2007年07月08日

LPと算数 Nick Lowe 「At My Age」

今日は、しばらく前に入手したニック・ロウの新譜の話をしつつ、ちょっと別件にも触れることにしよう(と、のっけから脱線宣言)。

At My Age.jpg Nick Lowe 『At My Age』

前作『The Convincer』から6年ぶり。その3年前の『Dig My Mood』あたりから続く、ゆったりとした大人の音楽路線を今回も踏襲。本人は別に三部作のつもりで作ったわけじゃないだろうけど、主要メンバーはずっと固定、全12曲入りで40分弱というハンディなサイズも同じ、ジャケの雰囲気も(イラストになったり実写になったりだけど)なんとなく似ている。

今回目立ったゲスト・プレイヤーは、『Dig My Mood』のもう一作前にあたる『The Impossible Bird』とそのツアーに参加して、格好いいテレキャスターを弾いていたビル・カーチェンが(何故か6弦ベースで)一曲に、また、四半世紀以上前にニックがデビューシングルをプロデュースした縁で(?)プリテンダーズのクリッシー・ハインドがコーラスで別の一曲に参加。

ブリンズレー・シュウォーツの頃ほど泥臭いアメリカン・ミュージックに傾倒しているわけでもなく、70年代後期〜80年代のソロアルバムのようにポップな勢いがあるわけでもない。声もかつてのクルーナー・ヴォイスの面影を残しているものの、最初ちょっとびっくりしてしまったほどの老人声になっている。今年58歳になったはずだから、老人ってほどじゃないよね。酒焼けなんじゃないか。

と、まずネガティブな書き方をしてしまったけれど、やっぱり僕は彼の書くこのメロディーには抗えない。同傾向のミュージシャンでいうと、例えばエルヴィス・コステロやグレン・ティルブルックが作る、五線譜上を暴れまわるような魔法のメロディーってわけじゃないんだけど、このちょっと気の利いたクールな感じのメロディーは、でしゃばらないのに存在感があるという彼の立ち位置に通じるものがある。

前作の「Homewrecker」、前々作の「Faithless Lover」と、アルバム冒頭を陰気な曲で始めるという試みはもう今回は止めたようで、だけどちっともアルバムのオープニングっぽくない「A Better Man」で幕を開けるところは、なんだか本当にパブでさっきまで飲んでたおっさん達が「さて、やるか」って感じで演奏を始めるような趣。カントリー調、ジャズ風と今回もいろいろ演っているが、今のところの僕の一番のお気に入りは、先述したクリッシー・ハインドが参加した「People Change」かな。言われなくても彼女とわかるこのプリテンダーズ風コーラス。

実は僕はこのアルバムをLPで買った。イェップ・ロック・レコード(Yep Roc Records)のサイトでの限定枚数発売。なんと発売日前に予定数完売したようで、予約しておいてよかった。ちゃんと発売日よりも一週間も前に届いたし。5月26日の記事「究極のパッケージ」で書いたシアウォーターのアルバムと同じく、180グラムの重量盤、それに、アルバム全曲のMP3音源が無料でダウンロードできるコードも付いている。更に、イェップ・ロックのサイトでこのアルバムを買うと、さっき書いた前作・前々作から数曲のサンプラー(これは僕は持っているので有難味なし)と、「(What's So Funny About) Peace, Love & Understanding」の未発表アコースティック・ヴァージョンのMP3音源まで付いてくるという太っ腹。なので、僕は家でこのアルバムを聴くときはA面B面各6曲のLPで聴き、車で聴くときは「Peace, Love & Understanding」がボートラとして入ったCD-Rで聴いている。

思えば20年ほど前、LPがCDにどんどん置き換わっていた頃、「こんな、ジャケットの写真もよく見えなくて、裏ジャケには曲名しか載ってなくて(そういうのが多かった)、オモチャみたいなプラスチックのケースに入ったメディアなんて嫌だなあ」って思いながらも、時代の趨勢に揉まれて次第にそれ(CD)が普通だと思うようになっていたんだけど、5月26日の記事にも書いたように、僕にとっては今回のような形態は究極の解決案。ジャケはでかいし、LPで音が聴けるし、CD-RやMP3プレイヤーでも聴けるし、PCでコピーもできる。しばらく前に各CDメーカーがCCCDなんてものを作るのに躍起になっていたことを考えると、隔世の感があるよ。こういうタイトルがどんどん出てくればいいのにな。


ところでここからが別件。いや、話としてはつながってるんだけどね。最近よくコメントを入れてくださるようになったアキラさんのナスのブログで(タイトルをちゃんと書け!byアキラ)、僕の記事について触れていただき、そのコメント欄で質問されたことがあったんだけど、答えているうちに長くなりそうだったんで、こちらで記事に組み込むことにしたというわけ。

ご質問は二点。
LPは音がいいのか? と、LPは内周より外周の方が音がいいのか?

あらかじめ断っておくと、僕はそんなに凄いオーディオマニアって訳じゃないから、あくまでも僕の目(耳?)から見た観点でしか書けないんだけどね。ではまず前者から。のっけからなんだけど、これは「いいこともあるし、悪いこともある」と、なんだかはぐらかしているような回答。

レコードって、塩化ビニールの板にデコボコの溝をつけて、それをダイアモンドの針でなぞって音を出しているのが原理。アナログだからビニール板の状態や針の精度などに音はかなり左右される。そのあたりの条件がきちんと揃えば、デジタル変換されたCDの音とはかなり違う音が出てくるはず。原理的にはフォノイコライザーの特性から、CDと同じく20kHz以上の音は再生されないはずなんだけど、でもそれなりのシステムで聴くと、聴感上なにかが違うのはわかる。僕は数年前に自分のシステムをスーパーオーディオCD対応にしたんだけど、そのときにLPの音も明らかに変わったのを覚えている。ということは、周波数の数値的には変わらなくても、LPはCDに収録されている以上の音を出しているはず。

逆に言うと、いい加減なシステムで聴くレコードと、ちゃんとした音を出すために設計されたCDプレイヤーを聴き比べたら、それは当然CDの方が音がいい訳で、だからさっきの曖昧な回答。ホコリだらけ・傷だらけのレコードは一般的に音がいいとは言わないしね。

180グラム盤とかの重量盤の何がいいかというと、薄い盤だと多少は裏側のデコボコがこっち側の溝をトレースする際に影響が出てくることもあるのと、やっぱり分厚いと盤自体が反ったりしにくいってのはあるね。

次に、後者の質問。これは簡単な算数の問題。通常のLPの場合、針が盤上のどの位置にあろうと、1分間に33回転するというスピードは変わらない。直径約30センチのレコードの一番外側の円周は94センチ(実際には一番外側には無音部分があるけれど、ややこしいのでこうしておく)。一方、真ん中のレーベルとその周りの無音部分約12センチを除いた一番内側の円周は38センチ。ということは、外周部分はレコードが一回転する1.8秒の間に94センチ分もの溝を使えるのに対して、内周部分はその4割の38センチしか溝を割り当ててもらえないということ。同じ1.8秒分の音楽を録音するのに、どちらがより沢山の情報量を詰め込めるかは明白、と。

ちなみに、DJさん達がよく使っている、同じ30センチ盤でも45回転の12インチシングルという代物があるが、あれも同じ理屈で、94センチの外周に通常の1.8秒でなく1.3秒分の音楽が録音できる(言い換えると、同じ1.8秒分の音楽を録音するのに、約1.4倍の130センチの溝が使えるということ)。盤の大きさが同じなら、33回転より45回転の方が音がいいというのはそういうこと。

なんだかややこしい話になったかな。まあ、アキラさんのご質問はここから、「最後の曲は捨て曲か?」というところに行き着くんだけど、これについては僕がかつて持論を1月21日の「喰いしん坊 バイバイ」という記事に書いたとおり、

A6:B面に期待を持たせる、結構重要な位置。ちょっと異色な曲を入れることもある。
B5:ラスト前のムードメイカー。最後の曲にうまくつなげる意外と重要な役。
B6:アルバムの余韻をもたらす重要な位置。


と、やっぱり常識で考えるとあんまりそこに捨て曲は入れる人は少ないだろうね。でも実際には、片面30分もびっしりと入っているようなLPならともかく、普通の人が普通の環境で聴いている限りにおいては、そんなに顕著な差があるわけではないと思うんだけどね。

ほんとはこの後、MP3とかの圧縮音源の話もしようと思ったんだけど、もう充分長くなってしまったので、今日はここまで。なんだかすっかりこの後半部分の方がメインみたいな記事になってしまったね。まあ、たまにはこういうのもアリかと。さっきからずっとかけているニック・ロウの音楽は、こういう話を考えているときにも実に心地良く響くし、と無理矢理まとめてみたり。



<7月13日追記>

1977年のニック・ロウ
Bowi.jpg

2007年のニック・ロウ
Nick 2007.jpg


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