2007年02月25日

yascd007 真夏の午後と冬の夜に Jeb Loy Nichols

一部の常連コメンターさん達のお陰で、一ヶ月前に書いたクックーの記事のコメント欄が異常に盛り上がっている。今時点でもうコメント数が80に達しそうな勢いだ。呪いをかけられたコメンターの方々が次々に入ってきてはコメントを残していってくれているのだが、ただ一人、最初にクックーに対する感想を書いた後は恒例のマイフィールドに持ち込み、あまつさえ最近は一緒に送られてきた別のCDをヘビロテ中ということをわざわざ公言された方がいる。ちょっとそのCDが何なのか聞いてみたら、なんだ、僕がずっと前の記事で名前とジャケだけ出して、そのうちちゃんとした特集記事を書こうと思っていた人じゃないか。このままではコメント欄右側の余白にココアしめじ(©かえでさん)を生やされかねないので、これを機会に特集することにしよう。にんじんさん、そのお気に入りCDのコメントはこっちの記事に書いて、クックーのところにはちゃんとクックーの話を書くんですよ、わかりましたね。

前置きが長くなった(いつものことだけど)。今日取り上げるのは、ジェブ・ロイ・ニコルズ。アメリカ人だが、現在はウェールズ在住のシンガー・ソングライターだ。僕の持っている彼のCDを元に、まだ公式のベストアルバムが出ていない(しかも初期のアルバムは現在入手困難な)彼の経歴を追いながら、入門編yascdという形で記事にしてみよう。


ワイオミングに生まれ、ミズーリ、テキサスとアメリカ中部を転々とした少年時代に彼が聴いていた音楽は、両親がかけるジャズやブルーグラスの他に、地元のカントリー、ラジオから流れてくるソウルだったらしい。僕は彼の生年は調べられなかったのだが、バイオグラフィーから察するに、僕より幾分年上、きっと今40代中盤というところだと思うから、その世代の人が少年時代に聴いていた音楽がそんなものばかりだったなんて、やっぱりアメリカも内陸部になるとほんとに保守的なんだなと思った。

しかし彼は、セックス・ピストルズを聴いてニューヨークに出ることを決心し、そこでネネ・チェリーやスリッツのアリ・アップと出会い、パンク、レゲエ、ダブ、ヒップホップに心酔していくことになる。そして、やがて彼はホワイト・レゲエの聖地、ロンドンに移り住むことになる。

長々と彼の生い立ちを書いたのは、ここに出てきた音楽ジャンルの数々が、彼の音楽性を語るのに必要不可欠だから。彼の、どういうジャンルと紹介すればいいのかわからない音楽を生み出したのは、彼のこうした雑多な音楽的バックグラウンドだったということをまず説明した。

そう、あえて言うなら、レゲエ+カントリー+ソウル。でも、例えばスパイスから調理して何日も煮込んだカレーにどんな種類のスパイスが入っているかを言い当てるのが困難なように、彼の音楽を単純に「これはレゲエ」「これはカントリー」と分けることは難しい。こればかりは聴いてもらわないとうまく感じをつかんでもらえないんじゃないかな。


ロンドンに渡った彼は、妻のロレイン・モーリーを含むメンバーと、フェロウ・トラヴェラーズ(Fellow Travellers)を結成、90年にファーストアルバムを発表する。

No Easy Way
フェロウ・トラヴェラーズ 「No Easy Way」
1.G.T.O.
2.Promise Of A Kiss
3.New York City Tragedy


後の彼のソロアルバムに比べると、かなり簡素で素朴な音。さっき書いた例で言うと、レゲエやカントリーといった素材がまだうまく溶け込んでいない感じがある。でも、このちょっと鼻にかかったレイジーなボーカルとまったりとした曲作りは今の彼に通じるものがあるのがわかる。


92年にはセカンドアルバム、その翌年サードアルバム(これは僕は持っていない)を発表。

Just A Visitor
フェロウ・トラヴェラーズ 「Just A Visitor」
4.Mary, Her Husband, And Tommy Too
5.Seems Like The Whole World


さっきのファーストを始め、彼のアルバムの殆どは彼自身が手がけた版画をジャケット(だけでなく、ブックレットやCD盤のデザインの多くも)に使っているのだが、これはもしかすると少年時代のジェブ・ロイの写真だろうか。


94年にはドイツで1000枚限定のライヴ盤を発表。でもライヴの割りにこれ全然歓声が入ってないんだよね。スタジオライヴということか。

Love Shines Brighter
フェロウ・トラヴェラーズ 「Love Shines Brighter」
6.Your Own Little World
7.Big Mistake


名義はフェロウ・トラヴェラーズだが、ここでのメンバーはジェブ・ロイとロレインの二人だけ(1曲だけゲストのピアノ奏者が参加)。もしかするともうこの時点で他のメンバーとは袂を分かっていたのかも。彼が自分の写真を表ジャケットに使ったのは、今に至るまでこれが最初で最後。


フェロウ・トラヴェラーズとしての最後のアルバムは、95年に出たダブアルバム。その後彼は97年に最初のソロアルバムを出すことになるのだが、ちょっとここでは時期を入れ替えて、フェロウ・トラヴェラーズが属していたオクラ・レコードが、98年に所属アーティストを集めて出したアルバムから1曲選んでみよう。

Okra All-Stars
オクラ・オールスターズ 「The Okra All-Stars」
8.Purple Rain

タイトルから察せられるとおり、プリンスのカバー。しかも、カントリーバージョン(笑)。これは、ゆるいよ。このアルバム自体はもっと真っ当なカントリー曲を集めたものなんだけど、何故かアルバムを締めくくるのがこの曲。3人のメンバーが交代でリードボーカルを取っており、ジェブ・ロイは最後。


前述のとおり、97年には大手キャピトルからファースト・ソロアルバムを発表。

Lovers Knot
ジェブ・ロイ・ニコルズ 「Lovers Knot」
9.As The Rain
10.Sugar Creek
11.Coming Down Again


「As The Rain」が映画「グッド・ウィル・ハンティング」の挿入曲として使われたことが話題となり、このアルバムも一部で注目されるのだが、残念ながらキャピトルのような大手が期待するほどの売上を達成することができず、これ一枚であえなくクビ。でも、このミックスCDをこの順序で聴く人は、ここから明らかに音のふくらみが違うことを実感するだろう。これは、レゲエ・アルバムでも、カントリー・アルバムでも、シンガー・ソングライターが作ったフォークのアルバムでもない。その全てをよくかき混ぜ、長い時間をかけてぐつぐつ煮込んだものだ。


キャピトルから契約を切られた彼は、3年後に再起をかけてラフトレードと契約。00年にセカンドアルバムを発表。

Just What Time It Is
ジェブ・ロイ・ニコルズ 「Just What Time It Is」
12.Perfect Stranger
13.Double Dose Of You
14.Kissing Gate
15.Hold Me Till I Fall


僕はこのアルバムで彼を知った。日本盤が発売されたのもこのアルバムからだ。贔屓目があると思われるかもしれないけれど、僕は断言できる。これは、彼の最高傑作だ。ジャマイカで録音されたこのアルバムの音は、これまでのアルバムとは明らかに違う。繰り返すようだが、ジャマイカで録音したからといって、単純なレゲエアルバムになっているわけではない。

僕はこのアルバムを聴くといつも思い出す風景がある。じっとりと暑い真夏の昼下がり。場所は、どこか南の島だ。沖縄のひなびた離島でもいいし、バリならクタの喧騒を避けてジンバランあたりのビーチで。温度も湿度もかなり高いはずなのだが、天井でゆっくりと廻っている大きな扇風機のおかげで不快ではない。汗ですこし湿った身体の表面が微風で冷やされ、心地よいほどだ。右手にはきりっと冷えた缶ビール(あるいは、子供時代が懐かしくなるような派手な色のトロピカル・カクテル)。デッキチェアに身体を預けて本を読んでいるのだが、もはや内容はあまり頭に入っていない。そんなときに傍らに置いたラジカセから流れているのは、このアルバムのはずだ。

あるいは、凍てつくような冬の夜でもいい。窓の外には木枯らしが吹き荒れているが、部屋の中はとても暖かい(暖炉があるといいね)。両手で覆うように持った大きなマグに入ったココアから立つ湯気が眼鏡を真っ白に曇らせてしまう。一人でもいいんだけど、やっぱりこの情景では大事な人に隣に座っていてほしいね。そして、部屋のスピーカーから聞こえてきているのはやはりこのアルバムだ。

ああ、ちょっと妄想が過ぎたね。とにかく、僕にとってこれは無人島に持っていくべきアルバムの最有力候補の一枚。無人島に冷えたビールや暖炉があることを願おう。


続いて、02年に3枚目のソロアルバムを発表。

Easy Now
ジェブ・ロイ・ニコルズ 「Easy Now」
16.Letter To An Angel
17.They Don't Know
18.Wild Honeycomb


メンバーも、彼自身を含むプロデューサーも前作と同じ。録音場所だけを彼の自宅のあるウェールズに移して製作したアルバム。そのせいか、音から若干熱さが消えているような感じを受ける。とはいえ、これも前作に負けず劣らずの力作であることに間違いはない。曲も粒より。残念ながらこのアルバムが今のところ最後の日本盤になったのだが、今アマゾンを見てみたら、なんとこれまだ流通してるよ。ビデオアーツ、偉いなあ。上にアフィリエイト貼っておこう。まあ、個人的には、こんな旧譜に2400円も払う必要ないとは思うんだけどね(笑)


03年に、ポールスミス・ジーンズとコラボレートして出したEPがある。

October EP
ジェブ・ロイ・ニコルズ 「The October EP」
19.Don't Dance With Me

どういう経緯なのか実は僕はよく知らないのだが、彼がポールスミス・ジーンズのTシャツをデザインし、同時にこのCDをポールスミスのサポートでリリースしたということだろうか。このEPには何種類か色違いがあって、ここに載せたのはアナログシングルの色使い。僕の持っているCDは、薄い茶色の地に濃い茶色の印刷。ちなみにこれが、僕が別途オークションで手に入れたTシャツ。

Paul Smith


今のところの最新アルバムが、05年に出たこれ。このジャケはかつて「そそるジャケ特集」に載せたね。

Now Then
ジェブ・ロイ・ニコルズ 「Now Then」
20.Sometimes Shooting Stars
21.Morning Love
22.Sweet, Tough And Terrible


今度はカントリーの聖地、ナッシュビル録音。とはいえ、またいつものようにカントリー丸出しの音になっているわけではない。プロデューサーはラムチョップ(バンド名です)のマーク・ネヴァース。僕には、曲の出来が「Just What Time It Is」や「Easy Now」ほどではないかな、という気がする。もちろん、その2枚と比べなければ、これだってかなり優れたアルバムなんだけどね。


というわけで、ここに書いたとおりに全22曲を並べると、合計78分45秒。CD-R一枚にぴったりと収まるサイズになる。彼の音楽の変遷(大枠では殆ど変わっていないんだけど)もよくわかるようになっている。でも、こんな素人が作った寄せ集めじゃ、あの統一感はやっぱり出せないね。これはあくまでも入門編で、この人の音楽を本当に味わいたかったら、「Just What Time It Is」を買ってみることをお勧めする。それが見つからなければ「Easy Now」でもOK。僕は、中古CD屋でこれらが安く出ているのを見るたびに買わずにはおれず、全部買い上げては友達に配ることにしている。今回それがおすそ分けの形でにんじんさんに伝わり、それがきっかけで僕がこの記事を書いて、より多くの人に彼のことを知ってもらうことができたのを喜ばしく思う。

にんじんさん、僕の好きなアルバムを気に入ってもらえて嬉しいです。じゃあ今から恒例の全曲解説交換日記に移りましょうか(笑)


posted by . at 00:23| Comment(21) | TrackBack(0) | yascd | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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