2008年03月31日

枯れたまま育つ - Dolorean

例えば、トム・ウェイツがデビューしたときって、きっとこんな風だったんじゃないだろうか。シンガー・ソングライターのレコードなんだけど、当時流行していた爽やかな・あるいは内省的なウエストコーストのSSWとは明らかに趣が違う、そのレコードをかけた場所だけが夜の色に染まってしまう感じ。

Not Exotic.jpg Dolorean 『Not Exotic』 

トム・ウェイツの『Closing Time』からちょうど30年後にあたる03年に発表された、アメリカはオレゴン州ポートランドのバンド、ドロリーンのデビューアルバム『Not Exotic』を聴いて、僕はそんな感想を持った。誤解を恐れて(笑)弁明するなら、このアルバムには『Closing Time』のもつあのどこにも行き場のない厭世観はない。でも、これが新人バンドのデビューアルバムかと思ってしまうほどの枯れた世界がここにはある。僕の知っている最近のバンドでこれに一番近い感触を持っているのは、グレイト・レイク・スイマーズだろうか。

そこで鳴っている楽器は極めてオーソドックスなもの。ギターとヴォーカルのアル・ジェイムスを中心とした5人組。強いて言えば、5人目のメンバーの担当楽器がチェロということぐらいがオーソドックスとは言えないか。アルバムは、そのチェロの陰鬱な音で幕を開ける。

統一感のあるアルバムだと思う。その冒頭の曲から一貫して、夕暮れから夜に至るイメージを喚起させてくれる。三拍子の曲がアルバムの大半を占めていることも、この一貫して落ち着いた雰囲気を持続させることの一助になっているのかも。


Violence In The Snowy Fields.bmp Dolorean 『Violence In The Snowy Fields』

翌年発表のセカンドアルバム『Violence In The Snowy Fields』は、一体この人たちに何があったのかと思うほど明るい曲調の「The Search」がオープニング。まるでイーグルスかポコか、といった爽やかなウェストコースト・サウンド。

それでも、ファーストで聴けた、あのしっとりとした雰囲気は健在。いや、むしろ曲の出来という意味ではこのアルバムの方が格段に進歩しているんじゃないかな。日本でほとんど露出のないこのバンドのことをネットで調べていると、何故あちこちでニール・ヤングの名前が引き合いに出されるのかが、このアルバムを聴くとわかる気がする。

とてもよくバランスの取れたアルバムだ。前作にはなかったミディアム・テンポのカントリー調ロックから、相変わらず渋く聴かせるワルツまで。さっき名前を挙げたイーグルスやポコを髣髴とさせる素敵なコーラス・ワークも聴ける。この先まで読み進む人にこういうことを言ってしまうのもなんだけど、このバンドを聴いてみようと思うなら、まずこのアルバムから入るのが正しい聴き方というものだろう。


You Can't Win.jpg Dolorean 『You Can't Win』

もともと僕がこのバンドの名前を知ることになったのは、ニック・ロウやビリー・ブラッグのアルバムを買ったことで定期的に送られてくるようになったイェップ・ロック・レコード(Yep Roc Records)のメルマガを通じてのこと。半年ほど前にこの最新作『You Can't Win』が発売されたときに、アルバム全曲無料ストリーミングという大胆なプロモーションをしていたのがきっかけだった。

だけど、僕はそのときはこのアルバムは買わず、まず先の2枚をあちこちの中古レコ屋で格安で手に入れた。そこで大いにこのバンドのことを気に入って、この最新作のアナログ盤をオーダーしたというわけだ。アナログ盤を買った理由はもちろん、去年7月8日の記事「LPと算数」に書いたニック・ロウのアルバム同様、購入時にMP3音源がダウンロードできたから。LP自体は180グラムの重量盤だし。

最近このLP+MP3無料ダウンロードという方式が増えてきて喜ばしい限りなんだけど、このイェップ・ロック方式は、よくあるジャケットにクーポンが封入されているタイプでなく、ネット上で支払いを済ませた瞬間に即ダウンロードできるというのが優れてるね。まあ、レーベルのサイトから直接買わないといけないというのが、難点といえば難点だけど。そういえば、近々発売されるエルヴィス・コステロの新譜は、なんとLP(+MP3ダウンロード)とMP3のみという形態になるようだね。CDでの発売はないんだって。僕はそれでも全然かまわないんだけど、いよいよ音楽CDというフォーマットも末期という感じだね。

話がずれてしまった。せっかく今日は記事を短くまとめようとしてるってのに。さて、3年ぶりとなるこのサードアルバム、ファースト⇒セカンドへの成長ぶりとは全く違ったベクトルの向きへ方向転換した観がある。

冒頭のアルバムタイトルトラック「You Can't Win」から、音響系のようなぼわーっとした音に、曲名のリフレインが延々と続く奇妙な曲。2曲目「We Winter Wrens」で、前作までのあのしっとりとしたドロリーン節が帰ってくるんだけど、なんとなくそこの繋ぎがちょっと唐突でいまいちしっくりこない感じがしてしまう。

LPでのA面ラスト「You Don't Want To Know」もまたボーカルにリヴァーヴが効きまくった音響系風。LPだとこの2曲がオープニングとエンディングで対になっているというのがわかるけど、これCDで続けて聴くと非常にわかりにくい構成だろうな(と、普段はネットワークウォークマンに入れたMP3音源で聴いている僕が証言)。

彼らのマイスペースに載っている、アルによるアルバム解説によると、ファースト⇒セカンドと成長したところからの予定調和的なアルバムを作りたくなかった故のこの変化だとのこと。それはわかるけれど、でもマイスペースにアップしている4曲(このアルバムのA2、A3、A4、B3)がいずれも正統派ドロリーン風なのをみると、やっぱり曲として自信があるのはその手の曲なんだなと思う。

うーん、どうもけなしてるようにしか読めないかな。では、まずはさっきのマイスペースで「We Winter Wrens」あたりから聴いてみてほしい。決してこのアルバムが駄曲の詰まった失敗作でないというのがわかるから。デビュー時から変わらぬ枯れた味わいの、でもずっと成長した姿がここにある。

ネガティブな意味合いのアルバムタイトルは、このアルバムを制作しはじめた頃のアルの何をやってもうまくいかないという心情を反映していたそうだけど、このアルバムを完成させてリリースにこぎつけた頃には、その同じ言葉がむしろ前向きな意味を帯びてきたという。どうせ勝てないんだから、気負わなくていいよ、って。

そういう考え方って、たまには必要だと思う。何をやってもうまくいかないときにはね。
posted by . at 00:21| Comment(12) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする