2007年05月26日

究極のパッケージ Shearwater 「Palo Santo Expanded Edition」

3月13日の「懐かしい不安感」記事に書いた、シアウォーター「Palo Santo」の2枚組再発盤を手に入れた。ほんとはその記事に追記してもよかったんだけど、今月はあんまり記事を上げてないんで、数稼ぎのために新記事として書くことにしよう。

Palo Santo Expanded Edition.jpg Shearwater 「Palo Santo Expanded Edition」

その記事にも書いたが、これはオリジナルの「Palo Santo」全11曲中5曲を新たに録音し直し、更に追加の8曲を2枚目のディスクに収めた2枚組。ジャケットも全く新しいものに差し替えられている。

オリジナルと新録の1枚目を何度か聴き比べているのだが、全体的な印象は先の記事に書いたものからそう変わらないように思える。というかむしろ、これぐらいの差をつけるために何故あえて録り直す必要があったんだろうと思ってしまう程度の差でしかない。もちろん作った当人達は新録の方がいいと思ったからこそ差し替えたわけなんだろうけど、例えば僕が前の記事に「どこか不思議な異国で奏でられている音楽みたい」と書いた「Red Sea, Black Sea」は、僕はオリジナルバージョンの素朴な仕上げの方によりその異国感を感じる。

期待の2枚目は、8曲中4曲がオリジナルに入っている曲の再録。つまり、その4曲に関しては、オリジナル、再発盤1枚目、再発盤2枚目の三通りのバージョンが存在することになる。うーん、なんなんだろう、この歯切れの悪さは。もちろん、それらの三度目のバージョンが悪いと言ってるわけではない。オリジナルや再発盤1枚目のバージョンとの微妙な違いを聴き比べる面白さはある。ここに収められた「Red Sea, Black Sea」の、オリジナルとはまた違った素朴さも捨てがたいし。

更に、2枚目の8曲中2曲は、ひとつがギターのフィードバック音で構成されたような、もうひとつはまるで中期ピンク・フロイドのアルバムに入っていてもおかしくないようなラジオの音などのSE入りの幻想的な、どちらも至ってアヴァンギャルドなインスト曲。それはそれで僕には面白いんだけど、これはあまり一般向けではないよな。

あらかじめオリジナル版を聴いていれば、それとの違いを楽しむことができるアルバムだと思う。でも、今やもう廃盤になってしまったオリジナルを聴かずにいきなりこの2枚組から入る人にとっては、やけに焦点の絞れていない2枚組なんじゃないだろうか。準メジャーのマタドールレコードと契約して、心機一転これをリリースしたのはわかるのだが、どうしてこんな奇妙な形態にしたんだろう。

先の記事を読んでこのアルバムを聴いてみたいと思った人にはまずオリジナル版をお勧めしたいのだが、案の定既に廃盤となったそれは、例えばアマゾンのマーケットプレイスではUS$24.99と、この2枚組再発盤の倍以上の値段がつけられている。これはきっと、この先もっとプレミアつくぞ。


とまあここまで、いまいち煮え切らない批判じみた文章を書いてきたわけだけど、もちろんわざわざこんな批判をするためにこの記事を上げようと思ったわけじゃない。

今回の再発盤は、CDとLPのそれぞれ2枚組として発売されている。で、僕が今回手に入れたのはLPの方だ。店頭で現物を見ることができたCDも、丁寧な作りの紙箱に入ったすぐれものだったんだけど、今回はこのLPを選んで本当によかった。

まずこれは、180グラムの重量盤。僕は職業柄それなりにまともな音の出るオーディオシステムを持っているつもりなんだけど、取り立ててオーディオマニアというわけではない。だからこういう高音質レコードを買うのも実は今回が初めてだった。まだホコリ一つついていないその盤をターンテーブルに乗せてみると、本当に芯のしっかりした、重心が低く、且つきめ細かな音像が現れた。ああ、これはアナログマニアの気持ちがよくわかるよ。

そして、今回LPを買おうと思った一番の理由は、CDには収められていない2枚目9曲目のボーナストラック「Lilacs」。ベイビー・ディー(Baby Dee)という僕はよく知らないアーティストのカバーらしいけど、おそらくジョナサン・メイバーグ自身による透徹なピアノに乗せた、素晴らしく繊細な曲。この曲がラストに収録されているだけで、このちょっと焦点が絞れていない感のある2枚目が随分引き締まったように思える。ああ、こないだのピアノ特集CDを作る前にこれを聴いてたらなあ。

更に、僕が一番驚いて感心したのが、このLPのジャケットに貼られていた小さなステッカーと封入されていた紙の切れ端(本当にハサミで適当に切ったような紙切れ)。なんと、その紙に印刷されているコードナンバーをマタドールレコードのサイトに登録すると、このアルバム全曲のNon-DRM、256kbpsのMP3音源がダウンロードできるということだ。

僕がいまだにタイトルによってはLPを買っている理由は、(1)ジャケットが大きくて嬉しい、(2)CDがずっと昔にプレスされたバージョンしか存在しなくてやたらと音が悪い、(3)そもそもCD化されていない、など。でもやっぱり、車で聴いたり自分で編集CD-Rを作ったりするんで、CDの方が便利なことが多いんだよね。で、ものによっては既にLPで持ってるのにまたCDで同じタイトルを買ったりしている。無駄遣いだし場所も食うけどしょうがない。

そんな僕みたいなリスナーにとって、この形態はまさに究極のパッケージだ。180グラムの高音質盤で、スピーカーに対峙して聴きたいときはじっくり浸ることができ、同時にダウンロードした音源を自動車やMP3プレイヤーなどで気軽に聞くこともできる。Non-DRM音源なので、編集CD-Rを作るのにも支障はない。しかも、CDバージョンには入っていない「Lilacs」までもダウンロードできるんだから、これを知ったときには目からウロコが落ちるようだった。でかした、マタドール。

このLPはCDバージョンよりも若干値段が高いんだけど、これだけの利点を考えたら完璧にLPの方がお買い得(レコードプレイヤーを持っていなければしょうがないけど)。惜しむらくは、マタドールの通販サイトからはアメリカとカナダにしか発送しないこと。アマゾンでもこのLPバージョンは扱ってないし、今日本在住の人がこれをどうやって手に入れればいいのかは、僕にはちょっとわからない。僕はいつもの近所のレコ屋で、かなり上乗せされた価格で手に入れたんだけど、そんなのは何の問題でもないよ。僕は普段買いのCDは数百円をケチるけど、こういうのにはいくら金を出しても惜しくないと思ってるからね。



<2008年1月20日追記>

マサさんの記事に触発されて、この紙箱入りCDが未開封1260円で出ていたのを見て、つい買ってしまった。その店にはしばらく前からそれが置いてあったのは知ってて、これまで何度もスルーしてたのに(もう同じものを何枚も買うのはやめようと決めたのに)。

ところで、このCDにはその店が作った紹介文のコピーが貼ってあったんだけど、それには、「異国の音楽のような」とか「US版『千と千尋の神隠し』」とか、まるで僕がこのアルバムをこのブログで最初に紹介したときに書いたようなことが書かれていて、ちょっと笑ってしまった。

さて、このせっかくの未開封箱、しばらく開けずに置いとこうかな。中が見たければ、マサさんのブログに行けば隅から隅まで見られることだし。


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2007年05月19日

こよいの月と

現在出張で東京に滞在中。昨晩は、大阪からあるアーティストを追っかけて上京してきた友達とライヴを観に出かけた。僕は多分そのアーティストの長いキャリア中3曲ぐらいしか知らないんだけど、その友達(ここでは仮にLさんとしておこう)を散々煽って上京させた道義的責任から一緒に行くことにした。

実は昨日から来週中旬にかけて、僕のブログによく来てくださっている一部の方々の間でオフ会ウイークが開催されており、楽しげ&怪しげなイベントが目白押し。その中で唯一僕が参加できなかったその第一弾企画の記事が早速某ブログに掲載されているので、ここで第二弾を上げようというわけだ。なので、今日のはコンサート記事の形を借りたオフ会レポート。僕のブログのカテゴリでは、オフ会話はいつも「非音楽的」という括りにしているんだけど、昨日の話を“非音楽的”などと言ってしまうとLさんに殺されかねないので、カテゴリは「コンサート」にしておいた。という訳で、今日は楽屋落ち満載なのでご容赦のほど。

冒頭にも書いたとおり僕が今東京にいる理由は出張なので、昨日もコンサート開始直前まで会議が入っていて、途中から入っていくことになるかなと思っていたんだけど、会場に着いたのは開始予定時刻の5分後。まだ始まってなかった。今回の会場は僕は初めて。二階席もある結構大きめのハコ。2000〜3000人は入りそう。今回は一階にパイプ椅子を並べてあって、僕の席は16列目。会場に入ると、一つぽつんと空いていた席の両隣に女性が一人ずつ。

 えーと、手前の人かな?いや、これじゃ若すぎる。じゃあ向こう側の人?

 …あれ?向こう側も若い人じゃないか?おかんはどこにおるんや?


でもやっぱり向こう側の女性が会釈をしてくれた。なんと、この界隈きってのおかんキャラは、僕とさほど年齢が変わらないことが判明。くそー、これまで散々人のことを叱りつけやがってー(笑)

その事実に気をよくし、一転、タメ口で挨拶を始めた数分後、客電が落ちてコンサート開始。おお、やっぱり皆最初から立つね。指定席のライヴなんて随分久し振りなんで、前の奴の頭が邪魔でも場所を移動できないのが不便。せめてLさんがきちんと観えてるならいいけど。

この界隈の不文律で、このアーティストの素性は明かしてはいけないことになっている(のかな?笑)。都合のいいことに僕も殆ど曲名がわからないので、印象に残ったことを演奏順に書いていくことにしよう。

まずオープニングは、Lさんが某ブログに書かれていた曲。自分のHNに関連した言葉が入った曲(おそらくそのHNも、ご自身の本名に由来してるんだと思う)をこうしてトップに持ってこられるっていうのは、長年のファンとしてはきっと感慨深いものなんだろうね。

そこから4曲、最新アルバムからの曲を続けて演奏。曲間に「サンキュー」って言う以外には一切喋らず、ぐいぐい乗せていく。僕は何十年も前の彼の昔のバンドのヒット曲しか知らないんだけど、声が全然変わってないよ。体型も髪型も、若いね。

4曲が終わったところで少し長めのMC。この日がツアー最終日だったということもあって、ツアー中の出来事や昔のツアーの話など、くだけた感じで話してた。会場のあちこちで笑いが出るような感じのトーク。とはいえ、そこはアンジェラ・アキでも嘉門達夫でもないから、「場内爆笑の渦!」というわけではなかったけど。

彼以外にステージのフロント側に立っているメンバーは、右にベースと坊主頭のギター。左にもう一人の若いギター。その若い方が5曲目のミディアムナンバーの歌伴で、いかにもレスポールらしい芯の太い音で流麗なトーンを奏でていたのがとても気に入った。この人、ハードな曲ではちょっとディストーションのかかったヘビメタ風(?)のフレーズを弾いてしまうところがあるけど、こういうスロー〜ミディアム調でのプレイは好きだな。

6曲目で、ゲストプレイヤーがソプラノサックスを持って登場。Lさんによると、これがこの日だけの特別企画だったらしい。ドラムを使わずにサンプリングのリズムをベースにしたジャジーな曲。ソプラノの音が、スティングのバックで吹いていた頃のブランフォード・マルソーズ(日本名マルサリスです)を髣髴させる。上手いなあ。僕はこの曲が一番気に入ったかも。

7曲目でようやく知ってる(はずの)曲が。でもタイトルが思い出せない。あとでLさんに聞いたら、それもカバーとのこと。結局、1曲目からこの7曲目までが、他人の曲ばかりを10曲カバーした彼の新作から。

9曲目が始まるときに一旦ステージ後方に下がったと思ったら、サングラスを外してきたのか。そして、13曲目の途中ではそれまで着ていた白いジャケットを脱いで、これもまたステージ後方に置いてきた。律儀だね(笑)。後で彼も言ってたけど、もうこの頃には会場は結構暑くなってきた。おや、Lさんもジャケット脱いだぞ。真似してるのかな?かわいいな(笑)

16曲演奏したところでひとまず本編終了。おお、アンコールの拍手を座ってできるって、なんて楽なんだろう。それにしても、アンコール結構じらすねえ。

アンコールの3曲目で、僕が知ってる3曲のうちのひとつ(多分彼の最大のヒット曲?)を演奏。ここでまた先ほどのサックスプレイヤーが、今度はアルトを持って登場。多分彼抜きだとギターソロがバリバリに入るような曲だろうと思うけど、昨日は終始サックスが鳴り響いていた。めちゃくちゃ格好いい。

その曲の前に、メンバー紹介。「彼がいなければこのバンドが成り立たない」と紹介されたベースに始まり、キーボード、ドラム、アコースティックギター(兼キーボード、兼パーカッション)、若い方のギター、坊主頭の方のギター、それからゲストのサックスという順序。おや?もしやこの順番は、僕の前回の記事のコメント欄で麒麟さんが指摘しておられた、バンド内モテ度の逆順じゃないか。やはりあの指摘は的を射ていたのかも(いや、別にもてない順番に紹介したわけじゃないだろうけどね)。

またかなり長い催促の拍手のあと、二度目のアンコール。あ、あれは噂のピンクのシャツ。そういえばLさん、今日はピンクのシャツはどうしたの?僕がきちんとした格好してくると予想して、それにあわせて大人っぽい格好してきたのかな?(笑)。でもよく考えてみたら、僕はこの界隈の人と何度かオフ会してるけど、スーツを着て登場したのは昨日が初めて。Lさん、貴重な姿を見られましたよ。

この時に、オープニングにつづいてまた彼が右側のギタリストの坊主頭にキス。でも、僕が写真で見たような完璧なスキンヘッドでなく、僕がこのコンサートの前日まで生やしていた髭程度の長さにまで髪の毛が伸びていたみたい。あんなのにキスしたら、きっと痛いよ(笑)

二度目のアンコールは2曲。合計21曲、2時間強のライヴが終了したのは10時過ぎだった。晩ごはんが遅くなるのを見越して、夕方の4時に吉野家で豚丼を食べたはずの僕もさすがに空腹に勝てず、二人で夜の街に繰り出したのだが、ここから先は大人の話なんで書くのはやめておこう。

さて、あと30分ほどでオフ会ウイーク企画第三弾が始まる。nちゃん、バトン渡すからレポート書いてね(笑)
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2007年05月11日

yascd009 ピアノ三昧

yascd006のコメント欄で、Eストリート・バンドのピアニスト、ロイ・ビタンについて熱く語ってしまい、そういえば今まであまり意識したことはなかったけど、僕の好きな曲の中にはピアノが印象的に使われているものが結構多いんじゃないかなと思ったのが、この記事のきっかけ。

という訳で今日は、12人のピアニストを切り口にしたyascd。うち後半の4人は、バンドとソロで、または別名義のバンドで、あるいは他人のアルバムへのセッション参加など、同じ人が複数のパターンで登場する。ジェリー・リー・ルイス/リトル・リチャード風にアップテンポの曲に激しくピアノが鳴り響いている曲もあれば、(そればかりだとあまりに単調なので)ピアノでの弾き語りの曲もある。必ずしも全部が生ピアノの音というわけじゃないだろうけど、まあその辺は大目に見て。

前置きはこれぐらいにして、早速曲紹介に入ろう。ジャケ写の下に書いてあるのは、

ピアニスト名
曲名
アルバム名
アーティスト名 の順。


D.E. 7th.jpg
ジェライント・ワトキンス(Geraint Watkins)
1.From Small Things (Big Things One Day Come)
『D.E. 7th』
デイヴ・エドモンズ(Dave Edmunds)

まず最初は、“かっちょええ”ロックンロール・ピアノをフィーチャーした曲を入れよう。パブロック界の大御所、デイヴ・エドモンズが82年に発表した7枚目のソロアルバム(なのでこのタイトル。ジャケにはギターのDとE7のコード図が載ってる)から。ブルース・スプリングスティーン作のいかしたロックンロール。ギター中心の曲なので、ピアノは隠し味的に使われている程度だが、それでも後半コロコロと心地よく転がるソロが聴ける。このジェライント・ワトキンスは、80年代にデイヴのバックバンドに参加しており、その後90年代にはニック・ロウのバックバンドに参加。もはやパブロック界の中心的キーボーディストと呼んでいいだろう。


Get Happy!!.jpg
スティーヴ・ナイーヴ(Steve Nieve)
2.King Horse
『Get Happy!!』
エルヴィス・コステロ&アトラクションズ(Elvis Costello & The Attractions)

最初の3枚のアルバムで自分の音楽性をすっかり確立し、その後マンネリに陥らないために、エルヴィス・コステロが自分のルーツ音楽を掘り下げ始めた80年の、この手のロックンロールやR&Bが満載のゴキゲンなアルバム。バックバンドのアトラクションズも乗りに乗っていた時期で、溌剌とした演奏が聴ける。もともとこのスティーヴ・ナイーヴというピアニストはどちらかというとクラシック畑の出のようで、彼が最初に発表したソロアルバムはいかにもそういう音だった。コステロからの信頼も厚いようで、アトラクションズが解散した後も彼ら二人でツアーに出たりしている。96年の限定5枚組CD『Costello & Nieve』は、その時のライヴを収録した隠れた好盤。


Too Low For Zero.jpg
エルトン・ジョン(Elton John)
3.I Guess That's Why They Call It The Blues
『Too Low For Zero』
エルトン・ジョン(Elton John)

ピアニスト特集の編集CDにこの人を入れるようなベタな真似をするかどうか一応悩んだんだけど、この曲はやっぱり大好きなので入れることにした。わざわざ説明の必要もないぐらい有名な彼の、83年のアルバムから。間奏でハーモニカを吹いてるのは、スティーヴィ・ワンダー。僕はこの曲のプロモーションビデオも好きで、今回の記事の趣旨に沿わないんであえてYouTubeから貼り付けたりはしないけど、機会があれば見てみてほしい。


Warm Your Heart.jpg
ドン・グローニック(Don Grolnick)
4.Louisiana 1927
『Warm Your Heart』
アーロン・ネヴィル(Aaron Neville)

ネヴィル・ブラザーズのシンガー、アーロンの91年のソロアルバムから。このアルバムからは「Ave Maria」のカバーの方が有名かもしれない。実は僕はこのピアニストのことは知らなかったんだけど、調べてみたら結構有名なジャズ・ピアニストだった。この曲を入れた理由はもちろん、前回のyascdでサニー・ランドレスが演奏する同曲を紹介する際に「有名なアーロン・ネヴィルの芳醇なヴァージョンには遠く及ばない」なんて書いてしまったものの、きっと僕のブログを読んでくださっている方の殆どはアーロン・ネヴィルなんて聴いてないだろうと思ったから。オリジナルのランディ・ニューマンのヴァージョンも悪くないんだけど、やっぱり僕はこれが好きだな。


Life In Cartoon Motion.jpg
ミカ(Mika)
5.Grace Kelly
『Life In Cartoon Motion』
ミカ(Mika)

こちらのラジオでここ数ヶ月ヘビーローテーション中のイギリス発の新人。僕が最初にラジオでこれを聞いたときの感想は「なんやこれは?」だった。このあまりにもあざといメロディーとポップすぎる曲調。最初は生理的にちょっと受け付けなかった。だけど、何度か聴くうちにすっかり病みつきになってしまい、先日ついにCDを買ってしまった。そしたら、他の曲も結構よかったんだ、これが。ジェリーフィッシュをクイーンの亜種として聴いていたような人ならきっと楽しめると思う。うん、歌い方がフレディ・マーキュリーそっくりになる瞬間もしばしば。あちこちのCD評を読むと、絶賛か酷評かの両極端。さて、この人は将来21世紀のエルトン・ジョンになるのか、それとも07年度の一発屋としてひっそり記憶されることになるのか。ちなみに調べてみたら、日本盤はまだ出てないみたい。6月発売予定か。この手の流行りモノをそんなに遅れて出してどうするんだよね。


9.jpg
ダミアン・ライス(Damien Rice)
6.9 Crimes
『9』
ダミアン・ライス(Damien Rice)

前回の記事で取り上げたばかりのこの人のこのアルバム。その記事でも触れた、冒頭の曲がこれだ。もうつべこべ解説しなくていいだろう。そっちの記事、あるいはその記事を書くきっかけになったyascd006のコメント欄(の下の方)を読んでもらえればいい。ちなみに、変に偏った印象を植え付けたくなかったんであえてその記事では触れなかったんだけど、この曲のプロモーションビデオのインパクトは相当なもの。興味のある人はYouTubeで勝手に探して見てみて。


Turnstiles.jpg
ビリー・ジョール(Billy Joel)
7.Summer, Highland Falls
『Turnstiles』
ビリー・ジョール(Billy Joel)

えーと、まずいつもの通りこの名前のカタカナ表記について書かないといけないかな。日本での通名(?)はもちろんビリー・ジョエル。でもJoeという名前をジョエと呼ばないのと同様、この苗字はジョエルとは読まないと思う。さて、この人もさっきのエルトン・ジョン同様、一応ちょっと捻った選曲をしようと心がけてるこの編集CDに入れるにはあまりにもストレートな人選かなと躊躇しかけたんだけど。まあ、さすがに「Your Song」や「Piano Man」を入れるような真似はしないんでよしとするか。以上、曲には全く触れていない、自己満足満載の解説。一言だけ書いておくと、これは「The Stranger」で大ブレイクする前の、76年のアルバムからの綺麗な曲。今や声も風貌もやたらと野太くなってしまった彼がまだきりっとした佇まいだった頃だ。


Lift The Lid.jpg
ジュールス・ホランド(Jools Holland)
8.Wish I Knew How It Felt To Be Free
『Lift The Lid』
ジュールス・ホランド&ヒズ・リズム&ブルース・オーケストラ(Jools Holland & His Rhythm & Blues Orchestra)

はるか昔、去年の8月12日の初代そそるジャケ特集の記事にこのジャケを載せたんだけど、誰もそんなの覚えてないよね。元スクイーズのキーボーディストの97年のソロアルバム。その時の記事ではもちろんジャケットにしか触れていないんだけど、このアルバムはかなりの力作。全編に亘ってニューオーリンズスタイルのピアノが聴ける。このソウルのスタンダード曲のカバー、中盤までなかなか歌が出てこないんだけど、その前半の各楽器の掛け合いがとても気持ちいいよ。


Audioboxer.jpg Everything In Transit.jpg
アンドリュー・マクマホン(Andrew McMahon)
9.(Hurricane) The Formal Weather Pattern
『Audioboxer』
サムシング・コーポレイト(Something Corporate)
10.Dark Blue
『Everything In Transit』
ジャックス・マネキン(Jack's Mannequin)

2月17日の記事で取り上げたジャックス・マネキン。そこに書いたように、中心人物のアンドリュー・マクマホンが元々在籍していたバンドがサムシング・コーポレイトだ。この2曲を続けて聴けばわかると思うけど、やっぱりなんでわざわざ別バンド名義で?と思ってしまうぐらい似通った音作り。まあ、それを言いたいがためにこうして2曲並べて入れたんだけど。この『Audioboxer』はサムシング・コーポレイトのデビューEP(01年)。で、『Everything In Transit』が、今のところのアンドリューの最新作(05年)。この「Dark Blue」が、2/17の記事のコメント欄でかえでさんが「ハノン教本」に近いと言った、正確なリズムを刻む美しさを再認識できる曲。


Songs For Silverman.jpg Naked Baby Photos.jpg
ベン・フォールズ(Ben Folds)
11.Jesusland
『Songs For Silverman』
ベン・フォールズ(Ben Folds)
12.Philosophy
『Naked Baby Photos』ベン・フォールズ・ファイヴ(Ben Folds Five)

さっきのサムシング・コーポレイトなど、ピアノをメインにした元気なロックバンドが出てくるたびに決まって引き合いにだされるのが、今はなきベン・フォールズ・ファイヴ(BFF)。ピアノ+ベース+ドラムというジャズみたいな楽器編成なのに、演ってる音楽はメロディアスなパワーポップ(?)というのが、登場当時はとびきり新鮮だった。ただ、実はベン・フォールズ自身はもっと歌詞を重視したシンガーソングライター体質の人だったようで、BFFのアルバムも次第にそういう傾向が見られ、やがて解散。ベンは引き続き後期BFFの音楽性の延長でソロアルバムを出し続けている。

『Songs For Silverman』は05年のアルバム。ここに写真を載せた、僕が持っているバージョンはDVD付きの限定盤(今でもずっと売ってるけど)。いつもジャケットの写真のセンスの悪い彼にしては珍しく、写真集のようになったブックレットの写真がとても綺麗。「Philosophy」はBFFのデビューアルバムに収録された曲だけど、ここには後に出た未発表曲やライヴテイクを集めた『Naked Baby Photos』からのヴァージョンを入れよう。ライヴでもスタジオヴァージョンとほぼ変わらないこの演奏。歌いながらこれだけ弾きこなせるなんて凄いね。


Making Movies.jpg Escape Artist.jpg

Dedication.jpg Born To Run.jpg
ロイ・ビタン(Roy Bittan)
13.Tunnel Of Love
『Making Movies』
ダイア・ストレイツ(Dire Straits)
14.R.O.C.K.
『Escape Artist』
ガーランド・ジェフリーズ(Garland Jeffreys)
15.Jole Blon
『Dedication』
ゲイリー・US・ボンズ(Gary U.S. Bonds)
16.Backstreets
『Born To Run』
ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)

さていよいよ、今回の編集盤のメインアクトだ。yascd006のコメント欄には「あまり数多くのセッションをこなしている人ではない」なんて書いたけれど、調べてみたら結構な数のアルバムに参加していることもわかって(しかもそのうち僕が持ってるのも何枚もあった)、こんなことならこないだのサニー・ランドレスみたいにこの人だけの特集にしてもよかったかなとも思ったぐらい。まあ今回のはこうしていろんなピアニストの演奏を聴き比べるという違った面白みもあるんで別にいいんだけど。ここではちょっと彼だけ特別扱いで、4曲入れてみよう。

まずはダイア・ストレイツの80年の名作から。彼らの全ての曲の中で僕が一番好きなのがこれ。特に後半、マーク・ノフラーの流麗なギターとロイ・ビタンの可憐なピアノが絡み合うところが最高。この曲を初めて聴いてから四半世紀以上が経ち、もう何百回聴いたかわからないぐらいだけど、いまだにこれを聴くと背中がぞくっとする。

次に、12月10日の記事で新譜を取り上げたガーランド・ジェフリーズの、これは81年のアルバムから。ニューヨークとジャマイカから豪華ゲストが参加したこのアルバムも、本当に内容の濃い優れたアルバム。ちなみに、中村あゆみの「翼の折れたエンジェル」が出たときに僕はこの曲のパクリだと思った。

続いて、ブルース・スプリングスティーンが60年代に自分がファンだった、当時はもう落ちぶれていたこの人を全面的にバックアップした81年の復活作。この曲のみならず、アルバム全体に亘ってスプリングスティーンがプロデュース、曲の提供、演奏、コーラスで参加。当然バックの演奏はEストリートバンドだ。さっきの2枚もそうだけど、80〜81年のEストリートバンドといえば、かの『The River』発表直後。彼らが最高に充実していた時期だ。当時僕は『The River』に夢中になっていた頃で、全然名前も知らなかったこの人のこのアルバムを、ここに書いたような情報だけを頼りに買ったわけなんだけど、それが大当たりだったことは、この曲を聴いてもらえばわかるだろう。

そして、本家スプリングスティーン&Eストリートバンドの、言わずと知れた75年の代表作『Born To Run』から。数ある彼らのアルバムの中でも、ピアノが印象的なのはやはりこのアルバムだろう。ここまでのこの4曲で、僕が一番好きなピアニストと言ったロイ・ビタンの端正で溌剌としたプレイを存分に味わってほしい。


Tried And True.bmp Night And Day.jpg
ジョー・ジャクソン(Joe Jackson)
17.Left Of Center
『Tired And True』
スザンヌ・ヴェガ(Suzanne Vega)
18.A Slow Song
『Night And Day』
ジョー・ジャクソン(Joe Jackson)

最後に登場するのは、ジョー・ジャクソン。この人こそ特にセッションピアニストとして有名なわけじゃないけど、スザンヌ・ヴェガが映画「プリティ・イン・ピンク」に提供したこの「Left Of Center」でクールなピアノを弾いている。「A Slow Song」は、元々イギリスのパンク/ニューウェーヴ期に出てきた彼がニューヨークに移り住み、「Steppin' Out」のヒットと共に大ブレイクしたアルバム『Night And Day』の最後を締めくくる名曲。僕が観た彼のコンサートでもアンコールの最後でこれを演奏し、エンディングはちょっといかした演出があったんだけど、それは市販されているDVDで観られるはずなのでここでは種明かしはしないでおこう。


以上18曲、この記事のタイトルにしたようにピアノ三昧を味わってもらえるだろうか。子供の頃にピアノなんて習わせてもらえなかった僕だけど、ここに入れたような曲を聴くたびに、「ピアノが弾けたらよかったのに」と思ってしまう。まあ、僕の場合はことあるごとに「ギターが弾けたらよかったのに」とか「ベースが弾けたらよかったのに」とか思ってるんだけどね。
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2007年05月04日

悲しい夜に Damien Rice 「9」

BDBの「Born In The U.K.」に続く、06年の落穂拾い企画第二弾。とりあえず2006年の20枚には入れたものの、あの時点ではそれほど聴き込んでいなかったのであまり詳しい感想が書けなかったけど、今となってはやっぱり独立した記事で取り上げておきたいこの盤のことを書いておこう。

9.jpg ダミアン・ライス 「9」

上のリンクから飛べるアマゾンのページに、ワーナージャパン提供のわりと詳しい解説が載ってるから、この人の経歴やこのアルバムの制作過程についての話なんかを知りたい人は、それを参考にしてもらえばいいと思う。

そこにも本人の弁として書いてあるけど、かなりヘヴィなアルバム。そして、音や声が深く心に沁みる瞬間が何度も訪れるアルバムだ。

前作「O」が物静かなギターの音で始まったのに似て、今回のアルバムは愁いを帯びたピアノの音で幕を開ける。そして、最初に聴こえてくるのは、前作でもダミアンとデュエットしていたリサ・ハニガン。なんでこの人はこんな悲しげな、今にも泣き出しそうな声で歌えるんだろう。

美しい曲、だけど何故か物悲しい。遠くで鳴っているような打楽器の音も、ボーカルと共に切なく盛り上がるチェロの音も、これから始まる物語の数々が決して幸せなものでないことを控えめに宣言しているようだ。

次の曲以降も、基本的には同じトーンで進んでいく。これは僕にとっては夜の音楽だ。深夜はとっくに過ぎている。気がつかないほどの雨が降ってるかもしれない。3曲目「Elephant」や4曲目「Rootless Tree」は土砂降りの雨や雷雨を思い起こさせる。

アコースティックギターやチェロの音が中心を占めていた前作と違って、今回は殆どの曲がバンド形態で演奏されている。もちろん上に書いたように、アルバム中の要所要所に印象的なチェロの音が入っているんだけど。

「Rootless Tree」での激昂、「Me, My Yoke + I」での執拗なまでに反復するリフと歌詞を聴くにつれ、ワーナーが押し出そうとしている“ダニエル・パウター、ジェイムス・ブラントに続くシンガー・ソングライター”というイメージは、この人の資質ではないんじゃないかと思うようになった。いくらアコギやピアノを弾いていようと、どんなに音がアコースティックであろうと、この人は、ロックだ。ジェフ・バックリーがそうであったように。活動停止前のCoccoがそうであったように。

歌詞が重要なアーティストなんだろうけど、本人がインタビューで「インタビューは嫌い。歌詞の意味を説明しないといけないから。聴く人がそれぞれ意味を理解してほしい」という旨の発言をしているように、曲によってはかなり難解な詞。それに、普通はサビの部分の言葉とか曲全体を象徴する言葉が曲のタイトルになることが多いんだけど、この人の場合、そうでないことが多い。

例えば、かなり激しく生々しい歌詞の「Elephant」と「Rootless Tree」に続く、土砂降りの雷雨のあとの晴れ間を思い起こさせる5曲目の歌詞(大意)はこうだ。

 彼女はオレンジの木のある家に、ヨガの練習する女の子と住んでるんや
 庭に落ちたオレンジを拾って、俺にくれる
 朝の太陽みたいなオレンジ
 彼は小高い丘の上にある小さい家に住んでる
 小さい弟が捨てたゴミを拾って、俺に渡す
 犬が何匹か走ってる
 彼女はいつも白い服着てて、天使みたい
 こっち向いたときに、ニコッて笑ってくれて
 それ見ただけで、目が焼けそうになるよ
 俺ら彼女のことドライブに連れてって、最高やったよ
 そやけど、もう今は別の狼がおって
 俺はヨガの女の子とも会うこともなくなってしもた

で、この曲のタイトルが「Dogs」。この歌詞の中で犬がそれほど重要か?(笑)

この例外的に明るい歌(最後に振られてるけど)以降はずっと暗い状況ばかりが歌われているアルバム終盤、「Accidental Babies(望まれない子供達)」というタイトルの曲はこんな歌詞。

…えーと、一応訳してはみたものの、一晩明けて読み返してみたら、まるで夜中に書いたラブレターみたいに気恥ずかしいので、削除。とにかく、これはダブル不倫の曲。結構リアルな描写がある。タイトルから、不倫相手との間に子供ができてしまった陰鬱とした歌詞かと思いきや、

 俺と一緒の方が活き活きと暮らせると思うんやったら、
 俺のとこに来てくれへんか
 俺かお前のどっちかに、思いがけず子供ができてしまう前に

ここはとりあえず、「おっさん、そこまで言うんやったら思いがけず子供ができへんようにだけはしとけ!覚えたての中学生か!」と突っ込んでおこう。

まあとりあえずここでは突っ込んではみたものの、そんなこととは無関係にこの曲もやはりまた静かに、悲しげに、かぼそいピアノの音に乗せてぽつぽつと唄われている。そうして、アルバム全体を通じて、離別も、激昂も、嘆願も、嗚咽もすべて通り過ぎたあとにたどり着く最後の曲「Sleep Don't Weep」に至って、先日「yascd006」のコメント欄に書いたように、酷いことばかりだった一日を嘆く相手を抱きしめながらベッドの上で今にも消え入りそうな声で囁く声とともに、エンディングを迎える。

誰もがみなハッピーエンドを迎えるわけじゃない。こんなささくれた気持ちを抱いたまま眠りについても、朝目覚めた瞬間には、昨日から何一つ良くなっていない現実をまた一から認めなければいけないのもわかっている。だけど、なんとかやっていくしかない。何も状況を変えてくれるわけじゃないけど、少なくとも自分のことを見ていてくれる人が隣にいる。

そんなアルバム。陰鬱なところも激しいところもあるかもしれないけど、心に響く。歌詞なんてわからなくても、悲しい気持ちになった夜にはそっとCDプレイヤーに乗せたくなる。

ただ、さっき触れたコメント欄にも書いたけど、6分間の「Sleep Don't Weep」が終わったあと更に15分以上も続く謎のボートラ(?)だけはいただけない。前作「O」もやはりアルバム最終曲が終わってから数分経って2曲のボーナストラックが始まったから、今回のアルバムもてっきり同じ構成かと思っていたら、その15分間延々と人間の可聴帯域をすれすれで越えるような超高音が入っているだけ。いくら「聴く人がそれぞれ意味を理解してほしい」とはいっても、これはなんとかしてほしいよ。

まあ、僕は律儀にその15分も毎回聴いて(その度になんだか頭痛もして)いるけど、そこは気に入らなければすっ飛ばせばいい。こんな、決して聴き易いというタイプではないアルバムが、地元アイルランドで初登場1位、イギリスで4位、アメリカでも22位というスタートを切ったとのこと。僕は別にチャート至上主義者でもなんでもないけど、そういうのを聞くと、ああ、まだチャートも捨てたもんじゃないと思う。

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