2007年03月17日

伝統芸能伝承の瞬間 The Slits live in Auckland

僕は今回初めて訪れる、オークランドでは老舗のパブ兼ライヴハウス、キングス・アームズ。一応8時半開場、9時開演となっていたが、例によって始まる時間なんて適当なんだろうなとは思いつつ、何かつまみながらビールでも飲んで待ってようと思って、8時ちょっと前に会場へ。

ビールとチリビーンズパイを頼んだところで、サウンドチェックの時間だから一旦パブを閉めるんで隣のパブに移動してくれとのアナウンス。え?僕これ頼んだばかりで、パイ熱くてまだ一口も食べてないんだけど…

「チケットは持ってる?」「うん」「じゃ居ていいよ」
とのことで、またしても関係者でもないのにサウンドチェックからゆっくりと観させてもらった。残念ながら、肝心のスリッツは出てこなくて、前座のバンドだけだったんだけどね。でも今回の前座の2バンド、結構よかったな。CD出てるか調べてみよう。


案の定、メインアクトのスリッツが登場したのは既に11時前。バラバラとステージに出てきた高校生ぐらいの女の子たちを見て、一瞬また別のバンドが演るのかと思ったけど、今のスリッツはオリジナルメンバーのうちアリ・アップとテッサ・ポリットが、新たに4名のメンバーを加えての再結成。新メンバーって、こんなに若い人たちだったんだ。

The Slits

ステージ後ろにドラムのアナが座っている他は、5人のメンバーが横一列にずらっと並ぶ。左からギターのノウ、バックボーカルのホリー、ボーカルのアリ、ベースのテッサ、ギターのアデル。僕はアデルの真正面、もちろん一番前でステージにもたれかかって楽ちんな好位置。

オープニングはスペイシーなダブ・サウンドを響かせる「Newtown」、続いてレゲエ・ナンバー「Man Next Door」、そしてミドル・テンポの「FM」と、79年のファーストアルバム『Cut』とそれ前後の曲を次々に披露。

アリの自由自在に素っ頓狂なボーカルは、ファーストアルバムから30年近く経っても全然変わってない。見かけこそあれから30年だけど(それでも確か彼女まだ40代中盤のはず?)声はまったく昔のままだ。すごく楽しそうに歌う人だなあ。客のこともガンガン乗せるし。

演奏中にアリが他のメンバーにしょっちゅうちょっかいをかけていたのが愉快。なんだか、寡黙にベースを弾いているテッサが教頭先生で、アリが口数の多い金八先生風の学年主任、他の4人が女子高の生徒って感じ。

学年主任のすぐ隣で、かつてのアリがやっていたような原始人風コーラス(?)とか、アメリカンインディアン(今はネイティヴアメリカンっていうのか)みたいに口に手を当てて「アワワワワ」ってのとか、一所懸命先生の見習いをしていますっていう風なのがホリー・クック。頭に髪の毛を丸めたお団子みたいなのが沢山ついてる。すぐ疲れるのか、しょっちゅう床にぺたんと正座してしまうのがおかしかった。

Hollie

ドラムのアナと左端のギター、ノウが優等生っぽく微笑みながら演奏していたのに対して、右側のギター、アデルは終始ニコリともせずに黙々とギターを弾き、コーラスを入れていたのが印象的。なんだか教室の隅で「こんな授業つまんね」って顔しながらクールに振舞ってる女の子みたい。でもたまに学年主任が廻ってきて「ちゃんとやってる?」みたいなことを言ったらニコッとしてたのが可愛い。そういえば彼女、6曲目が終わったところで「おしっこ」って言って退場しちゃったんだ。そういうところもなんだか学校ぽかったな。

Adele

僕がCDで持っている初期のライヴと違って、かなり達者な演奏。とはいってもスリッツだからそんなにテクニカルなことをやってる訳じゃないんだけど、パンクっぽいタテノリの曲から転調して急にレゲエのリズムになったり(あるいはその逆)、ミキシングに頼らず人力ダブをやったり(アリのダブ風ボーカル、上手!)、稚拙なふりしてとても安定感のある、楽しく踊れる演奏だった。メンバー紹介の際にアリがテッサのことを「こんなに上手くレゲエを弾ける女性ベーシストは他にいない」って言ってたけど、それもあながち間違ってないと思う。

