2007年01月20日

水と油の芸術 Brian Eno + David Byrne 「My Life In The Bush Of Ghosts」

Eno+Byrne.jpg Brian Eno + David Byrne 「My Life In The Bush Of Ghosts」

ブライアン・イーノとデイヴィッド・バーンの1981年のアルバム「My Life In The Bush Of Ghosts」が去年再発されたので欲しいなと思っていたのだが、つい先日未開封新品を10ドル(約830円…くそー、この高値固定のNZドルと下がり続ける円をなんとかしてくれーっ)で手に入れることができた。そして、その日からぶっ続けで何回も聴いてしまっている。まだ他に封さえ開けていないCDやレコードが山積みなのに。

さてと、どこから説明すればいいかな。それまでペナペナしたアメリカン・ニューウェーヴ丸出しだった音を出していたトーキング・ヘッズが80年に突然発表したアフリカン・リズム満載の意欲作「Remain In Light」は、今に至るまで僕にとっては彼らの最高傑作だ。そして、この「My Life In The Bush Of Ghosts」はそのアルバムの原型となった作品(紆余曲折があって発売は後になったが)。知らない人のために説明すると、デイヴィッド・バーンはトーキング・ヘッズのリーダーで、ブライアン・イーノはこの2枚のアルバムのプロデューサー。え、トーキング・ヘッズが何だかわからない?えーと、もう少し我慢して読んでね(笑)

演奏は「Remain In Light」参加者に近い(しかしヘッズからはバーンを含む二人だけ)。それに加えてビル・ラズウェルやデイヴィッド・ヴァン・ティーゲムなども参加。あちこちでティーゲムらしい変わったパーカッションの音が聞こえる(何を叩いているんだろう)。曲ごとにくるくるとリズムが変わる、しかしいかにもイーノのプロデュースらしいクールなアフリカン・ビートをバックに、「Remain In Light」でのバーンのボーカルの代わりにイーノが様々な音源から拾ってきた声がコラージュされている。ラジオから聞こえる宣教師の声、レバノンの女性歌手、政治家と有権者との討論、果てはエクソシストの声なんてのも入っている。

アフリカ音楽と非音楽的な声のコラージュ。字面だけを読むと、本当にそんなものがちゃんと混ざり合うんだろうかと思ってしまうかもしれない。水と油という言い方がぴったりかも。しかし実際にこの音楽を聴いてみると、例えてみれば、澄み切った水の上に様々な色をつけた油をそっと垂らし、表面にできる曼陀羅模様を楽しむような味わいがあることがわかる。さらに付け加えれば、水はその密度が最も高くなると言われる摂氏4℃まで冷やされ、油は沸点寸前まで温度を高めてあるため、そのあまりの温度差に表面の模様が時には激しく、時には艶かしく揺れ動く様も見て取れるようだ(実際にそんなことをするとどういうことになるのかは知りません。ご家庭では実験なさらないように)。

決して一般的な耳に優しい音楽ではない。でも、この刺戟的な音に敏感に反応する人はいくらでもいると思う。そうだな、僕のブログにいつもコメントを書き込んでくださる方で言うと、アフリカものから現代音楽まで網羅するひそそかさんとか、とにかく妙な音楽なら何でも聴く(失礼!)クロムさんとか。

あ、いいこと思いついた。これから記事を書くときは、どういう人にお勧めか、こうやって効能書きみたいに対象者をリストアップすればいいかもね(笑)

僕はこのアルバムを、最初に発売された頃にラジオからエアチェックしたカセットでずっと聴いていたんだけど、つい数年前にようやくCDを買った。それが何故今回また再発盤を買う羽目になったかというと、それにはいくつか理由があってね、

1.ボーナストラックが7曲。しかもこれは日本盤CDなどによくある、シングル盤のカップリング曲を適当に集めたようなものではなく、アルバムと同時に録音されたアウトテイクばかり。なのでアルバム全体の流れを壊すようなことはない。しかも裏ジャケにはその7曲が「Side 3」として記載されているところが、アナログ好きの心をくすぐる。

2.デジタルリマスター。僕のPC用のスピーカーで聴いても、旧盤CDとは明らかに音が違うのがよくわかる、ダイナミックレンジの広い音になっている。

3.本人達による解説も含む、28ページにも及ぶ豪華ブックレット。録音風景の写真も多数掲載。但しこれは面倒なのでまだ全部読んでいないんだ。もし読んでいたら、そこから何かまた新しい情報を得て、この記事が更に長くなっているところだった。危なかったね。

