2007年10月15日

58歳の力作 Bruce Springsteen 「Magic」

ブルース・スプリングスティーンの新作『Magic』について書くにあたって、もうすでにあちこちで語り尽くされているであろうこんなメジャーなアルバムだから、あっさりと感想だけを書くのもつまらないと思い、どういうふうな話の展開にしようかなとずっと考えていたんだけど、たとえば


the rising ltd edition.jpg devils & dust.jpg magic.jpg

初期のマネージャー兼プロデューサー、マイク・アペルと75年にゴタゴタを起こしてからは、一貫してジョン・ランドウと自分でプロデュースを続けてきた彼が、初めて外部の売れっ子プロデューサー、ブレンダン・オブライエンにプロデュースを任せた02年の『The Rising』から今作までのオリジナル・アルバム3作について、それ以前からの音作りの変遷について書くとか、あるいは


the essential bs.jpg weshallovercome.jpg born to run box.jpg
Hammersmith Odeon.jpg american land edition.jpg live in dublin.jpg

03年に(当時は「またか」と思わせつつ)発表された『The Essential』という3枚組ベスト・アルバムを皮切りに、彼自身のルーツ、そして、ピート・シーガーというアーティストの楽曲を通してアメリカ音楽のルーツを掘り下げてきた、もの凄く制作欲旺盛なこの5年間の彼の音楽活動を背景にした、この新作の意義みたいなことを書くとか。


でも、残念ながら、構想段階で力尽きてしまった。こんなの、一週間やそこらで構成を考えてちゃんとしたものを書くなんて到底無理というもの。アイデア自体は面白いと思うから、そのうち機会があれば書いてみたい話ではあるんだけどね。というわけで、今回はあっさりと『Magic』の感想だけを書くことにした。


magic.jpg Bruce Springsteen 『Magic』

オリジナル・アルバムとしては05年の『Devils & Dust』以来2年半ぶりだけど、この6月にダブリンでのライヴ・アルバムが出たばかりなので、それから数えるとわずか4ヶ月ぶりのニュー・アルバム。アメリカはビルボードでの初登場第一位を始めとして、カナダ、イギリス、アイルランド、ノルウェー、イタリア、スペインでチャートのトップを記録。いまやチャートというものにどれだけ権威があるのかよくわからないけど、それにしても、相変わらず人気は衰えていない。

アルバムからのリード・シングルは、9月30日の記事「オークランドCDショップガイド」のコメント欄(10月9日の僕のコメント)にPVのリンクを貼った「Radio Nowhere」。これがアルバム1曲目でもある。久々に彼の格好いい曲を聴いた気がする。このメロディーと曲展開、『The River』セッションで録音されたもののお蔵入りになり、ブートレグで散々話題になった挙句に88年のシングル「One Step Up」にカップリング収録された名曲「Roulette」を少しスローにした感じ。そりゃ格好いいはずだよ。

ただ、この曲は、僕が彼の作る最近の曲(特に今作)に共通して抱いている不満も併せ持っている。初期、特に最初の3枚のアルバムで、あれほど溢れ出るような言葉を詰め込んでいた歌詞が、最近ではすっかり影を潜めてしまい、やたらと同じ言葉のリフレインが多くなってしまっているのがとても物足りない。この曲でいうと、

 これはどこでもない局のラジオ
 誰かそっち側で生きてるのか?
 俺はちゃんとしたリズムを聴きたいよ


という歌詞が執拗なまでに繰り返される。歌詞にしても曲作りにしても、なんでもかんでも初期の曲と比べるべきじゃないのはよくわかってるんだけど、ことこういう曲に関しては、ストーリーテラーとしての彼の魅力はかなり乏しいね、残念ながら。

2曲目「You'll Be Comin' Down」は、サビのところでつい「I'm goin down to lucky town〜♪」と歌ってしまいそうになるほど、展開が92年の「Lucky Town」に似ている曲。そういやあれもアルバム2曲目だったな。

3曲目「Livin' In The Future」は、なんとなく『Born In The U.S.A.』に入っててもおかしくないような感じの曲。「Glory Days」っぽいのかな。

いかんね、どうも過去の○○に似ているって話ばかりをしてしまう。確かに、78年の『Darkness On The Edge Of Town』あたりで彼の作曲に定型みたいなものができてからは、どちらかというとワンパターンな曲作りをする人ではあるんだけどね。

4曲目「Your Own Worst Enemy」は僕には今回一番おもしろくない曲。このノべーッとした歌い方がどうも嫌。ごめんね、パス。

ちょっとかすれたハーモニカの音に導かれて始まる5曲目「Gypsy Rider」あたりからが好きかな。この曲の間奏と後奏では、久々にブルース自身が弾くテレキャスターの硬質な音のソロが聴けるし。

恐らくアナログではA面の最後にあたる、次の「Girls In Their Summer Clothes」は、またしてもノべーッとした歌い方のミディアム・テンポの曲なんだけど、これは許せる。というか、これ結構いい曲。ちょっとスペクター風というか、ブライアン・ウィルソン風というか。最近の彼のアルバムで僕が辟易している厚ぼったいシンセサイザーの音とコーラスも、ここではわりと有効に使われている。

続いて、多分LPのB面1曲目「I'll Work For Your Love」。ああ、もうこのイントロのピアノ、たまらないよ。ロイ・ビタンのピアノが好きだという話は5月11日の「ピアノ三昧」記事を始めとしてあちこちに書いてる気がするけど、この、曲全体を通じて彼のピアノが鳴り響き、要所でクラレンス・クレモンズのサックスが出てくるお決まりの展開が最高。ある意味今回のアルバムの僕にとってのベスト・トラック。曲自体はあんまり大したことないんだけどね(なんだそりゃ)。

8曲目がアルバムのタイトル曲「Magic」。なんてことないアコースティック曲かもしれないけど、これがこの位置に入っていることで、アルバムがぐっと引き締まっているよ。目立たないようにそっと添えられているスージー・タイレルのヴァイオリンもいい。

動⇒静ときて、次は刹那的な動の感じがこれまたたまらない「Last To Die」。ここまで結構、半分けなし気味に書いてきたかもしれないけど、これはいい曲だと思う。やっぱりこっちが僕のベスト・トラックかな。うーん、そのうちどっちかに決めるね。それにしても、アナログだとB面3曲目にあたる地味な位置にこんな曲を入れるなんて、彼のアルバムには今まであまりなかったパターンかも(またしても、極初期を除くよ。「Rosalita」なんて曲がB面の真ん中に収録されてたんだもんね)。

まだまだ続く。10曲目「Long Walk Home」は、きっとコンサートの終盤とかアンコールの最後で演ったら盛り上がるだろうなという感じの曲。しばらく前でいうと「Land Of Hope And Dreams」的な位置づけ。と思って、彼のサイトで公開されているコンサートの演奏曲目を見てみたら(現在進行中のツアーの曲目が、コンサート終了直後に彼の手書きのセットリストと一緒にあっという間にアップされている)、この曲はコンサート本編ラスト手前、「Badlands」の前に必ず演奏されているね。ああ、わかるわかる。なんで最後が「Badlands」なんだ、というのは置いといて(いや、好きな曲なんだけどね。でもトリを務められる柄じゃないでしょ)。

話が飛ぶね。裏ジャケに書いてある曲目表ではアルバムの締めくくり、「Devil's Arcade」は、ここ数年彼が自分の曲のテーマにしてきている、「本当の価値からはるか遠く離れたところをうろついている」自分の祖国アメリカについて歌った曲。そういえば、今回はこの手のテーマの曲が少ないね。

これはこれでアルバムをきりっと締めるいいクローザーなんだけど、実はこの後、13秒のブランクを置いて、隠しトラック「Terry's Song」が入っている。これは、このアルバムのブックレットの最後のページに載ってるように、去る7月に亡くなった、ブルースの長年の友人でありパートナーでもあったテリー・マゴヴァンに捧げた歌。心のこもった、しみじみとしたいい曲。

どうやら、この曲は最初は収録される予定じゃなかったらしく(テリーも死ぬ予定じゃなかっただろうからね)、最後の最後で追加収録されることになったから、このアルバムのごく最初のプレス分にはこの曲が収録されていないらしい。初回ミスプレスってなんだか希少価値で持ってると嬉しいもんだけど、後に出たやつよりも1曲少ないってのは微妙だね。実は僕も、出始めの頃に買ったニルヴァーナの『Nevermind』(きっと初回盤)に、その頃流行りだしたシークレット・トラックのはしりだった「Endless, Nameless」が入ってなくて、がっかりしたものだ。

ほとんど全曲解説(横道逸れ気味)になってしまったね。こうして改めて書いてみると、やっぱり僕は後半が好きだな。もし僕がこのアルバムをアナログで買っていたら、きっとB面ばかり繰り返して聴いていたことだろう。

プロデューサーがブレンダン・オブライエンに替わってから、90年代のブルースのアルバムで聴かれたような厚ぼったい音は若干なりを潜めた感がある。それでも、まだまだぼてっとした音に不満があるんだけどね。なにしろギターが3人もいる上に、ブルースの奥さんまでもがアコギ弾いてるから音が厚くてしょうがない。コーラスも人数多すぎるし。ダニー・フィデリーシはあのかっこいいオルガンに専念して、シンセサイザーは封印してもらいたい。あと、今回どういうわけかニルズ・ロフグレンのギターソロがほとんど入ってないよ。僕がこの世で二番目に好きなギタリストだから、一応彼のギターが鳴ってるのは聴き取れるけど。それもかなり不満。


さっき、今行われているEストリート・バンドとのツアーの曲目がサイトにアップされているって書いたけど、その話も少しだけ書こうかな。実は同じサイトで、毎日一曲ずつ(長い曲の場合は部分的に)収録されたビデオも観られる。それを観てると、メンバーみんな年取ったな、太ったな、って思ってしまう。しょうがないんだけどね、こっちだって年取ってるんだから。

ライヴのオープニングは「Radio Nowhere」、それに続くのは日替わりで「No Surrender」だったり「The Ties That Bind」だったり、もうそれを読むだけで失神しそうな選曲。新旧いろんな曲を挟んで、本編の最後はさっき書いたとおり。アンコールの1曲目「Girls In Their Summer Clothes」に続いて、なんと、セカンド・アルバムのアウトテイク「Thundercrack」なんてのを演ってる。あとはお決まりの「Born To Run」や「Dancing In The Dark」を演って、最後は「American Land」で締め。「Thunder Road」は演ってないんだね。昨日(14日)のカナダでのライヴでは、アンコールにアーケイド・ファイアが飛び入りしたらしい。それは観てみたかったな。

太っても年とっても皆それぞれに年季の入ったいい演奏をしているんだけど、やっぱりクラレンス・クレモンズだけはかなりきつそう。以前麒麟さんが多重人格ブログに書いてらしたけど、管楽器って体力勝負らしいからね。特に彼のように、細かなテクニックよりも、肺活量と勢いでぶわーっと吹くタイプのプレイヤーは、年と共に技術が衰えてくるのも致し方ないだろう。だってもう彼65歳だよ。58歳のブルースより7つも上。ギターとかピアノならどんなに年を取っても練習次第で上達するんだろうけどね。噂されているように、きっと今回のツアーがEストリート・バンドとの最後の共演になるんだろう。寂しいけど、彼抜きのEストリート・バンドなんて最早考えられないし。

長くなってきたね。もしかしたらもうルナさん以外には誰も読んでないかも。ルナさんこれ読んで『Magic』買う気になったかな?それとも、やっぱりやめとこうと思われただろうか。初期のアルバムにはもちろんかなわないけど、58歳で現役のスプリングスティーンが作り得る、かなり高水準のアルバムだと思うけどな。ところで、この記事を書くために「Roulette」や「Thundercrack」を聴きなおそうと、4枚組ボックス『Tracks』をかけたら、もうそっちに引き込まれてしまって。ああ、やっぱりあの頃のスプリングスティーンは違うよ。

というわけで、『Magic』も悪くないけど、やっぱりこっちを先に聴くべきかな、とも思う。ここまで長々と書いてきた今回の記事の趣旨と全然一貫性ない結論だけど(笑)。一応アフィリエイト貼っておくね。お、中古だと2913円から?その値段なら問答無用でしょう。4枚のうち後半2枚はわりとどうでもいいんだけど、前半の2枚だけで2913円以上の価値あるからね。

Tracks.jpg Bruce Springsteen 『Tracks』


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