2008年06月22日

ノスタルジーの詰め合わせ - Grand Archives

Grand Archives.jpg Grand Archives 『The Grand Archives』

またこういうのに出会ってしまった。60年代生まれの僕が決してリアルタイムで体験しているはずがないのに、その音を聴いただけで、胸の奥がちりちりと焼けるように甘酸っぱいノスタルジーを感じてしまう、60年代後期〜70年代をありありと思い出させてくれる音楽に。

去年の9月に書いたミッドレイクのアルバム・レビューと表現が被らないように、この記事を書くにあたって、さっきから細心の注意を払っているよ。あれも、「郷愁」という単刀直入な記事の題名が表しているように、如何に彼らの音楽が、僕がリアルタイムで聴いていたわけがないはずの70年代初期の洋楽を思い起こさせる音かということを綴った記事だったからね。

穏やかなイントロに導かれて登場する透きとおるようなハーモニーが、曲が進むにつれてひとつひとつ参加してくるドラム、サックスやトロンボーンなどの楽器の音と一緒に徐々に盛り上がっていくアルバムのオープニング「Torn Blue Foam Coach」。ひとまず、この素晴らしい曲を聴くことができただけで、この地味なジャケットに惹かれてこのアルバムを買った自分を褒めてあげたくなる。

続く「Miniature Birds」は一転、口笛とハーモニカによるイントロを持った軽快な曲。フレンチ・ホルンやフリューゲルホーン、トランペットなんかも使われているね。これはこれで悪くはないんだけど、A面2曲目がいいアルバムは名盤であるという僕の持論に照らし合わせて、これはA面1曲目が一番いいという、新人バンドにありがちなパターンのアルバムなのかなと思い始めた矢先、そこから立て続けに飛び出してくる、胸の奥を焼き尽くすようなメロディーとアレンジの数々が、僕に冒頭の感想を抱かせるに至ったというわけだ。

アリゾナ出身、カリッサズ・ウィアード(Carissa's Wierd)、バンド・オブ・ホーセズ(Band Of Horses)というバンドを経たマット・ブルック(Mat Brooke)がシアトルで結成した5人組、グランド・アーカイヴス(The Grand Archives)の、これがデビュー・アルバム。

シアトルという地名から想像できる人はできるだろうけど、このアルバムは、サブ・ポップ(Sub Pop)レーベルからの発売。サブ・ポップが近頃どういうリリース形態をしているかを知っている人にはわかるだろうけど、僕が入手したのは、180グラムの重量盤LP。例によって、MP3音源がダウンロードできるクーポンが封入されていた。こいつがそのクーポン。

Grand Archive Coupon.gif

LPだから、さっきA面1曲目とか2曲目と書いたのは、本当にA面のこと。で、5曲目が終わって、盤をくるんとひっくり返した1曲目「A Setting Sun」もまた、子供の頃に夢で見たことがある、でもディテールはうまく思い出せないようなセピア色の曲。この曲だけが、ピアノ/オルガン担当のロン・ルイス(Ron Lewis)の手になるもの。違うメンバーが書いた曲でも、うまく同じ色合いに染められているね。プロデューサーの力量。この曲はペダル・スティールの音が心地良いよ。

でも、その曲を過ぎたあたりから、アルバムの雰囲気が少しずつ変わり始める。続くB面2曲目はアルバム内唯一の、ちょっとエキゾティックな味付けのインストゥルメンタル「Breezy No Breezy」。

その曲に続いて静かにフェードインしてくるギターのアルペジオの音。どこにも行きどころのないやるせなさを切々と綴った、透徹感の極み、「Sleepdriving」。これはまるで、「Vicar In A Tutu」に続いて「There Is A Light That Never Goes Out」が聴こえてくる瞬間に匹敵する、などと言いきってしまうと、『The Queen Is Dead』を知らない人にとっては全く意味不明だろうし、ハードコアなスミス・ファンには猛烈なブーイングを喰らいそうだけれど。

  夜明け近くのモーテルの一室
  外の深い雪を見ないようにシェードを下ろして

  音を消したテレビだけが光を放っている
  僕らは首のところまでしっかり毛布を巻きつける

  眠れない

  外ではもうカラスが目を覚まして
  凍てついた道や電線にとまっている

  無感覚に時が過ぎていく


「Sleepdriving」が終わる、ハーモニーがフェードアウトしていく最後の瞬間、「もうこれで十分。もう何も聴きたくない」とふと思ってしまうんだけど、残念ながら(?)アルバムはそこで終わりではない。「There Is A Light That Never Goes Out」の後には「Some Girls Are Bigger Than Others」があるようにね。

ここまで色々な曲を通じて、様々なノスタルジックな情景を見せてくれてきたこのアルバムは、ここで少し色合いを変える。ほんのり明るい「Louis Riel」に続いて、コンサート終盤、アンコールでのどんちゃん騒ぎのような「The Crime Window」。そして、祭りの後といった趣の終曲「Orange Juice」はわずか1分半の小曲。ざわざわとした雰囲気が、ブライアン・ウィルソンのコンサートでのキャンプファイア・セッションをちょっと思い起こさせるね。

そして、このLPには、その後にさらにアンコールが用意されている。限定封入だというその7インチシングルは、A面が名曲「Sleepdriving」の別ミックス。B面が(アルバムではA面5曲目に収録されている)「George Kaminski」のデモ・ヴァージョン。どちらも、アルバム・ヴァージョンとは全然違った、でもこれはこれでまた素敵なヴァージョンで、得した気分になるよ。おまけにほら、ホワイト・ヴィニール。マサさん、急いで買わないと(笑)

Grand Archive EP.JPG



<追記:似てジャケ選手権 ピアノ編>

Grand Archives.jpg Grand Archives 『The Grand Archives』
Tinfoil On The Windows.jpg Soso 『Tinfoil On The Windows』



<7月6日追記>

GA.gif Grand Archives 『Grand Archives』

デビューアルバム以前、07年の5月にCD-Rでリリースされていた4曲入りEPがサブポップから復刻されたので早速オーダー。昨晩タマスのライヴから帰ってきたら届いていた。CD-Rかと思いきや、ちゃんとプレスされたCDだった。ジュエルケースに入って、ここに載せた綺麗なジャケも付いてたし、これはちょっと得した気分。サブポップからの通販で買ったら、デビューアルバムのジャケットデザインのステッカーも付いてたし。

ところで今まで、このグループの名前はThe Grand Archivesで、デビューアルバムのタイトルが『Grand Archives』だと思い込んでいたんだけど、このEPを見る限りは、どうもそれは逆みたいだね。グループ名がGrand Archives。EPのタイトルも同じく『Grand Archives』。アルバムタイトルは冠詞が付いて『The Grand Archives』。あぶらだこ並みにややこしい人たち…

「Torn Blue Foam Couch」、「Sleepdriving」、「George Kaminski」の3曲が、後にデビューアルバムに収録されることになる。ここに収められているのは初期バージョンだろう。結構アレンジが違う。「George Kaminski」だけは、まだ1回しか聴いてないから断言はできないけど、先に記した白い7インチシングルに収録されたのと同じものだと思う。残る1曲「Southern Glass Home」はアルバム未収録。いい曲なのに、どうして落としたんだろう。アルバムの裏ジャケにもブックレットにも「Southern Glsss Home」と誤植してあるのはご愛嬌。はい、マサさん、また買うものが増えましたよ(笑)
posted by . at 22:27| Comment(17) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月15日

Kyte instore live in Tokyo

Kyte.jpg Kyte 『Kyte』

先月マーク・コズレックのインストア・ライヴに行ったついでに、タワレコ渋谷店で激プッシュされていたこのCDを買ってきた。名前も聞いたことのない新人バンドのCDを、新品で2000円以上も出して買うなんてこと、僕にとっては結構まれなんだけど、試聴したらかなり気に入ったもんで。

そのときに、このカイトというバンドが6月15日に同じタワレコ渋谷店でインストア・ライヴをやるということで、整理券をもらった。16番。なんだ、あんまり人気ないのかな。

というわけで、今日はちょっとした用事があったついでに、久し振りに朝から渋谷をブラブラ。ライヴ開始が2時、開場が1時半だというので、1時半ちょっと過ぎに行ってみたら、会場は前回のようなインスタントなお立ち台なんかじゃなく、地下一階のちょっとしたライヴハウス級のステージ。しかも、地下一階から整理番号順に階段に並んでいる列の最後の方は、地上3階だか4階、整理番号で200番ぐらいになっているよ。16番って、もしかしてかなりラッキーだったのかも。

開場後、飲み物を取ってステージほぼ中央正面へ。最前列ではないけど、近い近い。これなら充分。

2時ちょうどに5人のメンバーがバラバラと登場。若いねー。CDのライナーによると、メンバーほぼ全員20歳。なので、客層はもっと若い女の子ばかりになるんじゃないかと危惧していたんだけど、意外と男女比半々ぐらいか。まあ、例によってきっと僕が会場内最高齢だっただろうけどね。

メンバーの名前と顔と担当楽器が一致しないんだけど(そんなことさえ書いてない不親切なライナー)、ヴォーカリストはテーブルの上になんか小さな機械を置いて、始終それを操作していた。彼のヴォーカルはヴォコーダーを通して加工されたように聴こえるんだけど、それがあの機械なのかも。

向かって右側のギタリストはキーボードも兼務。キーボードの上にはおもちゃみたいなオレンジ色の鉄琴。左側のギタリストは床の上にシンセを置いてるよ。奥にべーシストとドラマー。好感が持てたのは、彼らの楽器。右側のギターがフェンダーのジャズマスター。左側がエピフォンのセミアコ。ベースはフェンダーのジャズベース。なんだか、こういう新しい音楽を演ってる若い子たちが、こんなシブい楽器を使ってるってのが、いいね。

ほぼ真っ暗なステージの後方からのライティングなので、メンバーの顔がいまいちよく見えないんだけど、みんな背が高くて、結構ハンサム。ヴォーカリストは、ビリー・エリオットの子役の子がそのまま大きくなったようなというか、レディオヘッドのトムが若返ったというか、そういうちょっと華奢な感じ。僕は別にメンバーがイケメンだろうがブサイクだろうがあんまり興味ないけど、これは、うまくいけばブレイクするんじゃないだろうかね。

さて、肝心の演奏は、CDでもふんだんに使われているサンプリング音・ループ音を効果的に使って、シブい楽器の豊かな音と硬質な残響音を巧みにミックスした、非常に興味深い音。

と言いたいところだけど、まだライヴ慣れしていないのか、時差ボケなのか、たまに演奏がもたついたりひっかかったりしているよ。リズム隊はきちんとビートをキープしているんだけど、両側のメンバーが、ギターとシンセと鉄琴と、てな感じでちょっと忙しすぎる感じ。どっちかにしろ、といいたくなる。

オープニング「Planet」、続く「Sunlight」、そしてもう一曲(マイスペに上がってる新曲かな?)のわずか3曲で「アリガト」とか言って引っ込んじゃった。おいおい、たったの15分かよ。アンコールですぐ出てきて、これも多分新曲「Stars On The TV(だったと思う)」を演奏して終了。うひゃー、開場の30分も前から200人近くを待たせておいて、わずか20分ちょっとのライヴかよ。そりゃないよ。

続いて、メンバーとの握手会に移るとのこと。うーん、握手は…別にいいや。握手会といいつつサインでももらえるかなと期待して、一応前回買ったCDは持ってきてたんだけど、まあいいや。メンバーも、どうせなら女の子のファンと握手した方が嬉しいだろうしね。というわけで、僕はそこで退場。朝から歩き回って、コンクリの床でずっと立ってるのは、おっちゃんにはきついんだよ。


なんだか、けなしてばかりみたいだね(決して、メンバーが若くてイケメンだからではありません)。では、ちょっとCDのことも書いてみよう。だって、せっかく取り上げるからには、やっぱり褒めたいからね。

若干20歳のメンバーが作ったとは思えないほど、壮大かつ緻密な音。彼らのことを語るときに必ず引き合いに出されるのが、アイスランドのシガー・ロス。シガー・ロスとは若干テイストが違うとは思うが、さっき書いた生音とサンプリング音の融合具合が、このCDを聴いていると実に心地よく体に滲みてくる。

大半がゆったりしたリズムの、6分とか8分とかいった大曲がいくつも入っているのがまたいいね。僕はシューゲイザーのバンドをそれほど沢山は知らないんだけど、このバンドは結構上等な部類に入るんじゃないだろうか。この轟音にゆったりと身を任せる感じがとても気持ちいい。それがあったから、今日のライヴではどうも一曲一曲が短すぎるように感じられてしまったんだけどね(実際には各曲5分以上はあったと思うけど)。

ギター、ドラム、ベース、シンセの音に加えて、このバンドの音に鮮やかな表情を付け加えているのが、ライヴでも使われていた鉄琴。アルバムのあちこちでキラキラとした音を響かせているが、中でも白眉は、荘厳なアルバム最終曲「These Tales Of Our Stay」のエンディングを飾る、その透き通った音色だろう。

もう一度言う。新人が作ったとは思えない、見事な出来映えのアルバムだ。明日から始まる日本公演、特に東京公演は二夜ともソールドアウトのようだけど、僕はこのCDを聴いているだけで充分だよ。固いコンクリートの床を我慢しなくてもいいし。


久々の似てジャケ選手権

これと、
Kyte.jpg Kyte 『Kyte』

これ、似てない?
Sky Blue Sky..jpg Wilco 『Sky Blue Sky』
posted by . at 02:34| Comment(9) | TrackBack(0) | コンサート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月08日

蛇に足をつけたらカナヘビ - Squeeze

3話連続で僕の無人島レコ候補の記事を書いたのは一昨年の9月のこと。僕が中学生だった79年−80年頃にほぼリアルタイムで体験したそれら3枚のアルバムは、ラジオや雑誌やレコード屋を通じても洋楽に関してはまだまだ限られた情報しか入ってこなかった当時としては、僕にとってはそれでも精一杯マニアックな選択だったはず。なにしろ、ミュージック・ライフや音楽専科なんかを読んでいたら、クイーンやジャパンやチープ・トリックが洋楽世界の中心だと思ってしまってもおかしくなかったからね、あの頃は。

なので、同じ80年に発表されていながらも、当時の日本の表層的な洋楽マーケットではほぼ黙殺されていたこのグループのこのアルバムのことを僕が知ることになるのは、それから更に数年後、もう僕が成人しようかという頃だった。

Argybargy deluxe edition.jpg Squeeze 『Arbybargy Deluxe Edition』

僕のブログにはもう何度も登場している、スクイーズのサードアルバム『Argybargy』。一番最初に彼らのことを書いた記事のコメント欄で、僕はこんな風に言ってるね。

「Argybargy」が一番好き、に一票です。例えばビートルズのアルバムをいい順にずらっと並べて、そのちょうど真ん中にこのアルバムを置いても、僕は誰にも文句を言わせない自信があります。うちには既にこのアルバムが2枚ありますが、なんならあと2枚ぐらい買ってもいいぐらいです。

これは2年前の8月だから、コメント後半に関しては僕は口からでまかせ言ってただけなんだけど、上の写真を見てもわかるように、今年に入ってこのアルバムも2枚組デラックス・エディションとして再発された。同じのをあと2枚というわけにはいかなかったが、めでたく自分の予言が当たってしまったというわけだ。

2枚組CDの1枚目にオリジナル・アルバム11曲とボーナス・トラック9曲の計20曲。2枚目には、このアルバムの当時のラジオCM(ジュールス・ホランドが早口でまくしたてるバナナの叩き売りみたいな愉快なCM)と、アルバム発売直後にあたる80年3月のロンドン・ハマースミス・オデオンでのライヴがたっぷり15曲。

オリジナル・アルバムについては、あれこれ書く必要はないだろう。上の僕の引用コメントのとおり。アルバム冒頭から「Pulling Mussels (From The Shell)」、「Another Nail In My Heart」と超強力な2曲を立て続けに配置し、その他にも「Misadventure」、「Vicky Verky」、「There At The Top」など、地味ながらも彼らの代表曲と肩を並べるようないかしたパワーポップの名曲が揃っている。

僕は84年に出た『Difford & Tilbrook』をきっかけに彼らのことを聴くようになり、当時は全て廃盤だったスクイーズのLPを中古レコード屋で探しはじめ、85年2月に最初に買ったのがこの『Argybargy』の日本盤だったんだけど、それ以来二十数年間、自分の最も好きなアルバムの常に上位に入っている。それこそ、一昨年に書いた3枚のすぐ次ぐらいに。

読み応えたっぷりのブックレットには、当時の垢抜けない彼らの写真も満載。このライナーノーツ、昨今のスクイーズの過去アルバム再発運動を進めているスクイーズ・アーカイヴのデイヴッド・ベイリーという人が書いているんだけど、当時の裏話やアルバム制作秘話みたいなのがいろいろと書いてあって、長文でも楽しくすらすら読めてしまう(見習わなければ)。

たとえば、アメリカ盤のこのLP、当時アメリカのみでシングルカットされた「If I Didn't Love You」がB面1曲目に配置転換されているんだけど、それはアメリカ人が“Pulling mussels from a shell”を聞き取れなくて(“Pulling muscles for Michelle”じゃないと何度もファンに説明しなくてはいけなかったとか)、単純なアメリカ人にもわかるような簡単なタイトルの曲をシングルに選んだ、とか、

「Another Nail In My Heart」のあの印象的なギターソロは、実は何度も試した色々なソロをバラバラにつぎはぎして編集したもので、あの形に落ち着いてからは、グレンは今度はそれに合わせて練習し直さなければいけなかったとか(一昨年のライヴ評に書いたように、今やアコースティック・ギターでも完璧に弾きこなしているけどね)、

実はこのアルバム、制作当初は14曲入りだったのが、マネジャーのマイルズ・コープランドによって3曲削られて今の形になったとか。ちなみにその3曲のうち、「What The Butler Saw」は「Another Nail In My Heart」のシングルB面曲になり、「Someone Else's Heart」は次作『East Side Story』に収められることになるが、残る「Funny How It Goes」は97年にスクイーズのボックスセット『Six Of One』でボーナストラックとして発表されるまで陽の目をみなかった。『Argybargy』は当初その「Funny How It Goes」にちなんで『It's A Funny Old World』というアルバム・タイトルになる予定で、だから当時のツアー名は「It's A Funny Old World Tour」と名付けられていたとか。

14曲入りの状態がどういう曲順だったのかは知る由もないが、落とされたのはどれも、削るならこの3曲じゃないだろうと思ってしまうほどの佳曲揃い。さっき僕がこのアルバムを無人島候補3枚の「次」と書いたのは、残念ながらちょっと弱いと思える曲がいくつか入ってしまっているからに他ならない。きっと当時の人間関係とかで、全曲グレン・ティルブルック作で彼のリード・ヴォーカルにするわけにもいかなかったからなのかと憶測してしまうけど、もしこれら3曲(特に「Funny How It Goes」)が収録されて、11曲のうちちょっと弱い曲を間引きしてさえいれば、この『Argybargy』は(いや、「Funny How It Goes」が入っていたら、違うタイトルになっていたか)スクイーズの最高傑作であるのはもちろん、この当時のブリティッシュ・ロックを代表するような名盤扱いされていたはず。

いずれにせよ、アルバム発表から30年近く経って、めでたく当初の14曲、それに、シングルB面曲3曲、アルバム収録曲の別バージョン2曲、未発表デモ1曲という拡大バージョンでこのアルバムが聴けるようになったのは嬉しいことだ。

そしてこの拡大ヴァージョンは、ピアノ演奏が印象的な先の「Funny How It Goes」や、定番ジュールス・ホランド節である「Pretty One」などが入っていることによって、よりこの特異なピアニストの色が濃く出たアルバムに変身している。もともとニューオーリンズ・スタイルの弾むようなピアノを得意とする彼が、“ニュー・ウェーヴ・バンド”としてデビューさせられたスクイーズの初期のアルバムでは、うねうねとした奇妙な音色のキーボードを多用していたのに比べると、ここではより自分の好きなようにプレイしているのが見て取れる。

それは、2枚目に収録されたライヴ録音を聴いても明らかだ。びっくりするほどアップテンポに改変させられた、めちゃくちゃ格好いい「Goodbye Girl」や、スクイーズの次作に収録される「Messed Around」がもうこの時期に演奏されていたのかと勘違いするようなタイトルの「Mess Around」をはじめ、ジュールス・ホランドのピアノが始終このバンドの音の中心に位置している。もちろん、「Touching Me, Touching You」や「Slightly Drunk」でのオルガン(風キーボード)の演奏も彼ならではのもの。

クリス・ディフォードにMCを振られたジュールスが堰を切ったように喋りだすところとか(話術の上手さはさすが後の「Later」司会者)も含めて、きっとこの人、この頃には、バンドの単なる一奏者で、アルバムでもライヴでも自分には1-2曲割り振られるだけというのに満足できなくなっていたんだろうね。こうして、グレン・ティルブルック、クリス・ディフォード、ジュールス・ホランド、ギルソン・デイヴィス、ジョン・ベントリーという、僕が思うにスクイーズ最強ラインアップは、この『Argybargy』というアルバムとそれに続くこの時期のライヴだけを残して消滅することになる。

そう考えると、この時期のライヴ録音がこうしてほぼ丸ごと残されていたのはかなり貴重なこと。『A Round And A Bout』を始め、後期スクイーズのライヴ盤は数種類発表されているが、まだアルバム3枚分の材料しかなかった頃の初期の彼らがどんな選曲でどんな曲順のライヴをしていたのかがよくわかる。「Strong In Reason」とか、多分この時期以降はライヴで取り上げられることはなかったのではないかと思えるようなマイナーな曲をデビューアルバムから演っていたり。個人的には、上にジュールスのオルガンがいいと書いた2曲や、「It's So Dirty」、「Going Crazy」などの隠れた名曲が含まれているのが嬉しい。


この記事の冒頭でリンクしたジャムの記事でこのデラックス・エディション・シリーズに触れ、その時点で既に乱発されていたこのシリーズには当たり外れがあるという話もした。さて、この『Argybargy』2枚組はどうだろうか。

個人的には、この2枚目に納められたようなライヴ録音は、独立した発掘録音アルバムとして発売してくれた方が、同じアルバムを何回も買い替え・買い増ししなくてすむのにと思うこともある。でも、上に書いたように、1枚目の20曲は(アルバムで既発表の曲のデモバージョンなどを除けば)スクイーズの失われたアルバム『It's A Funny Old World』として聴くことができるし、楽しいラジオCMなんてこんな機会がなければ聞くことはなかっただろうからね。

蛇の絵に余計な足を描いてしまうように中途半端な未発表曲を入れただけのデラックス・エディションが多い中、これは、蛇に足をつけたらちゃんと可愛いカナヘビの絵ができました、というような作品になった。誰かに突っ込まれる前に言い訳しておくと、蛇に足の生えたのがカナヘビなんじゃないってことぐらいは知ってるからね。

なので、この2枚組は僕にとっては大当たりの1枚、いや、2枚か。ボブ・マーリーの『Catch A Fire』とかヴェルヴェット・アンダーグラウンドのファーストなど、本当に貴重な音源が収録された2枚組デラックス・エディションもあるけど、引っ張り出してきてよく聴くという意味では、この『Argybargy』のデラックス・エディションは僕にとってはダントツのアルバムになるだろう。それは、僕の無人島レコ争いが更に激しくなったということも意味している。
posted by . at 12:05| Comment(11) | TrackBack(2) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月01日

パンクだとかそうじゃないとか - Foxboro Hottubs

タマス・ウェルズの記事ももうずいぶん伸びてきて、ってなんだか髪の毛みたいな言い方だけど、まあそっちはそっちで7月の来日公演に向けて思いついたことをまた少しずつ書き足していくことにして、たまには違う音楽のことも書こう。ルナさん曰く異星人の僕なので、タマスのヘヴィ・ローテーション中でもこういうのも聴けるし。

Stop Drop And Roll.jpg Foxboro Hottubs 『Stop Drop And Roll!!!』

フォクスボロ・ホッタブスというバンドのデビューアルバム。というか、もうあちこちで話題になってるのであっさりネタバレさせると、これはグリーン・デイの覆面バンド。僕は某インターネットサイトでアメリカ盤を買ったはずなんだけど、送られてきたCDにはジャケットの1/4ほどもあるサイズの日本語のステッカーがでかでかと貼ってあって、そこには堂々と

グリーン・デイの覆面プロジェクト!!
1st Singleの「Mother Mary」(T-2)を始め、全編、グリーン・デイを思わせるガレージ・ロック・サウンドで全曲ハズレなし! グリーン・デイのニュー・アルバムが出るまではこれでガマンすべし! 着うたフル配信中!”


などと書いてある。覆面バンドなんて、いくら音や声がバレバレでも、あくまでも「知りません。俺たち新人バンドだもんね」なんてうそぶいているのが面白いのに、こうまであからさまにやられるとちょっとね。

ちゃちな12センチ角の厚紙のジャケにCDが1枚入ってるだけ。日本盤は歌詞・対訳や解説書も付くらしいから、もしかしたらちゃんとしたプラケース入りなのかもしれないけど、この安っぽい作りの方がこのお気軽なプロジェクトに合ってるように思える。

上に載せた写真のとおり、ジャケットからしてまんま60年代風。裏ジャケの細かい表記も、A面・B面はもちろん、当時のLPのパロディらしき文言が沢山。表は黒いからよくわからないけど、裏ジャケの白い部分は経年劣化っぽくかすかに茶色に変色しているんだけど、これもわざとなんだろうか。それとも僕のだけが単に汚れてるだけ?

発売元もJingle Town Recordsとかいう架空のレコード会社。さっきの日本語ステッカーにはQRコードがあって、そこから飛ぶと当然(グリーン・デイ所属の)ワーナー・ミュージック・ジャパンのサイトにたどり着くから、このアメリカ盤も当然ワーナーから出ているはずなんだけど、そのステッカーも含めて、そういう表記は一切なし。大手レーベルでそこまで徹底して遊ばせてあげるというのは、やるね。

で、音の方はというと、上に書き写したステッカーの煽り文句のとおり、60年代風ガレージ〜ロックンロール。6曲目「She's A Saint Not A Celebrity」のイントロは「Summertime Blues」そのままだし、シングル曲「Mother Mary」のモータウン風ビートなど、思わずサザンかよと呟いてしまいそうなほど。B面(笑)に移ると、これが覆面バンドだと知らない人でもきっと「あ、これグリーン・デイ」とすぐにわかってしまうような曲も出てくる。

きっと彼ら、こういう感じの60年代のヒット曲とか大好きなんだろうね。でもグリーン・デイ名義じゃこんなCD出せないし。なにしろ“パンク”の看板を背負って立ってるからね(笑)。うちのブログにたまに書いてある僕のどうでもいい主張によると、グリーン・デイはパンクじゃなくてパワーポップだったりするらしいけど、このアルバムを聴いて一層そう思った次第。

上にリンクを張った日本盤は2580円だそうだけど、多分輸入盤だとその半額ぐらいで手に入ると思う。歌詞とか解説とか読みたい人は日本盤の方を選べばいいけど、本人達もきっとお遊び(決して悪い意味でなく)でやってるこんなお気楽アルバム、こちらも安く買って気軽に聴いて楽しんであげればいいと思うよ。

マイスペのフレンド数がもう2万を越えているようだけど、トップに載っている写真のほとんどが日本人のプリクラなのが笑える。
posted by . at 00:18| Comment(14) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする