2007年02月10日

ライヴ盤四種盛り Van Morrison 「Live At Austin City Limits Festival」

ちょっと前回の記事から間が開いてしまったね。でも、その間に何度も記事並みのコメントを書いてたので、自分ではそんなに久し振りという気はしないんだけど(苦笑)

さて、クックーの記事のコメント欄でブームタウン・ラッツの話が出て、僕はそこでクックーもブームタウン・ラッツも北アイルランド出身なんて書いてしまったんだけど、実はブームタウン・ラッツは英国領北アイルランドでなく、アイルランド出身だった。そのかわりに、というわけでもないけれど、今日は正真正銘の北アイルランド出身のアーティストについて書こう。

ヴァン・モリソンのオフィシャルサイトにメルマガ登録をしているんだけど、ここ数ヶ月に次から次へと新製品の案内が送られてきて、親父さん一体どうしちゃったんだろう、60歳越えて狂い咲きか?って感じ。

去年の初めにアルバム「Pay The Devil」をリリース。更にその半年後にはそのCDにライヴDVDを付けたものを発表したばかりなのに、12月の初旬に74年と80年のライヴを収録したDVDが出たかと思えば、クリスマスイヴに届いたメルマガには、06年の9月に収録したばかりの2枚組ライヴCDのことが載っており、今年に入って数週間で今度は、これまでいろんな映画のサントラに使われた彼の曲を19曲集めた企画物CDの案内が来た。

今日はそのうち、2枚組ライヴCD「Live At Austin City Limits Festival」について書こうかなと思ったんだけど、丁度いい機会なので、これを今までに出た彼の三種のアルバムと比較して書くことにしよう。


Austin City Limits Festival
「Live At Austin City Limits Festival」

彼のオフィシャルサイトとライヴ会場でのみ販売されている最新ライヴアルバム。上にも書いたが、去年の9月15日にテキサスのオースティン・シティ・リミッツ・フェスティヴァルで収録され、そのわずか3ヵ月後に発売になったものだ。

後で紹介するサンフランシスコでのライヴ盤から既に12年経っているので、その間に発表されたアルバムからの曲を前半に固め、中盤に「Enlightenment」や「Into The Music」など過去のわりとポップめなアルバムからの代表曲を挟み、彼がゼム時代の64年に最初のシングルとして発売した「Don't Start Crying Now」なんて珍しい曲を披露した後のコンサート終盤は、アルバム「Tupelo Honey」からの名曲「Wild Night」、彼がソロになって最初のヒット曲「Brown Eyed Girl」、そしてお決まりのゼム時代の代表曲「Gloria」という必殺の3曲という、実際にこの会場に居合わせたとしたらかなり満足度が高かっただろうと思われる選曲になっている。

バックバンドのメンバーは僕の知らない人ばかり。カントリーアルバムなのにもかかわらずジェライント・ワトキンスやボビー・アーウィンなどニック・ロウ関連のメンバーが参加していた最新作「Pay The Devil」での面子とも全然違う。おそらくこのフェスティヴァルのために単身渡米したヴァンが現地で集めたメンバーなんだろう。

そのためか、後で述べるアルバムに比べて、「御大ヴァン・モリソンと急ごしらえのバックバンド」という感じがしてしまう。ちょっとバンドとの一体感が薄いというか。最近のヴァンらしく、原曲のメロディが殆どわからないほどにフェイクを入れまくって歌っていて、曲によっては僕にはそれがちょっとトゥーマッチに感じられることもある。中には「志村けんかよ!」って突っ込みたくなるような変な声を出しているものもあるし。一方で、「Moondance」などの曲はあまりにもあっさりと流してしまっているのも味気ない。

もちろん、こんな文句も「後で述べる名作に比べれば」という注釈付きの話。さっきも書いたとおり選曲はかなりバラエティに富んでいるし、円熟した歌と演奏はやはり一級品だし、それになにより、彼のオフィシャルライヴアルバムで「Brown Eyed Girl」が聴けるのはこれだけだから。いまだに彼がライヴでこんな曲を演るなんて思ってもみなかったよ。この曲のイントロが流れたところでの大歓声が、観客の誰もが同じように思っていたことを裏付けているようだ。


A Night In San Francisco
「A Night In San Francisco」

僕にとって、彼のライヴアルバムの中で一番好きというだけでなく、この世の中に存在するありとあらゆるライヴアルバムの中で、間違いなくベスト5には入る傑作アルバム。タイトルどおり、93年12月18日にサンフランシスコで行われたコンサートを丸ごと収録したもの。

この時期(90年代前半)ヴァンのアルバムに参加するだけでなく、彼のコンサートではバンマスを務めていたジョージー・フェイムが、この日のライヴでも重要な役割を果たしていたことが随所でよくわかる。バンドメンバーは、彼を中心とした当時のヴァン・モリソン・バンドに、ゲストヴォーカルが3名(うち一人はヴァンの娘、シャナ・モリソン)。コンサート中盤にはジュニア・ウェルズ、終盤にはジョン・リー・フッカーと、ブルース界の大御所も参加。サックスはキャンディ・ダルファー(これは映像でも観てみたかったな)。

このCDの裏ジャケに「バラッド、ブルース、ソウル、ファンク アンド ジャズ」と書いてあるのだが、本当にそれらが全て一つに混ざり合ったような、とてつもなく芳醇な音。CDの曲目表には22曲(うち10曲は、2曲ないし3曲のメドレー)が載っているのだが、メドレーとして表記されていない曲でも、自分の持ち歌はもとより、数々のブルース/ソウルの名曲が数小節ずつ、次から次へと飛び出してくる。このアルバム以外の三種でも同様なメドレーはあるのだが、曲数とバラエティの豊富さでは、このアルバムがダントツだ。

さっきも書いたように、既にこの時期のヴァンは原曲のメロディをかなり崩して歌っているのだが、このアルバムでは「You Make Me Feel So Free」や「Tupelo Honey」や「Have I Told You Lately That I Love You?」などの綺麗なメロディーを持つ曲ではまずゲストヴォーカリストにひととおりオリジナル通りに歌わせて観客にその美しいメロディーを堪能させた後、彼が持ち前のフェイクを入れた歌い方で最後を締めるところが、なんとも痛快。初めてそれらの曲を聴く人にも、それらが元々どんなに優れた楽曲で、彼がどんな風にアレンジして歌っているのかがよくわかるので、初心者にも最適。個人的には「You Make Me Feel So Free」なんて、オリジナルの「Into The Music」のヴァージョンよりもこっちの方が何倍も優れていると思うし。

彼のライヴアルバムは一枚を除いて全て「Gloria」が最終曲(ないしはラスト近く)なのだが、このアルバムでのこの曲のイントロのスリリングなギターは他では味わえない。さっきの「バラッド、ブルース、ソウル、ファンク アンド ジャズ」の後に、「アンド ロック!!」と続けたいほどだ。

イントロといえば、「In The Garden」の、ジョージー・フェイムによる素晴らしいピアノ!まるでその場所の空気の色が変わるみたいな。この曲もオリジナルの「No Guru, No Method, No Theacher」に入っているものよりも格段に優れた演奏だと思う。
訂正:よく聴いたら(よく聴かなくても)この曲にはあの特徴あるオルガンがたっぷり入ってるね。はい、ジョージー・フェイムはオルガンを弾いております。ピアノはジョン・サヴァナ。失礼致しました。

と、まあとにかくこのアルバムに関しては、書きたいことがいくらでも出てきてきりがないほど。強いて弱点を挙げれば、この絵葉書みたいな味気ないジャケットぐらいか。おまけにさっき書いたオースティン・シティ・リミッツのジャケットとなんだか見分けがつきにくいし。最近のヴァンが、自分のポートレートをジャケットに載せたくないほど太ってしまっているのはわかるんだけど(「Pay The Devil」ではその貫禄あるお姿が拝見できるけど)、もう少し気の利いたものが作れなかったのかな。

昔、どのアルバムの発表時だったかは忘れたけど、(日本の雑誌)ロッキング・オンで、ヴァンのアルバムを評して

ヴァン・モリソンを聴くことは「贅沢」である。

と書いた人がいた。このライヴアルバムを聴く人は、それを体感できるだろう。


Grand Opera House Belfast
「Live At The Grand Opera House Belfast」

84年発表の、前年3月11日と12日に彼の故郷ベルファストで収録されたこのアルバムが、四種類の中で一番異色かもしれない。このアルバムだけが一枚ものだということは除外しても。

この前に出たライヴアルバムとの重複を避ける目的があったのかもしれないが、収録曲のほぼ全てが79年の「Into The Music」、80年の「Common One」、82年の「Beautiful Vision」、83年の「Inarticulate Speech Of The Heart」の4枚から採られている。かなりポップで僕も大好きな「Into The Music」はともかく、この頃のヴァンはどんどん自分の内面世界に閉じこもっていくようになっていたはず。確かこのライヴアルバム発表と同時に引退宣言もしたとか。

なんとなく全体的に盛り上がりに欠けるんだよね。確かに、最初のインスト2曲に続けて「Dweller On The Threshold」を歌いだすところなど、要所要所にぞくっと来る場面は用意されているんだけど、他の三種のライヴアルバムにあるように、どんどん高揚していく楽曲に欠けている気がする。

エンディングの「Cleaning Windows」も僕の好きな曲には違いないんだけど、これでコンサートを終えるにはちょっと弱いよな。きっと実際のコンサートでは、いつものようにアンコールで「Gloria」他のガンガン盛り上がる曲も演ったんだろうけど、そういうステレオタイプのライヴアルバムにしたくなかったのかな。

決して酷いアルバムではないんだけど、でもこれまで彼のアルバムを聴いたことのない人が最初にこのCDから入って、「なんだこの程度か」と思われるのが悔しい。これは全部集めたい人が買えばいいアルバム。あとはライヴヴァージョンの「Full Force Gale」がどうしても聴きたい人とか。


It's Too Late To Stop Now
「It's Too Late To Stop Now」

そしてこれが、長い間彼のライヴアルバム代表作として知られていた(いや、一般的には今でもこれか?)74年のアルバム。内容的には、他の三種が一回か二回のコンサートを収録したものなのに対し、これは73年にロサンジェルスとロンドンで行われた複数のライヴから成り立っている。

ジャケットに写るまだそれほど太っていない彼の姿が象徴するように、熱いR&Bが満載の白熱ライヴ。全体の1/3がソウル、ブルース、R&Bのカバー曲。残りが(当然)70年代初期の自作曲と、ゼムでのシングルヒット。

内ジャケにちりばめられた若き日のヴァンの雄姿(僕はLPしか持っていないので、CDのブックレットでこれらの写真がどう処理されているのかは知らないけど)。その姿から想像されるように、後年のフェイクたっぷりな歌い方と違って、実にストレートな歌と演奏。あまりに黒く熱いので、とても清々しいとは言えないけれど。

代表作と称されるだけあって、これもとてもいいアルバムだ。僕にとっての不満は、このライヴ盤の後三十数年に亘って彼が発表してきた名曲の数々が収録されていないことぐらい。いや、そんなのは当たり前なんだけど、僕は彼の初期のアルバムは当然後追いなんで、80年代後期からのアルバムほどには思い入れがないんでね。もちろん、「Moondance」や「Astral Weeks」がどれほどの傑作かはわかってるんだけどね。ああ、でもやっぱり「Domino」や「Caravan」のライヴを聴くためだけにでも、このアルバムは必携だなあ。


あ、こうして整理してみると、最初の三種は73年、83年、93年のライヴをそれぞれの翌年にアルバムとして発表してたんだね。きっちり10年毎。ということは、今回のは2〜3年遅かったんだ。最近スタジオ盤を調子に乗ってガンガン出し続けてたから、忘れてたのかもね。

で、総括。この人みたいに活動暦が長いと、今から入門する人にとってはどこから手をつければいいかわからないかも知れないけど、何枚か出ているベスト盤を買うよりも、まずこの「A Night In San Francisco」を聴いてみてほしい。それで気に入った曲があれば、それが入ってるオリジナルのスタジオ盤を買うもよし、または「It's Too Late To Stop Now」か「Austin City Limits Festival」を揃えてもよし。

と、アマゾンにアフィリエイト貼って締めくくろうと思ったら、なんとこの辺のアルバムは全部廃盤!アマゾンの中古価格で「San Francisco」が3950円から。「It's Too Late To Stop Now」に至っては15871円!

この2枚のライヴ盤だけでなく、スタジオ録音の数々の名盤も殆ど廃盤のようだ。「Irish Heartbeat」が7000円近くもするなんて。「Hymn To The Silence」が15800円も出さないと手に入らないなんて。これって、ビートルズの「Rubber Soul」や「Let It Be」を廃盤にするようなもんだよ。ヴァン・モリソンのバックカタログが簡単に手に入らないなんて、殆ど犯罪のようなものだ。

(彼のバックカタログの権利を持っている)ワーナーもユニヴァーサルもCCCDには積極的ではなかったけれど、もちろんユーザーがCDをコピーすることに賛成しているわけではないだろう。僕も、本来ならこうしてブログで紹介することによって、ここに挙げたCDを一人でも多くの人に聴いて貰えればと思っている。でも、肝心のCDが生産されていないのなら、僕は友達に聴いて貰うために、自分のCDをコピーしてあげるよ。文句があるならきちんとこの辺のアルバムを復刻してください。「It's Too Late To Stop Now」はここに書いたとおり名盤だけれども、誰もがそれに15871円も払えるってわけじゃないからね。


posted by . at 23:28| Comment(14) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。