Cutそう、アリがステージで何度も言っていたとおり、彼女らの音楽を一言で言うと、「パンキー・レゲエ」。「ニュー・ウェーヴの名盤」として紹介されることの多いファーストアルバム「Cut」で、スリッツとプロデューサーのデニス・ボーヴェルが作り上げたサウンド。まあ、このアルバムは「さあ、名盤を聴くぞ」と張り切って聴きだすと最初は肩すかしを食らうこと間違いなしなんだけどね。でも、聴けば聴くほど馴染んでくるいいアルバム。僕は79年にリアルタイムでこのアルバムを知ったわけじゃないんだけど、当時この泥んこ原始人ヌードジャケはかなりショッキングだったろうね。バンド名もスラングで「割れ目」だし。今流通しているCDには、マーヴィン・ゲイの「I Heard It Through The Grapevine」の全然ソウルフルじゃないのが痛快なカバーと、アルバム収録曲「Love Und Romance」をデニス・ボーヴェルが極限までグシャグシャにしたダブバージョン「Liebe And Romanze」がボーナストラックとして収録されている。なかなか充実したボートラなので、それを聴きたい人はCDを、それよりこのジャケを大きな画像で見たい人は中古LPを探して(笑)

コンサートの話に戻ろう。中盤で二度ほど余興があって、クイズに正解したらレコードがもらえるというもの(一問目のはなんだかよくわからないレゲエのアルバム、二問目のはアリが変名でジャマイカで出したレゲエのシングルだった)。僕は一問目はわかったんだけど、残念ながら学年主任があてたのは他の生徒だった。

上の写真を見てもわかるようにアリは銀色のぴったりしたミニスカートをはいていたんだけど、途中でそれがきついとか言い出して、別のミニスカートをビニール袋から取り出した。今度はこの人がトイレ休憩なのかなと思ったら、なんとその場でスカート脱いではき替えちゃった! まあ、どちらのスカートもお尻の長さぐらいしかないんで、動き回ってるときはもともとお尻丸見えだったし、終始くねくねとセクシーダンス(?)してたし、別に着替えを見られるぐらいはなんともないのかな、さすが元泥んこ原始人だなあと、妙に納得(笑)

途中に、去年25年振りに発表したEPからの曲を挟み、コンサート本編は10曲ほどで終了。アンコールで演った代表曲「Typical Girls」が終わったのは、もう1時前だった。曲数は少なかったけど、賞品付きクイズとか「おばさんに訊いてみよう」のコーナー(笑)とか、トイレ休憩(笑)とか、いろいろあったからな。楽しいコンサートだった。

そのEP「Revenge Of The Killer Slits」には、新生スリッツのメンバー以外に、セックス・ピストルズのポール・クックやアダム&ジ・アンツのマルコ・ピローニが参加していたり、クラッシュのミック・ジョーンズの娘ローレン・ジョーンズが入っていたりする。だいたいが新生スリッツのホリー・クックはポール・クックの娘だし、まるでこのEPは、オリジナルパンク世代とその娘世代が一堂に会したパーティーの記録のよう。

そう思えば、昨日のライヴのときに感じた、この新生スリッツは学校みたいという感想もあながち的外れでもないのかも。70年代にオリジナル・パンクスだったアリやテッサが、その頃の自分達ぐらいの年齢の子供達を集めて、いまやパンク・クラシックとなった「Typical Girls」などの曲を伝承している。なんだか伝統芸能みたいだ。冒頭、「もう二度と観られないかも」なんて書いたけど、もしかしたら10年後に僕が観るスリッツのステージで歌っているのはホリーなのかもね(いや、僕がまだライヴ行けるほど元気なら、僕よりほんの少しだけ年上のアリが引退してる訳もないか)。

30年使い込まれて貫禄のついたテッサのベースギターを見ながら、そんなことを思った夜だった。

Ragged Musicman

16 March 2007 at Kings Arms, Auckland, New Zealand
posted by . at 12:23| Comment(14) | TrackBack(0) | コンサート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする