2006年12月20日

1ルピーは約3円

ずいぶん久し振りに本を読んだので、今日はそれについて書いてみよう。しばらく前に書いたシルク・ドゥ・ソレイユのときもそうだったけど、こういう筋書きがあるものについて書くのって難しいよね。ネタバレしないようにしないと。

1Rupee
ヴィカス・スワラップ著 「ぼくと1ルピーの神様」。このタイトルと著者名でわかるかもしれないけど、インドのお話。簡単にあらすじを書くと、18歳の孤児の少年がテレビのクイズ番組で史上最高額である十億ルピーの賞金を勝ち取った挙句に逮捕されてしまい、果たして彼が本当に実力でそのクイズに正解したのかどうかを、彼の過去を遡ることによって明らかにしていくというもの。

いつも僕のブログを読んでおられる方は、日本に行ったときに僕がCDばっかり買ってると思っておられるかもしれないけど、そんなことないんだよ。実はLPも買って…って、そんな話じゃなくって、僕はわりと本もよく読むんだ。いや、よく読んだと言ったほうが正確かな。子供のときから本を読むのが好きで、こういう翻訳ものの小説もよく読んだな。それらを読むたびにずっと思っていたのが、登場人物がどこの人であろうと、いちいち巻頭の「主な登場人物」のページなんかに頼るなよ、ってことだったんだけど、最近ではしょっちゅうそのページを見ている自分に気づく。やばいなあ。かなり記憶力衰えてるぞ。

まあ、確かにこの本は殆どの登場人物があまり僕には名前に馴染みのないインド人で、しかも主な登場人物のページには30人の名前がずらっと並んでいるぐらいだから、名前を覚えられないのは特段僕の記憶力が悪いせいではないのかもしれないけど。しかも、読み進めて行くうちにわかるが、この本にはこの30人に含まれないエキストラみたいな人物が名前入りでわんさか出てくる。うーん、さすが人口10億人の国の物語。って、妙なところで感心したりして。

だからと言って、小難しい話かというと、全くそんなことはない。文章のあちこちにユーモアをちりばめた、とてもエンタテインメント性の高い、読みやすい物語だ。さっき名前のことを書いたが、宗教と登場人物の名前を絡めたエピソードなどもあり、多宗教国家ならではの話だなあと思わせるところもある。

具体的にいつの時代の話とは明記されていないが、基本的に「今」の話。僕なんかによくわかるヒントとしては、プレイステーション2はもう発売されているけれどもPS3はまだという、ああこれは1999年以降2006年までの間の話だなとわかるもの。何故そんなことを書くかというと、この物語に頻出する数々の犯罪が、本当にこんなことが今の世の中で起こっているのかと思ってしまうような酷いものばかりだから。もちろん物語自体はフィクションなんだけど、おそらくこれは今のインドで起こっている問題を反映したものだと思う。

きっと僕は前世でそういう被害にあったんじゃないかと思うほど自分では毛嫌いしているある種の犯罪が特に前半のエピソードに沢山出てきて暗い気持ちにさせられるし、途中には(日本だと)もはや都市伝説としか思えないような、目を覆いたくなるような犯罪の話もある。その他にも、インド=パキスタン戦争の話や、インド映画の内幕や、外交官がらみの犯罪(著者の本業は外交官)なども出てきて、ある意味現代のインドを勉強するいいテキストになるかも。ただ、暗い気持ちにさせられるとは書いたが、物語自体のトーンは常に明るく(それはこの主人公の少年の前向きな性格によるものでもあるんだけど)、読んでいて嫌な気分になるような類の話ではないよ。

もう少しだけネタをばらすと、主人公がクイズ番組で答えた問題は全部で12(本当は13なんだけど、まあその辺は読んでみればわかるから)。その12の問題にちなんだエピソードが全12章になっている。とは言え、もちろんクイズの出題が主人公の人生の時系列に沿っているなんてご都合主義な話じゃないから、例えば第一章は彼が13歳のとき、第二章は8歳のとき、という具合だ。これがまた、記憶力の減退した僕みたいな読者にはちょっと骨が折れる。例えて言えば、歴史の勉強を13世紀から始めて、次は8世紀のことをやって、今度は14世紀に戻って、という感じかな。あれ?彼はこのとき何故ニューデリーにいるんだっけ?と、少し前の章をぺらぺらめくってしまうこともしばしば。最後の方に出てくる重要人物の、名前だけが最初の方に出てきたりして、混乱させられることもあった。ただこれは、逆に言えば、一度読んで終わりというんじゃなく、二度・三度読み返せば、その時々に新しい発見があるということも意味していると思う。あ、この人は実はもうここで登場していたのか、ってね。

この話の殆どが主人公の回想という形になっているのだが、細かいことを言えば、そんな5年も10年も前のディテールまで覚えているわけがないだろうって言いたくなるんだけど、まあそれを言ってしまうとこの物語自体が成り立たなくなってしまうので、ここはこの主人公が僕なんかと違ってもの凄い記憶力を持っていたということにしておこう。その数々のディテールがあちこちに伏線を張っていて、この物語を面白く膨らませているんだから。

伏線といえば、やはり途中に出てくるエピソードが伏線となって最後に登場する場面がある(これはネタバレとは言わないよね)。ずっと不思議に思っていたことが、そこでパズルのピースがぴったり収まるように解き明かされるのは、結構な快感だった。でも、これぐらいの謎解きは、もしかしたらこの手の本を読みなれてる人にはすぐわかってしまうのかな?

全400ページ弱、しかも決して大きな活字ではない、実に読み応えのある分量。でも僕は一日半で読み終えてしまった。というか、後半以降、止めようにもやめられなかった。面白くて。インド文化のことをあれこれ調べて書いてある割にはちゃんと平易にまとめた和訳もいい。原題である「Q And A」は内容をスマートに表したいいタイトルだと思うけど、多分日本でこのままのタイトルじゃろくに見向きもしてもらえないから、そういう意味ではこのちょっとユーモアのある邦題にしたのも正解だと思う。

帯には「映画化決定!」と書いてあるな。観てみたい。ハリー・ポッターみたいに妙に子供向けにされていなければいいんだけど。

最初の方に、僕は本もよく買うと書いたんだけど、出張で日本に行くときは荷物がかさばるので大体文庫本しか買わない。だからこれは久々に手に入れたハードカバーなんだけど、1900円か。CD1枚分の値段でこれだけ楽しめるんなら、これは買って正解ですよ、皆さん(ええ、僕は物の価値を判断するときには、それがCD何枚分に相当するかという方法を用いています)。


posted by . at 18:54| Comment(38) | TrackBack(1) | 非音楽的 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする