2007年04月29日

アメリカン・スピッツ Sherwood 「A Different Light」

なんでそれにそんなに惹かれたのか覚えていない。
いつものレコ屋の中古CDコーナーに、知らない名前のバンドの見覚えのないジャケのCDがしばらく前から売れずに残っていたのには気がついていたんだけど(その頃は毎週末そこに通ってたからね)。
「このー木なんの木気になる木♪」みたいなジャケは、嫌いじゃないけど別にジャケ買いするほど好きなわけでもないし、メンバーにも参加ゲストにもプロデューサーにも見知った名前はなかった。ネットで調べてみたけど確かその頃はAMGにもろくに情報も載ってなかったし、アマゾンでも試聴できなかったはず。
ということで、自分でも買った理由はよくわからないんだけど、ちょうど一年前の昨日、僕は他の数枚のCDと一緒にこのシャーウッドというバンドの『Sing, But Keep Going』というアルバムを手に入れた。

Sing, But Keep Going.jpg シャーウッド 「Sing, But Keep Going」

そしたら、これが大当たりだったんだ。
パワーポップという分類に入れようかどうか迷う音。今ではかなり詳細なバイオグラフィが載っているAMGには、ポスト・グリーンデイ系のエモ/メロコアみたいな括りでまとめられているけど、僕はそれはちょっと違うと思う。
青春系(笑)のパワーポップのような甘酸っぱい感じでなく、どちらかというと青臭いと形容したくなる。アルバム冒頭の曲から、演奏が一瞬止んでコーラスと手拍子だけになる部分が入ったりして、ちょっと気恥ずかしいようなところもあるけど、そういうのも含めての、青臭い。
でも、これがデビューアルバムだというのに、見事に完成された曲の数々に、達者な演奏。力いっぱい走ってるけど、緩急をつけて引くところは引く、という感じ。どの曲も短く終わって、もう少し聴きたいって気にさせるところも余裕か。
いたるところにいい曲が入っているが、なかでも僕は、後半の「Gentleman Of Promise」から「You're Like A Ghost」への流れが一番好き。

自分の嗅覚が誇らしくなった一瞬。よくぞこれを直感買いしたと。でもね、僕はこれが一期一会だと思った。この無名バンドが生まれて消えてしまう前に、偶然の神様がこのCDをぽんと僕の前に置いてくれたんだと。ファイヴ・サーティーがそうであったように。(出会うのが遅れたとはいえ)クックーがそうであったように。


二回目の偶然はあった。
先月、出張で東京に行く前に日本のHMV通販サイトでまとめ買いしておこうとしていたら(輸入盤3枚で25%オフやってたからね。僕にとって3枚はまとめ買いではないけど)、なんとシャーウッドの新譜がそこに。
何を検索していたときか覚えてないけど、とにかく何か別のアルバムをカートに入れたときにこれがおすすめとして提示されて、本当にびっくりした。僕の中ではもうすでにいなくなってたはずのバンドだったからね(失礼な決めつけ)。

A Different Light.jpg シャーウッド 「A Different Light」

SNSのマイスペースが設立したマイスペースレコードの、MSR10001という型番を見ると、これが第一弾CDなのだろう。今度もまた、どういう層をターゲットにしているのかいまいちよくわからないジャケ。

穏やかなキーボードとキーンという遠い弦の音で始まるオープニングを聴いて、僕の頭には去年手に入れたいくつかの名盤(レイ・ラモンターニュの『Till The Sun Turns Black』、ジョシュ・リターの『The Animal Years』)がフラッシュバックした。
彼らのサイト(www.myspace.com/sherwood ←音出ます)のトップにこの曲のPVが載っているところをみると、これがアルバムからの最初のシングルなのかも。実に彼ららしい、無闇に派手なところのない、でもじわじわと盛り上がっていく元気な曲だ。

その曲のフェードアウトに被って、タッタッタタタ、タタタタ、タタッというベタなリズム(文字にするとわかりにくいな。カーズの「Let's Go」のあのリフと言ってわかってくれる人は何人いるだろう)で始まる次の「The Best In Me」は、そのベタなリズムとコーラスが下品な歌謡ロックに陥ってしまう直前で踏みとどまっているキャッチーな曲。

3曲目「Middele Of The Night」も、ストレートで魅力的、かつ憂いを秘めたメロディの佳曲。途中でフォール・アウト・ボーイのピート・ウェンツばりの雄叫びを入れてるのは誰だろう。これは、狙ったな。エンディングでジャン!と決めたあとに思わず「Success!」って言ってしまってるのがかわいい。

次の「The Longest Time」では、中盤で一瞬ビーチ・ボーイなコーラスが登場。うわ、かっこいい。そう思って聴くと、9曲目の「Alive」のオープニングなんてモロに初期ビーチ・ボーイズ風だし。
さっき、デビューアルバムなのに見事に完成された曲の数々、なんて書いたけど、このニューアルバムはそれよりも格段上。青臭いと書いたファーストからすくすくと成長して、まだ蒼いけれどしっかりと骨太になった感じがする。すごいよ、こいつら。このままこうして全曲にコメント入れてしまいそう。そんなの、CD聴かずにこれを読んでる人には面白くないのはわかってるからあえてしないけど。

前作からプロデューサーも替わっている。ルー・ジョルダーノって、どこかで聞いた名前だと思ったら、僕の大好きなシュガー(「ウェディング・ベル」の人たちに非ず)のアルバムを、ボブ・モウルドと一緒にずっとプロデュースしてた人じゃないか。
なるほどね、それが故のこのタイトな音。細かな装飾をちりばめながらドラマチックに盛り上げるのに、過剰にベタベタした音にならないのはさすがの職人芸。
今まで特に気にかけなかったけど、このプロデューサー、ちょっと注目してみようかな(=今後、聞いたこともないのにプロデューサー買いするCDがまた増える)。

それにしても、このあまり抑揚をつけずに淡々と歌う、ちょっと高めのボーカル、誰かに似てると思ったら、スピッツの草野マサムネだ。うん、そういえば、ボーカルだけでなく、曲調やアレンジ、上品なギターソロの音の取り方まで、いたるところにスピッツぽさが窺えるなあ。


僕の最近一番のヘビーローテーション。来年1月に書く「2007年個人的ベストアルバム」という記事(そのときまだこのブログが存続していればの話だけど)にこのお日様のジャケが載るのはほぼ確実だ。
マイスペースレコードって、日本で配給する会社あるのかな。調べてみたらユニヴァーサル系列だっていうから、これ日本でも出る可能性あるかもね。メンバーの写真見ても経歴見ても派手なところのないバンドだけど、これはうまく盛り上げれば売れると思うな。

スピッツ好きな人にはお勧めのアルバム。え、洋楽は歌詞わからないから苦手って?でも、草野の書く日本語の歌詞だって半分ぐらいは意味不明でしょ(笑)
とりあえず、上に載せたサイトで4曲試聴できるから、ぜひ聴いてみてほしい(マイスペースって、登録しなくても見られるのかな)。
確かに、ちゃんと読んでみたら、ラブソング、振られ男ソング、「明日へ向かってGO!」ソングと、これきっと日本語の歌詞で聴いたらちょっとこっ恥ずかしいだろうなと思わせるものが多いんだけど、そこは逆に非英語圏で洋楽を聴く側の特権として、意味わからないまま聴いていればいいんだし。

あ、そうだ。歌詞といえば、ここまで褒めちぎったこのCDにひとつだけ文句がある。6つ折りになったブックレットには歌詞の断片しか載っておらず、“詳細な歌詞はウェブサイトを見ろ”との但し書きが。
あのな、こっちはきちんと金出してCD買ってんだから、ちゃんと歌詞もクレジットも写真も全部よこせよ。これだけ巻物みたいに折りたたんだブックレット、いくらでもスペースあるだろうが。いくらSNSが母体だからって、この時代に飽きずにパッケージメディアを買ってる客のことないがしろにするなよ。
と、ぶつぶつ言いながらもウェブサイトに行くと、僕が日本語のマイスペースから入っているからなのか、どこを探しても歌詞なんて載ってないし。しょうがないからサードパーティーの歌詞掲載サイトから拾ってきたけどね。

あちこち調べてみたら、ここに書いた2枚のアルバム以前にも、彼らはEPを発表してるみたい。もう廃盤だけどね。さてと、じゃあ今からそれを探しに行こうかな。
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2007年04月25日

NZ最南端旅行記

秋

しばらく前まであちこちのブログで桜が満開だったのに対抗して紅葉の写真でも載っけつつ、さっき帰ってきたばかりの、こちらの飛び石連休を利用して行って来た旅行のことを書こう。

上の写真は、NZの南島最南端の都市、インヴァカーギル(Invercargill)の大きな公園。土地が余ってるのか、とにかく大きな街の大きな公園。端から端まで歩くだけで小一時間かかる。こんな遊具を見つけた。

車椅子ブランコ 乗り方

身障者用のブランコ。こんなの初めて見たけど、一般的なのかな。


公園の中には博物館もあり、こんなのもいる。

トゥアタラ

トゥアタラ。数百万年前から進化してない恐竜の仲間で、今はNZにしか生き残っていないらしい。ヘンリーという名前のついたこの個体が生まれたのは19世紀末だとのこと。ぜーんぜん動かなくて、10分ぐらい見てると片目ずつゆっくりまばたきする。


インヴァカーギルから更に南へ車で30分。小さな港町、ブラフ(Bluff)に着く。ここが本当の最南端。19世紀初頭にヨーロッパ人が最初に造ったNZの町らしい。なんでまたこんな一番南の端っこに。

フェスティバル

ブラフオイスター&シーフードフェスティバル。ブラフオイスターは、知る人ぞ知るNZの特産。毎年4月の末から2〜3ヶ月間しか獲れない貴重な牡蠣(北半球でRの付く月が牡蠣のシーズンなのとほぼ逆。Rのついてない月が旬)で、今の季節はオークランドを始めNZ全土のシーフードレストランで大人気。普通の牡蠣とは全然違った、ほんのり甘いクリーミーな味は、牡蠣が苦手な人でも大丈夫かも。いつもオークランドに空輸されてくるのを食べてるけど、一度本場で獲れたてを食べてみようと思ったのが今回の旅行の目的の一つ。

ブラフオイスター

堪能したー。海から揚げてきたのをその場で殻を剥いて出されるので思ったより塩っ辛いけど、やっぱり新鮮。この季節にNZを訪れる人は是非トライしてみて。特に5月末から6月あたりは日本とNZどちらの旅行シーズンでもないので安く来られるはずなので、おすすめ。


パウアハンバーグ

NZのパウアっていう、アワビみたいな貝を知ってる人もいるかも。よくアクセサリーに加工される、綺麗な貝。それとブルーコッド(トラギス)のハンバーグ。色もなんとなくパウア色。もぐもぐ、うん、貝の味。


個人的には思わず今回の目玉になったのがこれ。

マトンバード(調理済)

マトンバード(Muttonbird)っていう、南島の更に南の海にある小さな島でしか獲れない海鳥。こうして料理された見た目は普通のニワトリか鴨かって感じなんだけど、食べてびっくり。パリパリした皮の下にかなり厚い脂身があって(寒いところの鳥だからね)、鴨みたいな赤身の味はまるでアンチョビ。鳥を食べてるはずなのに、口に運ぶと魚の味。しかもこのねっとりとした脂身と塩辛い赤身のコンビネーション、ワインが進んでしょうがない。またどこかで探して食べたいけど、これも今の季節に、しかもこの地方でしか手に入らないらしい。

マトンバード(剥製)

帰りにまた立ち寄ったインヴァカーギルの博物館で剥製を見つけた。本名Sooty Shearwaterだって。NZにMuttonbirdってバンドがいたんだけど、あれはShearwaterの仲間だったのか(違います)。今度ちゃんと聴いてみよう。


ブラフからフェリーに乗って、更に南へ。人が住む島ではNZ最南端。スチュアート島(Stewart Island)に着く。南緯47度。もう赤道より南極点の方が近いよ。ここまで来るともう携帯電話も通じない。電話といえば、

電話交換台

郵便局にはこんな電話交換台が。さすがに現役じゃないだろうけどね。まあ、それにしても、シンガポールとほぼ同じ大きさの島の9割以上の土地が自然保護区なだけあって、文明の香りはこの交換台程度と言って差し支えないかも(50%誇張済み)。

小さな町のあちこちにこんな標識が。

ペンギン注意 キウイ注意



スチュアート島自体が自然保護区なんだけど、それに隣接する小さな島、ウルヴァ島(Ulva Island)は、野鳥のサンクチュアリになっている。哺乳類ゼロ。その島を半日かけて歩くツアーに参加した。さっきのトゥアタラもそうだけど、NZやオーストラリアって、ゴンドワナ大陸の時代に他の大陸と切り離されたんで、固有の動物や鳥や植物が沢山いる。ここでもそういうのを沢山見ることができた。スケジュールの関係で残念ながら夜行性のキウイを見ることはできなかったけど(足跡は目撃=写真右下)。

ウェカ キウイ(足跡)

中でも可愛いのが、このウェカ(Weka)。保護区だからか、人間のことを全然怖がらずに、こんな風にひょこひょこ寄って来る。一瞬キウイに見えなくもないし、これもNZ固有の鳥なんで珍しいには違いないんだけど、あんまり寄って来るんで、しまいにはニワトリ同様の扱い(=無視)されていたのがほんのり物悲しい。


今回は僕にしては珍しく、旅行中一枚もCDを買っていない。最近買ってまだ聴いてなかったCDを沢山ウォークマンに詰め込んで出掛けたんだけど、特にこの島では珍しい鳥の鳴き声と静寂を満喫してたんで、それもあまり聴かず仕舞い。せっかくだから、最後にこれもまた人懐っこいNZの固有種、ファンテイル(Fantail)の鳴き声でも聴いてもらおうかな。あんまり綺麗に撮れてないかもしれないけど、ほんとにこんなに近くに寄ってくるんだよ。




<付録: 喰いしん坊 バイバイ 100コメント記念>

クックー

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2007年04月17日

魔法使い見習い Badly Drawn Boy 「Born In The U.K.」

昨年末に手に入れて以来そのうち何か書こうと思っていたのに、ずっと後回しになっていたこのアルバムのことを書こう。バッドリー・ドローン・ボーイ(以下BDBと略)の「Born In The U.K.」

Born In The UK去年買ってよかったCDを総括したyascd006の回で取り上げ、そこに(ほぼ最上級の)コメントを書いてるんで、もうこのアルバムについてはあまりあれこれ書く必要もないのかもしれないけど。僕がその編集CDに入れた「A Journey From A To B」が、そのすぐ後にこのアルバムからの2枚目のシングルとしてリリースされたのを知って、我ながら選曲眼があるなと自画自賛していたところだ。BDB本人は「全曲シングルカットできるぐらいのアルバム」と更に自画自賛しているようだけど、やっぱりあの曲は格別だと思うし。

でも、なんといっても今回目を引くのは、ブルース・スプリングスティーンの熱狂的なファンを自認する彼がつけたこのタイトルだろう。とはいえ、アルバム2曲目に収められた表題曲は、スプリングスティーンの「Born In The U.S.A.」のように自国の負の過去を描いた重苦しい曲というわけではない(蛇足だが、かの曲はその大仰なアレンジのために大いなる誤解を巻き起こしたわけだけど、反ジョージ・W・ブッシュ運動に身を投じる今のスプリングスティーンを見れば、彼の姿勢がその曲を発表した20年前から少しもぶれてないのがわかるはず)。

こちらの「U.K.」の方はもっと私的な曲で、曲中でも歌われているように1968年10月生まれのBDBの、子供時代からの思い出(主に70年代の出来事)を歌ったものだ。僕は彼とそれほど年が違わないんだけど、沢山出てくる固有名詞に殆ど聞き覚えがないのをみると、いかにあの当時の日本が「外国=アメリカ」だったのかというのを思い知らされるね(今もだろうけど)。これは外国の音楽として洋楽を聴いている者のハンデだろうけど、残念ながらそういうところには感情移入できない。同じ時代の話をすると、僕は60年代とか70年代という区分よりも、どちらかというと昭和40年代という時代の日本にすごくノスタルジアを感じてしまう。高度経済成長期も後半にさしかかり、公害問題などのネガティヴな面の方がクローズアップされていたような時代。東京オリンピックでなく、大阪万博とその後。

まあとにかく、わずか2分半で70年代のイギリスをノスタルジックに振り返るその曲に代表されるように、彼は優れたストーリーテラーだ。このアルバムの大半を占めるラヴソングの詞を読んでも、しみじみと自分に当てはめたい箇所が沢山出てくる。

Born In The UK Limitedあまりにこのアルバムを気に入ったので、僕はイギリス盤の限定CD(DVD付き)も買ってしまった。ご覧の通り、イギリスのパスポートを模した(中のページまで)、気の利いたデザインだ。CDラックに収めにくいのが難点だけど。DVDの内容は、BDB自身が時折弾き語りを交えながらこのアルバムについて語るインタビューと、数曲のプロモーションビデオ、リハーサル風景など。インタビューはそれなりに興味深いけど、当然日本語字幕はついてないんで、あまりお勧めできない。「Born In The U.K.」のビデオクリップは、さっき書いたような70年代の出来事の映像がコラージュされているという、ある意味芸のない、でもきっとそういう背景のわかる人にはそれなりに感慨深いであろうもの。一応上にアフィリエイト貼ったけど、なんだかアマゾンでの値段メチャクチャだし、無理して買わなくていいと思う。それより格好いいボートラの入った日本盤を買った方がいいよ(そのボートラが元々入ってた「Nothing's Gonna Change Your Mind」のシングルまで持ってるようなコアなファンは別として)。

上の小さなジャケ写真で判別できるかどうかわからないけど、BDBといえばあのヒゲとニット帽。彼のデビュー当時から名前は知っていた僕がつい数年前まで聴いてみようと思わなかったのは、そのどう判断していいかよくわからない名前のせいでもあったんだけど(「ヘタクソに描かれた少年」って言われてもねえ)、きっとBDBことデーモン・ゴフって、ものすごくシャイな人なんじゃないかな。DVDに入ってるインタビューでも恥ずかしげにポツポツと話すし、バンドでもないのに自分の本名でなくBDBなんて名前でデビューするし、それに加えてあの素顔がほとんどわからないヒゲとニット帽。奥ゆかしいというか何というか。

きっと、彼は自分のヒーローであるスプリングスティーンのようなカリスマが自分にはないことに気づいているんだと思う。本当はスプリングスティーンのようになりたいんだけど、なれるわけがないと。

更に例えて言うと、自分は彼と同じような宅録系シンガー・ソングライターであるトッド・ラングレンが73年のアルバムのタイトルにしたような魔法使いではないと思っているんだろう。あの当時のトッドが次々と生み出していたような、どこから持ってきたのかわからない不思議なコード進行と夢のようなメロディー展開みたいなのは、確かにBDBの曲にはないかもしれない。

魔法のような曲が書けるわけでもないし、前々作の初回限定盤に付いていたグラストンベリーでのライヴ盤でも明らかなように、こいつほんとにプロかよと思うぐらいに声域も狭い。でも、というか、だからこそ、というか、彼の作る音楽はやけに身近に感じられるし、こうしてアルバム一作ごとに着実に成長しているのを見ると、まるで自分のことのように応援したくなってしまう。いちいち「ああ、そういうのって、なんだかわかるよ」って言いたくなるような歌詞ともあいまって、感情移入してしまう。がんばれよ、スプリングスティーンになる必要なんてないけど、そのうちきっと、もっと素敵な魔法が使えるようになるよって。

自分で曲なんて書けるわけもないし、楽器の練習をすることも遠い昔に諦めてしまった僕だけど、こういうのを聴くとなんだかちょっと勇気付けられる。僕ももうちょっとがんばろうかなって。とりあえず、最近おあつらえ向きに顔中にヒゲも生えてることだから、週末にニット帽でも買いに行ってこようかな(違うって?)。
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2007年04月09日

yascd008 ルイジアナの風 Sonny Landreth

001のグレン・ティルブルック、007のジェブ・ロイ・ニコルズに続いて、単独アーティストを取り上げるのは三回目となるyascd008、今回はサニー・ランドレス特集。アメリカ、ルイジアナ在住のスライドギタリストだ。

先日のグレアム・パーカーの記事に書いたように、高校の頃から、僕はエルヴィス・コステロやニック・ロウの音楽に熱中していた。大学に入った数年後にはもう彼らの過去のアルバムは全部集めてしまい、今度は彼らが参加したりプロデュースしたりした他のアーティストのアルバムを物色し始めていた。

85年の『Warming Up To The Ice Age』でエルヴィス・コステロと一曲デュエットし、87年にはベースにニック・ロウ、リードギターにライ・クーダー、ドラムにジム・ケルトナーという超豪華メンバーで名盤『Bring The Family』を作ったジョン・ハイアットが僕の次のターゲットになったのは、そう考えると自然な流れだった。

88年2月、初来日を果たしたジョン・ハイアットを大阪・御堂会館で観たのだが、残念ながら『Bring The Family』の超豪華メンバーでの来日は無理だったようで、彼のバックバンドはゴウナーズ(The Goners)という別グループだった。というか、その時にはそのバックバンドに名前が付いていたことすら知らなかった。名前さえ聞いたこともないような人たちだったし、僕の目当ては100%ジョン・ハイアットを生で観ることだったから、(ニック・ロウやライ・クーダーがいないのなら)別にバックが誰であろうと関係なかったし。

期待どおりジョン・ハイアットのライヴはよかったんだけど、それ以上に衝撃を受けたのが、彼の隣でスライドギターを弾きまくっていた、サニー・ランドレスだった。

ビハインド・ザ・スライドと呼ばれる、小指にはめたスライドバーよりも上のフレットをそれ以外の指で押さえる奏法で、通常のスライドギターとは一風変わった音を出すのが彼の特徴。ハードな曲でのエレキギターを使った豪快なプレイも、リゾネイター系のアコギを使った繊細なプレイも、自分の目の前で演奏しているのに、どうやったらあんな多彩な音が出せるのかが信じられなかった。『Bring The Family』でライ・クーダーが感情たっぷりに演奏した「Lipstick Sunset」を、まさかかのスライドの名手に匹敵するほど素晴らしく弾きこなせるギタリストがいるなんて。

同年に出たジョン・ハイアットの『Slow Turning』で伴奏を務めていたのは当然ゴウナーズ。僕は『Bring The Family』よりも熱心に聴き込んだものだ。そして、翌89年に出たマーシャル・クレンショウの『Good Evening』、ドン・ディクソンの『EEE』にそれぞれサニーが客演しているのを見つけ、この人はジョンのバックで演奏しているだけでなく、いろんなアーティストのアルバムに参加しているのだと気づく。

そこから、今や殆ど僕のライフワークのようになってしまった、彼が参加したアルバムを探し求める旅が始まった。今では、彼自身のオリジナルアルバムを含めて、50枚以上のCDが「サニー・ランドレス・コーナー」として僕のCDラックの一角を占めている。それでもまだ、(僕にわかっているだけでも)彼がセッション参加したアルバムで、僕が持っていないものが何十枚もある。廃盤になってしまっているものが多いんで、アマゾンでまとめ買いなんてことができないのが大変だけど、僕が死ぬまでにはなんとか全部聴いてみたいと思っている。まさにライフワークだ。

これまでライヴ盤を含めてオリジナルアルバムが7枚(それと、ファーストアルバム以前の音源をまとめた編集盤が二種類。どちらもほぼ同内容なんだけど)。まだベスト盤を出すつもりはないようだし、それになにより、彼があちこちで実に様々なジャンルのアーティストのアルバムに客演したものまでを一同に集めたベスト盤なんてものは権利関係がネックで絶対に出ることはないだろうから、僕は自分で勝手にそれらの曲を寄せ集めて聴いたりしている。なにしろネタ元が50枚もあるんで、それこそいくらでもバリエーションが作れるのだが、今日ここに紹介するのは、そのうちのひとつ。


Outward Bound Sonny Landreth 『Outward Bound』
1.Soldier Of Fortune

僕が初めて手にした彼の92年のソロアルバム。それまでの2枚がかなりブルース寄りだったのに対して、先述のとおり80年代末からジョン・ハイアット、ドン・ディクソン、マーシャル・クレンショウなどロック系のミュージシャンと共演してきたことが彼の音楽に新たな膨らみをもたせることになったことがよくわかる好盤。アルバムのオープニングであるこの曲の静かなイントロでのリゾネイターの音、後半の炸裂するエレキギターの音、そして、僕はこのアルバムで初めて聴くことになった、意外に味のある彼のボーカル。彼の音楽のエッセンスが詰め込まれたような曲だ。


Good Evening Marshall Crenshaw 『Good Evening』
2.You Should've Been There

今でもこつこつと良質なポップアルバムを発表し続けている彼の89年の作品。僕は彼のアルバムの中ではこれが一番のお気に入りだ。この素敵なジャケットも含めて。デイヴィッド・カーシェンバウムのプロデュース、サニー以外には同じくギターの名手デイヴィッド・リンドリーがゲスト参加、リチャード・トンプソンやジョン・ハイアットの名曲も取り上げたこのアルバム、一時期廃盤で入手しにくかったが、05年に無事再発されたようでなにより。


Hot Water Music Hot Water 『Hot Water Music』
3.The Way

ホット・ウォーターというグループの「ホット・ウォーター・ミュージック」というアルバム。ホット・ウォーター・ミュージックというバンドがいるので、僕はこれを彼らの「ホット・ウォーター」というアルバムなのだと思っていた。ややこしい。ホット・ウォーター・ミュージックの方は去年解散するまで10年以上に亘って何枚もアルバムを発表していた中堅バンドだったが、どうやらこちらはこのアルバム1枚で消えてしまったようだ。メジャーレーベルのサイアから96年に発売。現在は廃盤。

でもこれは元気があってなかなかいいアルバム。サニー以外にもハートブレイカーズのベンモント・テンチがオルガンで参加しており、なんでこんな無名バンドにそんな豪華ゲストが?と思わせるが、この曲でのワウワウを効かせたギターとサニーのスライドとの絡みを聴くと、きちんと実力はあったバンドなんだろう。ダミ声ボーカルも迫力あってなかなか聞かせる。


Wish You Were Here Right Now Bobby Charles 『Wish You Were Here Right Now』
4.The Jealous Kind

50年代にビル・ヘイリーがヒットさせた「See You Later Alligator」の作者で、72年にウッドストック関係の豪華ゲストを集めたソロアルバムで有名だった彼が94年に復活を遂げたアルバム。同じルイジアナ出身の先輩のカムバックに一役買ったサニーの、このとろけるようなスライドの音を聴いてみてほしい。


Hound Dog Taylor A Tribute 『Hound Dog Taylor - A Tribute』
5.Taylor's Rock

ブルースギタリスト、ハウンド・ドッグ・テイラーへのトリビュートアルバム。97年発表。他にも実力派スライドギタリストが多数参加しているが、サニーとゴウナーズの演奏するこの爆裂ロックがやはりダントツの出来。貫禄の一曲。


Sail Away 『Sail Away - The Songs Of Randy Newman』
6.Louisiana 1927

yascd003にも入れた、アメリカを代表するソングライター、ランディ・ニューマンへのトリビュートアルバム。タイトル通り、27年にルイジアナを襲ったハリケーンと洪水を歌ったこの曲は、05年のカトリーナ被災地への復興応援ソングとして数々のミュージシャンに取り上げられたものだ。去年出たこのトリビュートアルバムで、僕の一番好きなギタリストが僕の大好きなこの曲を演奏しているのを知ったときには大喜びだった。有名なアーロン・ネヴィルの芳醇なヴァージョンには遠く及ばないかもしれないが、サニーのしみじみとしたボーカルと、彼にしかできないこの見事なスライドとの組み合わせもまた格別。


Is My Love Enough Chris Daniels & The Kings 『Is My Love Enough』
7.Jackhammer

強いて言えばヒューイ・ルイス風のアメリカンロックを演奏するグループの93年のアルバムから。リトル・フィートのアルバムで有名なネオン・パークスのイラストを使ったジャケットが印象的。サニーのこともこのバンドのことも知らないリトル・フィート(ローウェル・ジョージ)のファンがジャケ買いしても、アルバム中5曲に参加しているサニーのこのスライドを聴けば大満足だろう。


Golden Heart Mark Knopfler 『Golden Heart』
8.Je Suis Desole

ダイア・ストレイツを解散したマーク・ノフラーが96年に発表した最初のソロアルバム。その前年にサニーのアルバムにゲスト参加した際に意気投合したようで、今度はこちらにサニーがゲスト参加。僕はダイア・ストレイツ時代からマークのギタープレイも大好きだったので、この組み合わせにはかなり興味を引かれた。その二人がお互いアコースティックギターを使った丁々発止のやりとりが、この曲の醍醐味。


Used Guitars Marti Jones 『Used Guitars』
9.If I Can Love Somebody

ドン・ディクソンの奥さんの3作目のソロアルバム。これも88年発表。ということで、例のドン・ディクソン人脈(マーシャル・クレンショウ、ミッチ・イースター、そしてサニー)、更にはジャニス・イアンも曲の提供とピアノ/コーラスで参加している。これはジョン・ハイアット作のキュートなアコースティック曲。サニーのドブロを使ったスライドプレイが秀逸。ちなみに僕の持ってる日本盤CDはどういうわけかこのポップなジャケでなく、なんだか地味なデザイン。


South Of I-10 Sonny Landreth 『South Of I-10』
10.Cajun Waltz

95年発表の、サニー4枚目のソロアルバム。地元ルイジアナで録音され、トラディショナルなケイジャンミュージックとロックを見事に融合した、彼の最高傑作だ。この曲には入っていないが、元ダイア・ストレイツのマーク・ノフラーと、ルイジアナの名ピアニスト、アラン・トゥーサンが参加している。これはタイトル通り、アルバム中盤で演奏されるスローワルツ。ボーソレイユのエロール・ヴェレによるアコーディオンの音に絡まるサニーのスライドの音が沁みる。


Waitin' On Joe Steve Azar 『Waitin' On Joe』
11.One Good Reason Why

96年にデビューし(僕と殆ど同い年だから、かなり年食ってからだね)、01年にアメリカのカントリーチャートでトップ10ヒットを出した彼の、そのヒット曲を含んだ02年のアルバム。ブルースハープでけだるく始まったかと思いきや、アコギに乗せた歌が徐々に盛り上がっていき、中盤からサニーの手クセ満載のスライドが割り込んでくる、格好いい曲。あちこちの記事やコメント欄で何度も言ってるけど、なんでこういうのがカントリー扱いされるのかがよくわからん。非常に正統派のアメリカンロック。


The Tiki Bar Is Open John Hiatt 『The Tiki Bar Is Open』
12.I'll Never Get Over You

冒頭の話の続きをすると、ジョンとゴウナーズは結局『Slow Turning』一枚だけを残して袂を分かってしまうのだが、13年後にこのアルバムで再会。これと、03年にもう一枚一緒にアルバムを作って、また離別。『Bring The Family』の面子で結成したリトル・ヴィレッジも確かジョンのわがままですぐに頓挫してしまったし、この人の04年のソロツアーのタイトル「I don't play well with others(他の奴とはうまくやれないんだ)」ってのは、自虐的ながら的を射たギャグなのかも。

そんなわけで、もしかしたらこの人、実はすごく性格悪いのかもしれないけど、ソングライターとしては格別。偶然だけど、今回の選曲の9、12、15曲目が彼の作品だ。この曲自体は、彼が93年のアルバムで発表していたものを、ここでゴウナーズと一緒に再演したもの。実はオリジナルバージョンもかなりいいんだけど、やはりこの間奏でのスライドの味わいには勝てないね。


The Road We're On Sonny Landreth 『The Road We're On』
13.Gone Pecan

ライヴアルバムを除いては今のところ最新作の、03年のアルバムから。そのアルバム全体は結構ブルースっぽい仕上がりになっているのだが、この曲はストレートなロック。彼のオフィシャルサイトを見ると、このアルバムに続く4年ぶりの新作を製作中とのこと。楽しみ。


7 Wishes Shana Morrison 『7 Wishes』
14.Sometimes We Cry

ヴァン・モリソンの娘。お父さんのアルバムやコンサートには時々参加しているが、ソロアルバムとしてはこの02年作が最初。この曲はお父さんが97年のアルバム『The Healing Game』で発表していたもの。しみじみとした名曲。途中で出てくるハーモニカはお父さん。それから、もちろん後半のデュエットも。ということで、これはヴァンとサニーの初競演になる。


License To Chill Jimmy Buffett 『License To Chill』
15.Window On The World

サニーは、どういう経緯か、お気楽カントリー系(?)シンガーソングライターであるこの人のバックバンドに属していた時期があるようだ。21世紀に入ってすぐの数枚のアルバムに参加している。このアルバムタイトルのゆるーいオヤジギャグのセンスとかが、実はいまいち僕の趣味に合わないんだけど、さっきも書いたとおりジョン・ハイアットの作であるこの曲と後半のスライドギターの取り合わせは最高。


Bayou Boogie Beausoleil 『Bayou Boogie』
16.Chez Seychelles

ルイジアナを代表するケイジャンバンドのこの87年作を、リーダーのマイケル・ドーセと共にサニーはプロデュースしている。もっとはっきり彼のプレイとわかる演奏が入っている曲も、彼がボーカルを取っている曲もあるんだけど、ここではこの綺麗なワルツを入れよう。マイケルのフィドル、さっきも名前が出てきたエロール・ヴェレのアコーディオンと共に奏でられるサニーのドブロが聴ける。


Levee Town Sonny Landreth 『Levee Town』
17.Z. Rider

00年の、サニー5枚目のアルバムから、これもまた豪快なインスト曲。この曲はゴウナーズのみによる演奏だけど、アルバム自体にはそれに加えて、ボーソレイユのメンバー、ジョン・ハイアット、ボニー・レイットなどが参加している。三方見開きの豪華なデジパックの中には、「堤防の街」とタイトル曲で歌われている、彼の住む南ルイジアナの風景が味のあるセピア色の写真で多数見られる。


Carcassonne Stephan Eicher 『Carcassonne』
18.La Mi Los

ルイジアナ出身ということでサニーもある程度のフランス語を話せるらしいけど、そのためかフランス人アーティストとの共演盤も何枚かある。このステファン・エシェールはフランスでは有名なのかな?ディスコグラフィを見ると何枚もアルバムを出しているシンガーの93年盤。サニー以外のバックのメンバーは、マヌ・カチェ、ピノ・パラディーノ、リチャード・ロイドと、これもまた豪華メンバー。サニーのインタビューによると、フランスのお城のようなホテルに機材を持ち込んで録音したらしい。僕がこのアルバムを探し始めた頃にはもうとっくに廃盤だったのに、パリに旅行したときにFNACで売れ残っていたのを見つけたのは嬉しかった。ということで、僕はあまりよく知らない人なんだけど、この曲の盛り上がり方を聴くと、なんとなくフランス版ブライアン・アダムスって感じの人なのだろうか。


South Of I-10 Sonny Landreth 『South Of I-10』
19.Great Gulf Wind

サニーの名作から最後にもう一曲。この曲でピアノを弾き、マルディ・グラの香りが漂うホーン隊の楽譜をアレンジしているのはアラン・トゥーサン。タイトルのGreat Gulfとは、ルイジアナ州が面したメキシコ湾のことだろう。そこで頻発するハリケーンのことを歌っているのかな。曲調からは、もっと情緒溢れるアメリカ南部のスワンプを吹き渡る風を思い起こさせるけれど。


80分弱に詰め込むために泣く泣く落とした曲も多かったけど、これで彼の情感溢れるギターがたっぷり堪能できるはず。おそらく今を代表するスライドギタリストの一人なのに、一般的な知名度はなかなか上がらないまま(後から出てきたデレク・トラックスが、オールマン・ブラザーズ・バンド加入をきっかけに一気に有名になったのと大違い。まあ彼も素晴らしいスライド奏者なんでそれはそれで喜ばしいことなんだけど)。もうすぐ発売されるニューアルバムがブレイクにつながることを願っている。その前に、とりあえずこのyascdで、この小さな界隈でブレイクすればいいな。
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2007年04月04日

消えない三等星 Graham Parker & The Figgs 「103 Degrees In June Live In Chicago」

グレアム・パーカー。例えばこれまで彼の音楽を聴いてこなかった人や、今から洋楽に触れていこうとしている若い人が、こういう微妙な立ち位置の人に出会う機会があるんだろうか。ラジオやテレビで彼の曲が流れることなんてないだろうし、ウェブや口コミで話題になるようなことをしているわけでもない。コンスタントにアルバムを発表しているけれど、もはや日本盤でCDが出ることもないだろう。

僕は高校生の頃に、いわゆるパブロックと呼ばれる音楽が好きになり、エルヴィス・コステロ、ニック・ロウ、デイヴ・エドモンズなどの、当時は殆ど廃盤だった初期のLPを血眼になって探したものだ。スクイーズを聴き始めたのも同じ流れからだったな。

同じ文脈で語られることの多いグレアム・パーカーを聴き始めたのは、それから更に数年経ってからのことだった。もちろんデビュー当時はなにかにつけてコステロと比較されていたような彼の名前をそれまで知らなかった訳ではなかったんだけど、どういう訳か後回しにしていた。なんとなくさっき名前を書いたような人たちに比べて地味なイメージがあって。星の等級で言うと三等星ぐらいというか。

初めて彼のアルバム(85年当時の新作)をきちんと通して聴いたときには、それまで無駄にした数年を心底後悔したものだった。でもまあ、とにかく僕はそんなに致命的に遅れることなく彼に出会うことができた。幸運だったと言っていいだろう。それからの20年間、コツコツと活動し続ける彼のことをずっと見守ってこられたんだから。

80年代ぐらいまではまだアルバムも売れていたし、時にはヒットシングルも出していたけれど、決して表舞台に立っていたとは言えない彼だから、90年代以降、マイナーレーベルを渡り歩くようになってからは、世間一般的には既に忘れ去られた存在だろう。最早、パブロックなんてものが一括りに語られる時代でもないし。

そんな状況とは裏腹に、彼は実にコンスタントにアルバムを発表し続けている。ここ数年は、ほぼ毎年と言ってもいいぐらいだ。更に、自分のウェブサイトを通じて、各アルバム発表時のツアーを収めたライヴアルバムも出し続けている。今日紹介するのは、05年のアルバム『Songs Of No Consequence』に続くツアーの記録『103 Degrees In June Live In Chicago』だ。

103 Degrees in June.jpg 『103 Degrees In June Live In Chicago』

『Songs Of No Consequence』が久々に佳曲揃いのいいアルバムだったので、そのアルバムを製作したのと同じ面子で行ったこのツアーが悪いわけがない。デビュー・アルバムからの「Soul Shoes」を始めとする初期の名曲から、最新作からの「Vanity Press」「Bad Chardonnay」といった、80年代前半を髣髴とさせる曲まで、実に充実した内容。特に、サード・アルバムからの「The Raid」がオリジナル以上に格好いいロカビリーっぽいバージョンになっていて最高。

彼は、古い曲を演るときは、「これは何年の何というアルバムからの曲」っていちいち説明するし、さっき書いたような代表曲だけでなく、古いアルバムの誰も覚えてないようなマイナーな曲までちゃんと取り上げている。本当に自分の作品に愛着があるんだろうね。

途中、ファースト・アルバムからの「Nothing's Gonna Pull It Apart」を始める前に、「この曲ができたのは(バックバンドの)フィグスの連中がまだ赤ん坊の頃だ。今日着ている、こないだ屋根裏から引っ張り出してきたこのシャツも、こいつらより年食ってるよ」なんてことも言ってる。

このライヴ・アルバム、彼のオフィシャル・サイト(上の写真の横の文字にリンクあり)のみでの発売。しかも直筆サイン入りで2000枚限定。しばらく前に買った僕のが1014/2000(手書きのナンバー!)だから、まだしばらくは買えるだろうけど、こういうのは一旦なくなると手に入る可能性が非常に少ないからね。僕は03年に出た、『Deepcut To Nowhere』ツアー時のライヴ盤『Live Cuts From Somewhere』をつい買い逃してしまって、以来ヤフオクとイーベイにアラートかけてるんだけど、まったく引っかかってこないよ。なので、興味のある人はお早めに。

Songs of No Consequence.jpgさっき書いた佳作『Songs Of No Consequence』は、マイナーレーベルからの発売だけどまだ普通に流通してるんで、ライヴを買い逃した人はこちらもお勧め。実は、更につい先月これに続くニューアルバム『Don't Tell Columbus』が出たばかりなんだけど、それは今輸送中だから、今回はそれについては書けない。これを聴いて気に入ったら、僕が20年前にしたみたいに、ここから30年遡って聴いていくというのもありかも。もしそういう人がいれば、僕の持ってる彼の40枚のアルバムを解説する記事を書いてもいいよ(笑)

本当に、もう60歳近いというのに、もの凄い勢いでがんばってるなあ。先に名前をあげたエルヴィス・コステロやニック・ロウが年齢相応に随分枯れたアルバムを作るようになり、引退状態の人やバンドも沢山いるというのに。三等星だったかもしれないけど、他の大きな明るい星が消えていった後もしぶとく光ってるような人だな。『Songs Of No Consequence』の最終曲では、まさにそんなことを歌ってるよ。「Did Everybody Just Get Old?」って。
posted by . at 20:26| Comment(15) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする