2007年05月26日

究極のパッケージ Shearwater 「Palo Santo Expanded Edition」

3月13日の「懐かしい不安感」記事に書いた、シアウォーター「Palo Santo」の2枚組再発盤を手に入れた。ほんとはその記事に追記してもよかったんだけど、今月はあんまり記事を上げてないんで、数稼ぎのために新記事として書くことにしよう。

Palo Santo Expanded Edition.jpg Shearwater 「Palo Santo Expanded Edition」

その記事にも書いたが、これはオリジナルの「Palo Santo」全11曲中5曲を新たに録音し直し、更に追加の8曲を2枚目のディスクに収めた2枚組。ジャケットも全く新しいものに差し替えられている。

オリジナルと新録の1枚目を何度か聴き比べているのだが、全体的な印象は先の記事に書いたものからそう変わらないように思える。というかむしろ、これぐらいの差をつけるために何故あえて録り直す必要があったんだろうと思ってしまう程度の差でしかない。もちろん作った当人達は新録の方がいいと思ったからこそ差し替えたわけなんだろうけど、例えば僕が前の記事に「どこか不思議な異国で奏でられている音楽みたい」と書いた「Red Sea, Black Sea」は、僕はオリジナルバージョンの素朴な仕上げの方によりその異国感を感じる。

期待の2枚目は、8曲中4曲がオリジナルに入っている曲の再録。つまり、その4曲に関しては、オリジナル、再発盤1枚目、再発盤2枚目の三通りのバージョンが存在することになる。うーん、なんなんだろう、この歯切れの悪さは。もちろん、それらの三度目のバージョンが悪いと言ってるわけではない。オリジナルや再発盤1枚目のバージョンとの微妙な違いを聴き比べる面白さはある。ここに収められた「Red Sea, Black Sea」の、オリジナルとはまた違った素朴さも捨てがたいし。

更に、2枚目の8曲中2曲は、ひとつがギターのフィードバック音で構成されたような、もうひとつはまるで中期ピンク・フロイドのアルバムに入っていてもおかしくないようなラジオの音などのSE入りの幻想的な、どちらも至ってアヴァンギャルドなインスト曲。それはそれで僕には面白いんだけど、これはあまり一般向けではないよな。

あらかじめオリジナル版を聴いていれば、それとの違いを楽しむことができるアルバムだと思う。でも、今やもう廃盤になってしまったオリジナルを聴かずにいきなりこの2枚組から入る人にとっては、やけに焦点の絞れていない2枚組なんじゃないだろうか。準メジャーのマタドールレコードと契約して、心機一転これをリリースしたのはわかるのだが、どうしてこんな奇妙な形態にしたんだろう。

先の記事を読んでこのアルバムを聴いてみたいと思った人にはまずオリジナル版をお勧めしたいのだが、案の定既に廃盤となったそれは、例えばアマゾンのマーケットプレイスではUS$24.99と、この2枚組再発盤の倍以上の値段がつけられている。これはきっと、この先もっとプレミアつくぞ。


とまあここまで、いまいち煮え切らない批判じみた文章を書いてきたわけだけど、もちろんわざわざこんな批判をするためにこの記事を上げようと思ったわけじゃない。

今回の再発盤は、CDとLPのそれぞれ2枚組として発売されている。で、僕が今回手に入れたのはLPの方だ。店頭で現物を見ることができたCDも、丁寧な作りの紙箱に入ったすぐれものだったんだけど、今回はこのLPを選んで本当によかった。

まずこれは、180グラムの重量盤。僕は職業柄それなりにまともな音の出るオーディオシステムを持っているつもりなんだけど、取り立ててオーディオマニアというわけではない。だからこういう高音質レコードを買うのも実は今回が初めてだった。まだホコリ一つついていないその盤をターンテーブルに乗せてみると、本当に芯のしっかりした、重心が低く、且つきめ細かな音像が現れた。ああ、これはアナログマニアの気持ちがよくわかるよ。

そして、今回LPを買おうと思った一番の理由は、CDには収められていない2枚目9曲目のボーナストラック「Lilacs」。ベイビー・ディー(Baby Dee)という僕はよく知らないアーティストのカバーらしいけど、おそらくジョナサン・メイバーグ自身による透徹なピアノに乗せた、素晴らしく繊細な曲。この曲がラストに収録されているだけで、このちょっと焦点が絞れていない感のある2枚目が随分引き締まったように思える。ああ、こないだのピアノ特集CDを作る前にこれを聴いてたらなあ。

更に、僕が一番驚いて感心したのが、このLPのジャケットに貼られていた小さなステッカーと封入されていた紙の切れ端(本当にハサミで適当に切ったような紙切れ)。なんと、その紙に印刷されているコードナンバーをマタドールレコードのサイトに登録すると、このアルバム全曲のNon-DRM、256kbpsのMP3音源がダウンロードできるということだ。

僕がいまだにタイトルによってはLPを買っている理由は、(1)ジャケットが大きくて嬉しい、(2)CDがずっと昔にプレスされたバージョンしか存在しなくてやたらと音が悪い、(3)そもそもCD化されていない、など。でもやっぱり、車で聴いたり自分で編集CD-Rを作ったりするんで、CDの方が便利なことが多いんだよね。で、ものによっては既にLPで持ってるのにまたCDで同じタイトルを買ったりしている。無駄遣いだし場所も食うけどしょうがない。

そんな僕みたいなリスナーにとって、この形態はまさに究極のパッケージだ。180グラムの高音質盤で、スピーカーに対峙して聴きたいときはじっくり浸ることができ、同時にダウンロードした音源を自動車やMP3プレイヤーなどで気軽に聞くこともできる。Non-DRM音源なので、編集CD-Rを作るのにも支障はない。しかも、CDバージョンには入っていない「Lilacs」までもダウンロードできるんだから、これを知ったときには目からウロコが落ちるようだった。でかした、マタドール。

このLPはCDバージョンよりも若干値段が高いんだけど、これだけの利点を考えたら完璧にLPの方がお買い得(レコードプレイヤーを持っていなければしょうがないけど)。惜しむらくは、マタドールの通販サイトからはアメリカとカナダにしか発送しないこと。アマゾンでもこのLPバージョンは扱ってないし、今日本在住の人がこれをどうやって手に入れればいいのかは、僕にはちょっとわからない。僕はいつもの近所のレコ屋で、かなり上乗せされた価格で手に入れたんだけど、そんなのは何の問題でもないよ。僕は普段買いのCDは数百円をケチるけど、こういうのにはいくら金を出しても惜しくないと思ってるからね。



<2008年1月20日追記>

マサさんの記事に触発されて、この紙箱入りCDが未開封1260円で出ていたのを見て、つい買ってしまった。その店にはしばらく前からそれが置いてあったのは知ってて、これまで何度もスルーしてたのに(もう同じものを何枚も買うのはやめようと決めたのに)。

ところで、このCDにはその店が作った紹介文のコピーが貼ってあったんだけど、それには、「異国の音楽のような」とか「US版『千と千尋の神隠し』」とか、まるで僕がこのアルバムをこのブログで最初に紹介したときに書いたようなことが書かれていて、ちょっと笑ってしまった。

さて、このせっかくの未開封箱、しばらく開けずに置いとこうかな。中が見たければ、マサさんのブログに行けば隅から隅まで見られることだし。


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