2008年01月05日

挫折の多い司令官 - Joe Strummer

「ジョー、今から君の名前をスクリーンに出す。どう呼んで欲しい?」
インタビュアーが尋ねる。

「パンク・ロックの司令官。そう書いてくれ」
長い音楽的ブランクを終え、新しいバックバンド、メスカレロスとの再出発を直前に迎えた1995年のジョー・ストラマーがそう答える。

このアルバムは、その短いやりとりで幕を開ける。そして、クラッシュの代表曲「White Riot」のヴォーカル・テイクだけの未発表ヴァージョンが続く。

The Future Is Unwritten.jpg Joe Strummer 「The Future Is Unwritten」

ジョー・ストラマーの生涯を、彼と同い年だというジュリアン・テンプルが撮った伝記映画のサントラ盤。ジョーが自分が影響を受けた音楽を次々に紹介するという形を取っていて、まるで彼がDJを務める音楽番組を聴いているよう。実際、彼は99年から3年間−彼が心臓発作で突然亡くなってしまうまで、BBC国際放送の音楽番組でDJを務めていたから、さしずめこのCDはそのダイジェスト版といったところか。

エルヴィス・プレスリーの「Crawfish」という、58年にプレスリーが入隊前最後に撮った白黒映画「闇に響く声(King Creole)」の挿入曲なんていう非常にオブスキュアな(でも、ニューオーリンズ風味満載のとてもいかした)曲に続けて、ティム・ハーディンの「Black Sheep Boy」を紹介。今は(僕が、オカヴィル・リヴァーがカバーしたその曲の原曲を聴きたくて入手したロシア盤以外は)どうやら世界中で廃盤の『Tim Hardin 2』からの彼の代表曲だ。

70年代パンク・バンドの代表格であるクラッシュのフロントマンとしてのジョー・ストラマーしか知らなければ、この辺りの選曲は意外かもしれない。音楽的にクラッシュが影響を受けたと誰もが納得するのは、次に出てくるMC5の「Kick Out The Jams」だろう。その曲に続けて、ジョーがクラッシュ参加前に組んでいた101'ers(ワンオーワナーズ)の「Keys To Your Heart」〜クラッシュの初期代表曲「I'm So Bored With U.S.A.」の未発表デモが並ぶところが、彼の伝記映画のサントラとして一番わかりやすいところだろう。

「パンク・バンドの代表格」なんて書いたけれど、実際には80年代に入る頃、アルバムで言えば『London Calling』の頃から、クラッシュはレゲエを始めとした多彩な音楽を自分達の曲に取り込み始める(正確に言うと、ファースト・アルバムにも1曲レゲエが入っていたんだけど)。一般的には音楽性が開花した『London Calling』が彼らの代表作と言われることになるが、頭の固い所謂“パンクス”からは、「あんなのはクラッシュじゃない」「パンクじゃない」と言われ始める。

冒頭に書いたように、95年の時点でも彼が自分を「パンク・ロックの司令官」だなんて捉えていたんだとすると、80年にわずか3枚目のアルバムが自分達のファン達からそうして否定されたことは、きっと彼にとっては大きなショックだったことだろう。それを受けての彼の名言「パンクはスタイルじゃない。姿勢のことだ」というのを、彼は生涯をかけて証明していくことになる。

このCDでいうと、11曲目、U-ロイがボブ・マーリー&ウェイラーズの「Soul Rebel」を下敷きにした「Natty Rebel」が出てくる辺りからが、ジョーのワールド・ミュージック志向が窺える。コロンビア音楽(クンビア)のアンドレス・ランデロの「Martha Cecilia」や、ジャマイカのギタリスト、アーネスト・ラングリンがセネガルのバーバ・マールをヴォーカルに迎えた「Minuet」(これすごく気持ちいい)などを聴くと、クラッシュ解散後のジョーの音楽の変遷の源がよくわかる。

音楽を聴くにあたって、その音楽が作られた背景だとかミュージシャンの人柄だとかは、本来関係のないことだと思う。どんなに嫌な奴が演奏していようと、いい音楽が聴ければ問題ないわけだし。でも、このジョー・ストラマーという人に関しては、彼の人柄、態度、発言なんかが常に付きまとっていた。訪ねてきたファンを泊めてやったとか、ライヴ終了後もサインを求める最後のファンが帰るまで何時間でも付き合っていたとか。そういう浪花節的なエピソード。そして、さっきの「パンクとは姿勢だ」とか、きりっとした名台詞が決まる人だった。そういう意味で、このCDの後半にウディ・ガスリーやボブ・ディランなどの詩人(あえてこう呼ぶ)が出てくることにも抵抗感はない。

パンク・ロックの先駆者、ワールド・ミュージックの導師といった一見輝かしい見かけに反して、挫折の多い人でもあった。クラッシュ後期のゴタゴタ(と、それに伴って最後のアルバム『Cut The Crap』を最後までなかったことにしようとしていたこと)や、クラッシュ解散後のソロアルバムやサントラがことごとく酷評されたこと。アルバム『Combat Rock』の頃に彼は一時失踪したこともあった。

最近出た彼の伝記「リデンプション・ソング ジョー・ストラマーの生涯」の帯にある言葉もこうだ。

──これまでの君のやった最悪の判断は?
「まず、トッパー・ヒードンをクビにしたこと。それからミック・ジョーンズをクビにしたことだ」

クラッシュ後期のゴタゴタに関してファンが一番もやもやしていたところを、こうして自分のミスとしてさらけ出す。そういう、挫折の多いところ、人間として弱い部分も含めて、彼のファンをやめられないという人も多いだろう。僕もその一人だ。昨日見かけたこの本、ちょっとした辞書よりも分厚いハードカバーで、しかも細かい文字でびっしり二段組。読まないといけない本がまだ沢山あるので躊躇して買ってこなかったけど、やっぱり読みたいな。そのうち買おう。

Redemption.jpg 「リデンプション・ソング ジョー・ストラマーの生涯」

「ストラマーのポスターが壁から落ちて、もうそこには何も残っていない」と歌うことで青春期からの決別を簡潔に表したアズテック・キャメラの「Walk Out To Winter」は名曲だけど、そして、僕ももうポスターを自分の部屋の壁に貼るような歳ではなくなってしまったけれど、僕の心の中の音楽の壁には、今でもジョーの写真が飾ってあるよ。ジョーの死後、沢山の伝記映画が作られたけど、このサントラを聴く限りでは、この映画は僕みたいなファンのために作られたもののような気がする。

肝心の映画は、日本では去年の秋に単館公開が始まっていて、ほとんどの地方ではもうとっくに終わっていた。でも、調べてみたら、僕の家からさほど遠くない映画館で、2月にまたレイトショーがあるみたい。レイトショーなんて久しく足を運んでないけど、これは観に行くことにしよう。


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