暢なギター・ソロは、彼の往年の名曲「Sultans Of Swing」を髣髴とさせるものがある。しかも、いくつもあるダイア・ストレイツのライヴ・アルバムでほぼ必ず演奏されているその曲のうち、彼が最高にノッていた時のものに匹敵すると言っても過言ではないだろう。ひとつ違いがあるとすれば、ここで聴かれる芯の太い安定した音は、「Sultans Of Swing」で使われていたストラトキャスターでなく、後年『Brothers In Arms』などで多用していたレスポールを使ったものだろう。それが、サニーのストラトキャスターのやんちゃな音とうまくブレンドしている。

そう、今回のアルバムは、5人のギタリスト(と、一人のピアニスト)をゲストに迎え、他流試合と言っていいようなギター・ソロ合戦が満喫できる超豪華盤。バックを務めるのは、サニーの参加アルバムには欠かせない彼の片腕デイヴィッド・ランソン(David Ranson)がベース、ドラムスは前作あたりから一緒に演っているマイケル・バーチ(Michael Burch)、キーボードに長年の盟友スティーヴ・コン(Steve Conn)の、いわば拡大ゴウナーズ。

この、僕が近年聴いた中でも最高に格好いい曲の殿堂に入れてもいいと思える1曲目だけでも書きたいことはまだまだあるんだけど(ちなみにその殿堂には、今世紀に入ってまだ5曲もエントリーされていないというほど、一応厳しい脳内審査があるんだけどね)、どこまで聴き進んでも駄曲がないこのアルバムを一曲一曲そこまで詳しく書き連ね始めると本当にきりがないのでこの辺にして、次の曲について書こう。

2曲目「When I Still Had You」で、ファンキーなギターのリフをサニーと一緒に演奏しているのは、エリック・クラプトン(Eric Clapton)。特に最近の傾向では、昔の曲でさえ、落ち着いたクールなトーンで余裕を持って弾くことの多い彼だけど、ここでは、自分が“世界で最も過小評価されている”と評したこのギタリストと真っ向から、本当に楽しそうに張り合っている。そして、サニーもまたそれに応えて、自分のギターの6弦全部から全ての音を搾り出すようなワイルドなプレイを披露。キャッチーなこの曲の歌詞の一節から、アルバム・タイトル『From The Reach』が取られている。確かに、曲の良さといい、ゲストの豪華さといい、アルバムを代表するに相応しい曲だ。4月29日の記事で取り上げたオフィシャル・ブートレグでも既にこの曲を演奏しているが(そのときのギタリストはサニー一人)、それを聴いたときにはこの曲がここまでいいとは気づかなかった。エリック・クラプトン参加というのは伊達じゃないね。

エリックは、自身が主催しているクロスロード・ギター・フェスティヴァルに、サニーを含む自分よりも若いギタリストを多数招待して、活躍の場を与えているし、確か一昨年ニュージーランドに来たときのサイド・ギタリストはデレク・トラックスだった。サニーといい、デレクといい、おそらく今の自分よりもテクニック的には上と言っていいようなギタリストと共演することは、彼にとってもリスクの高いことだと思うけれど、きっと、そういう次の世代の有能なギタリストを(自分のネームバリューを使って)どんどん世に送り出し、自分のギター・プレイの刺激にもしようとしているんだろうね。かつて自分がジョン・メイオール道場で同じ経験をしたように。そういうところが、この人凄いと思う。

三曲目「Way Past Long」のゲスト、ロベン・フォード(Robben Ford)には、実は僕はあまり馴染みがない。この前の2曲では、それぞれ優れたヴォーカリストでもあるマークとエリックがサニーのバックでコーラスを決めているが、ロベンはこの曲でサニーとヴォーカル・パートを分け合っている。ヴォーカルの表現力という意味では、ロベンが若干上をいくか。

せっかくゲストにヴォーカル・パートを与えていても、この曲のハイライトもやはりサニーとロベンのギター・バトル。ギター・ソロを演りたいがために、間にやむなくヴォーカルを入れたと言っても過言でないほど延々と果てしなく、二人のギター・テクニックを堪能できる。

「やむなく」が本当だったのかどうか、続く4曲目「The Milky Way Home」は、ゲストにエリック・ジョンソン(Eric Johnson)を迎えての、インストゥルメンタル曲。これが、凄い。このエリック・ジョンソンというありがちな名前の人も僕はあまりよく知らなかったんだけど、名前で検索してみたら、見たことのあるジャケが出てきた。ジョー・サトリアーニ、スティーヴ・ヴァイという、僕にとってはバリバリのメタルの人たちと3人で、G3というユニットを組んで、ライヴ・アルバムを発表していた人だ。この人自身がメタル畑出身なのかどうかは知らないけど、そのバカテク二人に混じってトリオを組むような人だから、きっと凄いテクニシャンなんだろうね。

この「The Milky Way Home」も前出のライヴ・ブートレグで演奏されていたけど、このスタジオ盤での聴きものは、当然サニーとエリックのギターの掛け合い。左チャネルのサニーの引きずるようなスライド、右チャネルのエリックの滑らかなエレキ、その丁々発止が気持ちいい。曲の途中、2〜20小節ずつ交互にソロを弾き合う場面がずっと続いていて、それを聴いているだけでもかなりスリリングなんだけど、中で一箇所、小節の途中でサニーが弾いているフレーズをそのままエリックが引き継ぐ箇所があって、これは相当ぞくっとくるよ。曲自体も、「天の川を渡る帰り道」という壮大なタイトルに負けないスケールの大きな佳曲。

続く5曲目「Storm Of Worry」は、打って変わってベタベタのブルーズ(とはいえ、プロデュースのせいか、音的には結構からっとした仕上がり)。ゲスト・ギタリストは再びエリック・クラプトン。もう、エリックもサニーもこういうブルーズ大好きだから、二人とも心ゆくまで弾き合っているよ。ところで、サニーのヴォーカルって、ブルーズ向きの塩昆布みたいなのに、ちょっと噛むと甘味が出てくるような、絶妙な味付けのいい声だなと思う。こういうブルーズでも、しっかりコブシをきかせて歌っているんだけど、苦みばしったところがまったくないというか。

ここまで全て、サニーのギターが左チャネル、ゲストのギターが右チャネルで来たのだが、次の「Howlin' Moon」でサニーのギターが右に移る。代わって左チャネルでいぶし銀のようなピアノの音を鳴らしているのが、ドクター・ジョン(Dr. John)。彼も95年の『South Of I-10』に参加して、「Mojo Boogie」という名演を残しているんだけど、どうやらこの「Howlin' Moon」はスタジオ盤としては前作にあたる『The Road We're On』を作っていたときにデモ録音されたのがきっかけだそうだ。「Mojo Boogie」同様、ドクター・ジョンのピアノとヴォーカルがなければ成立しないような曲。この曲にはバック・ヴォーカルでジミー・バフェットも参加しているんだけど、流石にドクターの後ろでは立場がない。

ふう、これでやっとアルバム半分か。ちょっとペース上げようかな。もうすでによっぽど興味のある人以外には誰も読んでいないだろうことはわかってるけど、曲解説以外にも書きたいこともあるから、さすがにこの調子だと今日中に書き終えられるかどうかわからないしね。

7曲目「The Goin' On」のゲスト・ギタリスト兼ヴォーカリストは、ヴィンス・ギル(Vince Gill)。彼のことも、僕は名前しか知らなかった。これはいかにもサニーらしい曲。もろニュー・オーリンズ風味の「Howlin' Moon」の直後だから、やけにさわやかに聴こえる。ヴィンスのヴォーカルがそうさせているのかもしれないけれど。

8曲目「Let It Fly」には、ゲスト奏者はなし。バック・ヴォーカルにナディーラ・シャクール(Nadirah Shakoor)という女性。ブックレットのこの曲の見開き対面ページに載っている、地平線と雲の写真のように、大らかなギターのイントロが心地良い曲。

アルバム終盤、早歩きペースのブルーズ曲「Blue Angel」も、先述のライヴ・ブートレッグで演奏されていた中の一曲。ゲストは、ロベン・フォードがギター、ヴィンス・ギルがバック・ヴォーカル。

その曲に続いて、急に何かに急き立てられたように突入するのが、このアルバム2曲目のインスト「Uberesso」。これもゲストはなし。先述したエリック・クラプトン主催のクロスロード・ギター・フェスティヴァルの07年度DVDでオープニングを飾っている曲だ。ちょっとこの記事も文字ばかりになってきたから、YouTubeにアップされているそのビデオでも貼り付けてみようかな。ここまで僕が延々書いてきた彼のプレイの凄さがどんなものなのか、これを見ればわかるから。



CDの許容範囲いっぱいに70分以上も詰め込むこともなく、かといって最近ありがちなSSWのアルバムのように30分強であっさりと終わってしまうというわけでもない、昔ながらのアルバムらしい46分半という程良いサイズのこのCDの最後を締めくくるのは、これまたゲスト・ギタリストなし(バック・ヴォーカルはヴィンス・ギル)でしっとりと演奏される「Universe」。僕のお気に入りの曲である『South Of I-10』ラストの「Great Gulf Wind」にも勝るとも劣らない名曲だ(あそこまでブラスが入ったりリプライズが付いたりといった仕掛けはないが)。最後のギターの一音、そしてその余韻までが、いつまでも耳に残る。“貫禄”という言葉が脳裏に浮かぶ。


近年の彼のアルバム同様、デジパック仕様のジャケットに、20ページに及ぶ丁寧な作りのブックレットが封入されている。上に載せたアルバム・カバー共々、そのブックレットにふんだんに使われている、実に味わい深い写真を提供しているのは、ジャック・スペンサー(Jack Spencer)という写真家。単純にセピア色という言葉では形容できないその不思議な色世界、彼のHPでも存分に堪能できるよ。興味がある人は是非見てみて。

さっき、アルバム・タイトル『From The Reach』は、「When I Still Had You」の歌詞の一節から取られたと書いたが、実はこのアルバムのキーワードになっているのが、“Reach”という単語。アルバム後半、「Let It Fly」、「Universe」といった曲にも、繰り返し登場する。サニー自身の言葉を借りると、こうだ。

俺が歌詞を書くときはね、流れに任せて、何が頭に浮かんでくるかを待つんよ。今回はその“Reach”っちゅう単語が繰り返し浮かんできた。“到着する”っていうそのままの意味もあるけど、“広がり”っていうことも意味してるよね。見渡す限りの空とか、砂漠とか、水。そう、水の流れとか、水域とかね。海員用語で“風向き”っていう意味もある。そういう言葉全部が、このアルバムのテーマとしてしっくり来ると思ったんや。俺にとってこのタイトルは、曲作りの過程からこのプロジェクト全体に至るまでをつなぐ糸みたいなもんやね。俺がここに参加してる素晴らしいアーティスト達に手を伸ばして(“reached out”)、それでできたのが、今あんたが聴いてるこのアルバムちゅうわけや。

最近のサニーのアルバムは全て日本発売が見送られていたが、なんと今作はバッファロー・レコードという鎌倉を拠点とするインディーズ(?)から日本盤が発売された。快挙じゃないか。申し訳ないが、ボートラが入っているわけでもなく、アメリカでの発売(5月末)から一月遅れの6月25日発売まで待てなかったので、僕はUS盤を買ってしまったんだけど(それから約1.5ヶ月、タマス・ウェルズ症候群に陥っていた時期を除いて、一日2回ずつ、合計で既に50回は聴き倒したと思うから、この長文レビューに免じて許してくれるよね)、もしこの記事を読んで興味を持ってくれた人は、是非日本盤を買って、こういう良心的なレーベルを応援してあげてほしい。


もしあなたが、格好いいロックを聴いてみたいと思ったら、

明けても暮れてもエレキギターの練習をしている人なら、

ブルーズ(・ロック)に興味があるけど、誰のどのアルバムから聴いてみればいいのかよくわからないなら、

最近のエリック・クラプトンはすっかり落ち着いてしまって、『Slowhand』や『Backless』の頃の彼が懐かしいと思っているなら、

メジャーになってしまってからのダイアー・ストレイツやマーク・ノップラーのソロは大仰だったり地味だったりでつまらない。やっぱり「悲しきサルタン」の頃が最高!という意固地な人なら、

そして、このブログを読んで、僕の感性を信じてくれるなら、

このアルバムを聴いてみればいい。掛け値なし、全力でお薦めするよ。


僕は今でも、さっきから何度も引き合いに出している95年の彼のアルバム『South Of I-10』が彼の最高傑作だと思っている。でも、このニュー・アルバムをこれまで50回ほど聴いて、その気持ちが大いに揺らいでいる。『South Of I-10』の素晴らしさに文句をつけるつもりなど微塵もない。でも、過去12年に亘って数十回(もしかしたら数百回)聴いてきて、自分の一部みたいになってしまっているあのアルバムに対する愛着をちょっと横に置いて、冷静に比べてみたらどうだろう。アルバムとしての完成度、ゲストの豪華さ、歌、演奏。サニー・ランドレス初心者にまず聴かせたいアルバムはこっちになってしまうかも。

いみじくも、アルバム最終曲「Universe」の歌詞にこの言葉が出てくる。QUANTUM LEAP − 一大飛躍。まさにこの言葉が、この世界で一番過小評価されたギタリストの渾身のアルバムを最もうまく言い表している。


posted by . at 00:18| Comment(15) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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