2007年04月09日

yascd008 ルイジアナの風 Sonny Landreth

001のグレン・ティルブルック、007のジェブ・ロイ・ニコルズに続いて、単独アーティストを取り上げるのは三回目となるyascd008、今回はサニー・ランドレス特集。アメリカ、ルイジアナ在住のスライドギタリストだ。

先日のグレアム・パーカーの記事に書いたように、高校の頃から、僕はエルヴィス・コステロやニック・ロウの音楽に熱中していた。大学に入った数年後にはもう彼らの過去のアルバムは全部集めてしまい、今度は彼らが参加したりプロデュースしたりした他のアーティストのアルバムを物色し始めていた。

85年の『Warming Up To The Ice Age』でエルヴィス・コステロと一曲デュエットし、87年にはベースにニック・ロウ、リードギターにライ・クーダー、ドラムにジム・ケルトナーという超豪華メンバーで名盤『Bring The Family』を作ったジョン・ハイアットが僕の次のターゲットになったのは、そう考えると自然な流れだった。

88年2月、初来日を果たしたジョン・ハイアットを大阪・御堂会館で観たのだが、残念ながら『Bring The Family』の超豪華メンバーでの来日は無理だったようで、彼のバックバンドはゴウナーズ(The Goners)という別グループだった。というか、その時にはそのバックバンドに名前が付いていたことすら知らなかった。名前さえ聞いたこともないような人たちだったし、僕の目当ては100%ジョン・ハイアットを生で観ることだったから、(ニック・ロウやライ・クーダーがいないのなら)別にバックが誰であろうと関係なかったし。

期待どおりジョン・ハイアットのライヴはよかったんだけど、それ以上に衝撃を受けたのが、彼の隣でスライドギターを弾きまくっていた、サニー・ランドレスだった。

ビハインド・ザ・スライドと呼ばれる、小指にはめたスライドバーよりも上のフレットをそれ以外の指で押さえる奏法で、通常のスライドギターとは一風変わった音を出すのが彼の特徴。ハードな曲でのエレキギターを使った豪快なプレイも、リゾネイター系のアコギを使った繊細なプレイも、自分の目の前で演奏しているのに、どうやったらあんな多彩な音が出せるのかが信じられなかった。『Bring The Family』でライ・クーダーが感情たっぷりに演奏した「Lipstick Sunset」を、まさかかのスライドの名手に匹敵するほど素晴らしく弾きこなせるギタリストがいるなんて。

同年に出たジョン・ハイアットの『Slow Turning』で伴奏を務めていたのは当然ゴウナーズ。僕は『Bring The Family』よりも熱心に聴き込んだものだ。そして、翌89年に出たマーシャル・クレンショウの『Good Evening』、ドン・ディクソンの『EEE』にそれぞれサニーが客演しているのを見つけ、この人はジョンのバックで演奏しているだけでなく、いろんなアーティストのアルバムに参加しているのだと気づく。

そこから、今や殆ど僕のライフワークのようになってしまった、彼が参加したアルバムを探し求める旅が始まった。今では、彼自身のオリジナルアルバムを含めて、50枚以上のCDが「サニー・ランドレス・コーナー」として僕のCDラックの一角を占めている。それでもまだ、(僕にわかっているだけでも)彼がセッション参加したアルバムで、僕が持っていないものが何十枚もある。廃盤になってしまっているものが多いんで、アマゾンでまとめ買いなんてことができないのが大変だけど、僕が死ぬまでにはなんとか全部聴いてみたいと思っている。まさにライフワークだ。

これまでライヴ盤を含めてオリジナルアルバムが7枚(それと、ファーストアルバム以前の音源をまとめた編集盤が二種類。どちらもほぼ同内容なんだけど)。まだベスト盤を出すつもりはないようだし、それになにより、彼があちこちで実に様々なジャンルのアーティストのアルバムに客演したものまでを一同に集めたベスト盤なんてものは権利関係がネックで絶対に出ることはないだろうから、僕は自分で勝手にそれらの曲を寄せ集めて聴いたりしている。なにしろネタ元が50枚もあるんで、それこそいくらでもバリエーションが作れるのだが、今日ここに紹介するのは、そのうちのひとつ。


Outward Bound Sonny Landreth 『Outward Bound』
1.Soldier Of Fortune

僕が初めて手にした彼の92年のソロアルバム。それまでの2枚がかなりブルース寄りだったのに対して、先述のとおり80年代末からジョン・ハイアット、ドン・ディクソン、マーシャル・クレンショウなどロック系のミュージシャンと共演してきたことが彼の音楽に新たな膨らみをもたせることになったことがよくわかる好盤。アルバムのオープニングであるこの曲の静かなイントロでのリゾネイターの音、後半の炸裂するエレキギターの音、そして、僕はこのアルバムで初めて聴くことになった、意外に味のある彼のボーカル。彼の音楽のエッセンスが詰め込まれたような曲だ。


Good Evening Marshall Crenshaw 『Good Evening』
2.You Should've Been There

今でもこつこつと良質なポップアルバムを発表し続けている彼の89年の作品。僕は彼のアルバムの中ではこれが一番のお気に入りだ。この素敵なジャケットも含めて。デイヴィッド・カーシェンバウムのプロデュース、サニー以外には同じくギターの名手デイヴィッド・リンドリーがゲスト参加、リチャード・トンプソンやジョン・ハイアットの名曲も取り上げたこのアルバム、一時期廃盤で入手しにくかったが、05年に無事再発されたようでなにより。


Hot Water Music Hot Water 『Hot Water Music』
3.The Way

ホット・ウォーターというグループの「ホット・ウォーター・ミュージック」というアルバム。ホット・ウォーター・ミュージックというバンドがいるので、僕はこれを彼らの「ホット・ウォーター」というアルバムなのだと思っていた。ややこしい。ホット・ウォーター・ミュージックの方は去年解散するまで10年以上に亘って何枚もアルバムを発表していた中堅バンドだったが、どうやらこちらはこのアルバム1枚で消えてしまったようだ。メジャーレーベルのサイアから96年に発売。現在は廃盤。

でもこれは元気があってなかなかいいアルバム。サニー以外にもハートブレイカーズのベンモント・テンチがオルガンで参加しており、なんでこんな無名バンドにそんな豪華ゲストが?と思わせるが、この曲でのワウワウを効かせたギターとサニーのスライドとの絡みを聴くと、きちんと実力はあったバンドなんだろう。ダミ声ボーカルも迫力あってなかなか聞かせる。


Wish You Were Here Right Now Bobby Charles 『Wish You Were Here Right Now』
4.The Jealous Kind

50年代にビル・ヘイリーがヒットさせた「See You Later Alligator」の作者で、72年にウッドストック関係の豪華ゲストを集めたソロアルバムで有名だった彼が94年に復活を遂げたアルバム。同じルイジアナ出身の先輩のカムバックに一役買ったサニーの、このとろけるようなスライドの音を聴いてみてほしい。


Hound Dog Taylor A Tribute 『Hound Dog Taylor - A Tribute』
5.Taylor's Rock

ブルースギタリスト、ハウンド・ドッグ・テイラーへのトリビュートアルバム。97年発表。他にも実力派スライドギタリストが多数参加しているが、サニーとゴウナーズの演奏するこの爆裂ロックがやはりダントツの出来。貫禄の一曲。


Sail Away 『Sail Away - The Songs Of Randy Newman』
6.Louisiana 1927

yascd003にも入れた、アメリカを代表するソングライター、ランディ・ニューマンへのトリビュートアルバム。タイトル通り、27年にルイジアナを襲ったハリケーンと洪水を歌ったこの曲は、05年のカトリーナ被災地への復興応援ソングとして数々のミュージシャンに取り上げられたものだ。去年出たこのトリビュートアルバムで、僕の一番好きなギタリストが僕の大好きなこの曲を演奏しているのを知ったときには大喜びだった。有名なアーロン・ネヴィルの芳醇なヴァージョンには遠く及ばないかもしれないが、サニーのしみじみとしたボーカルと、彼にしかできないこの見事なスライドとの組み合わせもまた格別。


Is My Love Enough Chris Daniels & The Kings 『Is My Love Enough』
7.Jackhammer

強いて言えばヒューイ・ルイス風のアメリカンロックを演奏するグループの93年のアルバムから。リトル・フィートのアルバムで有名なネオン・パークスのイラストを使ったジャケットが印象的。サニーのこともこのバンドのことも知らないリトル・フィート(ローウェル・ジョージ)のファンがジャケ買いしても、アルバム中5曲に参加しているサニーのこのスライドを聴けば大満足だろう。


Golden Heart Mark Knopfler 『Golden Heart』
8.Je Suis Desole

ダイア・ストレイツを解散したマーク・ノフラーが96年に発表した最初のソロアルバム。その前年にサニーのアルバムにゲスト参加した際に意気投合したようで、今度はこちらにサニーがゲスト参加。僕はダイア・ストレイツ時代からマークのギタープレイも大好きだったので、この組み合わせにはかなり興味を引かれた。その二人がお互いアコースティックギターを使った丁々発止のやりとりが、この曲の醍醐味。


Used Guitars Marti Jones 『Used Guitars』
9.If I Can Love Somebody

ドン・ディクソンの奥さんの3作目のソロアルバム。これも88年発表。ということで、例のドン・ディクソン人脈(マーシャル・クレンショウ、ミッチ・イースター、そしてサニー)、更にはジャニス・イアンも曲の提供とピアノ/コーラスで参加している。これはジョン・ハイアット作のキュートなアコースティック曲。サニーのドブロを使ったスライドプレイが秀逸。ちなみに僕の持ってる日本盤CDはどういうわけかこのポップなジャケでなく、なんだか地味なデザイン。


South Of I-10 Sonny Landreth 『South Of I-10』
10.Cajun Waltz

95年発表の、サニー4枚目のソロアルバム。地元ルイジアナで録音され、トラディショナルなケイジャンミュージックとロックを見事に融合した、彼の最高傑作だ。この曲には入っていないが、元ダイア・ストレイツのマーク・ノフラーと、ルイジアナの名ピアニスト、アラン・トゥーサンが参加している。これはタイトル通り、アルバム中盤で演奏されるスローワルツ。ボーソレイユのエロール・ヴェレによるアコーディオンの音に絡まるサニーのスライドの音が沁みる。


Waitin' On Joe Steve Azar 『Waitin' On Joe』
11.One Good Reason Why

96年にデビューし(僕と殆ど同い年だから、かなり年食ってからだね)、01年にアメリカのカントリーチャートでトップ10ヒットを出した彼の、そのヒット曲を含んだ02年のアルバム。ブルースハープでけだるく始まったかと思いきや、アコギに乗せた歌が徐々に盛り上がっていき、中盤からサニーの手クセ満載のスライドが割り込んでくる、格好いい曲。あちこちの記事やコメント欄で何度も言ってるけど、なんでこういうのがカントリー扱いされるのかがよくわからん。非常に正統派のアメリカンロック。


The Tiki Bar Is Open John Hiatt 『The Tiki Bar Is Open』
12.I'll Never Get Over You

冒頭の話の続きをすると、ジョンとゴウナーズは結局『Slow Turning』一枚だけを残して袂を分かってしまうのだが、13年後にこのアルバムで再会。これと、03年にもう一枚一緒にアルバムを作って、また離別。『Bring The Family』の面子で結成したリトル・ヴィレッジも確かジョンのわがままですぐに頓挫してしまったし、この人の04年のソロツアーのタイトル「I don't play well with others(他の奴とはうまくやれないんだ)」ってのは、自虐的ながら的を射たギャグなのかも。

そんなわけで、もしかしたらこの人、実はすごく性格悪いのかもしれないけど、ソングライターとしては格別。偶然だけど、今回の選曲の9、12、15曲目が彼の作品だ。この曲自体は、彼が93年のアルバムで発表していたものを、ここでゴウナーズと一緒に再演したもの。実はオリジナルバージョンもかなりいいんだけど、やはりこの間奏でのスライドの味わいには勝てないね。


The Road We're On Sonny Landreth 『The Road We're On』
13.Gone Pecan

ライヴアルバムを除いては今のところ最新作の、03年のアルバムから。そのアルバム全体は結構ブルースっぽい仕上がりになっているのだが、この曲はストレートなロック。彼のオフィシャルサイトを見ると、このアルバムに続く4年ぶりの新作を製作中とのこと。楽しみ。


7 Wishes Shana Morrison 『7 Wishes』
14.Sometimes We Cry

ヴァン・モリソンの娘。お父さんのアルバムやコンサートには時々参加しているが、ソロアルバムとしてはこの02年作が最初。この曲はお父さんが97年のアルバム『The Healing Game』で発表していたもの。しみじみとした名曲。途中で出てくるハーモニカはお父さん。それから、もちろん後半のデュエットも。ということで、これはヴァンとサニーの初競演になる。


License To Chill Jimmy Buffett 『License To Chill』
15.Window On The World

サニーは、どういう経緯か、お気楽カントリー系(?)シンガーソングライターであるこの人のバックバンドに属していた時期があるようだ。21世紀に入ってすぐの数枚のアルバムに参加している。このアルバムタイトルのゆるーいオヤジギャグのセンスとかが、実はいまいち僕の趣味に合わないんだけど、さっきも書いたとおりジョン・ハイアットの作であるこの曲と後半のスライドギターの取り合わせは最高。


Bayou Boogie Beausoleil 『Bayou Boogie』
16.Chez Seychelles

ルイジアナを代表するケイジャンバンドのこの87年作を、リーダーのマイケル・ドーセと共にサニーはプロデュースしている。もっとはっきり彼のプレイとわかる演奏が入っている曲も、彼がボーカルを取っている曲もあるんだけど、ここではこの綺麗なワルツを入れよう。マイケルのフィドル、さっきも名前が出てきたエロール・ヴェレのアコーディオンと共に奏でられるサニーのドブロが聴ける。


Levee Town Sonny Landreth 『Levee Town』
17.Z. Rider

00年の、サニー5枚目のアルバムから、これもまた豪快なインスト曲。この曲はゴウナーズのみによる演奏だけど、アルバム自体にはそれに加えて、ボーソレイユのメンバー、ジョン・ハイアット、ボニー・レイットなどが参加している。三方見開きの豪華なデジパックの中には、「堤防の街」とタイトル曲で歌われている、彼の住む南ルイジアナの風景が味のあるセピア色の写真で多数見られる。


Carcassonne Stephan Eicher 『Carcassonne』
18.La Mi Los

ルイジアナ出身ということでサニーもある程度のフランス語を話せるらしいけど、そのためかフランス人アーティストとの共演盤も何枚かある。このステファン・エシェールはフランスでは有名なのかな?ディスコグラフィを見ると何枚もアルバムを出しているシンガーの93年盤。サニー以外のバックのメンバーは、マヌ・カチェ、ピノ・パラディーノ、リチャード・ロイドと、これもまた豪華メンバー。サニーのインタビューによると、フランスのお城のようなホテルに機材を持ち込んで録音したらしい。僕がこのアルバムを探し始めた頃にはもうとっくに廃盤だったのに、パリに旅行したときにFNACで売れ残っていたのを見つけたのは嬉しかった。ということで、僕はあまりよく知らない人なんだけど、この曲の盛り上がり方を聴くと、なんとなくフランス版ブライアン・アダムスって感じの人なのだろうか。


South Of I-10 Sonny Landreth 『South Of I-10』
19.Great Gulf Wind

サニーの名作から最後にもう一曲。この曲でピアノを弾き、マルディ・グラの香りが漂うホーン隊の楽譜をアレンジしているのはアラン・トゥーサン。タイトルのGreat Gulfとは、ルイジアナ州が面したメキシコ湾のことだろう。そこで頻発するハリケーンのことを歌っているのかな。曲調からは、もっと情緒溢れるアメリカ南部のスワンプを吹き渡る風を思い起こさせるけれど。


80分弱に詰め込むために泣く泣く落とした曲も多かったけど、これで彼の情感溢れるギターがたっぷり堪能できるはず。おそらく今を代表するスライドギタリストの一人なのに、一般的な知名度はなかなか上がらないまま(後から出てきたデレク・トラックスが、オールマン・ブラザーズ・バンド加入をきっかけに一気に有名になったのと大違い。まあ彼も素晴らしいスライド奏者なんでそれはそれで喜ばしいことなんだけど)。もうすぐ発売されるニューアルバムがブレイクにつながることを願っている。その前に、とりあえずこのyascdで、この小さな界隈でブレイクすればいいな。


posted by . at 07:48| Comment(40) | TrackBack(1) | yascd | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。