2007年04月17日

魔法使い見習い Badly Drawn Boy 「Born In The U.K.」

昨年末に手に入れて以来そのうち何か書こうと思っていたのに、ずっと後回しになっていたこのアルバムのことを書こう。バッドリー・ドローン・ボーイ(以下BDBと略)の「Born In The U.K.」

Born In The UK去年買ってよかったCDを総括したyascd006の回で取り上げ、そこに(ほぼ最上級の)コメントを書いてるんで、もうこのアルバムについてはあまりあれこれ書く必要もないのかもしれないけど。僕がその編集CDに入れた「A Journey From A To B」が、そのすぐ後にこのアルバムからの2枚目のシングルとしてリリースされたのを知って、我ながら選曲眼があるなと自画自賛していたところだ。BDB本人は「全曲シングルカットできるぐらいのアルバム」と更に自画自賛しているようだけど、やっぱりあの曲は格別だと思うし。

でも、なんといっても今回目を引くのは、ブルース・スプリングスティーンの熱狂的なファンを自認する彼がつけたこのタイトルだろう。とはいえ、アルバム2曲目に収められた表題曲は、スプリングスティーンの「Born In The U.S.A.」のように自国の負の過去を描いた重苦しい曲というわけではない(蛇足だが、かの曲はその大仰なアレンジのために大いなる誤解を巻き起こしたわけだけど、反ジョージ・W・ブッシュ運動に身を投じる今のスプリングスティーンを見れば、彼の姿勢がその曲を発表した20年前から少しもぶれてないのがわかるはず)。

こちらの「U.K.」の方はもっと私的な曲で、曲中でも歌われているように1968年10月生まれのBDBの、子供時代からの思い出(主に70年代の出来事)を歌ったものだ。僕は彼とそれほど年が違わないんだけど、沢山出てくる固有名詞に殆ど聞き覚えがないのをみると、いかにあの当時の日本が「外国=アメリカ」だったのかというのを思い知らされるね(今もだろうけど)。これは外国の音楽として洋楽を聴いている者のハンデだろうけど、残念ながらそういうところには感情移入できない。同じ時代の話をすると、僕は60年代とか70年代という区分よりも、どちらかというと昭和40年代という時代の日本にすごくノスタルジアを感じてしまう。高度経済成長期も後半にさしかかり、公害問題などのネガティヴな面の方がクローズアップされていたような時代。東京オリンピックでなく、大阪万博とその後。

まあとにかく、わずか2分半で70年代のイギリスをノスタルジックに振り返るその曲に代表されるように、彼は優れたストーリーテラーだ。このアルバムの大半を占めるラヴソングの詞を読んでも、しみじみと自分に当てはめたい箇所が沢山出てくる。

Born In The UK Limitedあまりにこのアルバムを気に入ったので、僕はイギリス盤の限定CD(DVD付き)も買ってしまった。ご覧の通り、イギリスのパスポートを模した(中のページまで)、気の利いたデザインだ。CDラックに収めにくいのが難点だけど。DVDの内容は、BDB自身が時折弾き語りを交えながらこのアルバムについて語るインタビューと、数曲のプロモーションビデオ、リハーサル風景など。インタビューはそれなりに興味深いけど、当然日本語字幕はついてないんで、あまりお勧めできない。「Born In The U.K.」のビデオクリップは、さっき書いたような70年代の出来事の映像がコラージュされているという、ある意味芸のない、でもきっとそういう背景のわかる人にはそれなりに感慨深いであろうもの。一応上にアフィリエイト貼ったけど、なんだかアマゾンでの値段メチャクチャだし、無理して買わなくていいと思う。それより格好いいボートラの入った日本盤を買った方がいいよ(そのボートラが元々入ってた「Nothing's Gonna Change Your Mind」のシングルまで持ってるようなコアなファンは別として)。

上の小さなジャケ写真で判別できるかどうかわからないけど、BDBといえばあのヒゲとニット帽。彼のデビュー当時から名前は知っていた僕がつい数年前まで聴いてみようと思わなかったのは、そのどう判断していいかよくわからない名前のせいでもあったんだけど(「ヘタクソに描かれた少年」って言われてもねえ)、きっとBDBことデーモン・ゴフって、ものすごくシャイな人なんじゃないかな。DVDに入ってるインタビューでも恥ずかしげにポツポツと話すし、バンドでもないのに自分の本名でなくBDBなんて名前でデビューするし、それに加えてあの素顔がほとんどわからないヒゲとニット帽。奥ゆかしいというか何というか。

きっと、彼は自分のヒーローであるスプリングスティーンのようなカリスマが自分にはないことに気づいているんだと思う。本当はスプリングスティーンのようになりたいんだけど、なれるわけがないと。

更に例えて言うと、自分は彼と同じような宅録系シンガー・ソングライターであるトッド・ラングレンが73年のアルバムのタイトルにしたような魔法使いではないと思っているんだろう。あの当時のトッドが次々と生み出していたような、どこから持ってきたのかわからない不思議なコード進行と夢のようなメロディー展開みたいなのは、確かにBDBの曲にはないかもしれない。

魔法のような曲が書けるわけでもないし、前々作の初回限定盤に付いていたグラストンベリーでのライヴ盤でも明らかなように、こいつほんとにプロかよと思うぐらいに声域も狭い。でも、というか、だからこそ、というか、彼の作る音楽はやけに身近に感じられるし、こうしてアルバム一作ごとに着実に成長しているのを見ると、まるで自分のことのように応援したくなってしまう。いちいち「ああ、そういうのって、なんだかわかるよ」って言いたくなるような歌詞ともあいまって、感情移入してしまう。がんばれよ、スプリングスティーンになる必要なんてないけど、そのうちきっと、もっと素敵な魔法が使えるようになるよって。

自分で曲なんて書けるわけもないし、楽器の練習をすることも遠い昔に諦めてしまった僕だけど、こういうのを聴くとなんだかちょっと勇気付けられる。僕ももうちょっとがんばろうかなって。とりあえず、最近おあつらえ向きに顔中にヒゲも生えてることだから、週末にニット帽でも買いに行ってこようかな(違うって?)。


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