2007年10月06日

最新の古典 Iron And Wine 「The Shepherd's Dog」

しばらく前から記事にしようと構想を練っていた何枚かのアルバムを全部すっ飛ばして、先週買ったばかりのこれについて書くことにした。アイアン&ワインの新作『The Shepherd's Dog』。

The Shepherd's Dog.jpg Iron And Wine 「The Shepherd's Dog」

アイアン&ワイン、これって、シンガー・ソングライターであるサム・ビーム(Sam Beam)の芸名といえばいいのかな。一人なのにバンド名みたいなのを付ける人。バッドリー・ドローン・ボーイことデーモン・ゴフ、と同じパターン。02年にデビューアルバムを発表してから、途中で何枚かのEPや共作アルバムも出しているけど、単独名義のフルアルバムとしてはこれが3枚目のはず。

僕は彼のアルバムは04年のセカンド『Our Endless Numbered Days』しか持っていなかったので、それとの比較しかできないんだけど、控えめなバンド演奏を伴った素朴なフォーク・アルバムといった趣だったそのアルバムに比べると、明らかに次のステップに進んだ感がある。いろんな意味で冒険をしているが、そのことごとくが功を奏しているように僕には思える。

以前に比べて印象的なメロディーの曲が多くなり、バラエティーに富んだ一曲一曲がきちんと独り立ちしている。なのに、ほとんどの曲のエンディングの音がほんの短いインタールードを経由して次の曲のイントロにつながっているので、アルバムを通しての統一感というものもきちんと出ている。ざっと読んだだけでは一体何のことについて歌っているのかよくわからない歌詞がほとんどなんだけど、いろんな曲のあちこちに共通した単語が出てくるところも、その統一感に一役買っているのかも。

「White Tooth Man」や「House By The Sea」のエキゾチックなメロディーにからむシタールやアコーディオンの音もたまらないし、アルバムのタイトル曲ともいえる「Wolves (Song Of The Shepherd's Dog)」の中間や後半部分がダブ処理されているのがすごく心地良い。

「Resurrenction Fern」のような、オーソドックスでありながら心にじんわりと沁みるメロディーの曲が、ギター(バンジョー?)とペダル・スティールで丁寧に紡がれるのを聴くと、僕はもう身動きもできないぐらいだ。僕は正統派のカントリー・ミュージックは別に好きでも嫌いでもないんだけど、それをルーツとした所謂オルタナ・カントリー(これもやたら幅広い曖昧な括りではあるんだけど)にこれだけ惹かれてしまうのは、きっとこのペダル・スティールの音に弱いからなんだと思う。

終盤、ニューオーリンズスタイルのよく転がるピアノが気持ちいい「The Devil Never Sleeps」に続いて、“ジャパニーズ・カー”と連呼されるサビの部分がやけに耳に付く「Peace Beneath The City」のちょっと不気味な曲調と不思議な音(オバケの出てくるときの音みたい)でこのアルバムを終えても悪くなかったと思う。が、その不気味な雰囲気を洗い流すような、とても綺麗な三拍子「Flightless Bird, American Mouth」でとどめを刺される。

最終曲を聴いているうちに、また最初の曲からからもう一回聴きたいという気持ちになり、実際に何度もそうしてしまうようなアルバムに出会ったのは、一体いつ以来のことだろう。このアルバムを買ってから今日でちょうど一週間だけど、もう何回聴いたかわからない。全12曲50分、退屈と思える瞬間が一瞬たりとも訪れない。最新版の古典的名作の誕生だ。


このオーソドックスでありながらも小技を効かせた絶妙なプロデュースをしているのは、ブライアン・デック(Brian Deck)。04年のアルバムも彼の手になるものだったけど、他に僕の持っているアルバムで彼のプロデュース作はあったかなと探してみたら、去年11月17日の記事で取り上げて、去年の僕のベスト・アルバム第八位に入れたジョシュ・リターの『The Animal Years』とか、以前クロムさんの記事を読んで興味を持って買ってみた、「足がつったら大声で知らせよう」でお馴染み(笑)カリフォーン(Califone)の『Roots & Crowns』がそうだった。

そういえばそのジョシュ・リターの記事でも、僕はしきりにその凝った音作りについて書いてるね。ブライアン自身、今挙げた全てのアルバムでドラムやパーカッションを演奏してるみたいだし(そういえば、今回のアルバムではパーカッションや手拍子が効果的に使われているな)。今まであまり注意を払ってなかったけど、ちょっとこのプロデューサーには注目してみよう。

アルバム・クレジットに演奏者の名前は載っているんだけど、誰がどんな楽器を演奏しているのかは書いていない。今ブライアンがドラムやパーカッションを演奏していると書いたのは、他のアルバムの表記を見ての憶測。

他にも何名かのゲスト・プレイヤーが参加していて、まずさっきのカリフォーンからジム・ベッカー(Jim Becker)。きっとブライアンが連れてきたのかな。彼はカリフォーンのアルバムの表記ではヴァイオリン、バンジョー、ベース、ループ、エレクトロニクス、パーカッション、シロフォン、ケイジャン・アコーディオン、マンドリン、カリンバとなっている、もの凄いマルチ・プレイヤーだ。

アイアン&ワインの前作はキャレキシコ(Calexico)との共作アルバムだったんだけど、きっとその時からの付き合いで、ジョーイ・バーンズ(ギター?)も参加。他には、ラムチョップ(Lambchop)のペダル・スティール奏者、ポール・ニーハウス(Paul Niehaus)の名前も。

僕が買ったのは、前回のCDショップガイドの記事にちらっと書いたけど、アナログ盤。例によって、アルバム全曲のMP3音源が無料ダウンロードできるとのステッカーに釣られてのこと。残念ながら重量盤じゃないんだけど、それなりに音はいいし、それにこのアルバムのA面B面各6曲ずつの流れがよくわかったのも思わぬ収穫。

ちょっとした問題があって、実は僕がMP3音源をダウンロードしたときに「このフォルダは無効であるか、または壊れています」と表示が出て、聴けなかったんだ。そこで発売元のサブポップのウェブマスターにその旨をメールしたら、なんとほぼ折り返しで回答。再ダウンロードできることになって、無事解決。最近、海外からの通販でこういう問題がいろいろあってメールでやりとりすることも多いんだけど、こんなに素早く的確に解決してもらったことはなかったかも。メールの文面も杓子定規じゃなくて親近感が持てるものだったし。かなり好感度アップなできごと。

サム自身が描いたこのちょっと狂犬病っぽい黄色い目の犬のジャケに戸惑う人もいるかもしれないけど(裏ジャケはこれに輪をかけて不気味)、これは僕の来年初頭のベストアルバム記事でかなり後ろの方に出てくる(=高順位)可能性が高いアルバムだ。今また1曲目に戻って聴き始めたよ。


posted by . at 07:02| Comment(18) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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