2007年09月21日

郷愁 Midlake 「The Trial Of Van Occupanther」 & 「Milkmaid Grand Army EP」

僕が意識して洋楽を聴くようになったのは、1980年頃のこと。だから、70年代の洋楽はほぼ全て後追いで聴いたということになる。それなのに、70年代初期に作られたある種のアメリカのロックを聴くと、無性に郷愁の念にかられてしまうことがある。

例えばCS&Nの「Helplessly Hoping」や「Guinnevere」、アメリカの「I Need You」、ニール・ヤングの「I Believe In You」、マナサスの「So Begins The Task」、等々。なんだろう。洋楽のかかるラジオ番組を聴いていたわけでもなく、レコード屋に通っていたわけでもないその当時の僕が、たとえ無意識にでもそういう曲をリアルタイムで聴いていたなんてことはまずないと思うんだけど、そういう曲を聴くと思い出すのは、まさに70年代初頭に自分がいた風景。もしかするとそれは、そういった曲が、僕だけでなく誰もが郷愁を誘うような雰囲気やメロディーを持っているのかもしれないね。

The Trial Of Van Occupanther.jpg Midlake 『The Trial Of Van Occupanther』

04年にアルバムデビューを果たしたばかりのミッドレイクの、昨年出たこの『The Trial Of Van Occupanther』というアルバムは、今ここに挙げたような70年代初頭の曲の数々と同じ雰囲気とメロディーを持っている。こんな、きっと70年代初頭にはまだ生まれてもいなかったような人たちが作ったアルバムなのに。

ティム・スミスを中心としたテキサス出身の5人組。元は同じ大学でジャズを演奏していた人たちらしく、アコースティック主体の演奏技術はかなりしっかりしている。5人ともが多彩な楽器を演奏していて、例えばティムの担当はヴォーカル、ピアノ、キーボード、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、フルート。そういえばいくつかの曲でフルートの音が効果的に使われているのに気づく。(一応)ベース担当のポール・アレクサンダーの担当楽器表にはバスーンなんてのも。これはちょっとどこに入ってるのかちょっと聴き取れていないけど。それに加えて数曲で二人のゲスト・プレイヤーがフレンチホルンとヴァイオリンを演奏。

先に挙げた70年代のバンドを知らない人は、この楽器紹介で、ある程度どんな感じの音なのか想像がつくだろうか。というか、それらの70年代のアルバムにフレンチホルンやフルートが使われていたなんて思えないけどね。そういう意味では、単に70年代風の焼き直しではなく、この人たちならではのユニークな音ではある。

アコースティック主体なんて書いたけど、もちろんエレキギターもふんだんに使われていて、たとえば1曲目「Roscoe」での、この上なく切ない歌メロに(少しニール・ヤングを思わせる)ざらざらした触感の歪んだギターの音が被さってくるところなんて、ちょっとやるせない気持ちになってしまう。

歌詞についても触れておこう。4曲目「Van Occupanther」に出てくるヴァン・オキュパンサーという人物についての物語、というわけでもないんだけど、それぞれの曲の歌詞の内容が少しずつ関連しているようにも思える。アルバムタイトルのTrialをどう訳すかが微妙だけど、「ヴァン・オキュパンサーの苦難」といった感じなのかな。

曲から曲へと、不思議な雰囲気の歌詞が続く。石工、山の住民たち、1891年生まれのロスコー、山賊、リヴァイアサンを読む女、ヴァン・オキュパンサー、狩人、などなど。この奇妙なジャケット写真ともあいまって、僕は村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」に出てくる、森に囲まれたあの不思議な街のことを思い出す。そういえば前にも何かのアルバムを説明するときに同じ本を持ち出したことがあるね。イメージの蓄積が貧困なもので。


去年あちこちで話題になったこのアルバムを何故今頃になって取り上げたかというと、このアルバムのヒットに便乗して、“幻の”デビューEPが再発されたのを最近入手したから。

Milkmaid Grand Army EP.jpg Midlake 『Milkmaid Grand Army EP』

なんでもこのCD、01年にテキサスのライヴ会場のみで1000枚を売り上げ、その後ずっと廃盤になっていたとのこと。そしてこれを、コクトー・トゥインズのべーシスト、サイモン・レイモンド(僕はこのグループのうち、彼の名前だけ知らなかったんだけど)が気に入って、彼のレーベルからデビューアルバムを出すきっかけになったという話。

『Van Occupanther』と比べると、当然完成度は高くない。持ち前の翳りのあるメロディーは既に随所に聴かれるけれど、目を見張るほどの曲はまだない。わざとだろうけど、古いラジオで聴いているかのようなくぐもった音質になっていて、それはそれで妙に懐古的な雰囲気がある。でも、まだ正式にデビューもしていないグループの自主制作CDがこのクオリティーなら、これは1000枚があっという間にはけるのもわかる気がするよ。

その音質のせいもあるけど、この『Milkmaid Grand Army』から『Van Occupanther』へと続けて聴くと、霧の立ち込めた森の奥深くから急に視界が開けた山の頂上に出たような気持ちになる。やっぱり、『Van Occupanther』の(一聴70年代風の)音作りは大したものだ。そう思って、このアルバムのプロデューサーは誰なんだろうとクレジットを見てみたら、なんとティム・スミス自身(+グループ全員という書き方)。ああ、やっぱり凄いね、この人。自分で曲も歌詞も書いて、こんなクオリティーのアルバムを自分でプロデュースできるんだから。

彼らの去年のライヴを丸ごと収録したビデオを見つけた。60分以上もあるんでまだ全部は観てないんだけど、坊主頭(ハゲじゃないよ)にヒゲ面のティム君、なんだかえらく親しみの持てる風貌してるよ。これ読んで興味のわいた人は、このビデオの9曲目「Roscoe」か11曲目「Head Home」だけでも観てみて。




ところで僕の買った『Van Occupanther』日本盤は、オリジナルに3曲のボーナストラックが入ったもの。さすがV2ジャパン、コンスタントにいい仕事をしてくれるね。ところが、こっちで流通しているオーストラリア/NZ盤は、オリジナル盤に5曲入りのボーナスディスクが付いた2枚組。ボートラの多いそっちに買い換えようかと思ったら、日本盤ボートラのうち2曲はNZ盤には入ってないときた。これじゃNZ盤を買っても日本盤を手放すわけにはいかない。しかも、ダブってないNZ盤の4曲のうち2曲は『Milkmaid Grand Army』から。ということは、NZ盤正規料金(3千円弱!)を払って2枚組『Van Occupanther』を買っても、新たに手に入るのは2曲だけ。これはちょっとさすがの僕も躊躇してしまうよ…


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