4.アルバム2曲目「Mea Culpa」のビデオをCDエクストラで収録。実は僕はCDエクストラってあんまり好きじゃないんだけど(PCに入れると頼みもしないのに勝手に再生したりするし)、このビデオは面白かった。ブラウン運動する電子や幾何学模様を使った白黒映像。取り立てて面白い映像でもないのに、何故か見ていて飽きない。


Eno-Byrne.jpgひとつ残念なのは、この再発CDは紙のスリップケースに入っているのだが、上に載せたそのデザインはオリジナル(この横)とは違うもの。まあ、オリジナルもそんなに凄いデザインというわけでもないのだが、このイーノ作の映像を写したジャケには愛着があるので(ずっとカセットで持ってたくせに)。それに、今回クレジットを読んでて気づいたのは、オリジナル版のタイポグラフィーがなんとピーター・サヴィルによるものだということ。なんてことない活字なんだけどね。あ、ピーター・サヴィル特集、そのうちやろうっと。

あと旧盤との差で気づいたのが、アーティスト名表記。旧盤が「Brian Eno - David Byrne」になっていたのが、今回のは「Brian Eno + David Byrne」になっている。バーンが「俺を引き算するな!」って怒ったのかな?(笑)

今、手元にミュージックマガジンの1981年4月号と5月号があり、それぞれに載っているバーンとイーノのインタビュー記事で、このレコーディングが如何に刺激的で、二人の共同作業が自然なものだったかということをお互いに語っている。一方、82年6月号に載っている、トーキング・ヘッズが来日した際のメンバーのインタビューによると、イーノがバーンに向かって「このアルバムは嫌いだ、お前もだ。もう二度と一緒に仕事なんかしない」と吐き捨ていてたなど、実はそれほど友好的なコラボレーションではなかったことも示唆している(ほら、ひそそかさん、僕は昔の雑誌をこうやって使うんで、なかなか捨てられないんですよ)。

そういう、ミュージシャンとプロデューサーとの軋轢、またはバンドメンバー内での諍いが起こったことで有名なアルバムは、XTCの「Skylarking」に於けるアンディ・パートリッジとトッド・ラングレン、ポリースの「Synchronicity」、古くはビートルズの後期のアルバム群など、枚挙に暇がない。そして、そうやって完成したアルバムは往々にして名作と呼ばれることが多い。僕は、たとえメンバーが語ったその後日談が本当だったとしても、それはこの「My Life In The Bush Of Ghosts」という名作を生み出すために必要不可欠な軋轢だったのではないかと思っている。


前にも何かの記事に書いたけど、この頃(80年代前半)はちょうど僕が洋楽を聴き始めた時期で、その当時メインストリームで流行っていたロックを覚えると同時に、次から次へと日本に紹介され始めていたこういう系統の音楽に出会えたのは幸運だったと思う。それ以前のように自分から進んで捜し求めなければそんなものには出会えないような状況でも、現代のようにクリック一つで世界中のありとあらゆる音楽が聴けるようになって逆に取捨選択が困難になっているという状況でもなかったから。


Movies.jpg Holger Czukay 「Movies」

このアルバムと同様にラジオから聞こえる中近東の音楽をコラージュした元カンのホルガー・シューカイの「Movies」も、その当時サントリーウィスキーのテレビコマーシャルやスネークマン・ショーのアルバムに取り上げられた「Persian Love」という名曲をはじめ、一般的なロック/ポップではないけれども、「親しみやすい前衛音楽」としていろんな人に勧められるいいアルバムだと思う(あれ?アフィ貼ろうと思ったら、これ廃盤なの?またアマゾンでは「中古価格8640円から」とか書いてあるよ。なんだこの値段?)。本当はこれについてももっと書きたいんだけど、ちょっともうどれだけこの記事が長くなったか見当もつかないんで、今日はやめておこう。


さてと、こんなところかな、こないだ消失した記事。何か書き忘れたことなかったかな(え、もう十分だって?)。あ、このイーノ+バーンのアルバム、僕が10ドルで買った店に確かもう一枚置いてあったから、もしこの記事を読んで興味を持ったけど、アフィリエイトしてるアマゾンで1800円も出したくないという人がいれば、買っておいてあげてもいいよ。でもここからの送料がいくらかかるか知らないけどね(笑)

posted by . at 09:38| Comment(20) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする